20 王都レリテア
累計PV数が3桁を超えていました。読者の方々本当にこんな拙い文章を読んでくださりありがとう御座います。
これからも楽しんでいただける様に精一杯頑張りますので宜しくお願いします。
俺は元護衛の男をガムテープでぐるぐる巻きにしてから馬車の前まで引きずって行き中で待機している人達に声をかけた。
「もう出てきても平気ですよ。」
すると馬車の中から、恰幅の良い商人風の50代くらいの男性と気の弱そうな小柄な執事服を着た年老いた男性、英国風の裾の長いメイド服を着た40代くらいの女性の3名が姿を現した。
「あ、ありがとう!!もう、ワシもこいつらも此処で死ぬものだと諦めていた所だったのだよ!いやぁー君は強いなありがとう!本当にありがとう!」
商人風の男はそれはそれは嬉しそうに俺の右手を両手で包む様に握って上下に力一杯振ってきた。
執事服の男とメイド服の女は静かに後ろに控え俺に向かって頭を下げている。
「いやいや、本当に大丈夫だから、気にしないでよ。」
俺は首を左右に振った。
すると執事服の男が商人風の男に告げた。
「ご主人様、僭越ながら御自身のお名前をまだ告げられておりません。」
「おぉ、これは失礼した。ワシは、サンチェス・マーロンと申します。マーロン商会の代表をしております。」
胸に右手を添えながら軽くお辞儀をしてきた。
「後ろの2人は執事のルーアンと、メイドのジーナです。」
「先ほどはご主人様だけでなく私共迄お助け頂きまして本当にありがとうございました。」
執事の方も先ほどと同じ様なお辞儀をした。
「ご主人様の専属メイドをやらせて頂いております、ジーナと申します、先ほどは大変に御世話になりありがとう御座いました。」
メイドはスカートの端をちょこんと摘み綺麗なカーテシーを見せた。
俺はその姿を見て『リアルメイドさんキター!』と内心叫んでしまいそうなのをグッと堪えて自己紹介に失敗した。
「俺は紺…アリヒト・コンノ。さっきの事は本当問題ないから気にしないでよ?」
3人とも一瞬驚いた様な顔をしたがすぐに平静を装いにこやかな笑顔を浮かべてきた。
俺はマーロンの差し出してきた手を握り返しながら内心、自分自身に舌打ちをした。
(家名を出したのは失敗だったなー思わずリアルメイドさんに夢中になってしまった。しかし…もう名乗っちゃったし余り下手に出るのもまずいよなぁー家名持ちって上流か中流階級の身分だったよな…確か。マーロン商会というから実業家になるのか。それじゃこの人は中流の人だよな?うん、決めた、最低でも敬語は無しだな。)
「それで、この男はどうする予定?」
ガムテープの刑を受けている男に視線を落とした。
「そうですねぇー」
マーロンは顎に手を添えながら考え込んでいる。
「僭越ながらご提案させて頂いてもよろしいでしょうか?」
ジーナが一瞬だが俺へ視線を向け直ぐにマーロンの方を向くと恭しく聞いた。
「かまわん、言ってみろ。」
「はい、戦闘奴隷に落とし、当家の護衛を続けさせるのがよろしいかと存じ上げます。」
ぐるぐる巻きの男を見下しながらジーナが言った。
「ふむ、契約で縛り付けて使い潰そうというのだな?」
マーロンは今の説明に何か納得がいかないのかまだ考え込んでいた。
「はい、コンノ様への配当で御座いましたら、コンノ様にお許し頂けましたなら、当家でそれ相応のモノを準備すべきだと考えます。」
(配当って何だ?さっぱり話についていけん。ここは上手く合わせておくしかないな…家名持ちで何も知らないのは明かに不自然すぎる。)
「配当の事は俺は別にいいよ、そちらの都合の良い様にしてよ?」
俺は何食わぬ顔で言い放った。
「おぉ、左様でございますか!それでございましたらこちらと致しましてもジーナの提案に何の懸念もございません!」
マーロンはホクホク顔でいった。
「他のものは死亡したと言いましても、元王国騎士やみな有名だった、元冒険者たちでございます。それにこの捕らえた者については生きてる上に現役のAランク冒険者ですからねぇー……」
そう言うとマーロンはそんな人物たちに命を狙われた事を思い出したのか険しい顔をしながら唸っていた。
「死亡した者は4人で金貨3枚A級冒険者の方は1人で金貨5枚今回のお助け頂いたお礼を含めまして、金貨30枚でいかがでしょうか?」
「そっちはそれでいいの?」
(え、盗賊って金もらえんの?あ、昨日の私兵チョロまかしやがったな!)
