50 新しい家族のカタチ
翌朝、窓から差し込む邪魔くさい光が俺の瞼を刺激し無理やりに起こしにかかってくる。
「…ふぁぁぁ〜っ。」
一瞬苛立ちを覚えるが、ふと隣に視線を送るとそんな気持ちも霧散してしまう。
「ミア…」
一日の始まりに幸せを噛みしめる様に口にするのは最愛の女性の名前。
思わず俺の口許が緩む。
そのままある一点に俺の視線は釘付けにされた。
我慢できずについつい不埒な決断を下してしまう。
ムニュムニュ…揉み揉み…
それに夢中になっているといつの間にか起きていたミアと視線が交わる。
「あっ、ミアおはよう!」モミモミ
何事もなかった様に爽やかに挨拶をする。無論、手は離さずに。
「あっ、もう…あなたエッチねぇ〜♪おはよっ❤️」
名残惜しいがリノアが早目に帰ってくる可能性があるので戦闘開始とはいかず俺とミアはキスを交わすと一緒にベッドから出る事にした。
仕事がある俺は手早く顔を洗いスーツに袖を通すと、コーヒーを飲みながらタバコだけの朝食を済ませる。
正直、リノアと二人の時は無理をして一緒に食べていたが普段の俺は朝はコーヒーしか実は飲まない。ミアも一緒に生活を始め、アンヌやアルも居る、リノアに寂しい想いをさせる事もないだろうと俺は無理はしない事にした。
ミアはリノアがいつ朝食を食べに来てもいいように朝から準備に忙しそうだ。
しかしアンヌがリノアの面倒を見てくれているので仕方が無いとは言えミアは電子レンジすら使えないので少々不安ではある。
俺が心配そうに見ているとミアが笑いながら話しかけて来た。
「あなた、そんなに心配しなくても大丈夫よ〜?このコンロっていうのは使えるし目玉焼き位は出来るわよ♪」
フフフン♪と鼻歌まじりに卵を割っているのだが…俺はその卵に驚いて思わず二度見する。
その大きさ明らかに日本の卵じゃ無いよね?
俺は驚きのあまりそのままミアを基準とし卵のサイズを調べる様に全体を凝視してしまう。
「あなた見過ぎ♪」
ミアは俺に近寄って来ると上機嫌に頬にキスを落とす。だが俺が見ていた理由はその巨大な卵なのだが…ミアの表情を見るにこの事は口が裂けても言ってはいけない事だろう。
完全に勘違いではあるが一応傍から見てイチャイチャしている感じに過ごしているとリノアがアンヌを引き連れ朝食にやって来た。
俺は即座に視線でミアへと合図を送ると了承する様に頷いてくれた。
アンヌは何かを察したのか、頬を桜色に染め上げとても嬉しそうな表情をしていた。
「リノア、おはよ!」
「パパ、ママおはよ〜!」
ぱたぱたと足音を鳴らしながら俺へと近づいて来ると急に甘える様に抱きついて来た。
俺はそれを抱き留め膝へと座らせる。
「あらあら。うふふっ。リノアおはよ♪」
俺は今からリノアにミアと夫婦になった事を伝えようと思っている。
いくらこの間、棚ぼたプロポーズ騒動の時に喜んでくれたとは言え、実際に口に出すのとあの時とでは天と地程の差が有る。
緊張はする、万が一パパとしては受け入れるけど、ママの相手としてはダメだと言われでもしたら…そんな話をミアにしてみたのだが「そんな事あるわけないでしょ?仕方ないわね♪」と呆れた表情をしながら本気で笑っていた。
俺は悩んでいても仕方が無いので覚悟を決めちゃんと伝える事にした。
「リノア、ちょっと大事な話が有るんだけど…」
神妙な面持ちでリノアを見つめる。
「ん?なに?あぁー!もしかしてママうまくいった??」
リノアが何かを期待した様な視線をミアへと向けた。
「えぇ!もうバッチリ♪」
頬を真っ赤に染めてミアがサムズアップで答える。
「…はい?」
「あなた、ごめんね〜実はリノアに話してたの♪ママ、パパの事を大好きだから今夜の話し合いで夫婦になるかも知れないって…❤️」
両掌を合わせミアが笑いながら舌を出す。テヘペロ。
「は?え?リノア知ってたの?えぇ?いつ?どこでそんな話したんだよ?というか俺リノアに先に言うつもりだったのにこうなったから何気に悩んでたんだよ?えっ?本当に知ってたの?」
絶賛プチパニック中。
「パパ、落ち着いて!別に話す順番とかどうでも大丈夫だから!それに皆の前でプロポーズしたでしょ?」
リノアは肩を竦めアンヌが持ってきたカフェオレを飲みながら言ってくる。
「いやいやいやいや、ああ、今はそれはいい…それで?リノアなんて答えたの?俺がミアの旦那になるの賛成か?俺合格か?」
あまりに必死な俺の姿にリノアは小さく溜息を洩らすと呆れた表情を俺へと向けて来た。
それからすぐに膝から降りると話始める。
「はぁー。本当にパパはしょうがないな〜。今更それ聞くー?合格も何も…パパちょっとわたしと手を繋いで。あ、ママはこっちね。」
リノアはその小さな右手を俺に逆の手をミアへと差し出しす。その差し出された手を其々が繋ぎ横一列に並んで立った。
「簡単に言うと今まではこうだったでしょ?」
「ん?」
