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帰省(?) ⒋

 ブックマークありがとうございます!

 今回長いです。弟君かわいいです。

 結論から言うと、ロイはアストレアから手作りクッキーを押し付けられたらしい。しかも、その場で感想を求められたせいで毒味を通すことなく食べることに……。


 うん。やっぱ地獄見せてやっていいかな?


 本当に何してくれやがったんだか。普通、令嬢が手作りクッキーなんてあり得ない。え?転生者ならするじゃって?まっさかぁ。私は転生令嬢だったけど、クッキーなんて作ったことありませんよ。前世でクッキー作れるほどの女子力はなかったからね!それにあれは転生者じゃない。探りを入れてみたことはあるけど、全くもってそんな気配はなかった。


「男爵令嬢がエドルグリード皇子の婚約者となってしまった

手前、ロイには断ることが難しかったのだ。いくら公爵令息と言えど、皇子もいる前で、その婚約者の申し出を断るだなんてできなかったのだよ」


 いや、だめでしょうよアストレア。婚約者の前で他の男に手作りクッキーとか気が知れないんだけど。いくらロイが十歳だとしてもそれはだめでしょ。


「それは令嬢ですよね……?」


 いつの間にか、心の声がポロリと零れていた。耳に入ってきた自分の声に呆れを感じる。


「恐らくそうですわ。平民出身ですけれど、学園でのマナー講座も受けているでしょうし」


 若干戸惑いの混じった声で公爵夫人が答えてくれる。あ、うん。もういいや。普段から心の広い公爵夫人がこの様子なら、救おうにも救えないってところまできてるんだね。それにしても、それでよくあの皇子の婚約者が務まるなぁ。元婚約者としては、そんな人と同じ立場だったことがすごく恥ずかしいんだけど。




★°٠*。☆٠°*。★°٠*。☆٠°*。




「では、私どもは扉の外におりますので、ご用があればお呼びください」


 ロイの部屋に案内してもらうと、ヒリスは一礼して静かに部屋から出ていった。窓の外に目をやればすっかり日が暮れ、月だけがぽっかりと浮かんでいる。若干曇っているのか、星は見えず、月もぼんやりとしている。街灯の一切ないこの街では、夜に出歩く人はいない。そこにはもの悲しい静寂があるだけ。

 前と全く変わらない調度品に囲まれた部屋は、部屋の主が動けないせいで生活感がまるでない。(クリスティーナ)の部屋と同じく、白と青系統の色で統一された部屋でクスクス笑いながら私にかわいらしい悪戯をしていたロイが懐かしい。しかし、窓から差し込む淡い月明かりに照らされたロイの顔は青白く、私が知っているロイとは違う。

 ベッドに横たわっているロイはピクリとも動かない。ヒリスの話によると起きる気配もなく、そのせいで何も口にしていないため、このままでは衰弱してしまうかもしれないとのこと。


「ロイ、絶対に助けてあげるからね」


 (クリスティーナ)と同じ銀髪をすく。ハラリと前髪が落ちて露になった額に、そっと口付けた。


 (クリスティーナ)の大切な、かけがえのない唯一無二の弟。今も昔もこれからも、私の愛しい宝。絶対に救ってみせる。


解析(サーチ)


 ロイの体に手をかざして魔法を発動する。青緑のオーロラのような光がロイの体を包み込んだ。

 毒は毒でもデモンパピヨンの鱗粉とは。一体どうやって手に入れたというのか。しかもこれを食べさせるとかどうかしてる。

 デモンパピヨンはその名の通り、蝶の魔物。その鱗粉は猛毒を含んでおり、その性質は対象によって変化するという非常に厄介なものだ。即効性の鱗粉と、遅効性の鱗粉の二種類があり、ロイに使われたのは後者。その上……。


