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存在しない死  作者: ニノマエ マコト


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第7章 事実で編まれた嘘

目黒の会員制バーを後にした俺は、日付が変わる頃にようやく自宅へと帰り着いた。

鍵を閉め、靴を脱ぎ捨てたところで、これまで張り詰めていた緊張の糸がプツリと音を立てて切れた。

日曜の深夜にあの動画を見て以来、神崎リナの狂った計画の全貌を暴こうとフル回転していた脳がここに来て急激なシャットダウンを要求してきている。

俺は重いコートを脱ぐのももどかしく、着替える気力すら湧かないままベッドへと倒れ込んだ。

目を閉じた瞬間に意識が遠のき、外の車の音も、スマホの振動も届かない、完全な暗闇へと引きずり込まれていった。

目を覚ましたのは、朝の六時頃だった。

カーテンの隙間から、冬の白々とした光が差し込んでいる。

約六時間、一度も目を覚ますことなく眠り続けていた。

彼女の初めの投稿からずっと脳を焼くような極度の緊張状態が続いていたため、この数時間の深い睡眠が驚くほど身体に染み込んでいた。

ゆっくりと上半身を起こし、凝り固まった首を回す。

頭の奥を重く満たしていた霧のような疲れはすっきりと消え去っていたが、昨夜バーで聞いたリナの言葉と、あの不気味なメッセージの残響が、冷たい現実としてすぐに脳裏に蘇ってきた。

