22 娘とデート
俺は今嵐が過ぎ去るのを待っている。
顎を引き背筋を伸ばし、両膝を折り、地面と両脛を垂直にくっ付けながら太ももに両手を乗せ、静かに目蓋を閉じ、ただジッとそれに耐えていた。
そう日本人の得意技『正座』である。
____________話は2時間前に遡る。
俺はミアから相談に乗ってもらい決意を新たに意気揚々とリノアの待つ家の前まで帰ってきていた。
部屋に入ってすぐ、挨拶を交わし今回あった出来事、プレートやミア以外の話をしながらワイワイと盛り上がっていた。
丁度その時以前頼んでいたリノア用の服が届いたので俺は試着を頼み見せてもらっていた。
『おー似合ってるな!』『可愛い可愛い』などと言いならがリノアも満更でもんさそうに喜んでいた、ここまでは良かったんだ、順調だった。
しかし……………
「んじゃ、出かける予定も無いので着替えてきな?」
俺のこの不用意な発言が元でぴしっと空気が固まったのだ。
しかし、俺は全く気が付いていなかった。
「ほんとーに何処にも行く予定はないの?」
笑いながらリノアが言ってきたのだ。
ここで俺は気づくべきだった…顔は笑ってはいるが目が全く笑っていなかった事に…。
「え、いや予定なかっただろ?俺も眠いし?」
そう言った瞬間、俺は『ハッ』としたがもう遅い。
「パパ!!!洋服屋さんは?いくって言ってたよね?嘘なの?あれ嘘なの?」
「そもそも、行くの一昨日だったよね?なんで?ねぇー何で?」
顔色を真っ赤にさせ烈火の如く怒りだしたのだ。
「あーやべ、完全にわすれてたわ。」
更に不用意な発言を重ねてしまいリノアはプルプルと震え始めた。
「パパ正座!!!!」
俺は反射的に「はい!」と返事をしていた。
_________________現在
「なぁー本当に悪かったって、いい加減機嫌直してくれよー」
「でも、部屋を繋げたりここの所色々とあっただろ?俺も悪気は無かったんだって。ホントすまん!」
顔の前で左右の掌を合わせて拝みながら謝った。
「んーでも、楽しみだったんだもん………」
唇を尖らせながら抗議の声を上げた。
「ふむ」と呟いてから俺は腕時計を見た、まだ19時になったばかりである。
「んじゃ今から行くか?」
「んー……」
と言いながらチラチラと様子を伺ってきた。
「ついでに外で何か食べるか?」
俺が外食を提案した瞬間、リノアはぱーっと顔を輝かせた。
「え?いく!絶対いく!お肉?お肉食べるよね?」
物凄く嬉しそうに外食に食いついて来た。
(うん、わかってた、わかってたけど…娘よ、チョロ過ぎじゃないかい?)