「ふざけんな。なんで精神毒を含んでる珍種のを使ってるわけ」


 精神毒。かつて帝国時代に暗殺に使われていたらしい。精神を蝕み最終的には殺す。でも外見はいたって健康そのもので、なぜか動かない、という状態になるらしい。つまり、生ける屍になるとか。実際には見たことなどないが、知識としては知っていた。でもまさか、ここでそれに出くわすだなんて。

 まず、デモンパピヨンの通常の毒を解毒しなければならない。これは案外簡単だったりする。デモンパピヨンが好む薬草があるのだが、その花の密には解毒作用があり、それを飲むことでデモンパピヨン自身が鱗粉の毒に侵されるのを防いでいるらしい。幸い、さっきの温室で育てていた中にその花があるのだ。

 そして問題は精神毒の方。これは少々厄介だ。これには解毒剤が存在しない。そのため、治療方法はないとされてきた。自力で毒に打ち勝つしかなかった。でもそんなの関係ないよね?だって私の弟のためだもん。治療方法がないなら作ればいい。自力で打ち勝てるんでしょ?なら私が中に行って毒を消せばいい話だ。

 と、言うわけで……。


「いざ、行かん!」




★°٠*。☆٠°*。★°٠*。☆٠°*。




 さて、やってきましたロイの精神世界。光魔法と闇魔法と植物魔法に加え、その他諸々の知識と常識に囚われない柔軟さがあれば使える魔法。え?常識に囚われない柔軟さじゃなくて非常識だろって?それは言わない約束でしょっ!


「ロイ~!」


 精神体であるため、今の私はクリスティーナの姿をしている。久し振りの銀髪だ。それにしても真っ暗。右も左も分からない。どこにロイかいるかも分からないので試しに叫んでみた。しかし私の声はトンネルにこだますかのように響くだけ。闇の向こうへと消えていく。困ったな。早くロイに会って解毒しないと、ヒリスが部屋に入ってきたら大変だ。

 現実世界の私は、精神が身体に入っていない、つまり空っぽの状態。端から見れば死んだように見えないこともない。しかもロイの中に入るためにロイの手を握っているから、変な勘繰りでもされたら一生の終わりだね。


「ロ~イ~!姉上ですよ~!クリスティーナ姉上よ~!ロイは姉上に会ってくれないのかしら?」


 取り敢えず叫ぶ。次は魔力をのせてなるべく広範囲に聞こえるようにしてみた。


「……うえ?」


「ロイ!」


 背後からかすかに聞こえてきた声にぱっと顔を輝かせて振り替える。そこには銀髪の男の子。いつもは襟足で結んでいる髪を下ろしているせいで、少々女の子に見えなくもない。


「姉上……!姉上ーー!」


 私の顔を見たとたん、ロイがものすごいスピードでこちらへ走ってきた。あ、待って。ストッ……。


「ぐっ!」


 あー、間に合わなかった。ロイのタック……げふんげふん、愛の包容は私の鳩尾へとクリーンヒット。令嬢以前に女子らしくない声が出た。涙目になりながらも、私のお腹へグリグリと頭を押し付けてくるロイの背を優しく撫でる。


「ロイ、頑張ったね。大丈夫よ。姉上の友達が助けてくれるわ」


 ぐずっと鼻を啜る音を立てながらロイが顔を上げる。ありゃ、私よりロイの方が涙目だ。てか泣いてる。

 そんなかわいい弟に苦笑しながら、人差し指でロイの涙を拭う。するとロイは花が咲いたような笑顔になった。うん。かわいいです。このまま成長したらかわいいお姉様殺しの笑顔を手に入れるでしょう。そしてかわいさが抜けていくと絶世の美男子、いやイケメンに……!んんっ!いけない。ブラコンが暴走していた。


