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フスマin異世界  作者: くりぼう
第二章
49/79

49 俺とミア


マーロンが商会へと戻ってから既に1時間が経過していた。すぐにミアと話そうとしたのだが、何でも少しやる事があるらしく、俺は今一人でフスマの部屋(リビング)のソファーへと座り少しだけ緊張を解す様に缶ビールを飲みながら時間を潰している。


ちなみにリノアはアンヌが面倒を見てくれる事になっている、アルも大事な話をする事に気付いており、邪魔をしては悪いと思ったのか気を使ってくれて今は自室で時間を潰してくれている。二人には色々と気を遣って貰い申し訳ない。


ここでふと今の自分自身の状況を顧みて思わず吹き出し笑ってしまった。

三十歳を過ぎたおっさんがまるで中学生のように女性の事で緊張しソワソワとしているのだ、これが笑わずにいられる理由(わけ)がない。

おまけにその緊張を解そうとアルコールまで摂取している始末、情けないやら可笑しいやら思わず肩を竦め溜息を洩らした。


「はぁーっ。俺は一体何をやってんだか…。」



「おまたせ♪」

不意に室内に待ち焦がれた女性の声が響く。


俺はドキンッと高鳴る胸の鼓動を誤魔化す様にソファーから立ち上がりフスマを閉めると何か飲み物が必要かと捲し立てる様に尋ねてしまう。

だが、どうやらミアも持参していたらしく後ろに隠し持っていたビールの缶を二本目の前に出しながらまるで少女の様な笑顔を見せた。


そんなミアの姿をとても好ましく綺麗だと思いつい視線を外す事を忘れてしまう。


「あ、あの〜。」


その少しだけ困ったような声が俺の耳を刺激しやっと自分が見惚れていた現実に気がつく。それと同時に頬を朱色に染めるミアを見て、もしかすると…ミアも緊張しているのかもしれないと妙な親近感を覚えた。


取り敢えず俺とミアはソファーに隣同士で座るとお互いの気持ちを話し始めた。

最初はどう話を切り出そうか、お互い慎重に手探りの状態で会話を続けていく。又しても中学生のような行動を取ってしまう自分自身に思わず笑いが洩れる。


「あはは。いやぁ〜参った。」

俺は思わず顔を隠し天井を見上げる。


「どうしたの?」

不思議そうにだけど俺の笑い声に何処かホッとした様なそんな表情でミアが尋ねて来る。


「いや、まるで十代の少年みたいな態度を取ってる自分が可笑しくてさ。」

「ふふっ、それなら私も同じよ♪」

ミアも俺が笑った理由に共感してしまい思わず二人して顔を見合わせ笑ってしまう。


「さて、そうだなぁ…ミア俺は別に鈍くないつもりなんだけど、ミアが俺に好意を持ってくれている事は十分に伝わってるよ。素直に嬉しいと思ってる、ホントにありがとう。勿論俺も好きだよ?容姿も十分魅力的で好みだけど、リノアの為に頑張ってる姿は他の何よりも綺麗だと思った。」


「そんな…でも……ありがとう。」


ミアは恥ずかしいのか俺の言葉を聞くと少し頬を蒸気させ小さく頷いてくれた。


「それでミアはいつから俺の事を好きになってくれてたの?俺は最初はミアが美人過ぎて只々驚いてただけなんだけど、話を聞いてもらって帰るときには気持ちが妙に軽くなっててさ、これから先、ミアの身に危険が迫ったりしたら絶対に助けようって思ってたんだよね?多分その時にはもう、ミアに惚れてたのかもな。」


俺は当時を思い出す様な穏やかな瞳をミアへと向けていく。


「そうなんだ…私はそうだなぁ〜……。」


それからミアは頬を桜色に染め微笑みながら自分の気持ちを語ってくれた。


初めて俺を見かけた時に黒髪に惹かれた事、瞳を覗き込んだ時には理由は分からないが視線を離せなくなった事、俺が悩んでる時に決意をしていくその過程を真横で見ながら、真剣に悩み自分の大切なものの為に覚悟を決めて行くその姿に自分と似た部分を俺から感じ取りどんどん心を惹かれていった事。


