リピーター達、沼に沈んだともいう。
年末年始……。
芦原一家は二人の異世界人を連れて、近所の餅つき大会などに参加した。
普段はこういうことにあまり参加しないのだが、二人のための心づくしである。
(言えない……実家は農家だから同じようなイベントがあって、そっちの方が大規模だって言えない……おモチは美味しいけど……)
(日本の伝統音楽を聴けるのは、学術的にはありだけど、面白くはないのよね……)
日本古来の催しに参加した二人は笑顔であった。
彼女らが笑顔だったことで、一家も笑顔であった。
その後もレンタル着物などでお着替えをしてもらうなど、年末年始のイベントを楽しんでもらい……。
冬の休みは、あっという間に過ぎ去っていくのであった。
※
※
※
年末年始を終えて、冬休み明けのアレクサンドロス学園。
日桂樹の外は大いに雪が降り積るほどに寒いのだが、それでも学園内は多くの生徒が戻ったことで活気づいていた。
特に大和たちのクラスでは、多くの生徒がヒュヘルムネーと大和の周囲に集まっている。
現在机の上には、日本から持ち帰った多くの写真が並んでいる。
ライブで盛り上がった帰りの写真もあるが、やはり多いのは日本の着物シリーズであろう。
着物のレンタル店で多くの試着をした時のものや、借りた着物で寺社仏閣へお参りに行くシーンなど。
そのように日本古来の催しだけではなく、日本に伝来して土着した各種族の古い催しにも参加している。
それぞれの伝統衣装にも袖を通し、それぞれの年始のイベントを楽しんでいた。
ヒュヘルムネーとクロリス、大和の普段は見られない姿を見て、生徒たちは大いに沸いていた。
「くう~~~! 私もこういうイベントに参加したかったわ~~!」
委員長であるアトランティエは特に反応している。
日本の着物だけではなく、各種族の古い装束(新品ではある)を着てイベントに参加することを羨ましがっているのだ。
(正直、普段着ている服と違いすぎて、結構恥ずかしかったけど……委員長が悔しがっていることろを見るのはちょっと気分がいいなあ。それに、こうやって写真になると、とっても思い出になるし……えへへ)
冬服だけに露出度は低かったのだが、それはそれとして普段の服と違いすぎる各地の伝統衣装を着ることに、ヒュヘルムネーは抵抗感を覚えていた。
だがそれは当時の話である。
クロリスと一緒というのが少し残念ではあるが、今はいい思い出であった。
(ねえねえ、ヒュヘルムネー。大和君と一戦は越えたの? キスぐらいはした?)
(あの大和がどんな顔をしたのか気になるんだよな~~。アイツが照れたり恥ずかしがるところとか、想像もできねえし)
(で、で?)
(……な、仲良くはなれました)
(一緒に旅行してそれかよ……がっかり)
(見た感じ、クロリスに邪魔されたってわけでもないんでしょ? それでコレとかないわ)
(ぐずぐずしてるとかっさわられるよ?)
(いいの! これでいいの!)
クラスメイト達はからかってくるが、誰が何と言おうといい思い出だった。
クロリスにも話したが、アレがベストであろうし……。
「大和~~! 会いたかったわ~~! ねえ、ねえ! 日本のお土産、買ってきてるでしょ!? ちょうだい、ちょうだい!」
「教室に持ってくるわけねえだろ? あとで渡すから待っててくれ」
「そんなイケずなこと言わないでよ~~! 今から取りに行ってよ~~! 私の年末年始、想像できる? 毎年と同じでお家の行事に参加させられるし、退屈なあいさつ回りもすることになったし、かと言ってちょっと年上のお姉さんたちからはね……『え、日本のゲームにハマったの? それなら私のコレクション観る?』 って、激レアなグッズとかトレーディングカードのコレクションとか見せられたの~~! 自慢されちゃったの~~!」
「お前の親戚には、トレカをコレクションとして集めるタイプの人が居るのか……俺のそばにはいないから新鮮だな……」
「私も自慢できるコレクションが欲しい~~! 日本に行って、カードショップとか中古ゲームショップとか行きたい~~!」
「なんか目的すり替わってないか!? あとカードなら通販で買えるだろ!」
「そういうのは嫌~~! 日本に行って、自分の目で見て買いたい~~!」
ランパデスのオルプネは、猛烈に間合いを詰めているが、完全に逆効果であった。
一挙一動が、一々大和をうんざりさせている。
(ライバルになりそうな子が、自滅してるし……)
別種であり同性であるヒュヘルムネーの眼からしても、オルプネはとても美人だ。
だがそれを台無しにするほど品がなかった。
ここから彼女がなにがしかのきっかけで大和への愛に目覚めても、大和が彼女を許すことは無いだろう。
まして大和が彼女を意識するなど……。
(そもそも一緒に居たくないタイプだもんね。クロリスの方がずっと強敵だよ)
ヒュヘルムネーは少し負けヒロインのような油断をしていたが、それなりに正確であった。
この流れで恋仲になるなど、それこそフィクションであろう。
こういうタイプのヒロインは実在しないからいいのであって、実在したらただうざいだけだ。
(あとはエコーだけど……そもそも大丈夫なのかなあ?)
