王女フェリシア
「……は?」
「む、何じゃおぬし。新しい教育係か? ノックも無しにレディの部屋に入るなぞ、失礼極まりない奴じゃな」
予想外の光景に呆然としているジャックに、部屋にいた少女が不機嫌そうに声を掛ける。
(なんで城にこんなガキが……いや、それよりもお宝はどこだ?)
ジャックは部屋に視線を巡らしながら、先ほど聞いた騎士たちの会話を思い出す。
『この中の宝を奪って――』
(高級そうな調度品は揃ってるが、一国の城にある宝とは言えねぇ……待てよ。国の、宝?)
ジャックは恐る恐る、といった様子で声を発する。
「貴女様はもしかするともしかして、王女様デスカ?」
「うむ、いかにも妾はこのナシロ国が第一王女にして王位継承権第三位を持つ、フェリシア・ルーナ・フォン・ナシロであるが……おぬし、妾を知らぬのか?」
(宝ってそういう事かよおぉぉ!)
膝から崩れ落ち床に手をつくジャック。
フェリシアは何が何だが分からず、狼狽えた声を出す。
「お、おぬし大丈夫か? 妾が何かしたか?」
「いや、あの、大丈夫デス。王女様のせいじゃありませんから」
子供に心配されたジャックは慌てて笑顔で取り繕うが、その目は虚ろで不気味な雰囲気を醸している。
「全く大丈夫そうに見えぬぞ!?」
不気味な笑顔を真正面から見たフェリシアの目には、僅かだが涙が浮かんでいる。
「ま、待っておれ。いま医者を……」
と見ず知らずの不審人物を心配する彼女は、高圧的な口調に反しとても心優しく純粋な少女である。
だが、人を呼ぶためベルを鳴らそうとする優しさは、今のジャックの目には悪魔の所業として映る。
(こんなとこで見つかったら確実に牢獄にブチ込まれる!)
何せココは王女の私室。いや、それ以前に城への不法侵入。
もう一度紹介するが、ジャックは一度盗みに入れば宝を手に入れるまで決して退かない男。
今までは見つかっても宝を引っ掴み何とか逃げ果せていたが、一国の城ともなれば警備はそんなに甘くない。
(本当のお宝手に入れるまで見つかってたまるか!)
そんな衝動が彼を突き動かした。そして苦し紛れに、ほぼ無意識で放った台詞はこうだった。
「王女様、私は、私のような平民の心配をしてくださる、お優しい王女様に感銘を受けました。大変おこがましい事かとは存じますが、そんなお優しい貴女に、国の宝についてお教え願いたいのですが」
要約すると、俺の心配はしなくても良いから宝庫の場所教えろ小娘、となるのだが、王族相手という事で畏まった言葉で遠まわしに聞いたこと、一国の宝に思いを馳せ興奮していたことが、ジャックにとって運の尽きであった。
(わ、妾が優しいじゃと? 国の宝について教えてほしいなど……それは、国の宝である妾のことを知りたいということじゃろう!? つつまりこれは、あああ愛の告白、プロポーズというやつではないか!? そんな、初めて会ったばかりじゃぞ!? し、しかしこやつ、この国の権力が目当てという感じではなさそうじゃし……しかも、こんなに熱っぽい目をしておるということは、やはり妾自身の事を好いて……)
そう、この広い城で何不自由なく蝶よ花よと育てられ、悪人に接する機会など露ほども無かった少女には、ジャックの思いは全く伝わらなかったのである。
とりあえず二話投稿。
正直、続くか微妙かも知れない。




