留学生たち
日本という国家が国土ごと別世界に転移する。
創作物ではよくある話であったが、実際に起きたときにはたまったものではなかった。
多くの人々が創作物のテンプレのように混乱し、政府もどう対応していいのかわからずパニック状態であった。
ただ創作物と違ったのは……。
この手の転移物ではお約束の仮想戦記にはならなかったということである。
日本が転移した先の世界には人間以外の種族が国家を作っており、当然国家間での戦争も起きていた。
だがそれでも『とある事情』により、日本は他国から戦争を仕掛けられず、逆に戦争を仕掛けることもできなかった。
幸運にも、世にありがちな『科学万能』『科学>魔法』『野蛮な侵略国家に対する日本無双』な展開にはならず、比較的平和な国交を重ねていった。
平和な時代は続き、もはや地球という星で生きていた世代は亡くなってしまう。
異世界という言葉が『海外』と同義になった時代。
そんな世を生きる少年の物語である。
※
動物でありながら光合成を行う神秘の種族、ドリュアデス。
彼らの国には多くの種族、多くの国家から留学生を募集している特別な学校がある。
アレクサンドロス学園。
すべての種族にすべての知恵を、一つの学校にすべての本を。
そのようなキャッチフレーズの元に、諸国に対して門戸を開いて積極的に留学生を募集している。
もちろん一番多い種族は現地の民であるドリュアデスだ。
それでも半数は他の種族であり、誰もが机を並べて勉学にいそしんでいる。
この世界で最も進んだ学問を提供しているというこの学園であるが……。
夏季の長期休暇も存在している。
沢山ある教室の一つ、高等部の一般クラスの一室でも、夏休みをどこでどう過ごすのか話題になっていた。
学校に通える生徒なので、当然ながら生徒の大多数は富裕層の子供である。
その話す話題も、家でおとなしく勉強をする、というインドアなものではない。
どこに旅行に行くのか、という話題で持ちきりであった。
「去年はアルセイデスの国に行ったんだが、アレは酷いものだった。ドリュアデスには耐えられない環境だったよ」
「そんなに違うのか? この国と同じで緑豊かな国だと聞いたけど」
「マナの質が全然違うんだよ。だから動植物や環境も大きく違う。愚痴も兼ねてそのことをレポートにまとめたら金賞を取れたけど……もう二度と行きたくないね。だから今年はナパイアイの国に行こうと思っている」
「君は好奇心旺盛だなあ。俺なら初めての国外旅行で失敗したら、もう二度と国を出たくなくなると思う」
「それはそれでいいじゃないか。別の国に対して変な期待や偏見を持たずに済む。だから若いうちにいろいろめぐるべきだと思うんだよ、ボクはね」
「去年行ったネーレーイデスの国は素敵だったわ~~! だから今年も行くのよ!」
「ええ? 一応聞くけど、同じ島? 別の場所をめぐるのよね?」
「いいえ、今年も同じ島に行くの! だって、あの人と約束したんだもの!」
「男目当てじゃないの……」
「いいじゃないの! ネーレーイデスとナーイアデスは混血が多いんだから!」
誰もが楽しそうに話をしている中で、一人の男子高校生はむすっとした顔をして『世界の名所』と書かれた本を恨めしそうに読んでいる。
彼はヒューマン。日本人と名乗る種族だ。
遠く離れた日本という国で暮らしていて、別の場所ではめったに見かけない。
国際色豊かなこの学校においても、彼……芦原大和以外は一人もいなかった。
そのような彼が不景気な顔をしているので、クラスメイトである女子が声をかけてくる。
「あらあら、大和君。旅行の本を読んでどうしたの。地理や世界史の勉強? 長期休みを前に熱心ねえ」
「そんなんじゃないよ。クラスのみんなが旅行旅行と楽しそうに言っているから、俺も旅行が出来たらなって考えているだけさ」
彼女はランパデスという種族のオルプネ。
寒色を基本とした体の色をしており、髪も瞳も肌すらも暗い色をしている。
一方で表情はとても明るく、陽キャラともいうべき雰囲気を放っていた。
「この世の中には翻訳魔法もワープ魔法もあるんだから、行きたいところには好きなように行けると思っていたのに……実際にはワープをするのも『便』があって時刻表付きと来たもんだ。ゲームみたいに個人が好きなタイミングで好きな場所に行けるわけじゃないし、結局有料だから金が要る……現実は残酷だぁ」
「誰もが好き勝手にワープできるようになったら、それはそれで問題だと思うけどね。それに宿泊したり食事をするにはどのみちお金がいるでしょ」
「まったくだ。調べたら目玉が飛び出るような金額が必要だって聞いて、俺も速攻で諦めたよ」
「それじゃあ夏休みの間はずっと学校の寮に泊まる? それとも近くの街を回ったりするの?」
「いんや。実家に帰る。留学させてもらっているんだから、ちゃんと感謝を伝えに来いって手紙に書いてあった」
「ふうん、私と一緒ねえ……」
オルプネは少し考えた後、大和に提案をする。
「貴方の実家は日本よね?」
「もちろん」
「私も一緒に行っていいかしら?」
「……はあ?」
如何に種族が違えども、学生で、異性で、実家に連れていく。
個人的に仲がいいわけでもない相手からの要望に、度肝を抜かれている。
「私も実家に帰って来いって言われているの。でも私は貴方と違って、おとなしく実家に帰る気は無いわ。だけど貴方が想っている以上に、私の実家は面倒が多いのよ。だから私が変なところに逃げたら、どんな魔法を使ってでも追いかけてくるわ。でも日本ではマナが無いから魔法も使えないんでしょ? 追いかけてこられないじゃない!」
「いやまあ、確かにそうだとは思うけども……俺の故郷って、面白くもなんともないぞ? 日本はどこに行っても同じようなもんしかないし、暮らしているのも日本人だけだし、魔法もないし、島国根性の奴ばっかりだし……退屈だと思うけどなあ」
「面倒なのよりはいいでしょ? それに、話のタネにはなるし」
「今実家に帰ったほうが面倒がないと思うけどなあ……」
「そこをなんとか! お願いよ~~!」
結局押し切られてしまい、大和はオルプネを日本へ連れていくこととなったのだった。




