第21話 新体制、始動する
「昨日は本当に申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!!」
何だろう...。
今、俺、柳楽 雄大の座ったテーブルの上には山盛りの高級なお菓子やデザート。
それも、俺が特に好きな種類のものばかり。
そして、視線を少し下に向けると、そこには全力で俺に向かって土下座をかましている一人の女性。
「......」
そう。彼女の名前は桐谷 紗弥加。俺のマネージャー...。
「昨日は本当に申し訳ございませんでした!!!責任をとってこの会社を退職します。本当に、本当に申し訳ございませんでした!!!!」
清々しいほど完璧な土下座っぷり。
もちろん、俺が強要したわけではないことだけは言っておく。
今日、事務所に出勤して、部屋に入ると既にもうこの状態だ。
昨日...。
確かに、それはもう色々とあった。本当に色々と...。
それに、裏ではあんな週刊誌の第二弾まで...。
他にも色々とわかったり...。
そう。俺の人生はもう完全に終わった。
と、思っていた...。
思っていたが、あの生放送の後、すぐに俺は社長から事務所に来るように呼ばれた。
そして、まさかの臨時ボーナスの話が出たのたが、俺の知っている今までのボーナスの額よりも0がひとつ多かったため、追いドッキリかと身構えたことは記憶に新しい。
ただ、今朝に確認すると確かにその金額が俺の口座に振り込まれていた。さすがに、お金が振り込まれてから返せとはならないだろうから、これはドッキリではないことがわかって、割とそれはそれで驚いているところ。
しかも、俺にCMの話が続々と舞い込んでいるということもおっしゃっていた。
まぁ、そっちに関しては正直信じてはいないが...。
そう。ただ、何よりも、事務所のトップである社長が俺に言ってくださった、次のことが大きい。
今回の出来事での俺のイメージの損失分に関しては必ず穴埋めをすると。悪役俳優としてのお前を絶対に死なせはしない。と真っすぐな目で俺に社長が直々に誓ってくれたことが大きすぎる。
そして、実際に今日からこの桐谷さんに加えてもう一人、俺にやり手のマネージャーをつけてくれるそう。しかも、そのマネージャー、どうやら東大卒のエリートで、さらには他社でトップアイドルのマネジメント経験もあるらしい。
正直、かなり魅力的だ。ここまで力を入れてくださるのであれば、社長の言ってくれていることはおそらく本当だろう。信じていいはずだ。
「.....」
そして、トップアイドルと言えば、これもかなり驚いたな...。
爽やか王子の神宮司...。まさかの薬物所持により現行犯逮捕。
一応、釈放されたみたいではあるが、今朝のニュースでは彼が警視庁の前で喪服姿で涙を流して報道陣に土下座をしている姿が大々的に流されていた。
しかも、過去のパワハラ音声まで流出して...
「.....」
まぁ、それに比べれば今も俺の前で同じく土下座をしている彼女は全然悪くない。そもそも彼女もこれが仕事だったのだ。色々と葛藤もあったのだろう。別に怒ってもないし、退職することは決して責任をとることにならない。
「柳楽さんが望むのであれば、私の身も心も、全てを捧げることもやぶさかではございません。本当に申し訳ございませんでした」
そして、何か暴走してまた凄いことを言っているし...。
本当に、俺だからいいが、彼女は見た目もいいのだから、下手な相手にそんなことを言えば冗談が冗談ではなくなるぞ...。
あと、何だ。その土下座をしながら、俺の反応をチラチラと上目遣いで確認するように見る仕草は...。いや、可愛いけれども...。
「いや、別に怒ってないからもう土下座なんて止めてくれ。むしろ、辞めたら怒る」
そう。辞める必要なんてない。
すると、彼女の深刻そうにしていた表情が、ぱーっとした笑顔に即座に変わり、俺の目の前にまるで機嫌のいい時の子犬のように近づいてくる。
「.....」
あれ、こいつ。許されること前提で謝っていた?
そして、その満面の笑顔で今度は一体何を言うつもりなのかと思っていると....