「此方としましてもこの男を衛兵に突き出しますと犯罪奴隷に落とされて間違いなく国に買われてしまいますからなぁ」
嬉しそう頬を緩めながらマーロンが言う。
(それで金貨30ってこの場合どうなのよ?多いの少ないの?と言うか国が犯罪奴隷買うこともあんのな。)
「Aランク冒険者でございますからねぇ。」
ルーアンは控え目にグルグル巻きの男に視線を落としながら呟いた。
「実力が有るならばそうなるだろうな」
俺は流れに乗って何食わぬ顔をしながら言った。
(いや、それが強いとか弱いとかどうでもいいのよ?金額は妥当なの?)
その後、俺は結局相場が分からず、金貨30で手を打ち元護衛達が狙っていた金貨の中から金貨29枚と銀貨20枚を受け取った。
1枚は銀貨で欲しいとお願いしたのだ。
どうやら、銀貨20枚で金貨1枚の様だ。
「ところで、コンノ様、少々宜しいでしょうか?」
マーロンが声をかけてきた。
「ん?どうかした?」
「これから王都の方へ帰られるのでしょうか?」
(王都って城が見えてるしあれだよな?……)
「ここから近いのですが、こう、何と申しましょうか…大量の金貨を持ったままですと不安でございまして…出来ましたら街までご一緒して頂けないかと思いまして。」
マーロンが縋るような視線を俺へと向けてきた。
(うーん、戻るのにかなり時間かかりそうだけど、情報収集にはなるよな…仕方がない受けるか。)
「あぁ、そのくらいなら問題無いけど、一つだけ、俺身分証この辺りに落としちゃったんだが…」
俺が何食わぬ顔でそう言うとマーロンは一瞬だけ、考える様な素振りを見せてから柏手を鳴らした。
「なるほど、そう言うことですね、分かってます分かってます、全てお任せください。」
(え?何がそう言うことなの?提案した俺が1番何のことか分かってないんですけど?というか俺が自己紹介してから何か態度が変わってない?すんごい丁寧なんですけど…ワシっていってないし…バーレリアでは家名持ちってこんな風に扱われるって事?)
そして俺は王都までの護衛を引き受けることにした。
猪本君をどうしようかと考えていると馬車に括りつけても構わないと言うのでそうさせて貰った。
(猪本君、ゆっくり馬車の旅を楽しんでくれよ!)
ちなみに事この猪本君正式名称ワイルドボアだとジーナさんが教えてくれた。
__________王都へ向う馬車の中
「この度は私どもの命を助けて頂いたばかりでなく護衛まで引き受けてくださり本当にありがとうございます。」
マーロンは居住まいを正し頭を下げた。
「いや、大丈夫大丈夫、襲われてるところに出くわしたのはホント偶然だから。」
「それでも本当に助かりました。それにしても、コンノ様はお強いですなー」
顎を摩りながら言ってきた。
「自分では強いとは思ってないんだけどね、俺すぐ泣いちゃうし?」
腕を組みながら唸る様に言った。
「なるほど、確かに私も商会を守るために毎日必死で泣きそうですよ、あははは。」
そう言って頭を軽く叩きながら笑った。
(いや、俺のはそんな高尚なモノじゃ無いからね?唯怖くて泣いちゃうだけだからね?)
「所で商会では主にどの様な商品を取り扱っているのか聞いても?」
「そうですな〜基本、ご注文頂ければどの様なモノでもお取り扱いさせて頂いておりますが。何かご入用でしょうか?」
「いや、そうでは無いんだけど、少し興味があったので。」
「左様でございますか、あ、ただ、今の時期ですと………大変申し上げにくいのですが、砂糖や蜂蜜といった甘味類は少々難しいでしょうな…」
一瞬、とても厳しい商人の目になった。
「ふーん、それはまた…何故だか聞いても?」
(おー砂糖や蜂蜜なんか日本じゃ簡単に手に入るぞ!)
