4月1日月曜日
初心者です。
趣味でポチポチ書いてます。
更新速度は遅いです。
AIは、検索に使うくらいなので、補助的利用です。
★目覚め★
目が覚めると、そこは知らない天井だった。
・・・・・・
などということもなく、僕は自室で目覚めた。
四月。
桜が満開に咲いている。
今日は、僕が中学一年生になる日。
つまり、入学式の日だ。
それと同時に、鑑定を受ける日でもある。
この世界にダンジョンが現れて100年余り。
人々はスキルを駆使して魔物達と渡り合っていた。
ダンジョンで採れる貴重な資源。
世界はダンジョンを前に結束を固めた。
人間同士で争っている時間などない。
魔物はダンジョン内で駆除できなければ、地上へと出てきてしまう。
だから、ダンジョンで魔物を狩る存在、狩人が必要なのである。
また、ダンジョンの深層を探検する、探索者や冒険者と名乗る人々もいる。
話を戻そう。
人間はスキルを授かるようになった。
そして、日本国においては、中学一年生になった時、それを鑑定するように決まっている。
つまり、今日、僕は鑑定を受けるのである。
スキルは自覚するまでその正体を明らかにしない。
鑑定によって僕が自身のスキルを自覚すると、スキルが効果を発揮する仕組みだ。
自分がどんなスキルを持っているのか、不安と期待が混じっている。
というのも、
八弥:「約束、したもんな」
そう、僕、月夜八弥は、日向九句と約束を交わした。
九句:『俺達、一緒にギルドを創って、一緒にダンジョンに潜って、一緒に冒険して、ずっと一緒にいような!』
幼い日の約束だ。
僕が冒険者だった両親を亡くした時、彼は僕を励ますためにそんな約束をくれたんだ。
未来を失ったように感じていた、当時10歳の少年は、再び未来を与えられたように思った。
だから、今日の入学式と鑑定。
失敗するわけにはいかない。
八弥:「よし!」
僕は窓を開け放った。
八弥:「努力、しよう」
それだけを誓いにする。
朝食を済ませ、鏡の前で身支度を整える。
黒髪のショート。
見方によっては少年にも少女にも見える中性的な容姿。
小顔だから、女の子にも間違えられることがある。
身長もそんなに高くない。
体形はスリムで、身体能力には自信が無い。
鍛えているのに、筋肉はついてくれない。
でも、今日の僕の顔を記憶に刻み付ける。
成長してみせる。
これから、僕達の学生生活が、幕を開ける。
★登校★
支度を済ませて玄関を出た。
古びたマンションの外壁は白。
5階の僕の部屋、朝から階段を駆け下りる。
正面の石垣、座っていたのは、
九句:「よ!八弥、待ってたぞ」
八弥:「おはよう、九句」
日向九句だった。
九句は、長身で体格が良いがスタイリッシュ。
自然と見上げる形になってしまう。
彼のトレードマークは赤いメガネ。
刈り込んだ茶髪はやんちゃな性格を表している。
だが、彼の最大の魅力は、その明るさと優しさだ。
そんな彼の能力は平均して高い。
それが原因で他人から遠ざけられた時もあったという。
そんな時、僕と出会った。
僕は人と交わることが苦手だった。
だから、いつもポツンと独り、座っていた。
そんな僕と彼が、いつのまにか、対等な友人、親友となっていった。
運命だったのだと思う。
彼は、僕と同じく、真新しい制服と鞄を下げている。
九句:「さて、どんな結果がでるか、楽しみだな」
八弥:「そうだね」
僕のマンションから坂を下り、駄菓子屋を右に曲がる。
その先10分ほど歩けば、校門がある。
校門から坂を上り、下駄箱まで5分。
時間には余裕がある。
九句:「なにか、買い食いでもしていくか?朝ごはん足りなかったかな。腹減った」
八弥:「九句、初日から校則違反するつもり?」
九句:「入学前なんだから、校則の適用外だろ?今日だけだからさ」
八弥:「だーめ。他の人達に見られる可能性が高い。初日から職員室に呼び出されるのは勘弁」
九句:「お堅いねえ。もっと余裕を持った方がいい」
八弥:「代わりに、帰りにハンバーガー屋でもいこうか。せっかくの入学式なんだから」
九句:「おっと、前言撤回だ。お主も悪よのう」
八弥:「ヌシほどではないわ。なんて」
父さんが言ってた。
友達とする悪だくみは、とても楽しかったって。
そんな経験を、僕にもして欲しいって。
母さんが、そんな父さんに苦言を呈していたっけ。
九句:「八弥、どんな結果が出ても、約束は守るぞ」
彼の雰囲気が変わった。
真剣な声色をしている。
八弥:「それは、僕も同じだよ。九句と一緒にいる。約束する」
彼は穏やかに微笑んだ。
僕達は歩き出した。
坂の下の駄菓子屋のお爺さんは、今日も店番をしていた。
九句:「じっちゃん、おはよう」
八弥:「おはようございます」
爺:「なんじゃ、九句に八弥君。今日が入学式だったな。いってらっしゃい」
ここは九句の実家兼店舗だ。
日向駄菓子という会社をやっている。
売れ行きは、それほどでもないらしい。
だから、社長自ら接客しているのだ。
本人は趣味でやっている、と言っている。
爺:「ほれ、これでも持っていくといい」
僕達はお爺さんから【きっと勝つぞチョコレート】を受け取った。
八弥:「ありがとうございます」
九句:「じっちゃん、あんがと」
爺:「息子も嫁も仕事で忙しくて、入学式に行けなくてすまない。ワシも店があるし、婆さんは腰が悪くてのう。」
九句:「いいよ、来なくたって。俺は気にしてないよ」
爺:「そうじゃ。夜は二人ともウチにくるとええ。入学祝いにご馳走してやろう」
九句:「だってよ、八弥。くるか?」
八弥:「いいんですか?」
爺:「ええよ、ええよ。八弥君も、もうウチの子も同然じゃしな」
九句:「そうだぜ。今更遠慮なんてすんなよ」
八弥:「なら、お邪魔させていただきます」
日向家の皆さまに、僕は多大に支えられている。
第二の家族と言っていいほどに。
九句の姉、高校生の日向小恋にも世話になっている。
女の子の服を着せようとしてくるのは、止めて欲しいところだが。
僕達は【きっと勝つぞチョコレート】を食べながら歩いた。
もちろん、周りを確認してからだ。
九句:「ラッキーだったな。これで昼まで持ちそうだ」
八弥:「よかったね。あ!見て。当たりがでたよ!」
九句:「マジかよ!なになに、≪貴方に幸運が降りかかります≫だってよ。良かったじゃん」