「姉上は助けてくれないのですか?」


 しかしすぐにキョトンとした顔になって尋ねてきた。こてん、と首を傾げた姿は尊いです。……はい、ごめんなさい。真面目に解毒します。


「姉上はもういないのよ?でもロイが大変って分かったから来ちゃったの。お友達にロイを助けてほしくてね。じゃあ、お友達と交代しよっか」


「やだ!姉上行かないで!」


 ふわふわしたロイの頭を撫でながら諭すが、最後の言葉でロイが悲壮感溢れる顔になり、がっしりとしがみついてきた。う~ん、私としては非常に嬉しいんだけど、これはヤバイな……。


「ロイ、いえ、ローランド。貴方はローランド・フォルセティよ?この先、フォルセティ公爵家を守っていかなければならないの。そんなローランドはいつまでも姉上にしがみついてばかりいるのかしら?」


 ワントーン低くした声にロイがピクリと体を震わせる。けれどしがみついたままで離れる気はないようだ。


「困ったわ。姉上はもうローランドの傍にいてあげられないのに。このままじゃローランドの代でフォルセティ公爵家は終わりね。お父様やお母様たちが必死で守り続けてきた家をローランドは終わらせるのね。姉上、そんなローランドは知らないわ。私の弟はそんな人だったかしら?フォルセティ家の人間として、一人の人間として、自分の使命に向き合わない子は私の弟ではないもの。私のローランドはどこかしら?」


 ロイはピタリと動きを止める。そのまま数秒私にしがみついていたけれど、やがて腕をほどいた。ぷっくりと頬を膨らまし、うるうると目を潤ませて、顔を真っ赤にしている。今にも泣き出しそうだ。けれど私は何も言わない。ロイには私がいない中でも頑張ってもらわなくてはならないのだから。


「ぼ、僕は!僕はそんな子じゃありません!姉上の自慢の弟です!立派なローランドです!ローランド・フォルセティです!姉上がいなくてもフォルセティ家は僕が守るんです!僕はフォルセティ家を終わらせたりなんてしません!領地のみんなは僕が守るんです!!」


 ロイはきっと顔を上げてはっきりと言い切った。震える体を叱咤するようにぎゅっと小さな拳を握りしめ、まっすぐ私を見上げている。思わず涙がこぼれそうになった。今すぐにでも抱き締めて頭を撫で回して流石ロイ!と誉めちぎりたい。でも、今それをするのは違う。ロイは自分の力で生きていくと言い切った。姉上からは卒業したのだ。だから、抱き締める代わりに、笑顔で頷く。


「ええ。それでこそローランド・フォルセティです。民を思える人ほど素晴らしい貴族はいませんから。……メルスティアを呼ぶのは止めにするわ。私が治す。これが姉上からの、いいえ、クリスティーナ・フォルセティからの最初で最後の贈り物よ」


 光と水の混合魔法を最大出力で使う。私の足元から白銀の光が広がってゆき、闇を飲み込んでいく。ロイがこれ以上決して穢れることのないように。精神毒を全て浄化する。


「姉上、ありがとうございます。また会えますか?」


「ええ、もちろん。ロイが願うならいつか必ずね」


 光の渦の中、ポツリとロイが言った言葉に返す。その時はメルスティアの姿だろうけど、会っていることには間違いない。ロイには(クリスティーナ)だとは分からないだろうけどね。



★°٠*。☆٠°*。★°٠*。☆٠°*。




 浄化を終え、精神体から現実世界へと戻る。目を開けると、その先にロイの手を握っている手が目に入った。そして笑みが溢れる。


「手握ってるし」


 ロイの左手は私の手をしっかりと握り返していた。かわいいなあ。やっぱり私は弟離れができないらしい。


 名残惜しいけれど、このまま泊まっていくわけにもいかない。ちゃっちゃと解毒剤を調合してヒリスに渡し、フォルセティ公爵夫妻に挨拶をして公爵邸を後にした。

 アストレア、メルスに殺されるのかなぁ……。主人公なかなかに物騒(笑)しかも何気にブラコンが激しい(笑)


 次話は帰省をヒリス視点でお送りします!

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