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第3話 終了する男


終わった。いや、生放送の出番が終わったこともそうだが、もう何もかもが終わった。


そう。俺、柳楽雄大の人生がついさっき、完全に終了した...。


伝説だ。ある意味、伝説の放送事故だ。これ...。


一体、どれだけのお茶の間の人に、朝から番組のチャンネルを変えられてしまったことだろう。


これは、過去最低の視聴率を記録した可能性まである。


そう。本当に全てがうまくいかなかった。


もう全てが今さらでしかないが、我儘を通してでも、俺が朝の生放送なんて出るべきではなかった。出てはいけなかったんだ...。


今、俺、柳楽雄大は楽屋で一人、マネージャーが部屋に戻ってくるのを待っている。

座っているソファの前の机の上には、ケータリングだろうか。高級ホテルで出てきそうなサンドイッチが置かれているが、全く持って食欲が湧かない。


現に、マネージャーの桐谷さんが番組のプロデューサーさんに呼ばれたと別れてから、一向に戻ってくる気配がない。おそらく、いや、確実に俺のせいでこっぴどく...


「......」


これはもう、あれだな...。


俺の悪役俳優としてのキャリアは完全に詰みだ。ついさっきの生放送で修復不可能なレベルまで崩れ落ちてしまったことは誰が見ても明白だ。


まず、ダンス...。

踊るつもりなんて、毛頭なかった。あのコーナーが始まるまではそれなりにクールでいい雰囲気は出せていたと思う。その流れで踊らずにうやむやに処理できるはずだった。それがだ...。いや、あそこで一緒に子供が出てくるのは違うだろう...。


そう。いきなり、コーナーとともに派手な高校生のギャル数人が登場。あの子らエネルギーがおかしい...。相手がこの俺でも、もはや誰が相手でもお構いなしだもんな。グイグイすぎるだろ...。どんなメンタルしてんだよ。


結果、気が付けば、ギャルたちの踊るど真ん中で、SNSで今バズリまくっていると言われているダンスを思いっきり踊らされている俺がいた...。もちろん、ダンスは全く得意ではないし、当然、身体は思い通りには動かない。


そして、最後のハートのキメポーズとともに、周りに目を向ければ、スタジオは歓声....ではなく、失笑の嵐...。


あの女子アナの野郎なんて...あまりにも見ていられない光景すぎたのか、生放送にも関わらず、カメラに向かって背中を向けてやがった。


俺も、もう30だ。当然、今まで散々、苦い思いもしてきたが、ここまで苦虫を嚙み潰したような思いをさせられたのは始めてだと思う。それもこんな大事な時に...。

本当に終わりだ...。


そして、懸念していたスイーツパフェの食べ比べのコーナーもだ。

何だかんだで甘いものは苦手だと言って、食べるつもりなんてなかった。

それが、本当にふざけやがって...。シェフを...パフェを作ったシェフをスタジオに連れてくるなよ。それも何人も...。


そんなの、食べて美味しいって言うしか選択肢がないだろうが。


しかもだ。その前のコーナーで一緒に踊ったギャルがまたいきなり出てきて、俺にめちゃくちゃパフェをスプーンで強引に食べさせてくる始末。

しかも、次々とギャルが各々にスプーンを俺の口に出してくるもんだから、色々とずれて、俺の顔面は途中からクリームだらけで、らしくもなく俺の口からは下手なツッコミを連発。


そう。まさに地獄絵図。


他にも、元々出演する予定だったあのアイドル俳優がする予定だったことを次々とやらされ、そのたびに俺はスタジオの失笑を巻き起こしてしまう始末...。


「.....」


いや、別に、このやらかしがプライベートでの俺なら全く問題はない。ただ、俳優、柳楽雄大としてこの状況になるのは絶対に回避しなければならなかったんだ...。


「......」


駄目だ。本当に涙が出てきた。


この顔のせいで、これまで何をやってもうまく行かなかった俺が、唯一見つけることのできた道。悪役俳優の道が、こんなにもあっけなく、あんな週刊誌ひとつを皮切りにここまで簡単に崩れ落ちるなんて、少し前まで考えもしていなかったから...。


俺だって、初めからこの道に進んだわけではない。若い頃は分不相応にも可能であればもっと観衆から人気を集める正統派俳優になって人気者になりたかった時期もあった...。もっとコメディチックに色んなタレントさんや芸人さんと絡んで人気者になりたいと思った頃もあった。


でも、全てが全て、そっち方面では鳴かず飛ばず...。全く芽が出なかった。そして、ようやく見つけたこの悪役の道。自分で言うのもなんだが、この道を究めるために寝ても覚めても演技について考える過酷な日々を送ってきた。恋愛等にも現は抜かさず、ただただ必死に頑張ってきた。そして、ようやく今のポジションにたどり着いた自負はあるし、さらにこれからも上に上がっていくつもりしかなかった...。


それが、こんなにも、こんなにもあっさり...。


もう、終わりだ。俺は学もないし、今さら一般の仕事なんてできっこない。


そう。人生終わりだ...。


「......」


そして、そんなことを考えていると、楽屋の外からはこの部屋に向かって誰かが走ってくる足音が聞こえてくる。


この走り方は、おそらく桐谷マネージャーの足音だろう...。


「.....」


そう。もうわかっている。この部屋のドアが開いた瞬間、俺に色んな意味での死刑宣告が下されることになることは...


終わりだな。俺の芸能生活...。



ガチャ!!



「柳楽さん!!!高崎 華アナウンサーとの箱根二人旅ロケ決まりました!!!」


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