「うふふっ♪なるほど!そう言う事ね、じゃ私はあなたとね♪」
俺は何がしたいのか全く理解していないがミアはどうやら分かった様だ。
「なぁ〜ミア一体何なんだ_____」
「いいから。いいから。あなたは私とこうすれば良いの❤️」
そう言うとミアは空いている方の手を俺に差し出す。
俺は意味がよく分からないが取り敢えずその差し出された手を握り締める。
三人で手を繋ぎ合って輪を作るとリノアが話し始めた。
「今日からは完全な家族になるって事でしょ?そんなの大歓迎に決まってるじゃない?パパ、わたしだけじゃなくてママも幸せにしてね♪それでアンヌやアルも一緒に幸せになって行こうね!」
リノアは満面の笑みを見せた。
「……っ…あ、あぁ……約束する。」
俺は余りにも不意打ち過ぎるリノアの言葉に思わず涙が溢れそうになる。しかし天井を見上げる事でなんとかそれを耐え切った。
そんな俺の姿を見ながらミアも感動から涙が止まらなくなっており〝ありがとう〟と呟きながらリノアを優しく見つめていた。
それを見ていたアルやアンヌも目尻に涙を浮かべながら〝おめでとうございます〟と嬉しそうに祝福してくれた。
アルは色々昔のことでも思い出したようで、その言葉以降はずっと涙を流していた。
本当はマーロンにも伝えるべき事なのだが、さすがに日本での仕事もあるので中々思う様には動けないがコレばかりは仕方が無い。
それでも近い内には必ず伝えに行こうとは思っている。
「それじゃ行ってくるけど、アル、アンヌちょっといい?」
俺の声に反応する様にすぐ様視線を俺へと向けて来る。
「まず屋敷を建てる事なんだけど、誰か建築関係の知り合いとか居ない?」
アルが一歩前に出て答えた。
「閣下、僭越ながら私もアンヌも大工の知り合いは居ますので、いつでもご紹介出来ますが、閣下は普段からお忙しい方ですので、私の方で話を進めさせて頂いても宜しいでしょうか?」
アンヌもアルに賛成なようで静かに頷いている。
「え?二人とも忙しく無い?平気?」
アルがアンヌへと視線を合わせお互いに頷いてから口を開く。
「はい、それは大丈夫です、ただ一つだけお願いしても宜しいでしょうか?」
「何?遠慮はいらないからね?」
「はい、ありがとうございます、それでしたら一度冒険者ギルドの方へ依頼を出して欲しいのですが…。」
「冒険者ギルド?」
「んーそれはあれじゃない?私がここにリノアを隠した理由と同じって事でしょ?」
ミアがいつもの様にニコニコしながら言ってきた。
(ん?リノアを隠した理由?……あぁ、モンスター。魔物の存在か?)
俺は閃いたと言わんばかりに。
「あぁ、魔物の存在か?大工にはやはり厳しそうなの?」
「はい、閣下や私たちにはそう脅威ではございません、勿論冒険者にとっても移動するだけなら問題は無いでしょう、ただ、護衛をしながらとなると…ですので、冒険者の皆さんに護衛をして頂き、しの間に大工皆で屋敷を建ててもらう事になるかと思います。」
(ふーむ、確かに一般人に魔物は驚異だろう)
俺は腕を組みながら考えた。
「それが一番いいかも知れないな、うん、そうしようか!」
「はい、それが一番早く屋敷の建設へ取り組める方法かと思います。」
アンヌは微笑みながら言う。
「いや、でもあまり早いのも問題があるんだよな…金貨700枚も今はないぞ?」
「それでしたら、最初に金貨500枚さえ支払えば後は分割という方法も契約次第では問題ないかと思います。」
「え、ローン組めるの?」
アンヌとアルは何かを話し合った後すぐに俺へと向き直り話始めた。
「えぇ、閣下は貴族しかも当家は公爵家なのでなんの問題も御座いません、信用度がまるで違います。ただ…少しばかり料金に上乗せになるかと思われますが…。」
「いやー情けない主人で申し訳ない、本当にありがとう!」
俺はアンヌとアルへ深々とお礼という意味を込め頭を下げた。
「閣下。閣下の決意は理解しておりますが、私達にまで頭を下げるのはお辞めください!」
アンヌが慌てて頭を上げさせてくる。
「閣下、私達にも信念が御座います、主人に頭を下げさせる臣下等どこに存在しておりますでしょうか?」
更にアンヌへと続くようにアルが口を開く。
俺は少しだけ考えてから大きく頷くと、改めてお礼を言う事にした。
「ああ、そうだな、分かった。だけど…言葉だけならいいだろ?二人とも〝本当にありがとう〟」
俺がニッコリと笑うとアンヌもアルも〝全く仕方のない主様だ〟と言わんばかりに微笑んでいた。
「冒険者の方はまたゆっくりと話そう。さてじゃ後宜しくな!」
「はい、いってらっしゃいませ。」
「あーん、もう、あなた待って!」
ミアは俺へと抱きついてくると頬へとキスをする。
「いってらっしゃ〜い♪」
「パパ、いってらっしゃーい!」
「ああ、いってきます。」
他の三人は揶揄う様な視線を向けてきたが一々反応したら思う壺である。