俺はベッドから這い出し、とりあえず浴室へと向かった。

服を脱ぎ捨て、熱めのシャワーを頭から浴びる。

肌を打つ湯の熱さが、感覚を無理やり現実の世界へと引き戻してくれた。

石鹸で顔を洗い、昨日から体にこびりついたままの泥臭い街の匂いと、焦燥感を洗い流す。

バスタオルで髪を乱暴に拭きながら洗面所を出て、清潔なスウェットに着替えた。

シャワーの熱で火照った体に冷たい空気がまとわりつくが、俺はあえて暖房のスイッチは入れず、そのままデスクの前へと歩みを進めた。

部屋の空気は氷のように冷え切っている。

だが、思考を極限まで論理的な領域に留めておくためには、今は肉体的な寒さという現実の感覚がちょうど良かった。

ノートパソコンを起動し、青白い光を顔に浴びながら、俺はデスクの上に広げた書類に目を落とした。

テーブルの上には、亀井から手に入れた長谷川由香の経歴書のコピーだけが置かれている。

長谷川由香は六年前に社会から孤立し、手配師によってその孤独死を隠蔽され、生きた戸籍という書類上の器として維持されていた。

彼女は二千万円でその器を買い取り、炎上という煙幕を利用して自分の世間的な身分をすべて放棄し、死者の戸籍へと乗り移った。

他人の人生の抜け殻が、たった二千万円。

俺はその薄っぺらい紙の束を見つめながら、ひどく冷たい現実に息を呑んでいた。

百五十万人もの視線を常に浴び続け、何を食べ、どこへ行き、どんな服を着ているのか、自分の生活すべてを切り売りして消費され続けてきた神崎リナ。

彼女にとってはこの長谷川由香という「誰の記憶にも残っていない空白」は、何よりも欲しい究極の自由だったに違いない。

彼女は自分が稼いだ大金も名声も全部捨てて、この透明な入れ物を手に入れた。

誰の目にも触れない、ただの風景になるために。

そのためなら、自分の今までの人生すべてを嘘と炎上でめちゃくちゃにして終わらせることも平気だった。

事実の連鎖は繋がっている。

だが、俺の思考の根底には一つの拭い去れない違和感が沈殿していた。

俺がこの数日間で辿ってきた情報のルートだ。

木崎という独自のルートを使い、亀井を脅し戸籍の裏取引を突き止めたのは、間違いなく俺自身の力だ。

そこには誰も介入できない。

だが、俺をその調査へと向かわせた最初の違和感はどうだ。

死後の時刻に直接送りつけられたメッセージ。

そして、俺が執念で探し当てたと錯覚していたあの会員制バーの画像。

あれは本当に、偶然の発見だったのか。

もし彼女が、意図的に裏側を嗅ぎ回る人間のための罠を残していたとしたらどうだろうか。

彼女は自分の死を大衆に信じ込ませる一方で、特定の条件を持つ人間だけが、彼女の生存という真実に辿り着けるように道筋を設計しているのではないか。

特定の条件。

それは、世間の持つ分かりやすい悪を叩きたいという熱狂から一歩引き、情報の裏側にある仕組みの実態を解体しようとする執着だ。

俺はノートパソコンのローカルフォルダの奥底から、五年前に暗号化して封印した一つのテキストファイルを開いた。

ファイル名は「佐々木信一に関する調査記録」。

五年前に俺自身が引き起こし、一人の人間の社会的生命を完全に絶ったあの忌まわしい事件の全記録だ。

感情を排除し、事実関係だけを整理する。

五年前、俺は都内の小さなウェブメディアでフリーの調査ライターとして活動していた。

当時の主な業務は、ネット上で話題になっている炎上案件の裏付けを取り、それをさらに燃え上がらせるような追加の燃料(記事)を投下してページビューを稼ぐことだった。

ターゲットとなった佐々木信一は、地方都市で児童向けの学習支援NPO法人を運営する四十五歳の男性だった。

発端は、彼が運営するNPO法人の元スタッフを名乗る匿名アカウントからの、一件のSNS投稿だった。そこには「佐々木代表が寄付金を私的に流用し、夜の街で豪遊している」という告発文とともに、佐々木が高級クラブから出てくる不鮮明な写真が添付されていた。

告発ツイートは瞬く間に拡散され、佐々木への批判が殺到した。

当時の俺は編集長からの指示を受け、この炎上に便乗して佐々木の周辺調査を開始した。

俺が設定した記事の仮説は、「地方の善意を食い物にしている悪徳NPO代表の裏の顔」という、ネット大衆が最も好む分かりやすい勧善懲悪の構図だった。

あの頃の俺は、自分が叩くキーボードがどれほど恐ろしい凶器になるか、まったくわかっていなかった。

記事を書く時、俺はわざと強い言葉を選んで並べた。

「あやしい」ではなく「裏の顔」。

「使い道がわからない」ではなく「お金を流用した」。

読者が冷静に考える隙を与えず、ただ怒りをぶつけたくなるように、パズルを組み立てるみたいに記事を作った。

俺は世間の悪を暴く立派なライターのつもりでいたが、本当はネットの連中が面白半分で叩けるおもちゃを用意してやっただけだ。

記事を出すたびにアクセス数が跳ね上がり、自分の書いた文章が世間を騒がせて、見ず知らずの男を追い詰めていく。

その過程が、当時の俺にはゲームみたいで、嫌になるくらい気持ちよかったのだ。

例えば、彼が夜の歓楽街を歩いている一枚の写真。

ただ道に迷っていただけでも、あるいは誰かの相談に乗るためにそこへ行っただけでも俺が「夜の街で豪遊」という見出しをつければ読者にはもうそれにしか見えなくなる。

借金の記録だってそうだ。

親の保証人になって被っただけの借金でも、「不透明なお金の流れ」という言葉とセットにすれば、まるで寄付金を盗んで借金返済に当てているような最悪のストーリーが完成する。