八弥:「今日、当たり日なのかな。スキルも当たりが出るといいな」
九句:「大丈夫だよ。スキルだって、適当に出る訳じゃない。適性があるものが出るだけだ。最初から才能があるってこと」
八弥:「そっか。たしかに、そうかも。そう考えると、自分の長所を伸ばせば良いだけって感じるね」
九句:「そういうことだ。八弥は器用だし、なんでも普通以上にこなせそうだけどな」
八弥:「器用って、そんなことないよ。僕は誰でもできるようなことが出来るだけだよ」
九句:「誰でもできるようなことが満遍なく出来るってことが、器用ってことなんだけどな」
八弥:「うーん。あんまりピンとこないな」
【きっと勝つぞチョコレート】をパリパリ、サクサクと食べる。
食感が良いんだよな、これ。
スキルも、当たりだといいな、と僕は思った。
★坂道★
校門を過ぎれば、桜並木が広がっていた。
満開だ。
八弥:「さくら、綺麗だね」
九句:「ああ、そうだな」
始まりの季節にふさわしい花。
日本の国の花とされているらしい。
あと、菊も日本の国の花だ。
長い上り坂。
僕達は一歩ずつ上ってゆく。
それはまるで、これからの人生を表しているかのようだった。
八弥:「なんて心の中で思ったんだけど、どう思う?」
九句:「10点」
八弥:「辛口!!」
九句:「もちろん、10点満点中だぜ」
八弥:「激甘!?」
九句:「考えてもみろ。俺が八弥を否定することなんてあるはずがないじゃないか」
八弥:「それは、そうだね」
九句:「でも、登るだけが人生じゃない。時には降る快感も必要だ。楽しみながら行こうぜ」
八弥:「楽しいよ?でも、努力しなきゃって思ってる」
九句:「楽しいなら良いんじゃないか。でも、人生の流れの前に努力とか、あんまり意味無いと思うぜ。流れに任せた方が良い」
八弥:「それは、怠惰ではない?」
九句:「怠惰で結構。なにより楽しいのが優先。俺はそう思って生きてる」
八弥:「そっか、僕もそう思えるように頑張るよ」
九句:「頑張る必要はない。自然に任せるんだ」
八弥:「難しいね」
九句:「八弥には、頑張ったのに報われないような経験をしてほしくないってだけさ。説教臭いこと言ってごめんな」
八弥:「いいよ。九句は僕よりずっと多くのことが見えているんだと思うんだ。だから、こうやって色々教えて貰えて僕はラッキーだよ」
九句:「まあ、それすら、良い方向に転ぶか、悪い方向に転ぶかなんて、わからないんだけどな。せめて俺に出来る助言はするぜ」
八弥:「ありがとう」
僕には、九句の言っていることの意味なんて、分かっていないのかもしれない。
彼には才能があって、僕には才能が無いからだ。
でも、彼は僕にたびたび色々なことを教えてくれる。
それはとても、有難いことだと僕は思う。
★クラス★
下駄箱を入ると、
九句:「見ろよ。クラス分けが掲示してあるぞ」
八弥:「本当だ。名前を探すね」
僕達は自分の名前を探した。
僕は、、、A組だ。
八弥:「僕はA組に名前があったよ」
九句:「八弥、俺もA組だぞ」
八弥:「本当!良かった」
グータッチをして、教室へ急ぐ。
既にまばらに生徒が集まっていた。
八弥:「結構、知らない人が多いね」
僕達はA組の隅で話し合う。
九句:「近隣の6学校が組み合わさるんだ。そりゃ、知らない奴が多くなるだろうよ」
八弥:「人間関係がリセットされるわけか」
九句:「まあ、余程変なことしなきゃ大丈夫だろうよ。逆に強スキルを得て、浮いてしまったりする可能性のほうが心配だ」
八弥:「ああ、まあ、皆人間だものね」
九句:「まして、思春期の俺らみたいなのは、嫉妬や妬みに支配されやすいからな」
八弥:「それは、僕達も注意しなきゃね」
それぞれ孤立した経験を持つ僕達は、いかにクラスでの立ち回りが大事かを理解していた。
目立ったり、能力が秀でていることで恨みを買う。
そんなものが、僕達人間なんだ。
それを避けるには、人の心に敏感でなければならない。
それは、相手の立場になって考える力だ。
時報が鳴ると、女性教師が入ってきた。
長い黒髪の美女、20代であろう風貌の彼女は、
七:「初めまして、一年A組のみんな。私は、不思議七。A組の担任です」
七先生は黒板に席順を描き始めた。
七:「とりあえず、自分の席に座って頂戴。席替えは適宜行うつもりだから、固定ではないからね」
僕の席は窓際の後ろだった。
隣には九句の席がある。
七:「じゃあ、入学のしおりを前から後ろに回して。さっそくだけど、出席番号順に並んで、入学式に出席してもらいます。出席番号を書いた紙も配ります」
クラスは、30名の生徒がいた。
小学校時代に知った名前は見つけたけど、あまり接点はない生徒だった。
九句が居てくれて本当に良かった。
こうして、体育館へ移動が始まった。
★入学式★
長い校長の式辞を聴いていた。
九句も真面目に聴いているだろうか。
いや、きっと別のことを考えているに違いない。
そうだ、きっとこのあとのスキル鑑定のことを考えているだろう。
と、僕も現実から思考を飛ばしていた。
校長:「最後に、改めて入学おめでとう」
長い式辞が終わったようだ。
次は、在校生による、歓迎の歌だった。
それは、音楽に疎い僕でも感動するような圧倒的な響きだった。
【名も無き者の詩】というらしい。
来年は、僕もあの歌を歌うのだろう。
司会:「生徒会長、挨拶」
次は、生徒会長が話すようだ。
どんな人なのだろう、と僕は興味を抱いた。
現代の常識だが、中学校からは完全に実力主義だ。
つまり、強いスキルや能力を持つ人物が生徒会に選ばれる。
今代の生徒会長は、どんなスキルを持っているのだろう。
いや、でも自分のスキルを新入生に話す訳もないか。
一人の女子生徒が壇上に上がった。
日本人特有の黒髪黒瞳。
腰まで伸びた美しい髪。
左右の髪を後ろで括っている。
まるで、どこぞのお姫様のようだ。
三咲:「入学おめでとうございます。新入生の皆さま。私は現在生徒会の会長を務めております、桜坂三咲と申します」
あの美しい女生徒は、桜坂先輩というようだ。
三咲:「皆さまも、本日スキルを習得されます。私も【花】のスキルを習得する前は、期待と不安でいっぱいでした。でも、どんなスキルにも可能性があります。安心してください」
桜坂先輩は【花】というスキルを持っていることが分かった。
一体どんなスキルなんだろう。
花を咲かせるのか?
