大事な日
今日は4月7日
明日は高校の入学式
子供の頃から病気がちで
小学校も中学校も馴染む事が出来なかった
高校では友達がほしい
幸い病気も落ち着いてきている
私は明日が待ち遠しくてたまらなかった
友達が出来たら
色んな所に遊びに行ったりするのかな
好きな人が出来たら、友達に相談したりするのかな
想像するだけで世界がキラキラと輝いて見えるようだった
部屋の壁に掛かってる制服を見つめるだけで
笑みがこぼれた
待ち遠しいと思うだけで
今日一日がとてつもなく長く感じる
デジタル時計は午後1時半を表示している
明日の準備…は昨日の夜に確認したし
服もちゃんとアイロンをかけて用意してある
じっとしていても時間は過ぎないし
外に散歩でも行こう
「お母さーん、私少し出掛けてくるね!」
薄い上着を羽織って
お母さんに出掛けることを伝える
「気を付けて行ってらっしゃい。
明日は入学式なんだから早めに帰ってくるのよ?」
「分かってる!少しだけだよ」
そう言って家から出る
天気も良く暖かい日差し
ゆっくり歩くには丁度いい気温と言えるだろう
まだ昼過ぎで陽も高いので
街に出てみようかな
私の家の周辺は新しい家が多く、子供達が遊ぶための広い公園もある
街からは少し離れているけど
気になるほどの距離でもない
春を感じながら街まで歩いた
平日だというのに、街に並ぶ店の中は買い物をしている人が多く
皆楽しそうに今を過ごしている
どこに入ろうか
カフェのテラスもいいし、本屋で小説を探すのも捨てがたい
空気感を楽しみつつ辺りを見回すと
ぱっと目に入る物があった
花屋に並ぶ白い花弁の百合だ
百合の花が咲くのは5月から8月頃だけど
平年よりも早く春が来たからかまだ4月上旬だというのに
綺麗に花弁を広げている
私は花の中でも百合が、特に白い花弁の百合が好きだ
母に頼んで部屋に飾ってもらおう
きっと部屋が華やかになる
百合を飾った部屋を想像しながら
花屋で百合を数本買った
せっかくなので花束にピンク色のリボンをつけてもらった
花が傷まないうちに家に帰ろう
花束を持っているだけで心が踊った
好きな花も見つけ、歩いた事で程よい疲労感もある
今日の夜はぐっすり眠れそうだ
明日は待ちに待った入学式
楽しい毎日が私を待っている!
でも現実は上手くはいかなかった
一瞬の出来事
自分でも何が起きたか分からなかった
目の前に空が広がる
近くで誰かが叫んでいる
何が起きたの?
私は…
目の前が暗くなって意識が遠くなっていった
目を覚ますとそこは見たこともない薄暗い部屋
傍で母が顔をくしゃくしゃにして泣いている
私…、私は…
“お母さん?”
声が出ない、触れることも出来ない
私、もしかしてもう…
自分の死を知るのに
そう時間はかからなかった
私は死んだのに意識だけは残ってた
成仏ってどうやってするんだろ
私は何がしたかったんだっけ?
私はあの日花屋で…
思えば長い間分からないまま彷徨っていた気がする
季節は夏になっていた
私は思い出すために同じ日を繰り返している
そんなある日どこかの高校の制服を見た
あっ…
その瞬間、私のしたかった事を思い出した
私学校行かなきゃ
着るはずだった制服に袖を通して
学校に向かう
花屋の前を通ると、私が事故に遭ったであろう場所に
白い花弁の百合の花束が置いてあった
嬉しかった、誰かが私の為に置いてくれた事に
私は花束を持って学校に向かった
学校に着くと涙が出そうになった
今日で私の意識はきっとなくなるだろう
最後に学校を見渡せる所に行こう
最後の思い出に
無垢の女の子の話