ただ、その時に「まさか大切な相手まで同じだとは思わなかった」と可笑しそうに笑っていた。


そして男爵邸で俺がリノアを守った事が最大の引き金になったと言っていた。


自分以外にもリノアを守ってくれる存在がいる事に安堵し嬉しいと思った時にはもう完全に好きだと自覚しており、リノアと一緒に生きていくのは俺しかいないとそう強く感じたと恥ずかしそうに語ってくれた。


「ミア、そこまで俺の事を想ってくれてありがとう。本当にうれしい。」


「うん、私もありがとう、大好きです。」

ミアは俺を抱きしめるようにゆっくりと首に腕を回してきた。


俺もミアを…とても大切な最愛の人を抱きしめ返そうとする。

やっとミアを抱きしめられる、あの絶望の日以降、もう二度とこんなに人を好きになる事があるなんて考えもしなった。


リノアの為に頑張り続けられる、とても心の強い人、そんなミアの心を俺がこれからは守っていきたい。

実家の為に自分を犠牲にできるとても気高い人、そんなミアの側に立ち続けられる俺でいたい。

どんな時でも笑顔を絶やさないお日様の様な人、俺はもうそんな君の側から離れたく無い。


こんな素敵な女性に出会えてよかった。大事に大切にずっと愛し続けていこう。


そして俺は腕を伸ばそうとする、俺の心を少しでも形に出来る様に包み込もうとする。



しかし…その願いは叶わない。 俺の心と身体はまるで別々の意思を持った生き物の様にそれぞれ違った反応を示す。心に反して全く身体が動かなかったのだ。


俺のあまりにも不自然な態度に一瞬にしてその場の温度が下がる。


〝ガタガタ〟と風が窓ガラスを撫でつける音だけが室内に響く…


そんな時だった、真っ暗な外の景色を背景に窓ガラスに映った余りにも情けなさすぎる自分の顔が視界へと飛び込んできた。


その顔を見て一瞬息が止まりそうになった…


そんな俺をミアは不思議そうに何処か寂しそうに涙を浮かべ微笑みながらが見つめていた。


「私じゃやっぱり駄目なのかな?」


「違う、そうじゃ無いんだ…俺はミアが大好きだよ…。」


「…………。」


実際に抱き返す事も出来ない俺の言葉は今のミアには届かない。


上辺だけの言葉を重ねれば重ねる程、部屋中の息苦しさは重く冷たい物へとその姿を変えていく。


こんな事では俺はミアを失ってしまう…。


俺は瞼を閉じる…考える。最愛の女性を失わずに済む方法を必死に考える。


そしてゆっくりと瞼を開き、重苦しい沈黙の中その重たい口をゆっくりと開く。


「あの、さ…全然楽しい話じゃないし、ハッキリ言って情けない話なんだけど聞いて貰っても…いいかな?俺が何故今ミアの事を抱き締められなかったのか、その理由にも繋がる話…。」


俺は下唇を噛みしめ自分の情けなさに苛立ちすら感じていた。


「うん、私なんでも聞くよ?あなたの話なら。」


ミアは何か理由がある事が分かり少しだけホッとしたのか涙を拭いながら頷いてくれた。


俺たちは先程と同じようにソファーへと隣同士で座り合い、それからゆっくりとした口調でそれでもしっかりと話し始める。ただ先程と違う事が一つだけ…ミアが俺の手を優しく包むように握り締めてくれていると言う事だった。


その握り締めてくれた手からは俺を勇気付けるような温もりと、自分の想いが伝わるのかと言う不安や緊張からだろう、少しだけ冷んやりとしたモノも同時に感じられた。だから、俺はせめてその手だけは握り返す事に決めた。


