その後 その3 木内楓の場合 ②
あの水浴び事件から数日過ぎました。
あの日のことはなかったことにしたいです…。
人前でイケメンにお姫様ダッコだなんて……羞恥でシネます。
人生、何で人に気に入られるか分からないものですよね…。
「楓ちゃーん!」
おや、この声は癒しの美羽ちゃんではないですか。
「美羽ちゃん、この間はいきなり帰ってゴメンね…」
そうです。あの事件の後、車まで連れて行かれそうになりましたが隙をみてダッシュで脱出を試みました。私の平凡な心臓はあの出来事に耐えきれそうになかったので、逃げるという選択肢を選んだのです。
「ううん、こっちこそゴメンね。私をかばって水を掛けられちゃったんだもんね。もう少し気をつけたら楓ちゃんをそんな目に合わせなかったのに……。」
うーん、美羽ちゃんが落ち込んでます。でも、あの時の野獣と化したお姉さま達は何をしても無駄だったと思いますしね。やっぱりイケメンに近寄るのは怖いです。遠くから鑑賞するのが一番ですよ。私だってイケメンが嫌いなわけではないのですよ。ただ、それよりも平凡な毎日が好ましいのです。
「美羽ちゃんが謝るのはおかしいよ。どう考えたって水をかけた人が悪いんだもの。もしそれでも気がすまないなら、また今度2人で美味しいモノを食べに行こうよ。2人だけでね。」
2人を強調してみました。渋谷くんには悪いけど、あの人がいると周りの視線が気になって仕方ありません。
「そうだね!2人で行こうね!私もたまには友達と遊びたいもん。最近奏多が暇が出来れば突撃してくるから。嬉しくないわけではないんだけど、友達も大事だもん!」
渋谷くんのことを話す美羽ちゃんはカワイイです。たぶん、あの顔を写真に撮って渋谷くんに見せたら金に糸目をつけず手に入れようとする筈です。美羽ちゃんに関しては変態の域に達していると私は考えています。
「そういえば楓ちゃん。用事があったから探してたんだよ。」
ん、私の危険センサーが、ピコンピコンと反応しております。なんだろう美羽ちゃんが私に危害を加えるわけないのに…。
「校門のところで新庄さんが待ってるって。」
!!な、な、なんでですか!
私に何のご用事が。ま、まさかこの間逃げたことを根に持って……。
って、そんなに暇人じゃないですよね。
これは逃げた方が良いのでは。
そんな考えがばれたのか…
「新庄さんが今度は逃げないでね、だって。スゴイ笑顔で言われたの。ちょっと怖かった…。」
うーーーーん。逃げ道が塞がれたのかしら。
1回会って興味が無くなれば終わるかな。それに何の用事かもわからないし。
なんか、この前私が美羽ちゃんを探してたのと同じ状況ですね〜。
「………すっごく行きたくないけど、行かなきゃダメなんだね。そっか〜。」
「……うん。本当にゴメンね。新庄さんが珍しく私に頼んできたの。もし、校門の前が嫌なら違う場所に変えるように言おうか?」
校門の前はこの間の美羽ちゃん呼んだときがすごかったから。
そうだね、もう少し目立たない場所ならいいかな。
「そうだね、場所の変更をお願いしたいです。そのままキャンセルもしていただいてイイんですが。」
キャンセルは無理だよ〜。と美羽ちゃんの表情が言ってます。見ればわかりますよ。
しょうがないから会いますよ。
「じゃあ、室内だとまた注目されそうだから近くの公園で待ってるように連絡しとくね。」
「うん。じゃあ連絡してくださいな。今日は特に用事ないから今から向かうよ。」
覚悟を決めて公園へ向かいます。
気分はドナドナです。
帰りたいけど、美羽ちゃんに迷惑はかけられないですよね。
そうこうしているうちに目的地に着きました。
目的の人はっと…………あ、キラキライケメン発見。
今日は私服なんですね。カッコイイですね、やっぱり。
でも、見ているのが一番だと思います。
お、気づいたようです。
うわっ、私なんかにそんな笑顔見せないで下さい。私はみんなとイケメンをキャーキャー見るのが楽しいのですよ。
「木内さん…。来て頂いてありがとうございます。」
「いえ、この間は逃げてしまってすいませんでした。もしかして、その事についてですか?」
「木内さん、いや楓さん。いきなりで申し訳ありませんが私とお付き合いしていただけませんか?」
……………………え。あ、あれおかしいですね。幻聴が聴こえましたよ。
誰が誰と付き合うって言いましたか?
あまりのことにフリーズしてしまった私に追加の爆弾が投下されました。
「ああ、言い忘れました。結婚を前提としたお付き合いですからね。」
のーーーーーーーーーーー!!
ちょ、ちょっとお待ち下さい。なんでそんな話しになってるんですか。
み、美羽ちゃーーーーん!この人と私1人じゃ戦えないですよーーーー!
ーその頃、奏多と美羽は…………
「ねえ、奏多。いくら頼まれたからと言って、いきなり2人にしたのはまずかったんじゃない?」
「美羽………、新庄は本気だ!邪魔をしたら蹴られて遠くに飛ばされるよ。」
「でも楓ちゃん、イケメン好きだけど観賞用って言ってたし。何より目立つのが嫌いだって。」
「美羽、申し訳ないけど木内には頑張ってもらうしかないよ。これは秘密だけど実は…………………」
「えーーーーーー、新庄さんそうなんだ………。んーー、楓ちゃん大丈夫かなぁ。余計心配になってきたんですけど。」
「健闘を祈るしか俺たちに出来ることはないよ」
「楓ちゃん、頑張って!」