パソコンの画面の向こうには、生身の人間がいる、家族がいて、守りたい生活がある。

でも、当時の俺にはそれがただの「数字」や「ネタ」にしか見えていなかった。

ネットの海に一滴の毒を垂らせばあとは顔のない群衆が勝手にそれを広げ、相手が息絶えるまで石を投げ続けてくれる。

俺は安全な場所から、その石が当たる音を聞いて楽しんでいるだけの最低な人間だった。

佐々木の過去のSNS投稿、法人の決算報告書、そして彼が住む街の歓楽街での聞き込みを行った。

事実として集まった情報はこうだ。

1 佐々木が月に一度、歓楽街にある特定の飲食店に出入りしていたこと。

2 NPO法人の決算において、使途が不明確な「事業推進費」が年間約二百万円計上されていたこと。

3 佐々木が過去に、個人的な借金による自己破産歴を持っていたこと。

これらの事実は、それぞれ独立した事象だった。

後になって判明した本当の因果関係はこうだ。

佐々木が出入りしていたのは、シングルマザーとして働く女性たちの生活相談に乗るための活動の一環であり、彼自身は酒を一滴も飲んでいなかった。

事業推進費は、家庭環境に問題のある子供たちを一時的に保護するための緊急シェルターの家賃や食費であり、プライバシー保護の観点から詳細な明細を伏せていただけだった。

自己破産歴は十年前の親の連帯保証人になった結果であり、現在の法人の資金繰りとは何の関係もなかった。

だが、当時の俺はこれらの事実を、自分が設定した「悪役の仮説」に合わせて組み立て直した。

「自己破産歴のある代表が、不透明な事業推進費を流用し、歓楽街に出入りしている」

個別の事実と事実を、悪意という糸で縫い合わせたのだ。嘘は一切書いていない。

それが、当時の俺が自分自身を守るための絶対的な言い訳だった。

俺は嘘をついていない。本当のことだけを書いた。

それを読んでどう思うかは読者の勝手だし、俺に責任はない。

ずっとそうやって自分に言い聞かせてきた。

だが、そんなものはただの逃げだった。

本当のことでも、並べ方や切り取り方を変えれば、いくらでも真っ黒な嘘を作ることができる。

見えないところで都合よく情報を並べ替えることこそが一番タチの悪い嘘のつき方なんだと、今の俺ならはっきりとわかる。

しかし当時の俺は、本当の出来事をパズルのように並べ替え、都合よく話をくっつけることで現実とはまったく違う「存在しない真実」を作り上げた。

そして俺はそんな筋書きで記事を書き、世間に晒した。

結果は凄まじかった。

記事は一日で三百万ページビューを記録し、佐々木のNPO法人には全国から抗議の電話が殺到した。

SNS上では、俺の記事が「決定的な証拠」として扱われ、佐々木に対する人格攻撃が加速した。

彼が自身のブログで出した詳細な反論や、帳簿の公開といった事実の提示は、大衆の怒りの濁流に完全に飲み込まれた。

ネットの群衆は、真実が知りたいわけではなかった。

自分たちが振りかざす正義の対象として、反撃してこない生け贄を求めていただけであり、俺の記事はその欲求に法的な裏付けを与えたに過ぎなかった。

記事公開から二週間後、協賛企業はすべて撤退し、NPO法人は活動停止に追い込まれた。

そして一ヶ月後、佐々木信一は自らの団体が借りていたシェルターの一室で、首を吊って自殺した。

遺書には「私が存在している限り、この団体は世間から許されない。私が消えることで、子供たちの居場所だけは残してほしい」と書かれていたという。

そのニュースをスマホの小さな画面で見た時の、あの急激に足元が崩れ落ちるような感覚を俺は今でもはっきりと覚えている。

俺の部屋は今と同じように薄暗く換気扇の音だけが響いていた。

