67 傭兵と狐、戦場へ
裏で見つけたものはガライアに任せ、徒歩で森から戻るウォルター。相変わらず場は荒れているが、ウォルターからすれば最早ここは戦場ではない。
首や肩の骨を鳴らし、双刀を鞘に納めて呟く。
「後は、大将の出方を待つかぁ。そんなに時間も掛からねぇで来んだろぉ」
そう呟きながら、防護拠点となった馬車までやって来ると、キックスが潜り抜けた隙間の付近で座り、馬車に背を預けて休み始めた。
未だ剣激が激しいこの場で休み出した男を訝しげる物は少なくない。だが、ある一定の距離まで近付くと、どうにも嫌な予感が胸に広がりその周辺だけは奇妙な空間が生まれたのである。
敵の拠点であり、最終目標のはずなのだが、どうしても二の足を踏んでしまう。
あからさまな隙を見せた獣は、そんな状況を知ったことかと言わんばかりに、小さく欠伸をすると、無視を決め込んだ。
「ウォルター殿! いったい何をしているのですか!」
だが、唯一にしてその空間に土足で踏み込む者もいた。
隙間から、ひょっこりと顔を出した黒髪ポニーテールのキックスである。
ウォルターは、片目を開けてそれを確認し、片手をひらつかせてこたえる。
「こんな遊び場はよぉ? もう戦場じゃあねぇんだよなぁあ」
言うに事欠いて戦場ではないときた。未だに凶刃が振り回される現状を遊び場だと言い放つウォルター。
だが、納得のいかないキックスの視線に、舌打ち一つ打ちこたえた。
「クエストのとっつぁんが白ならぁ、あれぁ一人で充分だろうがよおぅ? 更には梟とお前が監視してんだぞぉ。俺ぇああ、必要ねぇだろうがよぅ」
「何を言ってるのですか! 賊はまだ活動してるのですよ!」
「ああぁ、もうっ! うるせえうるせぇ!!」
キックスの怒鳴り声にウォルターは両耳を塞いで頭を振り、深いため息をついたあと、気だるげにキックスへとつたえた。
「こんな状況ならよぉ、大将が気張ってここに向かってんだぁろうからよぉ? 今更なんだよぉ今更ぁ」
「確かにグラン=エクシブとココさんなら、後続に指示しつつ単騎で向かってきそうですが……」
最後尾であった総大将だが、これだけの異変に気付かぬ筈もなく行動を起こしていてもおかしくはない。間にはアイシスやワイアットと言う経験豊富な傭兵たちがいるのだ。寧ろ各々に任せてこちらを目指しているであろう予測はつくが……。
「とは言え、だからと言って動かないのは――」
「周りをよく見ろや、どう見たってこっちがひっくり返るほどのこたぁねぇだろうがよお。それに、どうせ大将が来たら終わりだからよぉ? ゆっくり休んで待ってんのさぁ」
纏った雰囲気が変わり、キックスは自分の腕に鳥肌が立つのを感じた。
ウォルターはぺろりと唇を舌で濡らしてにやりと笑いつづけて言う。
「ほんとおのぉ、戦場をよぉ?」
ウォルターの予想通り、エクシブたちの馬車は既に近場まで馬車が進んでいた。
響く撃鉄音、重なる風に乗った錆び臭い匂い。近付けば近付く程に、肌に感じるものは、慣れ親しんだとすら言える場所。
「どうするんよ?」
故に狐娘が開口一番に問うているのは、先の動作。短い問いにエクシブは少し考えつつも、目線を目的地から離さずこたえる。
「ウォルターが暴れてるには音が小さすぎる。既に一段落してるとみていい! ココ、お前は馬車から離れるな」
「ふむ、ウチは邪魔かよ?」
暗に力はいらないと言われ、ココは不満げにこたえるが、エクシブは変わらず続けた。
「今の状態では、おそらく過剰戦力だ。無駄に怯えさすよりは油断を誘った方がうまく転がるはずだ」
「ふむ、そういうもんかよ」
別に文句を言いたい訳ではないが、傭兵としてのエクシブの考え方を知っている身としては、いまいち腑に落ちないココ。それがわかっているが故に苦笑しつつこたえる。
「悪いが備えさせてくれ。支えがあるだけで、オレも動きやすくなるんだ」
そこまで言われれば下がらざるをえない。
静かに目線をエクシブから外し面前の道へと合わせた。
森を抜ける。
開けた場所にエクシブたちの馬車が、遂に辿り着いた。
今回の更新にて、現在の保存内容をすべて書き込んだ状況となります。
その為、少し更新に時間がかかります!
何とか頑張って更新したいと思いますので、お待ちいただけると幸いです。
社畜の合間ですが、がんばりますので……




