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怪盗ジャック

冷たい風が強く吹きつける、ある日の深夜。


砂漠の中でひっそりと栄えるナシロ王国の王城に、ひとつの怪しい影が入り込んだ。


(へっ、案外楽勝だな。さっさとお宝を頂戴して退散するか)


影の正体は、ダークグレーの髪と瞳を持つ、褐色の肌をした小柄な男だった。

男の名はジャック。貴族や大商人の屋敷から宝を盗んでは売り捌く、自称(・・)怪盗である。


今にも鼻唄を歌い出しそうなほど機嫌の良い様子の彼は、しかし物音一つ立てずに城内を駆ける。


(さて、宝がある部屋はどこだ?)


この男、盗みに入るのがどんな場所であろうと、下見などは一切しないというポリシーを持っている。それゆえ、侵入してから宝を探すのだ。

その上、一度盗みに入れば、宝を手に入れるまではどんな事があろうと決して退かないという意地汚さを見せるので、彼が退散する頃には侵入先が大騒ぎになっていた、という事も一度や二度ではない。


(前に入った貴族の屋敷だと、宝庫前に護衛が居たんだよな……ん?)


ジャックはしばらく宝庫を探して視線を左右へ動かしながら高級な絨毯の敷かれた廊下を進んでいたが、何度目かの十字路に差し掛かった際、微かな物音を聞きつけ速度を緩めた。


壁に背をはりつけ聴覚を研ぎ澄ませる彼の耳に届いたのは、二人の男の話し声だ。


「ったく、だからこの部屋の見張りは嫌なんだよな」


「でも、名誉な事じゃないですか。陛下に信用されてる訳ですし」


「信用してるならもう少し給金上げてくれないかねえ……いっそ、この中の宝を奪って雲隠れしてやろうか」


「ちょっ、隊長!滅多な事言うもんじゃ無いですよ!」


「ジョークだジョーク。怒んなよ」


宝、という言葉に、ジャックは胸を踊らせ自分の唇を舐めた。

彼は壁に沿ってゆっくりと進み、右への曲がり角から顔を覗かせ、二人の騎士の姿を捉えた。二人の間には、豪奢で重厚な扉が存在している。


(お宝はあの部屋の中か)


ニイッと口端を吊り上げた怪盗は、近くに他の人間がいない事を確認すると、掌に軽く収まるサイズの装置を投げた。

装置からは空気の抜ける音と共に催眠ガスが発生し、騎士はたちまち崩れ落ちる。


(さっきのジョーク、俺が実現してやるよ)


怪盗はいつの間にかガスマスクを装着し、扉の前に立っていた。


そして、音も立てずに扉を開け放った怪盗の目に写ったのは、目も眩むほどの金銀財宝……に匹敵するであろう上質なドレスに身を包んだ、まだ幼い少女であった。

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