#7 ザ・グレート・マリアンナ、その2
ミズガネたちの報告を聞いて、メリーの両親は仰天した。津波で我が子を失うかもしれなかったという衝撃もあるが、それ以上に、むしろ今日から娘がひとり増えるのだ。とはいえドリーは家族に歓迎され、それ以上は特に問題は起こらずに済みそうだ。
ひと仕事終えたミズガネは、メリーの家に上がり込んで夏の猛暑を逃れることにした。もちろん、メリーとドリーに事の発端を聞きたいのもある。
「ねえメリー」
「うん」メリーは何を聞かれるのか分かっていそうだった。
「メリーがあのとき、津波を消して…… ドリーを生み出したんだよね?」
「うん、マリアンナがドリーになったんだよ」
「……うーん、そっか」
にわかには信じがたいが、思ったことを述べてみる。
「メリーには、津波を吸収して兄弟を生み出す力があったんだね」
「そうみたい。でも、マリアンナじゃなきゃダメだよ。たぶん」
「どうして分かるの?」
メリーはドリーを一瞥すると、難しそうな顔で語る。
「マリアンナから、ドリーの声がする気がしたから……」
「ふーむ… マリアンナから、声がした、か…… じゃあ、ドリーはマリアンナの中にいたの?」
「違うよ」ドリーが言う。「私はドリーの中にいたんだよ。だって、私はメリーのキメラだったんだから」
「そう…… だよね」
オッドアイだったメリーが、それぞれの目の色を持つふたりに分かれた。だから……
「キメラを分離する能力ってことだね。すごいな」ミズガネたちの背後から声がする。そこにはコハクちゃんが居た。「ばあ! みんな無事で良かったよ」
「うわ、なんでここに」ミズガネが気まずそうにする。正直、コハクちゃんが何を考えているのかは察しがつく。
コハクちゃんが目をつむって感心した態度になった。
「メリーちゃん、すごいねえ…… グレート・マリアンナに触るってトリガーは厳しすぎだけど、キメラを分離して、命を創り出せるなんて」
「コハクちゃん、またコピーしにきたの?」
「メリーちゃんが断らなければね」
「ダメ!保護者のひとりとして、重要な決断は私が代わりにやりますっ」ミズガネが目を細める。
「ごめんごめん。商談するにはまだ幼いよね」
ミズガネがため息をつくと、コハクちゃんがメリーに質問を投げかける。
「ねえ、マリアンナの声はいつから聞こえてたの?」
「テレビで聞いてたよ!」
「へえ、マリアンナを直接見なくていいし、過去のマリアンナの姿でもいいのかな」
「当たり前だよ」ドリーが言う。「だって、メリーの中で私が話してただけだもん」
「おお…… なんか、キメラにしか分からない体験だね」
「じゃあ、記憶とかはどうなってるの? メリーの記憶を全部引き継いでる?」
「んー、コハクちゃんの話、今日もつまんないね」ドリーが言う。
「あー…… ごめん」
ようやくドリー本人から拒絶されたのを見て、ミズガネはほっとした。
「それにしても」ミズガネがドリーを向く。
「あんなに無茶するなんて、よっぽどメリーから独り立ちしたかったんだね」
そこでドリーは少し難しい顔をする。
「うん…… 分かれてみたかった。でも、昔はメリーの一部でいいって思ってたんだよ」
「そうなの? じゃあ、何か決め手があったの?」ミズガネが首をかしげる。
「分かんない」
「……そっか、分かんないなら、別にいいよね」
「いいや」コハクちゃんが割り込んでくる。「そんなの、理由はただひとつに決まってるよ」
みんながコハクちゃんに注目する。
「自分に”それ”ができるかもしれない。そう思ったら、やらずにはいられないでしょ? 誰だってさ」
「あ、そうかも!」メリーが笑って応えた。
「……」ミズガネはとくに異論はなかった。むしろ同意見だ。
「……さて、そろそろお暇しようかな」ミズガネが立ち上がった。
「おっ」
コハクちゃんが少し期待した顔になるが、ミズガネがたしなめる。
「コハクちゃんも今日はついてきてもらうからね」
「はあい」
それで、ミズガネとコハクちゃんはメリーの家を後にした。
じめじめした夕暮れの道を歩いていたら、ミズガネがふと大切なことに気づいた。
「おっと、オトカヒメにお礼しておかなきゃ」ミズガネがスマホを取り出した。
「オトカヒメちゃん? ああもしや、害虫を操るっていう……」
「うん」
「……この町、えげつない能力者が多いよね」
コハクちゃんはそう言うが、ミズガネから見ればコハクちゃんが最もえげつない。
ミズガネがオトカヒメにメッセージを送ると、スマホをしまった。でも、歩きださない。
「あれ、どうしたの?」コハクちゃんが聞く。
「や、アズマくんに挑戦されたのがここだったな、と思い出した」
ミズガネはあたりを見回しながら、最近のできごとを思い返した。
アズマ、閃雷、コハクちゃん、オトカヒメ、メリー。みんな自分の特技を使いたくて仕方がなかった。ミズガネだって、敵意を失くす能力は別に乱用しないが、自慢の筋力を見せるのは好きだ。
「できると思ったら、やらずにはいられない、って言ってたよね」
「うん」
「それ――その考え方、私けっこう好きかも!」
「ひひ、ミズガネちゃんは話が分かる!」
ミズガネは、また帰り道を歩き出した。太陽が空を琥珀色に染めた。笑顔で語り合ったあと、ふたりはそれぞれの家へ別れるのであった。
「水銀に敗れることでしょう」のエピソードはまだアイデアがありますが、ひとまず一区切りとさせていただきます。「ザ・グレート・マリアンナ おまけ」もぜひ読んでみてね。




