第12話
「美羽!」
なんで、そんな声で呼ぶの…。私はもう貴方と一緒にいられないのに。
でも、どうしても顔が見たくて振り向いてしまった。
そこにはびっくりしたような奏多の顔があった。
「美羽…。あーなんて可愛いんだ。(もう、はやく連れてかえりたい…)」
最後の方はよく聞こえなかったけど、奏多がとても嬉しそうな顔に変わった。
うん、体調は悪くはなさそうだね。
あれっ、じゃあ何で私はここにいるの?
これって、たぶん奏多の誕生日パーティーだよね…。
…もしかして、婚約発表を見ろってこと?
…ひ、ひどいよ。なんで、そんなことするの。
私はその考えに至り、無性に泣きたくなった。
今日はよく泣きたくなる日だ。
たぶん、実際涙目になっているはずだ。
「美羽…ごめんね。突然こんな所に連れてきちゃって。でも…」
奏多が何かを言おうとしていたが、私は遮るように言葉を発した。
「奏多…。婚約おめでとう。…でも、こんなことしてほしくなかったよ。」
何で、こんなことになってるんだろう。
婚約者がいる人と、フリでも付き合っちゃったうえ好きになっちゃったからなの?
「!ち、違うよ、美羽!婚約者っていうのは」
今度は私ではない人が奏多の話しを遮った。
「あら?貴方もお祝いに来て下さったのかしら?」
やっぱり、いますよね〜〜。婚約者さんなんだもんね。
私なんて霞むような煌びやかな装いで現れたのは、奏多の婚約者さんだった。
「でも、こんな所まで来るなんて……意外と非常識な方でしたのね」
私には不機嫌そうにそう言ったが、奏多の方を向いた途端輝くばかりの笑顔を見せた。
「もう、奏多さん!知り合いの方が来てるからって私のことを置いて行くなんて酷いですわ。」
婚約者さんはそう言うと奏多の隣に行った。
ええ、わかってますよ。
実際見せられたくなかったけど、お似合いの二人だよ。
もう、十分でしょ?
これ以上惨めな思いはしたくない。
そう強く思った私は、入ってきたドアに向けて歩き出した。
「美羽!待ってくれ!」
もう、いいよ。これ以上私のココロを掻き乱さないで!
私は、私は奏多がいなくたって、ダイジョウブ。
私が足早に会場を去ろうとしたら、腕を掴まれた。
見なくたってわかる、奏多だ。
やめて!
もう、許してよ。
「母さん!美羽をお願いします。俺は、俺のケジメをつけてくるから…」
「美羽…お願いだからここにいて。美羽のことをこれ以上傷つけないから…お願い。」
奏多はお義母さんに話しかけて、私のことをお義母さんに預けた。
本当は逃げたい。
だけど、あんな必死の顔の奏多は今まで見たことがない。
私は、最後まで見届ける決意をした。
「美羽さん、奏多がいろいろごめんなさいね。でも、あの子を信じてちょうだい。」
お義母さんも私を気にかけてくれている。
私は奏多の一挙一動を見守った。
奏多は会場の中央で、マイクでパーティー参加者によびかけた。
「お集まりのみなさん!本日はお忙しい中、私、渋谷 奏多の誕生会に参加していただき誠に有難うございます。 本日は兼ねてより予定して通り、私の婚約発表もしたいと思います。」
その言葉を聞き、会場全体が奏多に注目した。
そして、近くには西尾さんの姿もある。
西尾さんは期待を込めた目で奏多を見つめている。
ちょっと離れているがここからでも奏多の表情は見える。
今、こちらをちょっと見て笑顔を見せてくれた。
そして、たぶん西尾さんの方を見ながら話し始めた。
「私、渋谷 奏多は葛城 美羽さんと婚約を致します!」
…えっ、えっ…えーー〜〜〜〜〜〜〜〜!
だ、だって、西尾さんっていう婚約者さんがいるんでしょ?
な、なんで?
突然の発表に会場も騒然としている。
そんな中奏多が私の方に走ってやって来た。
「美羽、いろいろごめん。でも、俺、美羽以外いらないんだ。だから俺と結婚してくれないか?」
っう、も、もしかして公開プロポーズですか!
あ、頭がついていかないよー。
私が混乱している間に西尾さんがすごい形相でこちらにやって来た。
「奏多さん!どういうことですか?! なんで、そんな子と婚約だなんて…」
そう言うと西尾さんは奏多にしがみついて泣き出した。
そこへ、どうやら西尾さんの両親らしき人が近づいて来た。
「奏多君!一体どういうことなんだ!なんだってこんな会社の利益にもならんような娘と婚約だなんて…。」
「そうですよ、うちの優菜は小さい頃から奏多さんのお嫁さんになることを夢見ていたんですよ!それをこんなことするなんて…。」
あー、なんか修羅場ってるのかな?
突然の出来事が続き過ぎてなんか逆に冷静になってきた。
そんな中、奏多が口を開いた。
「いつ、私が御宅のお嬢さんと婚約するなんて言ったのでしょうか?」
っブル。あ、あれなんか一気に周りの空気が冷たくなったような。
もしかして、奏多、怒ってる?
拙い文章ですが、お読み頂きありがとうございます。
ブックマークしていただいている方、評価までしていただいている方本当にありがとうございます。後、数話ですがもう少しお付き合い下さい。