「えぇ、構いませんよ、実はこの国の第一王女のミルレイン様が隣のエデルゲン帝国への交渉の材料にお使いになられまして。今およそ、この国で産出される数の最低でも1割に相当する砂糖を輸出しているんですよ。」
(最低でも1割って相当な数だろう、一体どんな交渉を行ったんだか……)
「砂糖を最低でも1割も渡す交渉ねぇ?相手は何を差し出すのよ?」
「……兵ですよ」
鋭い目つきでコチラを見てきた。
「兵というと?戦でも始まるの?」
腕を組みながら聞き返した。
「いいえ、逆ですよ、この条件を断った時に戦争が起こるのです」
怒りの表情を垣間見せた。
「帝国は無理難題を吹っかけて攻める口実がほしいのですよ。逆にこの条件を飲み続けるのならそれはそれであちらでほぼ産出不可能な砂糖と言った資源が半永久的に手に入る、しかも戦力があるにせよ、戦争には何かとお金がかかりますからね。だからどちらでもいいと考えているのですよ。」
(その帝国とこの国ではそこまで戦力に差があるのだろうか?しかし、帝国では砂糖が手に入らないのは何でよ?)
「1つ教えてくれない?帝国では最初から砂糖が作れなかったの?」
俺の質問に怪訝な顔をしながら答えた
「いいえ?確か、30、40年前からだと思われます。しかしどうしてまた?」
(最低でも30年前までは作られていたわけか…という事は、気候の変化による急激な環境の悪化かあるいは…疫病か…あ、もう1つあるな…戦闘で運悪く、その地を燃やしてしまったかって所だな)
「帝国はどう転んでも砂糖を手に入れることが出来るってわけか…全くふざけた話だな。」
(帝国って怖い国っぽいなぁ〜行きたくない国ワースト1だよ。)
「えぇ、おっしゃる通りでございますな」
「それで、もし定期的に砂糖が手に入るとしたらどうする?」
俺はニヤリと口角を上げて微笑した。
「それはバーレリア以外からという事でしょうか?」
マーロンは怪訝そうな顔で聞いてくる。
「そそ、仕入れ先は明かせないけどね、月にある程度纏った数を用意出来ると思うんだけど。」
「なっ!」
「もしそれが可能であれば是非お願いしたい所ではありますが、1度品物を見せて頂く事になるかと思いますが宜しいでしょうか?」
一瞬大きく目を見開いて驚いたがすぐに平静を装い商人の顔に戻った。
「うんうん。それは勿論当たり前だよね。」
俺は大きく頷きながら返事をした。
色々と話し込んでいる間に目と鼻の先に王都の門が見えて来た。
運良くここまで戦闘は一度も無かった。
馬車が門の目の前まできた所で門番の男が近づいてきて馬車に括り付けた猪本君を驚いた目で見ながら声を掛けてきた。
「これは、マーロン殿、商談の帰りですか?しかしこれはまた大きなワイルドボアですね。」
馬車の上のワイルドボアを見上げながら聞いてくる。
「ああ、やっと帰って来れたよ。ワイルドボアは私のものではないがね。」
「それはお疲れ様です。ワイルドボアはそちらの方の?」
俺に視線を移しながらマーロンに質問をした。
「ああ、そうだ。彼は私の商談の相手のアリヒト殿だ、身元はわたしが保証しよう。」
マーロンは門番に対して微笑みで返した。
俺は何も言わずお澄まし顔で成り行きを見守る事にした。
門番はじっと俺を見つめてきて直ぐにマーロンへと視線を戻す。
「そうでしたか、それは大変失礼致しました。ようこそ、バーレリア王国の王都レリテアへ。」
門番は誇らしそうに少し演技掛かった口調で歓迎の言葉を口にした後右手を門の方へ向けた。
同時に馬車がゆっくりと進み出し王都の中へと入っていった。
馬車の中で、マーロンに謝罪をされたが、正直に言って逆に助かった。
身分証が無ければ詰所に連れて行かれ下手をすると半日はどこにも移動出来ない可能性があったらしい。
危なかった。
これはマーロンの機転のおかげで本当に助かった。
しかし、マーロン商会はかなりの大きさだった。あれは王都でも1、2を争う大きさではないだろうか?
