↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/48

星の宣託(後編)

 すると、彼女のてのひらの上に白銀の丸いものが突然あらわれた。放射状の長い突起(とっき)がいくつも伸びていて、瞬く星のように見える。

 白銀の星は星の伝道師の手のうえで、音もなくくるくるとまわり始めた。


「あなたの名前は?」


 そう聞かれて、ティアは言葉につまった。さっき名乗ったはずだが……。


「セレスティアよ」

「そうではありません。いま、わたくしたちに必要なのは、真の名です」


 真の名と言われても困ってしまう。セレスティアはセレスティアだ。真もなにもない。

 ティアは必死で考えた。この非常にまわりくどく、名前も長く、わけのわからない星の伝道師の意図は、なんなのか……。


「セレスティア……セレスティア・リュシール」


 フルネームを名乗ってみると、どうやら合っていたらしく、彼女は少しだけ笑みを深めた。


「あなたの出身地は?」

「リスフェリア」

「あなたの年齢は?」

「18」

「――18ぃ!?」


 突然割り込んできた声にぎょっとする。


 口をはさんだのは、左側に座る男のエルフだった。彼は三人のエルフの中で唯一(ゆいいつ)髪が短く、プラチナブロンドがツンツンとしている。額には星の伝道師と同じく放射状の模様が描かれているが、線の数が彼女よりもやや少ないようだった。


 彼は彼で、ティアに負けないくらい驚いた顔でこちらを凝視(ぎょうし)していたが、星の伝道師の冷たい視線を受けて、慌てた様子で口を閉じる。


 どういうことなのか。全員アストリア語がわかるのか? なぜ一言も話さないのだろう。


 そのあとは、ずっとつづく質問と、それに対する回答の連続だった。

 好きな音は、好きな色は、疲れた時に食べたいものは、天気の悪い日に何をしたいか――そんな、くだらないとも思えるやりとりがひたすら続く。いつ終わるのかとくたびれてきたころ、ついに白銀の星は回転を止めた。


「星の宣託(せんたく)がくだりました……リスフェリアの幼子(おさなご)よ、あなたは信用に足る人物のようです。このスティラにあらたな記録として、あなたの軌跡(きせき)が刻まれることでしょう。わたくしたちを結んだ星の導きに、感謝を捧(ささ)げますわ。スティラ・メル・ビアシーン」


 そう言うと、白銀の星はまた音もなく消えた。


 わけがわからないまま、ティアは頭がぼんやりとしていた……いま、幼子と言われたような気がするが、気のせいだろうか。


 星の伝道師は、またもやゆっくりとした動きで両手を広げると、優雅(ゆうが)な手つきで左右のエルフを指し示した。

 

「それでは、ご紹介いたします。わたくしたちは、風とともに届いた導きのもと、過去の星の瞬(またた)きの答えを知るため、ロストデールからやってまいりました」

「はあ……」


 彼女は説明をしているつもりなのかもしれないが、何を言っているのかさっぱりわからない。

 ティアの様子には構わず、星の伝道師は右隣の男をちらりと見た。すると、それまでずっと無言で身動きひとつしなかった男は、口を開いた。


「わたしはゲイリン・イド・ルヴェルだ」


 この名前なら憶えやすい。ずいぶん聞きなじみのある、親しみやすい名前だとすら感じる。


 ゲイリンはほかのふたりとは違って黒髪で、額の模様もない。

 しかしそれよりも、ティアは彼の耳元に意識をとられた。両耳で揺れているあの耳飾り……もしかして、精石(せいせき)ではないだろうか?


