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65 傭兵、戦場を目指す

 借り受けたものだが、非常に賢い馬だった。

 ココが何の気なしに選んだと言う馬だったのだが、最早そんな言葉は信じていない。

 キックスはここまでの道すがら、何度も馬を降りては走らせ、影を潜めながら進んでいたのだが、そのたびに敵の気配が全くしない場所でキックスを待っていた。ただ安全なところにいるのではない、間違いなく待っている。自分で走ることを想定していたキックスにとって、これほどありがたいことはない。

 そしてそれだけではない。とにかく早いのだ。まるで風の様に疾走するこの馬の能力は馬車を引くためのものとは明らかに違った。

 本来であればもっと進みが遅くなるはずのキックスにジャンクが追いつけない理由でもある。


 疲れ知らずと言わんばかりに走る馬に身を任せ、単騎での進行を続けたキックスだが、すん、と鼻を鳴らし微かな刺激があることに気付いた。


「火事? いえ、これは……」


 微かに混ざる焼けた匂いに目線を変えると、木々の間を立ち上る細い煙柱。


「狼煙っ!? でも」


 何らかの連絡であろうそれは、先への不安だけをひたすらに煽った。

 何故ならば、あれは──。


「うちのものじゃない!」


 キックスの心情を読み取ってか、馬は更に加速を始めた。


 集合場所とも、目的地とも明らかに違う場所より上がる狼煙に舌打ちをしつつ、キックスは馬を走らせ続ける。

 

 突如森が終わり、やたらと開けた場所へとでたのである。そう、遂に辿り着いたのだ。


 ここからでも落ちていることがわかる大きな橋の名残、そして崖ぎしに広がる戦場。

 ワイアットのいた場所よりも激しさを増している。

 グルー付きの傭兵たちが馬車を円陣を組むように指示し、非戦闘員である商人を安全地帯に誘導している。


 そんな中、一際大声で騒ぐ様に暴れる一人の傭兵。キックスは目的の人物を見つけ、気を引き締め直した。


「はっはー! やってくれたなぁ! とっつぁんよぉ」


 気の抜けるような話し方で語るが、その身体能力によって生み出される剣戟は小さな嵐の如く。

 その剣の先で敵からも味方からも刃を向けられながら、すべてに対応するクエストは苦々しい顔で言葉を返す。


「わしにも何故こんなことになっているのかわからん! お主等も! 何故わしに斬りかかってくる?」


 多数混ざる岩窟王の部下に言うが、やはり誰からも返事は来ない。

 

「くそう、居るのは第三部隊以下の者ばかり! 一体何があったというのか!」


 あくまでも振り払うだけのクエストだが、すべてを信じるには色々と足りなすぎた。

 故にキャラバンの傭兵は手を弛めない。

 いや、弛めることが出来ないのだ。

 傭兵団でも実力はエクシブに次ぐ、もしくは同等の猛者。敵味方入り乱れての攻勢に未だ決定打が出ていないのがその証拠である。


「ははっ、巌窟王の右腕ぇ。立ち姿はまさに壁ってかぁ?」


 弾かれる乱撃に嫌な汗を背中に感じつつ、苦笑する。


「わしは今、グラン=エクシブの下にいる! 何故それを聞き分けん?」


 乱戦。これ以上に例えられる言葉はない。馬車の砦に走り出し、するりと内部へと侵入するキックス。まわりが驚嘆の声を上げるなか、一人その姿に安堵を浮かべた者がいた。グルーの娘セリアである。


「キックスさん!?」

「セリアさん、良かったご無事なようですね」


 埃や砂を被ったように薄汚れてはいるが、怪我などはしていない様子のセリアに、今度はキックスが安堵の息をつく番だった。

 だが、まだ終わりではない。


「グルー隊長はどちらに?」

「……ここだ」


 キックスの言葉に返される声。狭い空間の中ひしめく商人たちが左右に分かれていき、その先にグルーはいた。


「お前さんが来たってことは、こりゃあ想定外か?」


 キックスは小さく頷き続ける。


「アイシス隊長より、ガライア隊長にクエスト隊長の足止めと、グルー隊長の警護を言付かっています」


 ちらりと外を一瞥すると、クエストには数人の傭兵が張り付いており、思わぬところで足止めが成功している。

 しかし──。


「それでも足止めが精一杯か……」


 グラン=エクシブを凌ぐ膂力、岩窟王の右腕にしてその通り名は『不落城』。


「単騎乱戦の雄、ウォルター殿でも落とせない、か」


 隊長格でありながら単独行動を許された者。


 『暴風 ウォルター』


 嘗て不利な戦にしか参加しない傭兵団があった。


『生きること、それは戦い。より気高く生きるべし』


 そんな格言を謳い戦う者たち、傭兵団『吼え猛る竜』の構成員は少ない。されど、個人総てが規格外。


 戦場荒らし、乱入者、巨人殺し、国落とし、そして『暴風』。


 常に戦場を求めて自由に歩き、大国より常に狙われた者たち。

 故に、今や残る戦士は二人。ウォルターはその片割れである。





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