俺はやれやれと思いながら出かける準備をする為に…。
2時間ぶりに立ちあがり…転んだ。
うん、足が痺れてた。
〜〜〜〜〜〜〜
準備を終え外に出ると流石に冬場の夜は寒くて真っ暗だった。
その日は何故かいつもより街灯や行き交う車のヘッドライトまでとても綺麗に見えた。
俺はリノアの手を引きながらいつも通勤で使っている、駅の方へと足を向けていた。
何だか不思議な感覚だった、いつも通りの駅までの道のり。
見慣れたはずの風景、よく行くはずのコンビニ、数日前までは確かにつまらない、何も変わらないただの通勤途中の道でしか無かった。
なのに今ではこんなに楽しい、寒い筈なのにこんなに暖かい。
通い慣れた道が遊園地にでも向かう様に足取りが軽い。
…………………………純粋に楽しい。
ちょっと横を見るだけで笑顔が帰ってくる、話しかけてくれる。
俺は無性に嬉しくなった、何だかすげー頑張ろうと思った。
この小さな手の俺の娘を絶対に守ろうと思った。
絶対に幸せにしようと誓った。
そう思ってリノアの顔を覗き込んだ。
リノアと目があった、俺は満面の笑みを向けた。
リノアの可愛らしい眉がゆっくりと形を変えていき眉間にハッキリとシワが寄った。
もの凄く気持ちが悪そうにコチラを見ていた。
(うん、親の心子知らずとはよく言うーよねー?この言葉作った人まじすげーわ。俺尊敬しちゃう。)
俺は「うんうん」と頷きながら駅へと向かった。
リノアは駅に着くまで訝し気な目で俺を見ていた。
駅についた俺はまず、リノアの切符を買った。
リノアは初めて見る駅や改札口に興味津々の様子だった。
「リノア、電車危険だから、あんまりはしゃいで俺の側離れるんじゃないぞー?」
「はーい!」
と返事をしたと思ったらもう興味津々に自動販売機のほうへかけて行った。
「返事だけ100点とか意味ねぇーから!」
すぐに追いかけカフェオレを買わされた。
ふとそこで周囲の目が気になった。
周囲の人間にはリノアの言葉は分からないので外国人の女の子が日本に来てはしゃいでる姿に見えているのかもしれない。
いや、ある意味それは間違ってはいないのだが。
そうこうしている内に電車がきた。
電車を見た瞬間、リノアは目を見開いて
「ど、どらごん!!」
と顔を青白くして連呼していた。
蹲りかけたのを慌てて立たせて電車とは何なのかをちゃんと説明した。
「出かける前に電車の説明すべきだったな、すまん。」
リノアは顔色を青白くさせプルプルと震えながら言った。
「あれ、食べられてる?食べられてる?」
電車に乗り込んでる人達を見てそう思ったみたいである。
(うん、この子全然、さっきの説明理解してない!)
俺は生暖かい視線をリノアへと向けた。
電車内は結構混んでいて、今日は辞めておこうかと提案したのだが、逆に人が多い方が食べられてはいないと説得力があったようでリノアを安心させるのに役立ち結果的に良かった。
ただ、潰されてしまう危険性があった為、肩車をさせられて死ぬほど恥ずしかった。
その後は特に何事もなくユ◯クロについた。
ついてからは店員さんに選んでもらった方が絶対に良いと思ったので、外国人の子ですとだけ説明をして俺が通訳をしながら一緒に選んだ。
パンツやスカートを3着ずつ、トレーナーとセーター類を2着ずつ、インナーや下着を1週間分パジャマを2着購入した。
結構な出費だったが、嬉しそうなので不思議と買って良かったと思えた。
帰りの電車は特に何事も問題はなかった、むしろ軽く飽きている様だった。
子供って本当不思議な生き物だとつくづく思った。
_________近所の焼肉店
そして今俺たちは近所の焼肉屋で戦いを繰り広げていた。
「リノア、肉全部一気にいれるんじゃねーよ!!」
「はぁー?別に焼けたのから食べればいいじゃない?」
「だーかーらー同時に入れたらー同時に焼けるんですーそれが嫌なんですー」
と俺は自分でもすげームカつくと思われる顔でリノアを挑発した。
『ぐぬぬぬぬっ』と唸ってから。
「パパってさ、ホントそういうとこあるよね?」
「子供っぽいっていうかさーそういうのもう大人なんだからやめたほうがいいよ?」
と冷静な振りをし、プルプルと震えながら言ってきた。
「子供にー子供っぽいとかーいわれたくないんですけどー」
とさっきと同じ顔で言ったあとドヤ顔を決めた。
すると目に涙を溜め睨みながら噛み付いてきた。
「いでぇてててててっ!!!」
「ちょ、物理的に抗議するのは辞めた方がいいと思います!!」
「うるさいっ!!」
「はい!ごめんなさい!」
と言って俺は機嫌をとる様にアイスクリームをそっと注文した。
俺たちは約1時間半こんな感じで楽しい食事を行った。
食事を終え帰るときに俺は真剣な視線をリノアへと向ける。
「リノア、俺たち家族の事で後で話があるから。」
リノアも状況を察したように
「わかった」とだけ言った。