周辺の店や住居を威圧するかの様な西洋建築物が所狭しと聳え立っていた。
帰り際、ここまで送り届けてくれた代金を依頼料として支払いたいと申し出てくれたのだが流石に30枚も金貨を貰った後だったし、それに距離も近いので申し訳ないと、丁重に断りを入れたのだが、ならばせめてお礼にワイルドボアの解体をと言ってくれた。
何度も断るのはさすがに気が引けたので、自分たちの食べる分だけは持って帰り残りは置いて帰ると言ったのだが、それならば金貨1枚で買い取ると言われたのだ。
何とか交渉の末、銀貨10枚にしてもらった。50%offである。
それから砂糖の件でまた訪れる約束をしそのまま、商会を後にした。
マーロン商会からの帰り、俺はそう言えば始めて訪れた場所なのに何だか、盗賊騒ぎだったり、砂糖の話しだったりでバタバタし過ぎてゆっくり見て回っていない事に気がついた。
(折角のファンタジーで異世界なんだ、すぐ帰るのは正直勿体無いよなー身分証は作るにしても後にしてちょっと色々見てみるかな!)
少し商会から歩いていると屋台が結構立ち並ぶ場所が見え、何だかいい匂いが漂ってきた。
(へぇー何かいい匂いがするな?ちょっと見てみるかな?)
異世界に来た日本人は高確率で屋台で串焼きを食べている気がする…
「こんにちは、おじさんこれ何?」
俺は何の肉か気になったので屋台の筋肉がムキムキのおっさんに聞いて見る事にした。
(あ、俺もおっさんでした…)
「あ、いらっしゃい、おじさんってアンタ幾つだ?」
おっさんは軽く睨みながら言ってきた。
「え?俺32ですけど?」
(おじさん呼ばわりが気に障ったようだ、うん、俺も同じだからよく分かるよ…)
「は?」
おっさんは驚いた顔をした。
「いや、だから32ですけど?それがどうしました?」
俺は首を傾げながら聞いてみた。
「………………………9だ」
おっさんが小声で呟いている
「はい?」
「だかr…………………じ…9だ。」
俺がよく聞こえないので首を傾げていると急に怒鳴られた。
「だから俺は19だっつってんだよ!!!」
「えぇぇぇぇ!嘘だ!」
つい心の声が漏れた。
「何なんだテメェーはよ?あ゛っ?てめぇ〜は20代にしか見えねぇのによ!大体おっさんはテメェ〜じゃねーかよ!ハァ〜ハァ〜!!」
顔を真っ赤にしてめちゃくちゃ怒り出した。
「この理不尽さテメェーにわかんのか?あ゛?妹と歩いてて、お父さん強そうだねって妹の友達に言われる苦しさお前に分かるのか!!ぐぎぎぎぎっ!」
「あ、いや、すいませんでした…」
「俺は謝れなんて言ってねーんだよ!お前に分かるかって聞いてんだよ!!」
『バンッ』と自分の前の屋台の台を叩いた。
「あ、いや、わかんないっす、まじすんませんっした!!」
(おっさんは俺だけでした、しかも異世界ヤクザでした、この子)
10分くらい怒られてから何とか屋台のお兄さんが落ち着いてきたので妹の話を振ってみた、案の定シスコンで妹を褒めまくったら急に機嫌が良くなって色々と教えてもらえた。うん、チョロイン。
商人ギルドの場所、冒険者ギルドの場所、武器屋、防具屋、ポーションなんかも売ってるらしい。
勿論串焼きは買った。ちなみにカエルの肉だった。
正直あんまり美味しくは無かった。泥臭かった。
価格は銅貨2枚で1本だそうだ。串焼き5本を購入して銀貨で支払ったらお釣りが銅貨40枚だった。
これで貨幣の事が大分わかった。
銅貨50枚→銀貨1枚
銀貨20枚→金貨1枚
金貨より上は存在しているのだろうか?
ちなみに日本円に換算して見ると…
串焼き1本結構大きかったので200円と換算するとして
銅貨1枚→100円
銀貨1枚→5000円
金貨1枚→100000円
(マーロンさん、滅茶苦茶色つけてくれてんじゃないのか?大体あの護衛、こんなに高いの?弱かったんだが……)
色々と考えながら俺は身分証を手に入れる為に迷いながらさっき教えてもらった商人ギルドへと向かうことにした。
残念ながらネコ耳には会えなかった。




