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鮭 短編集  作者: 鮭
2/8

無垢


7月の始め、少しずつ気温が上がり暑さが増す季節だ


時刻は13時20分、昼休みがもうすぐ終わる

昼休み中は空気の入れ換えをするらしく、教室の気温が上がっていく


僕は窓の外をぼんやり眺めながら暑さに苛立ちさえ感じた


「暑いな…」


文句が口から漏れた


「相変わらずシケたツラしてんのな」

乱暴に僕の前の席に座ったのは、多分僕の友達のなかで一緒に居る時間が最も長いであろう幼馴染の優太だ


優太は小学校からの付き合いで、僕が見ても悪くないと思う顔で、成績も普通よりやや上だと聞いている。


「暑いのに元気だね」

嫌味を込めて言ってやった

僕は暑いのが苦手だ、元気すぎる優太が近くに居るだけで気温が上がっていく気がする


僕の嫌味を嫌味とも思っていないようで

優太は珍しいモノでも見たような顔をしている


「暑いからこそ元気が出るんだよ!

周り見ろよ!女子の半袖が見られるのは夏だけだぜ?」

力を込めて優太が言った


呆れた


「よくそんな恥ずかしいこと大声で言えるね

見てるこっちが恥ずかしいよ」


「お前が変なんだって!俺らの高校生活、後1年しかないんだぜ?彼女くらい欲しいって思うだろ?」


その発言で何人の女子がお前を彼氏候補から外したんだろうか

残念な男だ、僕も彼女は居ないが優太よりはマシだと思いたい

そんな事を考えながら優太の話を聞き流していたら


「はいはい、お前はそういうの興味ないよな。いい加減異性に興味持てよな!ホモ疑惑かけられるぞ!」


そう言い放つと優太は子供みたいに笑って小走りで教室から出て行った


やっと静かになったか

それにしても暑い…。

もうすぐ昼休みが終わる

午後の授業の準備をしながら、ふと外を見る


校門に1人、うちの高校の女子生徒が白い花の花束を持って立っている

長い黒髪で、夏だというのに長袖の制服を着ている


授業がもうすぐ始まるのになぜ校門に?サボりか?いやそれよりもなんで花束なんて持っているんだろう

それに長袖、暑くないのかな


違和感だらけの彼女が無性に気になった

こんな感覚は初めてだった

僕は居ても経っても居られなくなり

走って教室から出て校門に向かった


校門に着いたが彼女の姿はない

暑さで苛立って居たからか幻覚でも見たのか


そうじゃないことは辺りを見回してすぐに確信した

彼女が持っていた花束の花弁が落ちていた

じゃあ彼女はどこに?帰ってしまったんだろうか

会えなかったことが残念で、もっと早く気付けばと悔やんだ


教室に帰ろう

そう思い、教室に向けて歩き出したその時

空から白い花弁が舞い落ちてきた

上から…、もしかして屋上か?

僕の通う高校には屋上があり、立ち入り禁止とされているが鍵が壊れていて簡単に入る事が出来る


僕は急いで屋上に向かった

走っているのに屋上までの距離が遠く感じられた

階段を登りきって息を整え屋上に出る


そこに彼女は居た

グラウンドを見つめて何かを考えているのか、僕には気がついていないようだ

風で彼女の髪が靡いている

時が止まったような感覚、心の底から綺麗だと思った


「あ、あの…」


僕の声にびっくりしたのか、驚いた表情で彼女は振り返った

肌の色が白く、顔立ちが言葉では表せない程に美しかった


「僕…あの…えっと…、その花…なんて花なのかな?」


もっと聞きたい事があったはずなのに、頭が真っ白になって、咄嗟に花の名前を聞いてしまった

心臓の鼓動がうるさいくらい高鳴って、焦らずにはいられなかった


「この花は百合という名前、私の好きな花」


透き通るような声


「私、1年生なんだけど、あなたは?」


「僕は3年生、…1年生ってことは今年入学してきたんだね。

あの、なんで花束なんて持ってるの?」


白い花弁が彼女に良く似合っていた

ただ、あまりにも綺麗な彼女に不思議と違和感があった


「貰ったの。誰だか分からないけど、嬉しくてつい持ってきちゃった。

ごめんなさい、私もう行かなくちゃ…」


行く?どこへ?


「転校するの?…僕、また君に会いたい。会えるかな?」


違和感が強くなる

口に出してから、転校ではないと思った


「私、ここに通う予定だった。でも入学式の前の日に…。

ごめんなさい、ほんとに行かなくちゃ。

あなたのこと忘れない。さよなら」


そう言うと彼女は屋上から静かに去って行った

夢だったのか幻だったのか

たった一瞬に思えた




後日、1年生を受け持つ先生に問いかけた

入学する予定の亡くなってしまった彼女のこと

先生は切ないような顔で話してくれた


彼女は1年B組に入学予定だったが

入学式前日に事故で亡くなったらしい


僕が感じた違和感は

彼女があまりにも綺麗過ぎて生きている人間には感じられなかった

そうか、やっぱり彼女は…




彼女の事で何も手につかなくなるかと思ったが、3年生の日常は受験や就職、卒業と、慌ただしく過ぎた


僕は今日この高校を卒業する

幸か不幸か、優太も僕も彼女が出来ることはなかった


卒業式を終え皆がグラウンドで最後の時を楽しんでいる

僕はというと、屋上で静かに彼女の事を考えていた

彼女が予定通りこの学校に通っていたら

僕は彼女に恋をしただろう。

いや、あの一瞬だけでも恋に落ちてしまいそうだった


誰に渡すでもなく、彼女と出会った屋上に

花束を置いた

白い花弁の、百合の花束





「さようなら、君と出会えて良かった。」





さようなら


どうか彼女に安らかな眠りを。

百合の花言葉は無垢

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