画面の中では、俺が作り上げた「悪党」という嘘の姿が、一人の生身の人間を本物の死へと追い詰めていた。

俺の書いた文字が見えないロープになって佐々木の首に巻き付いたんだ。

佐々木が死んだという第一報が入った日のことを、俺は一生忘れない。

編集長は俺のデスクにやってきて、ニヤニヤ笑いながら俺の肩を叩いて言った。

「すごい反響だな。お前が書いた記事のおかげで、うちのサイトのアクセス数が過去最高になったぞ。よくやった」

人が一人、自分で首をくくって死んだというのに。

彼が守りたかった子供たちの居場所がめちゃくちゃにされたというのに。

俺の周りにいた人間たちは、まるで昨日のテレビドラマの結末を話すような軽いテンションで佐々木の死を消費していた。

俺はトイレに駆け込み、胃の中身を全部吐き出した。

自分がどれだけ取り返しのつかないことをしてしまったのか、その時になってようやく気づいた。

だが、もう遅かった。

ネットの連中も同じだ、彼らは「自分が正義の鉄槌を下したせいで人が死んだ」なんて絶対に認めない。

「死ぬってことは、やっぱり横領は本当だったんだ」「罪から逃げるために死んだんだ」と、さらに都合のいい嘘を作って自分たちを正当化した。

誰も悪くない。

みんなで少しずつ石を投げただけだ。

そんな狂った言い訳が、ネットの世界では平気でまかり通っていた。

俺は直接手を下したわけでも、「死ね」と書いたわけでもない俺の手は物理的には綺麗なままだったが、その見えない血の感触は、五年経った今でもこの両手にべったりとこびりついている。

佐々木信一の死は数日間だけネットニュースで消費され、すぐに誰も言及しなくなった。大衆は次の炎上対象を見つけ、正義の執行という娯楽に移動していったからだ。

俺はその時、初めて理解した。

現代社会において、人間の存在とは物理的な肉体のことではない。他者からの「認識の総体」こそが、その人間の存在そのものなのだと。

佐々木信一という本物の人間は、大衆の認識の中で「寄付金を横領する悪党」という虚像に完全に上書きされた。現実の彼がどれほど声を上げても、他者の認識が作り上げた巨大な思い込みの渦の中では彼はすでに悪党として完成しており、それ以外の存在を許されなかった。

社会的死とは、物理的な命を絶たれることではない。

他者の認識によって、自分という存在の定義を完全に他人に奪われることだ。

ネットの世界では、本人がどれだけ「違う」と否定し叫んでも多数決で決まった物語が絶対的な現実になってしまう。

佐々木はお金を盗む悪党になり、木島は元カノを殺した凶悪なストーカーになり、神崎リナは可哀想な被害者になる。

本当かどうかなんて事実は関係ない。

世間がそれを信じて、そう思い込んだ瞬間にその人間の本当の姿は完全に消え去ってしまうのだ。

人間は、他人の頭の中にある思い込みの中でしか生きられない。

だからこそ、その思い込みを上手く操ることができれば生きたまま人間を殺すことも、死んだ人間を生き返らせることもできる。

今、ネットの世界でサンドバッグにされている木島もそうだ。

彼が本当はどんな人間で、リナとどんな別れ方をしたのかなんてもう誰も気にしていない。

世間が求めているのは、「人気インフルエンサーを殺した最悪の元カレ」というキャラクターだけだ。

彼がどれだけ無実であっても、一度そのレッテルを貼られれば、現実の社会ではもうまともに生きていくことはできない。

アパートを特定され、仕事をクビになり、親兄弟まで晒し者にされる。

彼女は、自分が消えるための目くらましとして、かつて愛したはずの男をその地獄のど真ん中に放り込んだ。俺が佐々木にしたことと、彼女が木島にしていることはやっぱり同じだ。