その手を握り返した時、ミアの表情が少しだけ綻び、嬉しそうな〝笑顔〟という形で答えてくれた。

俺はミアのその笑顔に後押しされるようにゆっくりと重い口を開くと日本での出来事をミアへと語り始めた。


それは愛子との出会いから始まり、コンビニでの出来事を経て、俺がその時どう感じたのか、どんな汚い事を考え、どれ程俺が情けないのかを全てを包み隠さず、冷静に淡々と事実だけを醜い心の部分まで含めて全てを語り聞かせた。


ミアは最後まで黙って話を聞いてくれると、ゆっくりと俺の心まで包み込むように頭ごと抱き締めてくれた。


「安心して、私はあなたを()()()()()から。」


その言葉を聞いた瞬間、俺の心に一陣の風が吹き抜けた。


俺はその言葉を聞きたかったのかも知れない、安心したかったのかも知れない。


たかが言葉…されど言葉…〝裏切らない〟きっとこれは俺が何よりも欲しかった言葉。


その言葉が俺の心の奥底に暖かくて小さな光を灯す、その光はどんどんと広がっていき、やがて暗闇の中一人ぼっちで取り残されていた悔しさや、寂しさ、情けなさ、己自身の醜さまでも丸ごと全てを包み込んでいく。その光はゆっくりと心の隅々にまで浸透していき俺の中にはお日様の様な暖かさとまるで初めて恋をした時のような、くすぐったさだけが残っていた。



そしてすぐに俺はミアの甘い香りに当てられる。


その香りに包まれクラクラとし始める。


それは優しくとても魅力的な香りだった。


それでも俺は必死に思考を働かせる、最愛の人を失わない為に。


女性不信とまでは行かないが信じる事が怖かった。


裏切られるのも嫌だった。


それでも幸せは諦められなかった、幸せになりたい。


ミアも幸せにしたい。


俺の事をここまで思ってくれる人はもう現れないだろう。


勿論リノアも幸せにしたい。


ミアとリノアと俺の三人で幸せになりたい。


家庭を築きたい。


子供連れの家族を外から幸せそうだなと羨ましそうに見るのはもう嫌だ。


そして目の前のこの女性を俺以外の誰かに委ねたくない。


俺が幸せにしたい。


そう思った俺の口からは自然と言葉が溢れ出ていた。


俺はミアの腰に手を回すと抱きしめる様に包み込む。

〝この女性(ひと)を俺以外の誰にも渡したく無い〟

先程とは違い完全に一つの意思と想いの元に統一される。


「ミア、俺もミアが大好きだ。誰にもミアを渡したくない。俺とリノアと三人で幸せな家庭を作ってくれないか?」


「ほ、ほんと?嬉しい!あっありがとう!でもでも…私で良いの?」


棚ぼたみたいなプロポーズとは違い本気のプロポーズ。

ミアの瞳からは先程とは全く違うとても綺麗な涙が溢れていた。


「ミアじゃないと嫌なんだ。」


「結婚、初めてじゃないよ?いいの?」


「そうしないとリノアは存在できなかった。」


「私よりも若くて可愛い女の子いっぱいいるよ?」


「日本じゃミアは全然若い、むしろその心配はおっさんの俺の方かな?」


ミアの言葉につい俺から苦笑いが漏れる。


「もう取り消せないよ?」


「最初から取り消すつもりはないよ。」


「・・・・・・・」


「ミアずっと死ぬまで一生側に居て欲しい!」


「死んだら離れるの?」


ミアは悪戯っ子の様な笑みを浮かべる。


「うーん……それはまた二人で50年後に話合おっか?」


「じゃぁ最低でも50年は一緒にいないとね?」


「うん、そうだな。50年後もその先もずっと一緒に今後の人生リュノミア・フォン・コンノとして俺の一番側に居て下さい。愛しています。」


「は、はい!私も愛しています。一生側を離れません❤︎」


ミアの瞳からは溢れんばかりの涙がこぼれ落ちる。


俺たちはどちらかともなく触れるだけのキスをした。


指輪が二人を祝福するように輝き始め、その暖かな光がゆっくりと二人を包み込んで行く。


触れるだけのキスは何度も繰り返され、お互いの気持ちを盛り上げる…。



この日俺とミアは初めて一つになった。

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