戦闘系では無い可能性も出てきたな。
桜坂先輩の演説が進んでいく。
三咲:「我こそは、と思う方は、次回の生徒会選挙に立候補してくださいね。私達、待っていますから」
そう締めくくり、桜坂先輩は退場していった。
生徒会なんて、優秀なスキル持ちじゃないと入れないと思っていたけど。
彼女のようなカリスマ性を持つ会長の下で活動するのは、悪くないんじゃないかと思った。
あ、でも僕は、九句との約束が第一だから。
とりあえず自分の能力の向上が第一だ、という結論に達した。
★鑑定★
教室に戻った僕達一年A組の生徒は、静かに席に座っていた。
未だ自己紹介も無し。
誰もが様子見をしているようだ。
僕も九句も、事の成り行きに身を任せている。
これからスキル鑑定が行われるのだ。
七先生が、三名の兵士と、政府の【鑑定公務員】を連れてきた。
【鑑定公務員】というのは、こういった場で鑑定を行う、鑑定スキル持ちの人が就ける役職だ。
七:「それではこれから、スキル鑑定と自己紹介をしてもらいます。兵士さんがいらっしゃるのは、万が一【暴走】が起こった時の為です。普段通りにしていたら問題ないので安心してね」
【暴走】というのは、自分の中のスキルを認識した時に、スキルが暴発したり、意識が混濁したりする現象のことを指す。
中には狂乱する人もいるそうだ。
その為の兵士なのだろう。
七:「それでは、出席番号一番の藍舞さん。前に来て」
舞:「は、はい!」
舞さんは、緊張した面持ちで教卓へ向かう。
彼女は長い三つ編みをした普通の女の子のようだ。
そばかすと黒い丸メガネが印象的だ。
【鑑定公務員】が、彼女の手に触れ、鑑定を行った。
鑑定公務員:「貴女のスキル、それは、【隠蔽】です」
舞:「【隠蔽】、【隠蔽】ですか。なるほど。っつ!」
彼女が微かに反応を示した。
一瞬、彼女の姿にノイズが走ったような錯覚に囚われる。
舞:「っはあ!っはあ!・・・」
彼女とスキルが同期したようだ。
【暴走】が無くて良かった。
七:「それじゃあ藍さん。みんなに自己紹介しましょう」
舞:「はい。初めまして。藍舞と申します。スキルは、【隠蔽】で、他人の目を欺く?ことができるみたいです。例えば、色を変えたりとか、見た目を変えたりとか」
スキルと同期すると、スキルの情報が分かるようになるらしい。
きっと彼女も、スキルのことを把握したのだろう。
舞:「なんで【隠蔽】なんてスキルを・・・。まさか!私が腐女子であるということを隠していたからか!」
舞さんは小声で何かぶつぶつと言っているが、聞き取れない。
なんて言っていたのだろうか。
七:「はい、じゃあ、どんどんいきましょう」
その後次々と鑑定と自己紹介が行われた。
鑑定公務員:「銀河鉄夜さん。貴方のスキル。それは、【スリーナイン(999)】です」
鉄夜:「【スリーナイン(999)】ですか。・・・っつ。分かりました」
銀河君は、背の高い、一般的に見てイケメンという奴だろう。
女子にもてそうな顔をしている。
髪型も綺麗に手入れされている。
星空のような髪に鉄の瞳、不思議な雰囲気のある青年だ。
鉄夜:「初めまして。銀河鉄夜です。オレのスキルは、スロットを回して、出た目によって能力を変化させるもののようです。999が揃うと、とても強い能力を得られるようです」
つまり、スロット的なスキルか。
安定性に欠けるけど、その分各能力が高めに設定されてるとか、かな。
いや、そこまでは分からないか。
999が揃った時、どんな能力を得るのか、気になるところだ。
七:「月夜八弥君。前へ来てください」
ついに僕の番がやってきた。
僕と九句は目で合図を送り合う。
九句:『がんばれ!』
八弥:『いってくるよ』
鑑定公務員:「手をこちらへ」
僕は右手を公務員さんの方へ差し出す。
ヒヤリとした冷たい感覚。
鑑定が行われたのだろう。
鑑定公務員:「っつ!!」
公務員さんが驚愕の顔つきをした。
何!?
一体何があったの!?