彼女は、その恐ろしい仕組みを誰よりも深く理解して、逆に利用したんだ。

俺はパソコンの画面を閉じ、暗い部屋の中で深く息を吐き出した。

神崎リナの現在進行形の事件と、五年前に俺が佐々木信一に行ったこと。

この二つは、情報を使って誰を消そうとしたかが逆なだけで、やっている仕組みは完全に同じだ。

彼女は、自分自身を悲劇のヒロインに仕立て上げ、木島という元恋人を悪役に設定することで自らを社会から抹殺した。

俺は他人の認識を操ることで他者を殺したが、彼女は他人の認識を操ることで自分自身を殺した。

彼女の緻密な情報設計を振り返る。

不自然なほど手ブレの少ない暴行動画。

マネージャーである高橋の曖昧な証言。「彼女はもういない感じがする」という、死を断定しない巧妙な言葉選び。

大企業の異常に早い契約打ち切り。

これらはすべて、大衆が自発的に「神崎リナは死んだ」「木島が殺した」という結論に辿り着くように計算された、完璧な筋書きだ。

彼女は、人間がどのような情報に対して最も強く反応し、どのように論理を飛躍させて事実を確定させるかを熟知している。

それはまさに、俺が五年前に佐々木を追い詰めた時に使った手法そのものだ。

だからこそ、彼女は俺を選んだのではないか。

あの時、ネットの海に沈んだ彼女の裏アカウントの画像。会員制のバーを特定する決定的なヒント。

彼女は、情報を額面通りに受け取らず、事実の裏側にある「意図的な配置」に気づく人間がいることを想定していた。

完璧犯罪をやり遂げた犯人が、誰かに自分の作品を見せびらかしたくなるような、どうしようもない人間の弱さ。彼女は、恐ろしいほど頭が切れて冷酷な化け物だけど、その心の奥底には「誰かに自分の本当の姿を見届けてほしい」という、泣き叫ぶような孤独があるようにも思う。

百五十万人の大衆は、彼女が用意した分かりやすい嘘の物語に踊らされているだけの、ただの観客だ。

彼女の本当の狙いを、そして彼女が社会から消え去るその最後の瞬間を、一番近くで見届ける役割を押し付けられたのは俺だけか。

スマートフォンを取り出し、昨夜のメッセージの画面を再度表示する。

『もうすぐ、完成だよ』

この「完成」は、長谷川由香という戸籍への移行完了だけを意味しているのではない。

彼女の社会的死の道のりが、観客である俺の認識に到達することをもって、初めて完成するということだ。

存在とは他者認識の総体である。

彼女が神崎リナという存在を完全に消去し、長谷川由香という空白になるためには、彼女の死を信じて疑わない百五十万人の大衆だけではなく、彼女の嘘を見破ったただ一人の人間に「神崎リナはこの世界から完全に消えた」と認識させ、納得させる必要がある。俺という観客の敗北をもって彼女の現実の書き換えは完成するのだ。

仮説が一つに繋がった。

彼女の目的は単なる逃亡ではないように思える。

自分という存在そのものを消し去る自殺と、新たな存在の創造。

そして、その計画に深く関わっているだろう協力者の存在。

協力者おそらく、彼女のこの歪んだ思想の全貌までは理解していないのかもしれない。

大企業のスポンサーと億単位のお金の話をつけ、亀井のような裏社会の人間から戸籍を買い、マンションの完璧な退去手続きを終わらせる。

これらすべてを、一切の証拠を残さずに同時進行で進めるなんて、普通の裏方仕事のレベルじゃない。

彼がどこでそんなやり方を身につけたのか。

なぜ神崎リナという一人のタレントの狂った計画に、自分の人生を懸けてまで関わっているのか。

彼と彼女を繋ぐ何か決定的な理由があるはずだ。

協力者の正体を暴くことができれば長谷川由香として生まれ変わった彼女の今の居場所に必ず繋がる。

俺は時計を見た。午前八時。

外はもうすっかり明るくなり、通勤客たちが足早に駅へと向かう時間だ。

シャワーを浴びてから二時間近く、俺は冷え切ったデスクの前で過去の亡霊と睨み合っていたことになる。

だが、そのおかげで迷いは完全に消え去った。

俺の過去のトラウマすらも計算に入れて俺を盤上に乗せた彼女の知能に、俺自身の論理と執念で反撃する。

俺はコートを羽織り、亀井から手に入れた書類をカバンに詰め込んだ。

向かう先は、高橋が所属する株式会社フリークプロダクションのオフィスだ。

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