エピソード5
「ジュドー。ルーおにいさまに会いにきたわ。どちらにおいでかしら? もしもお忙しいなら少しの間、お相手願えない?」
「殿下は今剣の稽古中ですので、私めがお相手させていただきましょう。姫様はどのようなお花がお好きですか? 庭園を散策していくと、殿下の訓練場の近くに続く道があるのでちょうどよいかと」
騎士とそんな掛け合いをしながら、メリアッセンヌは笑う。
「どんな花も好きよ。全て美しく咲き誇っているもの」
メリアッセンヌの返答に、騎士が一本の白い薔薇を庭師に言って切ってもらい、棘を払う。
「姫様のお美しさには、このような純白の薔薇がお似合いかと。姫様への敬意を込めて選ばせていただきました」
「あら、ありがとう」
騎士の差し出した薔薇の花を受け取り、メリアッセンヌは髪に刺した。
「似合うかしら?」
「えぇ、とても」
あくまで騎士と主人の婚約者。その地位は崩すことはなく、二人の仲は深まるのだった。
「メリア! その花、君に似合うな! 真っ赤な薔薇の方が似合うかと思っていたが、白もメリアにぴったりだ」
「まぁ、ありがとうございます、殿下。嬉しいですわ」
メリアッセンヌが嬉しそう笑う。それをみて、王子が騎士に問うた。
「……ジュドーが選んだのか?」
「はい。姫様に似合う花をと思いまして……出過ぎた真似でしたでしょうか?」
そんな騎士に王子は労を労った。
「いや、助かる。私はついメリアに似合うものの中でも派手なものや子供向けのものを選んでしまいがちだ。メリアが喜んでいるのなら、私も嬉しいよ」
優しく頭を撫でられたメリアッセンヌは、まるで実の兄にでも頭を撫でられたように穏やかに微笑んだ。
「もう、ルーおにいさまはいつもわたくしを子供扱いしすぎですわ! もっとジュドーを見習ってくださいませ!」
「はは。私の姫様は手厳しい」
二人の関係はよくも悪くも安定して良好で、まるで仲のいい兄妹のようであった。
「ねぇ、ジュドー? ジュドーからもルーおにいさまに言って差し上げて? わたくしは淑女ですよ、と」
目を潤ませて頬を染めて見上げるメリアッセンヌに、騎士の頬も朱に染まりかける。完全に染まる前に優しい表情を浮かべた騎士が、王子に言う。
「殿下。姫様がこのようにおっしゃっておいでですよ? ご自身の婚約者くらい淑女扱いして差し上げたらいかがですか?」
「……ジュドー、お前な。仮にも主人は私だぞ?」
そんな王子の返答に、最初にメリアッセンヌが笑い、つられたように騎士と王子も笑うのだった。
「ジュドー。今日はね、ルーおにいさまとあなたにお菓子を用意してきたの」
「ジュドー。わたくしね、お菓子を焼いてみたの。ルーおにいさまに食べてもらう前に意見をもらえないかしら?」
「ジュドー?」
騎士への想いに気がつかないまま、メリアッセンヌと騎士の仲は深まる。といってもあくまで主従の関係だが。騎士はメリアッセンヌへの自身の淡い気持ちを感じながらも、あくまで主人の婚約者だからとその想いに蓋をする。主人の婚約者でなくても、筆頭公爵家のご令嬢だ。会話だけるだけでも奇跡という高貴なお方だ。想いを抱くなど、身分不相応だ。それに、彼女はあくまで騎士としての自分に懐いているだけ。そこに恋情はない。だからこそ、自分のこの淡い想いに気づかせてはならない。怖がられてしまうから。普段通りに接しなければならない。気持ち悪がられてしまうから。騎士はいつも通りに振る舞う。ただ、静かにメリアッセンヌの動向を目で追ってしまう。そんな自分に気が付かぬままに。
「ジュドー、今日もお茶の用意までありがとうね」
「姫様は甘いドライフルーツの入ったケーキと蜂蜜を溶かした紅茶がお好きでしょう? 厨房長に言って準備しておいていただきましたよ」
「まぁ! さすがジュドーね。なんでもお見通しだわ」
くすくすと笑うメリアッセンヌに、嬉しそうに準備を自らする騎士。そんな二人の様子を部屋の外からバレないように微笑ましそうに眺める王子。それが三人と数人のメイドだけの秘密の時間だった。