七:「・・・どうされましたか?」
鑑定公務員:「・・・少々問題がございます」
公務員さんは右手を挙げて兵士達へ合図を送った。
すると、兵士達は、僕の側を取り囲む。
後ろで九句が、いつでも飛び出せるように体勢を整えているのが感じられた。
七:「問題とは、どのような?」
七先生が、公務員さんに問いかける。
鑑定公務員:「・・・月夜さんのスキルは、【暴走】の危険度が極めて高いのです。そのため、今回はスキルの一部だけを限定で公開したいと思います」
ドクン、と僕の心臓が跳ねた。
【暴走】の危険度が極めて高い。
その言葉が耳から離れない。
七:「他の生徒達に危害が及ぶ可能性が高いのですか?」
鑑定公務員:「限定公開なら、兵士三名で、十分に対応可能でしょう。ここでは、限定公開をオススメ致します。もし、お望みなら、【スキル封印】手続きも受けられますが、いかがいたしますか?」
【スキル封印】という言葉を聞いて僕は焦った。
それは、政府が指定している危険なスキル保持者が、自らのスキルを発現しないことを選ぶ道だ。
この手続きをすると、スキルが得られなくなる代わりに、金銭面などあらゆる面で、政府からサポートを受けられるようになる。
でも、スキルを封印してしまえば、九句との約束を、果たせなくなる。
七:「月夜君。どうしたい?選択権は、貴方にあるわ。また、急いで選択する必要もない。スキルは鑑定でいつでも取得できる。でも、一回発現されたスキルを、無かったことにはできないから」
鑑定公務員:「そうですね。【スキル封印】手続きを行っても、任意の時期に再鑑定を受けられる方もいらっしゃいます。しかし、他の生徒さんたちと差が開いてしまうという点は、気がかりですが」
八弥:「つまり、今鑑定を受けなければ、このクラスの皆と一緒に学ぶことはできなくなる、ということですか?」
七:「確かに、ウチの学校では、スキル前提で能力の向上を目標にしているわ。スキル無しで授業に参加するメリットは無いわね。そうなると、【スキル封印】手続きをするなら、政府機関に転校という形になるかしら」
八弥:「っつ!!」
それは、九句と別れなければならないということだ。
それは嫌だ。
でも、【暴走】の危険度が高いスキルを、一部とはいえ発現したら、どうなる。
僕が僕でいられるだろうか。
頭が回らない。
どうしよう、九句。
僕は、九句の方を見た。
彼は、真っ直ぐ僕を見つめていた。
そして言った。
九句:「八弥!お前は、スキルに負けるような弱い奴じゃない!俺が保証する!」
八弥:「!!」
彼は僕を信じていた。
そうだ、一瞬でも九句と離れる可能性を考えた僕が馬鹿だった。
約束したんだ。
ずっと一緒にいると。
彼の信じる僕は、弱くない!
八弥:「スキル鑑定を、受けます」
七:「月夜君。一度時間を置いてみてはどうかしら。ことは単純じゃないわ。【スキル封印】手続きだって、とても特別な道なのよ。もっとよく調べてから決めても遅くないと思うけれど」
七先生は、そう僕を諭してくれた。
ああ、彼女は優しい先生なんだと思う。
八弥:「先生、ありがとうございます。でも、これは僕の未来なんです。親友とギルドを創って、ダンジョンを冒険する。それを、諦めるわけにはいきません」
七:「・・・そう。決意は固いみたいね。なら、私は全力で君のことをサポートさせてもらうわ」
八弥:「ありがとうございます!」
僕は深く頭を下げた。
鑑定公務員:「では、スキルを限定公開する、ということでよろしいですね?」
八弥:「はい」
もう、迷いは無かった。
鑑定公務員:「所定の配置についてください、クラスの皆さんは少し離れて。どんな形で【暴走】が起こるかわかりませんから」
兵士が三名、僕を取り囲む。
心臓がドクドクと音をたてる。
そして、次の言葉が告げられた。
鑑定公務員:「あなたのスキル。それは、【■■■吸血鬼■■■】です」
音が脳裏に響く。
次の瞬間、喉がカラカラに渇く。
ああ、喉が渇いた。
ちょうどよい獲物はいないか、僕の紅の瞳が探す。
前髪の一部も、紅に染まっていた。
そして、僕の犬歯が、少し伸びたように感じた。
血が身体中を駆け巡る。
血を操れるようだ。
この身を流れる血を武器とする。
そんな能力があることがわかった。
けれど、未だ多くの能力に制限がかかっているようだ。
僕の内側は、一つの殻を破ったが、まだ力が体内で暴れている。
それにしても、早くこの渇きをなんとかしたい。
幸い周りには手頃な獲物がたくさんいるようだ。
僕は一番美味しそうな獲物の命を奪おうとし、それが知り合いの、九句の顔で、
次の瞬間、自分のやろうとしていたことを理解した。
八弥:「!!!!!」
全身から冷や汗をかく。
自分は何をしようとしていた?
何故、人を獲物だと思った?
僕は殺人を犯すつもりだった?
そうだ。
その通りだった。
もし、九句の顔を思い出さなければ。
僕よりも弱い三名の兵士など、簡単に殺せた。
今はただ、この力が怖い。
鑑定公務員:「・・・【暴走】はなかった、ようですね。良かったです」
八弥:「何故・・・僕が、吸血鬼なんて・・・」
九句:「八弥!」
九句が僕の元に駆け付ける。
僕は茫然として反応できなかった。
九句:「大丈夫だ。何も心配するな、八弥。大丈夫だから」
八弥:「でも、僕、急に喉が渇いて、血が欲しくなって、それで、それで」
それで、九句を殺そうとした、なんて、言えなかった。
七:「月夜君。血液については、保健室に在庫があるかもしれないから、すぐに手配するわ。保健室になくても、近くの病院からすぐに送ってもらうから、なんとか我慢できる?」
八弥:「・・・はい。今は少し落ち着いています」
七:「なら良かった。【暴走】の危険性も、もう無いのね?」
八弥:「自分では、正気に戻った、と思います」
僕は正直にそう言った。
鑑定公務員:「最終的に、鑑定の全てをお伝えすることになるでしょう。しかし、それは今ではありません。今は、力の使い方、制御の方法を学んでください」
八弥:「はい。そうします」
こうして僕は吸血鬼になった。
★保健室★
八弥:「すみません。体調が悪いので、保健室に行っても良いでしょうか」
九句:「俺が付き添います」
七:「それはダメです。先生が付き添うので、皆さんは鑑定と自己紹介を続けてください。すぐに代わりの先生を呼んできます」
九句:「でも!」
八弥:「九句、大丈夫。ちょっと喉が渇いて辛いだけだから。九句は鑑定を受けてよ」
九句:「八弥。・・・わかったよ」
僕は七先生と一緒に保健室に行った。
幸い、血液が保管してあったので、それを貰った。
(血液を美味しく感じるなんて、思わなかった)
しばらくたって、
七:「少しは落ち着いた?月夜君」
八弥:「はい。喉の渇きは落ち着きました」
七:「気分はまだ優れない?」
八弥:「正直、自分が吸血鬼になったことが、受け入れられません」
七:「・・・そう。・・・そうよね。急になんて、無理よね」
そうだ。
だって、吸血鬼は人類の敵だ。
この世界にいる吸血鬼は、人間に討伐される存在だ。
七:「月夜君は知ってる?吸血鬼って意外と人間の味方も多いのよ」
八弥:「え?そうなんですか?」
七:「ええ。月夜君と同じような境遇の子って、いるのよ。自分だけじゃないってわかって、どう?」
八弥:「その人たちは、どう過ごしているんですか?」
七:「そうね。日光に弱いとか、人によるけど。それぞれ自分の特徴と付き合って、上手くやってる。人間だって、そう。色んな病気があって、それぞれの症状と付き合って生きてる。だから、吸血鬼になったからって、悲観する必要はないわ」
八弥:「たしかに、それは、そうですね」
七:「政府に登録された吸血鬼が討伐されることは無いわ。安心して」
八弥:「はい」
七:「それとも、何か他に心配があるの?」
僕は正直に先生に話した。
自分が【暴走】していた時のことを。
もう少しで、親友を殺すところだったことを。
八弥:「僕は、自分が受け入れられないんです。九句を殺そうとしたことが、受け入れられない」
七:「月夜君・・・」
先生は何も言わなかった。
何も言えなかったんだと思う。
でも、ずっとそばにいてくれた。
僕は怖かった。
クラスメイトと会うことも、九句と会うことも。
もし、また殺意が湧いたら?