ヒュヘルムネーは思い出す。
新出島で見たエコーや、テレビで見たエコーを。
どう考えても食べ過ぎであった。
あの食生活を続けていたら、健康を害するほど体形が変わってしまうだろう。
そのような心配をしていると、教室のドアを開けてエコーが入ってきた。
「大和……大和……」
「え、エコー……え、エコー!? おい、大丈夫か!?」
大和が絶叫した。
他のクラスメイトも絶叫した。
彼女が日本に行くと聞いて、他の生徒たちも『太って帰ってくるかな?』とか思っていたのだ。
彼女はかなり痩せていて、顔からは生気が抜けていた。
もうぶっちゃけ、相当不健康であった。
「日本に行ってね、すごくすごく刺激的な時間、食生活を過ごしたの……想像以上に楽しかったわ……どの飲食店に入ってもそれなりに美味しかったし、適当な食材店に入って適当に商品を買って調理しても美味しかったし、オレイアデスの有名シェフが経営しているレストランに行ったら最高の時間が過ごせたし……とにかく最高に楽しかったのだけど……だけど……年始には帰国することになってたのよ……!」
「……ああ、まあ、そりゃな」
大和たちは年始を過ぎた後もギリギリまで日本にいたが、エコーやその両親はその限りではなかったらしい。
「ご当地グルメを巡る旅も途中で終わっちゃったし……全国どこでも食べられる定番料理すら食べ尽くせなかったし……。とにかく、何を食べるにしても、どれだけ最高の料理を前にしても、食欲がわかないというか、食指が動かないというか……」
ーーー日本の外食の定番と言えば、ラーメンやカレー、牛丼であろう。
それを最高品質まで追求した物を、食べられるとしよう。
もちろん多少のバリエーションはある。付け合わせなどもある。
そりゃまあ、おいしいと思うに違いない。
だが年がら年中それだけだったら、そりゃどうしても飽きてしまうだろう。
オレイアデスの食事事情とはそういうものだった。
だが日本ではそういうのがない。
満足できる品質で、毎日違う物を食べ続けることができる。
一度食べれば満足というモノだけではない。また食べたいな、と思える物が毎日追加され続けるのだ。まだまだあるぞと言われ続けたのだ。
そんな快感を彼女は知ってしまった。
「大和……こうなったら、私は、また、日本に行くしかないわ……今度の春休み、私を連れて行ってちょうだい!」
「その前にカウンセラーとか病院とかに行った方がいいぜ……」
大和はプロにお願いすることをお勧めするのだった。
「オレイアデスのお医者様に境遇を話したら、その人もよだれを垂らして……日本で言うところの深夜の飯テロみたいになって……」
「じゃあ別の種のプロに頼もうぜ!? 心身ともにさあ!」
体重の急激な増減は肉体に負荷がかかる。
そのことを心配するのは、大和だけではないのだった。
※
一方そのころ、ナパイアイのクロリスは……。
寮の自室で、全力の演奏を行っていた。
始業時間ギリギリまで、満足のいくまで演奏をするつもりだったのである。
ゲームの主題歌やBGM、ライブで聞いた曲など、日本で『体験』した音楽のメドレーであった。
以前から彼女が得意としていた曲ばかりであったが、今はより一層の情念が含まれていた。
彼女なりのアレンジが入っているのだが、それは過剰にならず、あくまでもオリジナルを保っていた。
もしもこの場に彼女と同じ部活動の子がいれば『日本に行ったらもっと上手になれるの?』と聞いてしまうほどの上達ぶりであった。
なお、それを言われたら彼女は『そんなわけあるか、音楽を舐めるな』とガチギレして、詰めていくだろう。
それぐらい逆鱗を突く言葉であった。
とはいえ、実際に彼女は音楽を楽しんでいた。
以前よりもより一層、素晴らしい演奏ができるようになっている。
彼女の日本初体験は、想像した通りであった。
期待外れなことは一度も起きなかった。
名曲を内包するゲームは想像通りに素晴らしいゲームであった。
自分が憧れていたレジェンドは本当に熱狂させてくれた。
音楽の国日本は、自分では遠く及ばない、素敵な音楽を体験させてくれる国だった。
そんな国に行けた自分は、本当に幸福であった。
だが、まだ足りない。
ヒュヘルムネーや芦原一家の付き合い云々をぬきにしても、時間が足りなかった。
自分は最善を尽くした。
それでも味わいきれなかった。
だからまだ行きたいのだ。
それを含めて、自分は最善を尽くした。
(テレビのCMですら、目を見張るほどまとまった映像作品になっていることがあった……やはり日本人は凄い。短い時間のなかで妥協するのではなく、短い時間の中だからこそ詰め込もうとする。ううん、いい時間だった……最高の日々だった。また、また……次の長期休みに備えて、大和とは仲良くしたい。いや、そうじゃないか)
純粋な消費者である大和に対して、クロリスはきつい感想を抱かない。
そんな彼やヒュヘルムネーとの旅は、彼女にとっても悪くない体験だった。
(彼とヒュヘルムネーは、もう友達よね)
楽譜、蓄音機、楽器。
およそ音楽に埋め尽くされた彼女の部屋の中に一つ、音楽と関係ない小物があった。
買ったばかりの写真立てには、一緒に日本の着物を着てポーズをとっている三人の姿があったのだった。
ひとまずコレで終わらせていただきます。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。