 ゲイリンも同じように、ティアの耳へと鋭い視線を向けていた。

 彼のものとよく似た、深い青色の耳飾りが揺れている。ティアの耳飾りに使われているのは、リスフェリアで採取される特殊な石で、精石という。


「ゲイリンはリスフェリアの出身です。今回、アストリア大陸の文化を深く知る者として、この旅の導き手の一音(いちおん)に選ばれました」


 星の伝道師はそう言うと、今度は左隣の男をちらりと見た。さきほど大声をあげた、髪の短いエルフだ。


「やっと俺の番? タラサは本当に話が長いんだからさぁ、いつになったら終わるのかと思ったよ。俺、レイ・ラニスタ。レイって呼んで!」


 彼はずいぶんと軽い調子で、にこにことしながらそう言う。

 ほかのふたりとは違った雰囲気(ふんいき)に驚く間もなく、星の伝道師の冷たい声が飛んだ。


「……レイノスローム」


 鳥の歌声を思わせる声音(こわね)のまま、刺すような視線をレイに向ける。


「いいじゃん、どうせ覚えらんないって」

「ラニスタの若き枝葉(えだは)よ――星を乱すような行いは許されません。わたくしたちは、星の都の代表として、知を交わし、知を示す必要があるのです」


 星の伝道師の顔は笑みをたたえたままだが、目が笑っていない。

 レイは大きくため息をつくと、


「レイノスローム・サド・ラニスタ・カルスベルテッセです。よろしくー」


 なげやりにそう言って、ソファの背もたれに体をあずけさせた。




 そのあとは、ティアが港湾ギルドの職員をエルフたちに紹介する番だった。

 星の伝道師タラサが言うことは比喩的(ひゆてき)で的を射ないのだが、彼女以外とも会話できるようになったことで、エルフと港湾ギルドとのすれ違いの原因がはっきりとわかった。


 ロストデールでは、同種族――つまりエルフ以外との会話が禁じられているらしい。

 ところが、エルフから紹介を受けた者についてはその限りではない。そのため、まずティアと会話をし、ティアから紹介を受ける形でギルド職員とも会話が可能になる、という展開だった。


 ティアは、国が違えば文化もずいぶんと違うんだなと驚いたが、そのあとのタラサの言葉にはもっと驚いた。


「それでは、セレストの碧(あお)き守(も)り人よ。あなたの軌跡をたどりましょう」


 ギルド職員に向かってそう言うと、タラサの左手にはふたたび白銀の星があらわれ、くるくると回転しはじめたのだ。

 ティアだけでなく、ギルド職員の顔も引きつっていた。まさか、会う人会う人、すべてにあの長ったらしい宣託とやらをするつもりだろうか?


 ギルド職員は顔をこわばらせながら、自分の背後に控えていた別のふたりの職員を、後ろ手でぱっぱっと追い払った。ふたりとも音もたてず、まるではじめからいなかったかのようにそそくさと部屋から出て行く。


 彼がげっそりとした顔で宣託を受けている間、ティアは、今度はレイの質問攻めにあっていた。ずいぶんと軽い調子のレイは、異国のエルフであるティアのことが気になって仕方がないようだ。


「へぇ、その歳でひとりで旅してるの? でもさ、食事とかはどうしてんの? ひとりで食べれるの? いやだってさ、俺が18のころって、もう記憶にないよ。多分食事の世話とかもしてもらってたと思うんだよねー。俺? いま175歳。へへ、けっこう若いっしょ! あ、それが君の契約妖精なの? リスフェリア人はみんな妖精と契約するって、マジだったんだぁ。ロストデールでは誰も妖精なんて使わないよ。なんでって? さあ……やっぱ時代遅れだからじゃない? あ、ごめんごめん、そんな意味じゃなくてさー」


 興味津々という顔で怒涛(どとう)のように話し続けるレイの相手は、タラサとはまた違った意味で疲れる。


 一方、ゲイリンは物静かで、落ち着いた雰囲気のエルフだった。

 はじめはココを鋭い視線で見つめていたが、レイの相手をするのにティアが疲れ果てていると、「そのへんにしておけ」と釘を刺してくれた。

 レイは渋々言葉を止めて、耳打ちをするようにゲイリンに近づいた。ささやき声で話すのが聞こえてくる。


「――なあ、リスフェリア人って、みんなああいう田舎臭い感じなの?――」

「…………」


 精魂尽《せいこんつ》きたティアは、ギルド職員が宣託を受けるのを無言でながめつつ、今夜の夕飯はなんだろう……と、ぼんやりかもめ荘を思い出していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。