そのときも僕は止められるだろうか?
そんな問いを、僕は先生にぶつけた。
七:「大丈夫よ」
八弥:「先生!どうして、そう言い切れるんですか?僕は本当に殺そうと思ったんですよ」
七:「なら、今私を殺していないのはどうして?」
八弥:「それは、今は冷静だから、、、」
七:「そう、貴方は冷静になれば人間とうまく付き合っていける。だから大丈夫。貴方は優しい人間。いえ、優しい吸血鬼よ」
先生はそう言い切った。
八弥:「僕も、そうありたいです」
七:「もし落ち着いたなら、教室に戻りましょうか。そろそろ自己紹介が終わっている頃よ」
八弥:「はい」
優しい吸血鬼であろう。
僕はそう誓った。
★放課後★
僕が教室に戻ると、ざわついていた空気が、シンと静まった。
やはり、吸血鬼と一緒にいると、緊張してしまうのだろうか。
七:「全員揃ったわね。今日は入学式だけだから、授業は明日からになるわ。それじゃあ、解散」
終わりのホームルームが終わると、すぐに九句が駆け寄ってくる。
九句:「それで?」
八弥:「なに?」
九句:「身体。大丈夫か?喉が渇いたって言ってただろ」
八弥:「うん。もう大丈夫。保健室で血液パックを貰えたんだ」
九句:「そうか。まあ、いざとなれば俺が献血してやるよ」
八弥:「なんだよ、献血って」
九句:「だから、血。吸っていいぞってこと」
八弥:「だめだよ。そんなことしたら、本当の吸血鬼になっちゃう」
九句:「ふーん。俺の血は飲みたくないってことか」
九句にジト目で見られた。
どういう意味なんだろ。
八弥:「そうだ!九句こそ、スキル鑑定どうだったのさ?」
僕は話題を変えた。
九句:「【瞬間移動】だった」
八弥:「・・・!?それってどんなスキル」
九句:「一度行ったことのある場所に一瞬で行けるってやつ。あと、触れてるものも一緒にな」
八弥:「わあ!すごいなあ。戦闘面ではどう活用できるんだろ」
九句:「前衛職で、移動の時に使うとか、かな」
八弥:「いいなあ。羨ましいなあ」
九句:「俺はどんな反応をすればいいんだ?自慢していいのか?」
八弥:「全然いいよ。僕なんて吸血鬼だよ。人類の敵だよ」
九句:「俺はお前の味方だよ」
八弥:「ありがとう」
舞:「っかはっ!!」
近くで誰かが吐血するような声が聴こえた。
あ、彼女は藍舞さんだっけ?
舞:「(この二人付き合ってるのか?付き合ってるでいいんだよな?そうだよな?そうだ。てか、月夜君の何もわかってなさそうなところも私的にアリだ)」
僕はこの機会に、クラスメイトとの仲を深めようと試みた。
八弥:「藍さん。だったよね。大丈夫?」
舞:「私にはお気になさらず。続けてください」
八弥:「???」
拒絶された。
やっぱり、吸血鬼は怖いのかな。
???「だーかーらー。こっち見るにゃー!!!」
クラスのざわめきの中心。
そこに彼女は居た。
???「なんでにゃ?なんでスキルが【猫人】なのにゃ。猫耳と尻尾が生えて、にゃが取れないにゃ」
八弥:「九句。彼女は?」
九句:「ああ、彼女か。八弥と同じく、姿が変わった奴だ。確か、灰猫大和さんだっけか」
大和:「ああ!月夜君。助けて欲しいにゃ。ウチらは同士にゃ。スキルによって姿が変わってしまった仲間なのにゃ」
クラスメイト達の視線が、灰猫さんから僕へと切り替わる。
僕の紅の瞳に睨みつけられた彼らは、サッと視線を反らした。
いや、睨みつけたつもりはないんだけどね?
