27 傭兵、ひた走る
『クゥゥウオオーーーーン!!』
町外れの廃墟から突然の咆哮に夜も深いというにもかかわらず、まわりはざわついている。
「なんなの……、今のは?」
隣でおびえるような顔をする仲間にエクシブは振り返らずこたえた。
「うちの相棒だ。どうにか間に合ったみたいだな」
「あ、相棒? まさか、化け物でも飼ってるの?」
エクシブはくすりと笑いながら言った。
「キックス、間違ってもあいつの前でそんなこと言うなよ?」
なぜ? と、首をかしげるとエクシブは楽しそうにこたえた。
「きっと、お前なんて丸呑みだぜ?」
「そんな、冗談ばかり──」
エクシブは笑顔だが、目は笑っていない。
ココが丸呑みするかはわからないが、そんなことを言えばエクシブに八つ当たりするのは間違いないだろう。
火の粉は早いうちに払っておいて損はない。
そんなエクシブの心情なんぞ知るよしもないキックスは、ごくりと喉を鳴らし小さく頷く。その様子を見てエクシブは廃墟への道を睨み付け言う。
「行くぞ」
眠らぬ町、ラルバターレ。
ココの咆哮で町が起き出したわけではなく、元からこの町は深夜になっても馬鹿騒ぎをしている。
男を誘う女や店員、そこらじゅうで聞こえる喧騒。
エクシブは久々にこの町に来たが、人種が入り乱れているせいもあり、昔とはまったく違う印象を見せる。
「この道を抜けると裏通りにでます。咆哮の聞こえた廃墟への道は真っ直ぐ向かうだけ」
「よし、急ごう。場所を変えられたらまずい」
通りにいる者、自らが避けていくエクシブと、影の世界の住人らしく人にぶつかることもなく進んでいくキックス。
裏通りに近付き後もう少しといったところで、急にエクシブは何者かの肩とぶつかった。
「おい、てめえ! 何しや──」
言い終わる前に男は崩れた。
「手際いいな」
エクシブがぽつりと呟くとキックスはぼそっと返した。
「殺しては──」
「わかってるよ。さて、急ごう」
二人は走りだし目的地に向かって行く。
崩れた男の側にいた者は、一部始終を見た後呟く。
「暁にグラン=エクシブが何故? 先回りして知らせねば……」
裏通りに入った二人の目の前に廃墟が現れる。
まだ、五国同盟が締結する前はここは小さな国であり、廃墟となっているのは城の跡である。
あそこにココとカレナがいる。
エクシブは気合いを入れ直し更に速度を早めようとした瞬間──。
轟音と共に廃墟の壁の一部が崩れ、多くのほこりが舞い飛ぶ。
「なっ!」
エクシブはその光景に目を疑う。
空いた穴からちらりと見えた白く巨大な獣の姿。
赤い瞳がエクシブを確認したのか、地響きの様な咆哮を放ちすっ、と消える。
「あの馬鹿。万が一って言っただろう」
エクシブは思わず立ち止まりしゃがみこんで頭を抱えると、大きく溜め息をはく。
エクシブには獣の言葉はわからないが、咆哮の意味だけはわかりすぎるほどよくわかった。
『さっさとこっちに来い!』
うずくまるエクシブと廃墟を交互に見ながらキックスは慌てて問う。
「な、何!? あれが相棒だっていうの?」
エクシブはゆっくり立ち上がり疲れた顔をしてキックスにこたえた。
「全部終わったら紹介してやるよ」
頭が痛いが仕方がない。
ココとて姿を晒す代償はわかっているはずである。今、あの姿になっているということは命の危険にさらされたか、余程腹に据えかねることが起きたかなのだが──。
「後者だな……」
エクシブはココの性格を短期間で見抜いていた。
前者であれば姿をさらしてまであの場所にいる必要は無い。エクシブを見付けたなら尚更だ。
しかし、いまだに逃げることはせず、寧ろ暴れまわり早く来いと煽るのだ。
「どっかの馬鹿が逆鱗に触れたかな」
ぼそりと呟くエクシブを見てキックスは怪訝な表情を浮かべて聞いた。
「何故、そんなに楽しそうなのです?」
走りながらエクシブはこたえた。
「非常事態は慌てるもんじゃないってことさ」
意味のわからない返しをするエクシブにキックスは疑問符を浮かべて考えこんでしまった。
「おいおい、急がないといけないんだからな?」
「わかっています!変なこと言うからでしょ!」
キックスの言葉にエクシブは苦笑いをして返した後、二人は全力疾走で廃墟へと向かった。
目的地はもう目の前。




