04-26 連続スキル譲渡。
「きみ、なにしているの?」
渡来治樹を背負って歩いているとき、二人組の警官に呼び止められた。
渡来を背負っている芦辺素直のあとを、睦月庵と林道鈴のふたりの少女がついてきている形だった。
全員、倉石市立中央の制服姿でもあったから、傍目にはかなり正体不明な集団だと思われてしまうのもしかたがなかった。
「ぼくたちは全員、倉石市立中央1年D組の生徒で、今はゲームを行っている最中です」
特に臆する様子もなく、芦辺は答える。
「そうか」
警官たちは「ゲーム」という単語に反応して、あっさりと引き下がった。
「もういい時間だから、あまり遅くならないようにな」
そんなやりとりを、芦辺に背負われていた渡来はぼんやりと聞いている。
……ええっと……。
渡来は、現在の状況を把握しきれなくて、しばらくぼんやりとしていた。
ああ、そうか。
あのとき、スキルを渡すことを決心した途端、なぜか気を失って……。
どうした加減か、この三人は自分を強制的にリタイアさせてスキルを奪う、という選択をしなかったようだ。
渡来へ遠慮して、というよりは、やはり単純に、自分の手を汚すことを嫌っただけだろう。
渡来だって、さっきまでいっしょに授業を受けていたクラスメイトに対していきなり危害を加えることには、やはり躊躇してしまう。
さっぱりと割り切って、いきなりそんなことができてしまう人間は、やはりどこか頭の配線が切れている人種だけではないのか。
とにかく、今、渡来は自分の身の安全がこの三人の手に握られていることを自覚した。
それ以上に大事なのは……。
なにげに、逆転のチャンスじゃね?
と、渡来はそう思う。
今、芦辺に背負われているということは、この芦辺からいくらでも経験値を盗めるということでもあるのだ。
そのことに気づいた次の瞬間には、渡来はスキル『シーフ』を発動して、芦辺から経験値を奪う。
今まで、経験値を奪ってきたときとは大違いの、ガツンと大量の「なにか」が自分の体内に入り込む感触があった。
この芦辺は、見かけによらずかなりのこうレベル者であったらしい。
ひょっとすると……。
これまでにない、大量に経験値を奪った感触に気をよくして、渡来は自分のステータス画面を開いて確認した。
このステータス画面は、頼衣玉世のスキル『スカウター』などの特殊なスキルを用いる場合を除いては、他人の目から確認できないものであるらしい。
【
シーフ Lv.13 ◇特殊系
『対象から経験値を奪う。
レベルがあがると、経験値意外のものも奪えるようになる。
→Lv.10を超えたので、新たに「スキルを奪う」ことが可能になりました。(new!!)』
】
その表示、特に最後の一行を確認したとき、渡来は内心で、
「キター!」
と絶叫した。
これだよ、これ。
なんとなく、「レベルアップすればいいことがあるんじゃないのか」という予感は以前からあったのだが、その予感はどうも間違いはなかったようだ。
歓喜しながら、渡来は早速スキルの新しい機能を試してみた。
つまり、今、背中に密着している芦辺のスキルを奪ったのだ。
【
自動筆記 Lv.1 ◇特殊系
『自分が見ていない場面の内容や知りたい情報を文章で紙に書き記すことができる。
ただし、手書きに限定。
パソコンやスマホなどの器機は使用不可』
】
奪ったスキルについてもステータス画面に表示させて確認をしてみる。
そうか、芦辺はこんなスキルを持っていたのか。
直接的な攻撃力はないものの、これはこれで便利そうなスキルだな、と、そんな感想を抱いた。
そのかわり、面倒な制約も多そうだが。
ともあれ、今はこのまま気を失ったぶりを続けてやり過ごし、反撃ないしはこの場から逃れる機会をうかがうことにしよう。
もし機会があれば、この場に居る睦月や林道のスキルもついでに奪っていきたいところであったが、この三人対自分一人ではいくらなんでも分が悪い。
ここではあまり欲張らず、まずは無事に脱出することを優先するべきだと渡来は判断をした。
警官とのやり取りからいくらもしないうちに、四人は小さな児童公園へとたどり着いた。
すっかり日が暮れていることもあり、周囲に人気はない。
芦辺は公園内にあったベンチに渡来の体をおろした。
いや、おろした、というよりは、落とした。
ベンチに背を向けた格好で、渡来の体重を支え持っていた腕をいきなり放したのだ。
かなり乱暴な形で不意にベンチの上に落下した渡来は、ベンチの上に尻を打って、
「うっ!」
とうめき声をあげる。
「……やはり、起きていたか」
芦辺は、冷たい目つきで渡来を見下ろしていた。
「まあ、そんなところだろうとは思っていたけど」
芦辺の左右にいた睦月と林道が、いつの間にか、それぞれゴルフクラブを上段に構えている。
いつでも、渡来のところに振りおろせる体勢だった。
「ちょ……ちょっと待てよ!」
渡来は慌てて両腕をあげて、敵意がないことを示す。
「おれは別に、あんたらに逆らおうなんて思っちゃいない!