大和:「ありがとなのにゃ。亜人差別反対!なのにゃ」
灰猫さんは僕達の方へやってきた。
彼女は、僕の気持ちをわかってくれるかもしれない。
八弥:「灰猫さん。大変だったよね。わかるよ」
大和:「月夜君こそ。体調は大丈夫かにゃ?」
八弥:「うん。大丈夫」
舞:「っち!女が混ざるんじゃねーよ」
八弥:「ん???」
何か聴こえた気がしたけど、気のせいかな。
九句:「スキル鑑定で亜人になってしまう奴は、いる。確率は低いんだけどな」
八弥:「30人クラスで2人ってことは、6.67%?」
九句:「いや、1%切るんじゃないか?本来なら」
大和:「運が悪かったにゃ」
八弥:「そうかもね」
九句:「色眼鏡で見てくる奴は出るかもな。そんな奴は放っておけ」
大和:「そうにゃ。人を見世物扱いするのは辞めて欲しいにゃ」
八弥:「灰猫さんのそれは特徴的だもんね。見ちゃう気持ちもわかるよ。ごめんね」
九句:「そういう八弥だって、紅の瞳が綺麗だぞ。前髪だって、紅くなってるし」
舞:「っかは!」
また藍さんが血を吐くような声を上げている。
もしかして体調が悪いのかな。
八弥:「僕、そんなに変わってる?嫌だな」
九句:「別に、前より良くなってるからいいんじゃないか?」
大和:「ウチは前のほうが良かったにゃ」
灰猫さんは、今は特徴的な灰色のショートヘア。
黄色い瞳は縦に伸びている。
猫の瞳だ。
尻尾は黒と白の縞々模様。
八弥:「でも、クラスに同士がいてくれて、良かった。心強いよ」
大和:「ウチもにゃ。これから仲良くして欲しいにゃ」
九句:「俺は同士じゃないけど、クラスメイトとしてよろしく。それから俺は、猫派じゃなくて、犬派だ」
大和:「ウチのことを全否定してるのかにゃ!?」
九句:「誤解するな。猫に特別な思い入れはないから、偏見も無いってことだよ」
大和:「にゃるほど。それは安心にゃ」
八弥:「そういえば、この前ニュースで、近所にリアル獣人によるケモナー専門喫茶店が出来たってやってたよ。灰猫さんなら応募資格あるんじゃない?時給も相当高かったはずだよ」
大和:「まじかにゃ!検索してみるにゃ」
九句:「八弥、それ、いかがわしい店じゃないだろうな?」
八弥:「TVの特集でやってたから、大丈夫だと思うけどな」
灰猫さんはさっそく端末で検索を始めたようだ。
大和:「ここから結構近いにゃ。ケモナー専門喫茶店≪けものの≫アルバイト募集≪獣人の子歓迎≫だってにゃ。これは要チェックにゃ」
ちなみに現代では、スキルを獲得できる中学一年生からアルバイトが可能である。
少子化の時代だし、働き手を確保したい政府の思惑もある。
大和:「月夜君、日向君。一緒に応募してみにゃいかにゃ?初めてだと一人じゃ怖いにゃ」
八弥:「応援してあげたいけど、僕達は獣人じゃないからね」
大和:「獣人は接客担当。普通の人はキッチンを担当するみたいにゃ」
九句:「じゃあ、俺達もチャンスはあるってことか?」
八弥:「確かに、お金はいくらあっても足りないからね。ギルド創設のための資金も必要だし」
九句:「学生の本分は能力向上だが、将来の為の資金集めもしなきゃいけないからな。俺は賛成だ」
募集要項を見せて貰うと、結構高い時給が提示されていた。
獣人枠だけじゃなく、キッチンの人にも、同じ賃金が保証されるみたいだ。
八弥:「わかった。面接を受けてみよう。受かるかどうかわからないけどね。話題だから、倍率高いだろうし」
大和:「一緒に受けてくれるだけでも助かるにゃ。ありがとうなのにゃ、二人とも」
僕は履歴書を購入することを端末のメモに記した。
初めてのアルバイト。
どんなことが待ってるだろうか。
★バーガーは友と共に★
僕達は灰猫さんと別れ、下校した。
朝の約束である、ハンバーガー屋での昼食をとるためだ。
八弥:「やっぱり、クイーンバーガーのバーガーは違うね」
野菜は国産にこだわり、肉も100%黒毛和牛。
それでいてワンコインから選べるコストパフォーマンスの良さから、学生からの人気も高い。
九句:「八弥は、テリヤキが好きだな。飽きないのか?」
八弥:「思い出の味だからね」
九句が、僕を初めてクイーンバーガーに連れてきた時、オススメされたものがテリヤキだった。
両親を亡くした僕を元気づけようとする友の気持ちを感じ、泣いてしまった過去がある。
だから、テリヤキは、涙の味であり、思い出の味なのだ。
八弥:「九句こそ、いつもチキンばかりじゃないか」
九句:「チキンは正義だろ。異論は認める。炭水化物はポテトでとれるから、パンズ食べると二重になるだろ」
八弥:「ああ、なるほど、そういう理由だったのね」
九句:「今日はお祝いだから、バニラシェークも追加してみた。八弥も半分飲まないか?」
八弥:「ほんと?ありがとう。僕バニラ大好き」
九句:「だろ?だからバニラにしたんだよ」
季節的にはまだ肌寒いが、シェークは甘くて美味しかった。
バニラも、ラクトアイスの方じゃなくて、アイスクリームの方のバニラだ。
???「なあ、ここ、座っていいか?」
そんな僕達に声をかけてくる青年がいた。
僕達は4人掛けの席を二人で使用している。
でも、他の席も空いているのに、何故?
と、思ったが、彼の姿を思い出し、納得がいった。
八弥:「確か、、、銀河鉄夜君。だったっけ?間違ってたらごめん」
鉄夜:「合ってる。月夜君に日向君。邪魔だったか?」
九句:「いいや、俺は構わない。偶然クラスメイトと出会うとは思っていなかったが。八弥、一緒でいいよな?」
八弥:「僕も構わないよ。これから同じクラスなんだから、仲良くなれる機会だと思おう」
鉄夜:「ありがたい。俺は六小から来たんだが、クラスに知り合いがいなくてな。それから、砕けた言葉遣いでいかないか?」
九句:「そうだな」
八弥:「うん。そうしよう」
鉄夜:「サンキュー。いやー参った。小学校時代、ソシャゲガチャが好きでずっとやってたら、ガチャみたいなスキルが出て焦ったんだわ」
鉄夜君の雰囲気が変わった。
見かけは大人な雰囲気なのに、中身は、純粋な子供のような人だ。
九句:「スロットでスキルの能力が変わるんだっけか?随分ランダム性があって、安定しない能力だと感じたが。いや、不快だったらすまない」
