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第20話 peace sign

A bright future awaits you just beyond that door.

このドアの向こうには、明るい未来が待っている


そう。実際、このドアの向こうのスタジオを抜けた打ち合わせの場所には、俺にドラマのオファーをだしてくれた有名監督、そしてプロデューサーなど、制作側の早々たる面々が腕を組みながら大手を振って待っている光景。


そこには他の共演者の面々もいて、俺は表情一つ変えずに用意された席にどっしりと座り、脚を組む。そして、後ろに立っているマネージャーに静かに自分の被っていた帽子を渡し、クールに英語で自己紹介。


「Hi, I'm yudai yagira. Nice to meet you.」


これは100回以上は自宅で練習した、世界進出に向けた完璧な悪役俳優式のオーラのある挨拶の流れ。そう。一流は媚びない。もちろん、サングラスも外さない。

そして、100回以上はこの練習をしたんだ。どんなことがあっても俺は動じることなんてないはずだった。


「.....」


なのに、なぜか俺、柳楽雄大は今、頭が真っ白になっている。


「.....」


駄目だ。本当に頭が真っ白になっている。


「.....」


ここはどこ。私は誰...。


「.....」


一体、なぜ。扉を開けて、いきなり大きなカメラをもった男が俺の前に立ちふさがっているのだろう...。


「.....」


そして、何故、後ろに立っているはずのマネージャー、桐谷さんが、今まさに全速力のトップスピードで、カメラの向こう側にあるスタジオの出口へと走り抜けていく姿が俺の目には映りこんでいるのだろう...。


あぁ、まるで運動会の徒競走を見ているかのようだ。あんなに一心不乱に走っている彼女の後ろ姿をこれまでに見たことがあっただろうか。


いや、ないけど...。速いな。

フォームも綺麗。


聞いたことないけど、陸上部とかだったのかなぁ...。


「.....」


そして、何よりも、カメラを持った男の横で、満面の笑顔で大きな看板を持っているこの男は誰なのだろう。


そこには大きな文字で『ドッキリ』と書かれている...?


あれ?ドッキリって...何だったっけ


あれ? そう言えば確か、この前にドッキリと言う言葉が目に入ったら、スーツの左ポケットに入ったオモチャのスマホを取り出して、地面に思いっきり叩きつけるみたいなことを俺は決めていたんだっけ?


そんなことを考えながら、俺は静かにポケットに手を突っ込んで底に入っていたものを顔の前に取り出してみる。


「.....」


まぁ、そうか。あくまでその決め事は以前の時のもので、今日は何も準備なんてしていなかったもんな...。


そう。今、俺の顔の前にある手の平には、小さな苺ミルク飴がひとつ...。


「.....」


わぁ...おいしいそう...。


とりあえず、よくわからないけれど、食べようかな。


そんなことを考えながら、俺はその飴を口に含み、舌でコロコロと転がしてみる。


「.....」


うん。甘いな...。


あれ、俺、本当に何してたんだっけ、何かよくわからないけれど、とりあえず、甘いなぁ...。


「や、柳楽さん。ほら、ドッキリ大成功ー!!!!!!!」


何だろう。看板を持った目の前の男が、口をパクパクと何かを喋っているみたいだが、何もかもがスローモーションに見えるこの状況は、一体何なのだろう。


気がつけば、その後ろにも何人か知っている顔のタレントさんの姿が見える?


「や、柳楽さん?ほら、ドッキリです。実は、リキッドマンの撮影はないんです!!!!」


あぁ、それにしても飴ちゃん。甘いなぁ。


「や、柳楽さん。それにしても最近の柳楽さんの好感度の怒涛の上昇は本当に凄いですね。特に女子高生からの人気などがそれはもう、うなぎ登りで凄いんですよ。ほんと羨ましいです」


やっぱり飴は苺ミルクだよなぁ...。

脳に甘さが染みわたる。


「や、柳楽さん?では、そんなファンの方たちに何か一言お願いします!」


何だろう。俺の目には、カメラの横でカンペに書いている文字を俺に必死に見せてくるディレクターさんのような人。えーっと、『生放送です。生放送!!!サングラスも外してください!』とカンペには書かれている様子...。


そして今、俺に何か一言とか聞こえてきたっけ。



「あー、生放送です。生放送です。サングラスを外してください」



とりあえず、俺はカンペの指示のままにサングラスを外して、そう言葉を口にするも、何だ。何でそんなにシーンとしている。

よくわからん。


まぁ、何でもいい。ラッキーだ。

ポケットにもう一つ飴が入っていたから、二つ目を俺は口に含む。


うん。おいしい。思わず頬が緩んで笑顔になるね。


飴ちゃん。おいしいです。


「.....」


まぁ、もう実際は俺の脳は全てを理解しているはず。理解しているからこそ、必死に拒絶をして、この飴ちゃんの甘さだけを脳に噛み締める。


あぁ、そういえば確か。昔に友達のケビンのマミーが言ってたっけ。


Even in times of crisis, smile and give a peace sign.Then the path will be opened.


そう。ピンチの時こそ、笑顔でピース。そうすれば道は自ずと開かれるからと。


へへ、飴ちゃんは甘いし、もうどうにでもなれ...。


とりあえず、ピースだ。ピース。と俺は目の前にある大きなカメラに笑顔でピース。


「.....」


あぁ、甘いなぁ...。

やっぱり、苺とミルクの組み合わせは最強だ。



「.....」



――――そしてこの日、【飴顔ダブルピース】という言葉が、世間には爆誕。即座にトレンド入りを果たす。


その後、この【飴顔ダブルピース】が日本中の女子高校生や若手アイドルたちの間でSNSを通して流行り、今年の流行語大賞を受賞することを、この時の彼はまだ知らない。


そう。確かに道は開かれたのだ...。


日本を、そして世界の人々を笑顔の渦に巻き込む伝説の悪役俳優、柳楽 雄大の新たな伝説の始まりはこの日、確かに始まったのである。

続きが気になる、面白い。と思ってくださった方はぜひ、ブクマと評価で応援いただけるとありがたいです

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― 新着の感想 ―
個人的に。 彼の血糖値が心配だ。
往年のVシネマ俳優たち 彼らも役から離れれば好漢揃いだったという 安岡力也のホタテマンとか、普通なら受けないもんな
可愛い強面大好物です。 続き楽しみにしています。
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