45 傭兵、面接をはじめる
結局朝を越え、昼過ぎまで続いた宴会。
寝床に戻ったエクシブはそのまま次の日まで眠り続け、ココは眠るエクシブに嫌みを言いつつも、女将との引き継ぎと、酒場での情報の裏取りに本店での売れ筋や先輩商人たちへの聞き込みへと一人で出かけ、カレナの元に泊まり今に至る。
未だ二日酔いのエクシブと、別段いつもと変わらないココ。
酒の席で酔ったグルーがやたらとちょっかいを出してくるもので、ココは思うように酒が飲めず、エクシブはやたらと呑まされたためこの有り様である。下手に呑めてしまうエクシブと、伊達にキャラバンの頭をしてはいないグルーとの相性が上手く噛み合ってしまった結果だ。
そんなあまりに対称的な二人は朝からある場所を目指し歩いていた。行き先は傭兵ギルド。
人集めをしていたダグラスから、早々に報せがきたのだ。
遠くはない距離を長旅の様に感じつつ、頭痛のせいで重くなった足を引きずりギルドの前にたどり着いたエクシブ。
わざわざそんな状態でも来たのは、最後の仕上げをするためである。
「おお、やっと来たか。依頼者より遅く来るとは随分な御身分だな、グラン=エクシブ」
意地悪そうな顔で言うダグラスに苦笑いで返しつつ、先に到着していたベルレット親子に謝罪する。
「先日はどうも。遅れて申し訳ありません。だいぶ待たせましたか?」
「いやいや、こちらこそ、久方ぶりに楽しい席だった。それに、さほど待ってはおらんよ。それにここでまわりを見ているのもなかなか面白かった」
「それならよかった。しかし──、ギルド長? まさかと思うが……」
周辺を見渡し問うエクシブに、ダグラスはにやりと笑い、両手を広げて伝えた。
「取り敢えず近辺の村や町にも声をかけて集まった数は、ざっと五十」
グルーの面白いとはこのことだ。ギルドに集まった様々な傭兵たち。
エクシブが知った顔もちらほらある。
ダグラスは続ける。
「一人辺りの依頼料は格安にしたが皆了解している。均等化し三十人つまり馬車一台に一人いけますぜ」
「まさか、本当か? あの金額だぞ!」
驚くエクシブにダグラスはその分厚い胸板をこれでもかと張りだし斜に構えてこたえた。
「はは、ギルド長をなめちゃいけませんぜ。さあ、選別は旦那の仕事だ」
あまりのことに呆然としたエクシブだったが、我に返り、改めて周りを一瞥したあと、こくりと頷きグルーを呼ぶ。
「顔も知らない者に警備させるのは不安でしょう。よろしければ」
「それはありがたい。ついでにグラン=エクシブの眼力も拝見させていただこう」
変に期待が混じるグルーの言葉に苦笑いで返し、エクシブは二人の娘に視線を合わせて問うた。
「ココにセリアさん、二人はどうする?」
問われた相棒は顎に人差し指をあて少し考えると、セリアを一瞥してからこたえる。
「それはぬしの仕事で、ウチにはウチの仕事があるからの。ここで待っとるのが良いと思うんよ」
ココの仕事、エクシブを抜いた三人には何のことだかわからないが、それを理解したエクシブはこくり頷き真剣な目付きになると、ギルドに集まった傭兵たちのもとに向かう。
常に様子を窺っていたせいか、近寄るエクシブへと傭兵たちが一斉に注目する。
皆の視線が集まったのを確認すると、咳払いをし口を開いた。
「今回、ベルレットキャラバンの護衛を任された、リン=グラン=エクシブだ。何名かは戦場で顔を合わせたこともあるな。これより三十人の同行者を決める。オレたちは中で待つ、皆は前に並び順番を待て。一人一人名前と所属団体、戦歴を聞く」
言い終わると静かにギルドへと入って行くエクシブに、付き従う様に歩くダグラスとグルー。
傭兵たちはそれを見送った後お互い顔を見合わせ、我先にと並びだした。
五十もの人数の列はギルドから外にはみ出し異様な景色をつくるなか、エクシブの選別が始まったのである。
「ああして見ると、リンもなかなか立派に見えるの」
「普段は違うのですか?」
ぽつりと呟くココに、セリア先程の凛とした姿の傭兵を思い浮かべた後、頭を傾げて聞き返す。ココは、うむ、と強く頷き、乾いた笑みを浮かべてこたえた。
「この三ヶ月、本読んでるかギルドにいるか酒飲んでるか、ため息ついてるか、と行動が安直過ぎての」
常に行動を共にしていたココからの視点からすると、面白味には欠ける様であるエクシブだが、それもこれも、長時間姿を見せないと怒りだすココのせいでもある。
苦笑いのセリア、ふとココを挟んで反対側にいるキックスに気付く。
「あの、そちらは?」
まるで最初から居たかの様に自然と佇む黒髪のスラッとした若い女性。たまたまココへと振り向いたから気づいたセリアだが、今の今まで全く気付かず、だが、気付いてしまえばそれでいて不思議な雰囲気を醸し出す女性でもある。怪訝な表情を浮かべるセリアに、ココは特に気にする様子も無くこたえる。
「この娘はキックス。リンの──」
「グラン=エクシブの義兄妹のキックスと申します。暁部隊所属、影師の末端を預かる影師の者です」
隠密故に下手なことを話されてはかなわないとふんだのか、言葉を遮るようにこたえる。
ふむと、さも自分がこたえたかの様にココは頷くと、セリアは恐る恐ると言った感じで問うた。
「影師とは、諜報や暗殺などを生業にしているあの影師のことですか?」
傭兵の中でも畏怖の対象とされる業種。
文字通り裏で暗躍する汚れ仕事が頭に浮かび、セリアが少し引きながら問うのも仕方がない。
恐れの混じる視線が向けられるが、慣れた反応なのかキックスは特に気にする様子もなく頷く。
「その通りです。諜報や暗殺などを生業にしています。……ただ」
認めた上で続けるキックスは、真面目な表情から一転し少し困った顔で言う。
「毎日毎日、人殺しや弱味を見付ける仕事をしているわけではないんですよ。──例えば迷子の子供探しや、荷物の配達なども我々にはありふれた仕事でもあります」
エクシブの面接の間に始まった娘たちの会合に、並ぶ傭兵たちの視線がチラチラと向けられつつ話題が膨れ上がっていくのであった。




