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ダゲレオタイプ、あるブルジョワジー夫妻の奇妙な真実  作者: RiePnyoNaro


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ダゲレオタイプ、あるブルジョワジー夫妻の奇妙な真実 その1~夫は妻の突然の大事故に動揺する~

「彼女は何を隠してるんだ?

なぜあんな大事故にあった?

私は今まで彼女の何を見てきたんだ?」


アロイス・ヤーコプ・ヴィーナーベルガーは呆然(ぼうぜん)として呟いた。


自由主義的な憲法と諸民族の友愛を求め、血なまぐさい戦闘の末に勝ち取った『三月憲法』が廃止されてはや7年。


完全に旧体制に復帰したウィーンでは、皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の命により、旧城壁を撤去して巨大な環状道路「リングシュトラーセ」を建設する世紀の大改造が始まりつつあった。


アロイスはその波に乗り、煉瓦(れんが)製造業を手掛ける有産市民階級(ブルジョワジー)のひとりだった。


3年前に結婚した男爵令嬢である妻・エスターは、忙しさにかまけてろくに家に帰らないアロイスに不満を募らせ、面と向かって口論するよりも、隠れて何かを企んでいるようにアロイスには見えた。


その彼女が昨日、外出中に突然、ドナウ運河の堤防にある階段から転げ落ち、ごつごつした岩だらけの川岸で頭を強く打ち、意識不明の重体になったのだ。


エスターに同行していた小間使(こまづか)いが、煉瓦(れんが)工場に事故の報せを届け、アロイスはすぐに自家用馬車で病院へ駆けつけた。


受付でエスターの夫だと名乗っても意識不明で面会謝絶だとして追い返され、エスターの様子を見ることもできず、もちろん話すこともできず事故の原因も分からずじまいだった。


アロイスは最近、(エスター)(うと)ましく思っていたことを後悔した。


3年前まではあれほど恋焦がれてやっと結婚できた妻だったのに、同じ家に暮らすうちに、彼女の好ましくないところが気になり始めた。


エスターは迷信深く、占いや神秘思想・超自然主義(オカルティズム)信奉(しんぽう)し、産業や自然科学の発展が目覚ましい現代の主流思想ともいうべき合理主義・実証主義といったアロイスの信奉(しんぽう)する思想とは真っ向から対立していた。


その証拠に彼女の部屋には、表面に銀メッキを施された正方形や楕円形の、(ふち)に装飾のない板状の鏡が何枚もあった。


怪しげな儀式魔術のために、魔法鏡が必要なのだとアロイスは思った。


アロイスが調べたところによると


『霊的存在の姿を確認したりアストラル界のヴィジョンを得るために、ある種の光学特性を持つ物体、つまり水晶、ガラス、水などが使用される。』


らしく、魔法鏡もその幻視を得るために使われる。


さらにエスターが夫の行動をすべて把握し、制限しようとするところも、アロイスは気に食わなかった。


娯楽であれ仕事であれ、外国旅行にはついてきたがったし、片時(かたとき)も離れたくないと思っているようなのがアロイスには重荷だった。


友人には『愛されてる自慢』『モテ男マウント』『色男きどりも今だけ』で、『もう少しすればボロ雑巾のようにウザがられる』と(あき)れられたが、生活の全てを監視されているようで息苦しかった。


しかし、エスターが重傷を負い、意識不明で会話すらできず、この先もどうなるかわからないという今の状況になって初めて、アロイスは自分が(おび)えていることに気付いた。


(エスター)を失うことが怖かった。


『もっと二人だけの時間を作って会話すればよかった』


とか、


『外国旅行にはいつも一緒にいけばよかった』


とか、


『迷信や超自然現象(オカルト)や都市伝説などの興味のない話でも、非科学的で再現性のない嘘まみれの与太(よた)話でも、彼女が満足するまで聞いてあげるべきだった』


とか、後悔の種は尽きなかった。


妻が意識を取り戻すまで、じっとしていられず、せめて、なぜあんな事故が起きたのか?を解明しようと思った。


しかし、自ら調査に乗り出して仕事に穴をあけるわけにはいかず、どうすればよいかと悩んだ。


さんざん考えたのち、やっとひらめいたのは、友人の貿易商バウアー氏の大学生の息子に事故の原因究明を依頼するという方法だった。


*****************

(その2へつづく)


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