鉄夜:「いや、その通りよ。ランダムもランダム。一回スロット回したら、再び回すまで一時間のクールタイムがあるから、即座に変更もできないしな」
八弥:「ああー。それは、外れを引くと辛いね」
鉄夜:「そうなんよ。でも、スロットの出目によっては、強い能力も結構あってな。それも、一時間っていう時間制限がネックになるんやが」
八弥:「やっぱり、当たればデカいタイプだったのか。でも、安定性がね」
九句:「固定パーティーを組んだ上で、補助としてパーティーに貢献するのが良いんじゃないか?」
鉄夜:「それな。それでも、ランダムな補助って、ぶっちゃけ必要か?」
八弥:「・・・・・・余裕があれば、って形になっちゃうと思う」
鉄夜:「そうだろ?だから、マジ詰んだって感じなんよ」
九句:「だが、それぞれの能力を極めて、強いバフにすれば、ワンチャンはあるんじゃないか?」
鉄夜:「うーん。そうなんかなー。まあ、それしかしょうがないかー」
鉄夜君は悩んでいるみたいだった。
そうだよね。
いきなり、今日自分のスキルを鑑定されて、受け入れられるわけがないんだ。
僕だってそうだ。
鉄夜:「二人は小学校からの仲なんか?」
八弥:「そうだよ」
鉄夜:「ええなー。なんかグループ作る授業あったら、俺もいれてくれな。こういうのは根回しが大事なんだ」
九句:「そうだな。あとは、、、灰猫なんかもちょっと性格があれだが、良い奴だと思うぞ。これで四人だ」
鉄夜:「ああ、アレにはびっくりしたわ。ツッキーの吸血鬼にもびっくりしたけどな」
八弥:「ツッキーって僕のこと?」
鉄夜:「せやで。あだ名あった方が仲良くなれるやろ」
九句:「ほう。なら、お前にはテツというあだ名をつけてやろう」
鉄夜:「おお!ええな。じゃあ、お前はナっちだな」
九句:「ちょっと待て。どこをどうとったらそうなった」
鉄夜:「ヒナタのナやん」
八弥:「ナっちって、可愛い感じがしていいね」
鉄夜:「他の候補としては、≪ヒナたん≫や≪ヒナちゃん≫ってのもあるぞ」
九句:「ナっちが一番マシだ。選択権が無い」
その後夕方までクイーンバーガーで話した後、ようやく帰宅することにしたのであった。
★日向家★
今夜は九句の家で晩御飯をいただくことになっていた。
九句のお爺さんとお婆さんは、僕を温かく迎え入れてくれた。
爺:「それじゃあ。改めて、入学おめでとう」
婆:「二人とも、大きくなったわねえ。八弥ちゃんも、ずいぶん女の子らしくなっちゃって」
八弥:「いえ、僕は男ですから。あと、これは吸血鬼になっちゃって、こうなってるんです」
爺:「それは、大変じゃったな。なに、ウチでは吸血鬼でも差別なんてしない。安心してくれい」
婆:「そうよ。将来のお嫁さんが吸血鬼になったって、全く問題ないですよね。爺さん」
八弥:「あの、ですから、僕は男ですから」
爺:「婆さんはスキル【占い】を極めた猛者でな。その未来予知は百発百中で界隈では有名じゃったんじゃよ」
婆:「私が爺さんを見つけたのも、このスキルのおかげですわ。だから、八弥ちゃん。安心して嫁入りしてくれて構わないのよ」
八弥:「どうしよう九句。話が全く通じないんだけど」
九句:「いつものことじゃないか、八弥。ばっちゃんは住んでる世界線が違うんだよ」
婆:「さあ、このナスの肉詰めの煮物をお食べ。秘伝の味付けですからね。もちろん、八弥ちゃんにも伝授してあげるわよ」
八弥:「それは、気になります。けど」
爺:「八弥君。こっちのワシが釣り上げてきた鯛の焼き魚も食べてくれい。昨日から準備していた大物じゃぞ」
八弥:「あ、わざわざありがとうございます。ん!美味しい」
九句:「父さんと母さんはまだ帰らないって?」
爺:「二人とも残業だと言っていたぞよ。なんでも、繁忙期らしい」
八弥:「システムエンジニアの仕事ですよね。大変ですね」
婆:「そうなのよ、あの子達ったら会社を継ぐ気なんてさらさら無くて。八弥ちゃん達夫婦に継いで貰おうって決めてるのよ」
八弥:「そんな。恐れ多いです。それから僕は男なので夫婦にはなれません」
爺:「八弥君。ワシの知り合いに有名な外科手術の先生がいてな」
八弥:「物理的に女の子にしようとするのは諦めてください」
九句:「案外似合うかもしれないな」
八弥:「もう。九句まで冗談言うのやめてよ」
九句:「べつに冗談は言ってないがな」
このナスの肉詰めの煮物、美味しい。
やっぱり秘伝の味付けは知りたいかも。
???「ただいまー。あれ?なになに、随分豪勢じゃん?」
八弥:「小恋姉。お邪魔してます」
小恋:「え!?嘘!?八弥?アンタ何?中学生デビューでもするつもりなの?」
八弥:「違うよ。これは、スキルでこうなっちゃっただけ」
小恋:「スキルって、一体なんのスキル引いたのよ」
八弥:「・・・吸血鬼」
小恋:「!?っつ。それって」
爺:「小恋。吸血鬼が人間の敵だったのは遥か昔の話。今は半分半分といったところじゃよ」
九句:「姉さんは、八弥のこと差別したりなんてしないだろ?」
小恋:「当たり前じゃない。あんた誰にそんなこと聞いてるわけ」
八弥:「小恋姉。・・・ごめん。ありがとう」
小恋:「八弥が謝ることなんて何一つないわよ。それにしても、神様は八弥に対して試練を与えすぎだと思うわ」
八弥:「本当はスキル封印手続きもできたんだ。でも、自分で選んだ結果だから。後悔はしてないよ」
そうだ。
言葉にしてはっきりと自覚した。
受け入れられない気持ちもある。
でも、後悔はしていない。
矛盾しているようだけど、その両方がある。
小恋:「ふん!八弥ごときが悩むなんて十年早いっての。あんたと九句にプレゼント買ってきたから、有難く受け取るといいわ」
そう言って小さな袋を渡してくれる。
中身はミサンガだった。
八弥:「ありがとう。大事に使うね」
小恋:「ミサンガ大事にしてどうすんのよ。あんた使い方わかってるの?まったく」
僕は願いごとを一つすることにした。
≪ずっと、この家族たちといられますように≫
右足首にまいたミサンガは、ワンポイントのおしゃれだ。
九句:「八弥、なんて願いごとをしたんだ?」
八弥:「内緒だよ」
小恋:「ちょっと。私にだけ教えなさいよ」
八弥:「だめだよ」
暖かな食卓を囲む家族。
これが幸せってことなんだ、と思った。