スキルが欲しいんなら、くれてやる!
ほれ!」
こんなことで痛い思いをするのも馬鹿馬鹿しい……というのが渡来のスタンスだった。
スキルとやらも、別に欲しくて手に入れたものではない。
リライターとか名乗るやつらに、勝手に押しつけられたもんだ。
そんなもののために怪我をするのは、どう考えても割に合わない。
自分の言葉が嘘ではないことを証明するため、渡来は自発的に「スキル譲渡画面」と表示させている。
「……はやり、ぼくのスキルを取っていたか」
芦辺は、呆れたように呟いて、すぐにスキル譲渡画面の上に手を置いた。
《渡来治樹のスキル『自動筆記』が芦辺素直に奪取されました。》
というアナウンスが、1年D組に所属する全員の脳裏に響く。
「渡来くんのスキルは、取っちゃっていいのかな?」
林道鈴が、首を巡らせて他の二人の反応をうかがっていた。
「構わない」
芦辺がいった。
「最初の予定通りにしてくれ。
スキル『シーフ』を自分のものにしたら、すぐにそれを使って睦月から経験値を奪ってくれ。
ぼくの『字度王筆記』は、レベル一にリセットされてしまったからな」
「アイアイサー!」
林道は元気よく答えて、渡来のスキル譲渡画面に手を置く。
《渡来治樹のスキル『シーフ』が林道鈴に奪取されました。》
例のアナウンスが、再び1年D組に所属する全員の脳裏に響く。
「はは」
渡来は、力なく笑った。
「おれは、これでゲームリタイアってわけか」
「そういうことだな」
芦辺は、素っ気ない口調で答える。
初日の説明のとき、高杉先生は「一度は完全にスキルを喪失したプレーヤーでも、ゲームに復帰する可能性があるから」とかいっていた気がするのだが、そのことを馬鹿正直にこの渡来に思い出させる必要がないように思えた。
このまま渡来がゲームに対して熱意を失ってくれれば、競争相手が一人減る。
芦辺にとっても、そっちの方が都合がよかった。
「うぉっ!」
睦月と手を繋いでいた林道は、歓声をあげた。
「あっという間にレベル十を突破!
スキルが盗めるようになりました!」
「睦月のスキルまでは盗むなよ」
芦辺ははしゃぐ林道に対して、そう注意をした。
「多くのスキルを持つことになれば、それだけ負担も増えるから」
林道は、即座に繋いでいた手を放して睦月から離れる。
自分で情報を収集したり、作戦を練ったり……といった雑事に煩わされたくない林道としては、このまましばらく芦辺や睦月のいう通りに動くつもりでいた。
「今日はもう遅いから、あとは明日以降でいいかな?」
芦辺は、睦月と林道にそう確認をした。
「帰って、『自動筆記』のレベルあげも兼ねて、明日以降の作戦を考えてみるつもりだ」
芦辺は、すでにスキルを喪失した渡来には、一瞥もくれなかった。




