エピソード4
「ねぇ、ジュドー。わたくし、ルーおにいさまに会いに来たわ」
翌日、メリアッセンヌは王子の元に訪れた。いつでも王宮に自由に立ち入れるメリアッセンヌは、ほとんど毎日のように王子と団欒の席を持っていた。
「姫様。殿下は本日公務をいくつか終えられたら、ちょうど時間が空くはずです」
「そ、その。ジュドー。わたくしのために、あなたの主人たるルーおにいさまに苦言を呈してくださったのでしょう? ……王妃になるためには残酷さも時に必要となるから、わたくしが成長するためには余計なことだったかもしれないわ。……でも、感謝しているわ。ありがとう」
メリアッセンヌが顔を真っ赤に染めたまま騎士を見上げてそう伝えると、騎士はメリアッセンヌの前に膝をついて答えた。
「姫様。もったいなきお言葉、恐縮ながら拝聴いたします。……ただの騎士の戯言ですが、姫様の心優しいところは美点だと思います」
騎士の言葉にメリアッセンヌは首を傾げた。
「……王妃は常に高貴で冷静で公平で、時に残酷でないといけないわ」
「姫様が十分に努力なさっていることは、城の皆が存じております。ただ、姫様の心優しいところを慕う者も多くおりますよ」
騎士の言葉に、驚いたように目を見開いたメリアッセンヌが戸惑いながら口を開いた。
「……ジュドーは、心優しい王妃がいてもいいと思う?」
「えぇ。とても素敵な王妃だと思います」
騎士の言葉に、メリアッセンヌは力が抜けたような笑みを浮かべ、手を差し出した。
「あなたが望むなら、心優しさも持ち合わせた王妃になると誓うわ」
メリアッセンヌの手を取った騎士が、メリアッセンヌの手を取り、額を当てて答えた。
「生涯を通して、この命が尽きるまで、姫様と殿下の御身をお守りし、その治世をも守ってみせると誓いましょう」
メリアッセンヌが本で読んで憧れて、少しふざけた気持ちもあって行った行為に、騎士は全力を持って誓いを立てて返した。破顔したメリアッセンヌが、騎士に言った。
「では、騎士様。ルーおにいさまを待つために部屋に案内してくださる?」
「喜んで」
メリアッセンヌと騎士が待っていると、王子が慌てたように部屋に駆け込んできた。
「すまない、メリア。待っただろう?」
「いえ、殿下。待っている間、ジュドーがわたくしを楽しませてくれていましたわ」
「仲直りをして、前よりも仲良くなったみたいだね。ジュドー、どんな手を使ってメリアを楽しませたんだ?」
「僭越ながら、騎士の間で流れる噂話を」
興味を惹かれた王子にせがまれ、騎士は仕方なさそうに噂話を語る。メリアッセンヌは楽しそうに笑い、騎士はたんたんと語る。王子が驚いたり笑ったりする中、メリアッセンヌが言った。
「ね、ルーおにいさま。ジュドーは話が上手いから面白いでしょう?」
「あぁ。メリアの言うとおりだ。僕の方がジュドーと共に過ごす時間が長かったのに、全然気が付かなかったよ。メリアは、人の得意を見つけるのが上手いね。きっといい王妃になるよ」
「えぇ。わたくし、心優しくて優秀で皆に慕われる王妃になりますわ」
笑うメリアッセンヌに、王子が驚いたように問いかける。
「あんなにも完璧な王妃を目指していたメリアが、どういう風の吹き回しだい? じゃあ、僕がメリアの分まで完璧な国王にならないとね?」
「恐れ多くも、すでに殿下は国王としてかなり素晴らしい治世を予感させるかと」
騎士の言葉に、王子は頬を染めて顔を背けた。
「……まったく、ジュドーは褒め上手だから。……誰彼構わずそんな風に言うなよ? 女性なら勘違いしてしまうぞ?」
「誰から構わずいいませんよ。騎士として慕うお方のみです」
視線の端で嬉しそうに笑うメリアを不思議に思いながら、王子も笑って騎士をからかうのだった。