★星空★
日向家を出て、九句と少し歩いた。
九句:「八弥。一緒に行きたい場所があるんだ」
唐突にそう言う九句。
八弥:「こんな時間に?どこに行きたいの?」
九句:「俺のスキル、知ってるだろ?帰りは家まですぐ送れるからさ。ちょっと付き合ってくれよ」
そうだった。九句は、【瞬間移動】のスキルを得たんだった。
八弥:「わかった。行こうか」
僕達は手を繋ぐ。
安定させるために、両手を繋ぎ、輪を作るような体勢をとった。
九句:「俺のスキルは、一度行ったことのある場所へ瞬時に行ける能力だ。移動先に物体がある場合は移動できないけどな」
八弥:「そうなんだ。なんだかドキドキするね」
九句:「じゃあ、やってみるぞ」
視界が一気に収束し、光が消えた。
と同時に、空気が点から溢れ出し、再び現実世界へ戻った。
そこは暗闇の世界。
この音は、波の音。
浜辺か。
九句:「八弥。空を見てみろ」
八弥:「!!」
そこにあったのは、満天の星空だった。
数秒ごとに流れ星が落ちている。
八弥:「綺麗だ。。。九句、こんな綺麗な星空を見るのは初めてだよ・・・」
これが、彼の見せたかったものだったんだろう。
僕はただただ圧倒された。
九句:「ここは石垣島だ。昔家族旅行で訪れたことがあってな。そのときは八弥はいなかったから」
八弥:「それで、連れてきてくれたの?」
僕達は浜辺に横たわりながら星を見上げた。
九句:「八弥。今日は大変だったな。いや、これから大変になる」
八弥:「そうだね。僕、もう人間じゃないんだ・・・」
九句:「お前が望むなら、俺を眷属にしろ。そうすればお揃いだ」
八弥:「眷属って、なに?」
九句:「吸血鬼が血を分けて吸血鬼を作ることだ」
八弥:「九句は、吸血鬼になりたいの?」
九句:「それで約束が果たせるなら」
約束、
『俺達、一緒にギルドを創って、一緒にダンジョンに潜って、一緒に冒険して、ずっと一緒にいような!』
僕は吸血鬼になった。
寿命も人間よりも伸びるだろう。
時間が経てば、いずれ九句も死んでしまう。
八弥:「でも、、、僕はそんなこと、望んでいない」
九句:「わかってる。けど、そうしなければ、俺達の関係は終わってしまう」
大切な人を亡くす辛さ。
それに、僕は耐えられない。
八弥:「でも、全部僕の身勝手で、僕の我儘で、九句の人生を壊したくない!」
九句:「八弥の気持ちもわかる。結論も急がなくていい。そういう方法もあるってことだけ知っておいてくれ」
八弥:「わかったよ。今はまだ、何も考えられない」
僕は空を見ていた。
星が何度も落ちた。
なんだ、流れ星って、こんなに頻繁に落ちていたのか。
そんなことを考える。
現実逃避かもしれない。
九句:「・・・・・・」
八弥:「・・・・・・」
僕達は会話をしない。
でも、居心地は良い。
彼は、僕の心が静まるのを待っていてくれるからだ。
どうしてこんなに僕によくしてくれるのだろう。
親友だから?
でも、僕には何も返すことなんてできないのに。
ふと、親友の顔を見上げる。
彼は星を見ていた。
意図せず、その首筋が目に入った。
(美味しそう)
僕の欲しいもの。
僕の求めるもの。
今すぐにでも、その首に牙をつきたてたい衝動に駆られる。
九句:「・・・ん?どうした、八弥」
八弥:「九句」
僕はゆっくり彼に近づく。
そして、彼の首筋に口をつけた。
九句:「どうした?血が飲みたくなったのか?」
僕はコクリと頷いた。
まだ牙は立てていないが、時間の問題かもしれない。
九句:「吸血鬼が直接吸血すると、吸血された個体が眷属化する可能性があるぞ」
八弥:「っ!!」
知らなかった。
でも、僕も我慢できない。
僕は辛そうに身をよじった。
九句:「だから無理するなって言ったろ。こっちはとっくに覚悟はできてるんだ。好きなだけ献血してやるよ」
八弥:「~~~~!!」
だが、僕の最後の理性がブレーキをかける。
八弥:「そう、いう、のは、・・・よくない、と、思う」
九句:「大丈夫だって。確率は相当低い。牙から自分の血を放出させないように気をつければ大丈夫だよ」
八弥:「~~~~!!」
何度も甘い言葉で誘われて、僕も理性がきかなくなってきた。
九句:「ほら、我慢は身体によくない。ちょっと吸ってみろよ」
八弥:「こ、後悔してもしらないよ?」
僕は、ふやけた九句の首筋に牙をつきたてた。
人間から直接吸血するのは初めてだった。
思ったより抵抗感が無かった。
相手が九句だったからだろうか。
九句以外の人の血なんて、吸えないと思った。
九句:「必死になってるな、八弥。なんだか可愛い」
八弥:「ひまふっへひふはらふるひゃい」
(今吸っているから、うるさい)
僕は拙いながらも懸命に吸った。
というか、夢中になってしまっていた。
九句:「なんだか力が抜けてきた。まだ足りないか?」
八弥:「ほんと!?ごめん」
九句:「いや、満足してないならこっちこそごめん」
八弥:「そんなことないよ。初めてだから加減がわからなくて。すっごく美味しいよ」
九句:「そうか。まあ、そう言われると嬉しくはある」
八弥:「首、大丈夫?」
九句:「八弥。吸血鬼の唾液には麻酔作用があるんだ。だから痛くない。てっきり知ってて首筋をふやかしたのかと思っていたが?」
八弥:「ち、違うよ!あれは、ただの、愛情表現の一種だよ」
九句:「へー」
九句がジト目で僕を見る。
八弥:「とりあえず。ごちそうさま。・・・ありがとう」
九句:「そんなのいいって。じゃあ、そろそろ帰ろうか」
八弥:「待って。まだ、この星空を見ていたいよ。帰りたくない」
九句:「忘れたのか?明日も学校あるぞ。明日の夜また来よう」
八弥:「それって、明日も血を吸わせてくれるってこと?」
九句:「貧血の症状が出なければ、な」
しばらくは、血液パックで我慢しようと思った。
けど、味が全然違うんだ。
九句の血の方が圧倒的に美味しい。
八弥:「石垣島か。思い出が、また一つ増えた」
今日のことを僕は忘れないだろう。
初めて吸血鬼になって、初めて九句から血を吸った日。
長い最初の一日が、こうして幕を閉じた。
一日目、完。
オープニング動画作りました。
https://youtu.be/6N5L3yxJv3E