「ありがとうございます。まだ私、柳楽さんと一緒にいられるようで嬉しいです。それでですね。早速ですが今度は良い報告が一つありまして...」
良い報告...。一体、何だ。
「実は今度は柳楽さんに本当に海外からのオファーが来ているんですよ。しかも、あのスピムバーグ監督からのオファーです!!!それも、主役級です!!!これは本当に凄いことですよ柳楽さん!!!」
あぁ、凄いな。凄すぎるな。いや、スピムバーグではなく、君のメンタルが。
「しかも、あの世界的大女優のキャメロン・セイフライドも出演するみたいですよ!!」
おお、設定も爆盛りしてきたな...。
今、彼女の口から出てきた女優、キャメロン・セイフライドとはアメリカの大人気女優。歳は確か、27ぐらいだったか。
その洗練されたスタイルと美貌もさることながら、その圧倒的な演技力と存在感から、若くしてアカデミー主演女優賞 を昨年に受賞した超実力派。彼女が出演するドラマや映画は大ヒット間違いなしと言われており、日本にも彼女のファンはかなり多い。
まぁ、肝心のアカデミー賞の授賞式に現れなかったり、自分の興味の湧かない作品にはどんなに有名な監督からのオファーにもクビを盾を振らないという、中々に大胆なドSエピソードの逸話をもつ女優だ。
「......」
そして、ここに来ての全力土下座謝罪からの追いドッキリは本当にメンタルが強すぎるぞ、桐谷さん。
まぁ、当たり前だが、ドッキリなんてものはどうでもいいし、これも彼女は仕事で仕方なくやらされているのだろうと、俺は彼女に即座にこう言葉を返す。
「ああ、キャメロン・セイフライドが俺に直接オファーの話をここまでもって来るのなら、即OKかな。ハハ、そうでない場合は答えはNOだね」
そう。こんなドッキリにはもう構っていられないし、さすがにもう騙されない。
俺は同じことで二回も騙されるようなバカでは申し訳ないけどない。
「はい!私、頑張ります!!!」
そう言って、胸の前で両手をグーにするといった可愛らしい仕草をする桐谷さんではあるが、何を頑張るのだろう。まぁ、ありもしない話に深く考えるだけ無駄だな。
「.....」
そんなことよりもだ。ふと俺は昨日のことを思いだして彼女に質問をする。
「桐谷さんって、もしかして学生時代は陸上部だったりしたの?」
「はい、そうです。フフッ、こう見えても私、高校時代は400メートル走でインターハイに出たこともあるんですよ。だから結構、体力にも自信があるんです!って、あれ?でも、何でですか?」
「いや、別に...」
いや、君の昨日のあまりにも早い逃げ足を思い出したからだよ...。
でも、何だろう。よかったな。時代が時代なら、youtubeとかで可愛い陸上部選手を発見とか言って、走っている動画がSNSに晒されていたぞ。
「.....」
いや、もしかしてと思って、一応彼女の名前を検索して動画があるかを念の為の確認。
「.....」
う、うわ、ある...。
そう。数年前にあげられた大会の3分ほどの記録動画が俺の目には飛び込んでくる。
『【可愛さアイドル級!美人アスリート】女子400m 学生陸上』
というタイトルのサムネイルには高校時代の彼女の姿がしっかりと映っている光景。
そして、再生回数が...300万回再生。
凄いな。この子、凄いな...。
やっぱり、マネジメントする側より、マネジメントされる側の方が向いているんじゃないか?
これ、万が一俺が駄目になっても、逆に俺が彼女を...
コンコンッ
って、ああ、そうだ。もうこんな時間だ。
そう。今日から俺につく噂の敏腕マネージャーが到着したっぽい。
そして、静かに俺たちが今いる部屋の扉が開く。
おぉ...
すると、そこに姿を現したのは、高級そうなスーツや眼鏡が、そのスラリとした体躯にこれでもかと似合う、色々と雰囲気のある一人の男性。
その佇まいなどもかなり堂々としていて、言われなくともエリートの風格を彼からは、ひしひしと感じさせられてしまう。
そう。まさに仕事のできるインテリ系を体現したような男が目の前に。
これは凄い...。
社長、本当に俺のことを考えてくれて、こんなにも優秀そうな人を俺に...。凄い。輝いて見える。
ハハ、素直で頑張り屋の、体力と癒し系担当の少し天然な桐谷さん。そしてこの東大卒の頭脳派エリートが俺の脇を固める、この三人体制。
いや、これはお世辞抜きでバランスのとれた案外いいチームなのではないだろうか。
「......」
あれ? でも、この人、どこかで見たような気が...
「.....」
いや、気のせいだな。思い出せないし。
「どうも。初めまして、柳楽 雄大です」
「どうも、本日から柳楽様のマネージャーになる《《小泉》》です。よろしくお願いいたします。そして、こちら粗品ですがよろしければ...」
そう言って、俺と目の前の彼は固い握手。
本当に昨日の生放送が終わった時には、俺の人生も終わったと思っていたが、これは中々、悲観している場合ではないかもしれないな。
世界進出が消えたとはいえ、もしかすると、俺はこの人達となら以前よりもこれ...
何だろう...。少しやる気が出てきたぞ。




