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カタルシス  作者: つきたておもち
第7章

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「駄目、ですね。」

 月島からの、即答。

 月島を見返したタクヤに、

「先ほど、コトネさんも言っていたように、『浄化』は自身で回復するための後押し、でしかありません。コレは治療、ではないんです。何度も言うように、自浄作用を促すもの、と捉えてください。」

 強い口調。

 それに、と、

「薬と同じです。治療効果の高い薬物は副作用も大きい。身体へのダメージが大きいものです。つまり心の不調を急激に整えれば、その反動は必ず起きてしまいます。」

 真剣な表情。

「だから、コトネさんの判断、行動は正しかった。」

 そこには彼が浮かべるいつもの穏やかな笑顔はなかった。

「ただ、」

 その雰囲気のままで、月島は、

「今まで幾度となくコトネさんは『浄化』を施してきましたが、このような急激な変化を起こすことはなかった。」

 考えるように、視線を落とす。

 わずかな沈黙。

 それを破ったのは橘だった。

「永良さん。」

 と、タクヤは橘から真剣な視線を受ける。それは、橘からタクヤへの呼びかけではない。指摘、だ。

「今までと、何が違うとすれば、永良さんです。」

「僕、ですか?」

 確かに今回、タクヤは初めて第三者の深層に降り立ち、『彼』の『浄化』を、つまり微かながらも風を渡らせた。

 ただそれは、ホンの微かな風だ。そよ風、と言うのもおこがましい程の、ホンの微かな、吹いたのか吹いていないのかわからないくらいの、風。それくらいのことで『浄化』ができたとは、タクヤは到底言えない。タクヤが自身の中で渡らせている風は、もう少し力と爽やかさがある。

 それでも。

「橘さんと僕の相乗効果、だった?」

 違いとして考えられるとしたら、相乗効果だったのではないか、ということだ。施した力が単純に足して2になったのではなく、何倍にもなってしまった、といった結果だったということだろうか。

「わかりません。」

 月島は考えるように視線を落としたまま、橘とタクヤの話す彼らの考えにそう答える。

「永良さんの練習とは言え、二人がかりで深層の『浄化』を行ったこと事態が初めてです。比較できる前例がありません。そもそも永良さんは『浄化』を行うことに慣れていません。先日の報告ではうまく風を渡らせることができなかった、と聞いています。」

 月島のその言葉に、橘もタクヤもうなずく。

 第三者の深層での『浄化』はタクヤにとって初めてのこともあって、自身の深層で渡らせているような、清んだ気持ちの良い風を渡らせることはできなかった。タクヤはそう評価しているし、それには橘も同評価だった。

 では、『彼』の深層が以前以上に、整ってしまった理由は?

 橘は、あの場は、以前から花を咲かせたことはないはずだ、と言う。タクヤが初めて降り立ち、死にかけた世界だと感じたあの状態が、『彼』の常だと月島は語る。

 つまり今は、『彼』の常の状態ではない、ということだろうが、状態が良ければそれはそれで良い結果ではないのだろうか、と単純にタクヤは思ってしまうのだが。

 そのタクヤの考えに、

「駄目です。『彼』のフツウから逸した状態にしてしまったことは、『彼』の不調を整えた、とは言えません。むしろ、混乱、乱調させてしまった、となります。」

 強く否定する。そして、月島は顎に手を添え、少し目を伏せてそのまま再び黙してしまった。

 タクヤとしては、『彼』の茶色一色の世界が、タクヤの深層のように、緑に映える清みきった風景になる方が良いように思う。けれども月島や橘はそれを否定する。

「永良さん。」

 月島が伏せていた視線をあげ、タクヤを見る。

「あの茶色一色の世界は、『彼』があの年齢まで『彼』自身が築き、創り上げた世界、です。いわば、『彼』を構成する本質なんです。」

 いつもの柔らかな色の瞳ではない。厳しさが垣間見える。

「それを私たちの力でそれ以上のモノにしてしまうことは、私たち第三者が『彼』自身を否定していることになります。永良さんの深層のような緑映える景色にすべきは私たちの力ではない。『彼』が『彼』の力でしなければ駄目なんです。」

 月島のソレは、現在の『彼』への肯定。

 タクヤが考えるソレは、『彼』への否定、だと月島は語る。

 つまり、緑の映える清んだ景色が、必ずしも是ではないということだ。その、それぞれの人が築いてきた深層の景色が、その人の是、なのだということ。

「はい。」

 タクヤは月島のその言葉を素直に受け入れる。

『彼』の茶色一色の深層を否定する、ということは、つまりタクヤが『彼』を否定するということだ。また、タクヤがタクヤの力を以って、『彼』の深層を、緑の映える景色にしようとする事は、それはあまりにも不遜な行為。思い上がりでしかない、ということ。

 月島はそのようなことを言いたいのだろう。


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