子供の成長は早い
竹下と別れた俺はバニシングで魔王城に向かった。城門の前の竜騎兵は今までの対応とは180度違い、俺を見るや否や敬礼をして出迎えた。
「井上様。よくぞお越しいただきました。魔王様がお待ちです。」
竜騎兵に連れられ、魔王の間に向かった。廊下をまじまじと見たことはなかったが、天井が死ぬほど高かった。そりゃあ10mの魔人が歩いたりするから当然か。魔王城自体高さはあるが飾り付けの類は一切なく、非常に無機質なのは文化の違いだ。
「エマちゃんお久しぶり。元気だった?」
「井上か。相変わらず乞食みたいな恰好をしているんだな。」
「悪かったな。竹下からいろいろと聞いたよ。長いこと留守にして悪かった。」
「そういえば竹下はどうした?一緒じゃないのか。」
「竹下は人間軍に合流したよ。これから戦争が始まるんだろ?」
「そうだ。天然ものの人間を狩って食らいつくすジビエ大戦争だ。お前も当然参戦するだろ?」
竹下は個人の性癖によるものかわからないが、この戦争に相当入れこんでいた。しかし、俺は元来平和主義だ。
「できれば参加したくないなあ。」
エマちゃんは横にいた小魔王に向かって話しかけた。小魔王と言っても高校生くらいには見えた。
「お父さん、弱虫でちゅね~。雑魚でちゅね~。」
少しムッとしたが、その小魔王に目が行った。
「その子が俺の子供か。娘・・かな?名前はなんていうんだい。」
俺はその子に話しかけたが、無表情で無視された。
「名前はまだない。お前に付けてもらおうと思って。」
俺は驚いた。
「え、今いくつだよ!」
「えーともうすぐ20歳かな。」
「もういい年齢じゃないかよ。」
エマちゃんと会話のやり取りをしていたら、その子が初めて口を開いた。
「お父さん、どうでもいいから早く名前つけてよ。」
「うーん、名前って難しいんだよな。画数とかあってさ。」
「そんなんどうでもいいから。」
ここまでせかされて自分の子の名前を付けることになろうとは。
「うーん、エマニュエーレ公、ヴィットーリオエマニュエーレ二世、グスタフ・アドルフ、エカテリーナ二世、ヴィルヘルム二世、ホーレンツォレルン家・・・」
俺はそれっぽい世界史の登場人物を挙げて考えた。エマちゃんがイタリアっぽいから娘ちゃんはドイツっぽいのがいいかな。
「じゃあ、ツアレとかどうかな?」
「いいよ。私は今日からツアレ。」
相変わらずの無表情ぶりだ。
「ツアレちゃん。名付けがすんでよかったでちゅね~。」
エマちゃんは相変わらず赤ちゃん言葉で話している。
「魔族は寿命が長いんだろうけど、もう20歳だし、大人扱いしてもいいんじゃないか?」
エマちゃんはきょとんとしていた。
「だって、お前の世界では子供にはこうやって接するんだろ?違うのけ?」
また謎の異世界情報を鵜呑みにしていた。
「そうゆうふうにちやほやするのは幼児までだよ。ツアレはもう立派な大人なんじゃないか?」
「そうかな。」
「サーチングしたけど、レベル150もあるよ。とっくに父を超えている。」
「そうか、父の屍を超えていけってことだな。」
どうも話がかみ合わない。
「とにかく一家そろったし団らんでもしようよ。」
「そうだね、一家揃ってノクタンで開催中の裸祭りに参加しようか。とても楽しい戦争になっているみたいだよ。」
エマちゃんはウキウキした声で浮かれていた。
「だから参加したくないって言ってんじゃん。」
俺は全力で反論したが、その言葉も丸っ切り聞いていない素振りで、エマちゃんはニヤっと笑った。
「女神の称号『マサユキの討伐者』をぶら下げてこの世界に入ってしまったんだ。場所はわからないまでも、この世界に入ったことは認知されてしまったと思うよ。」
しまった。下手こいた。竹下が言っていた輻輳とは別の怪電波があったのか。こうなったら俺は確実に魔王側で参戦しなければならない。やるからには徹底してやりたい。一思案してエマちゃんに話しかけた。
「帰ってきて早々、悪いんだけど一旦元の世界にもどっていいか?魔王軍の援護方法をひらめいた。次の攻撃目標はどこだ?」
「ノクタン攻略後はカケル王国だ。何をするつもりだ。」
「カケル王国に質量爆撃を仕掛けてやる。元の世界の建物ごと化外爆弾をバラまいて都市を壊滅させる。その間に進軍するとよい。」
「おおお、すごいこと考えるな。まあ、時間はあるから何日かゆっくりしていけ。念話スクリーンをつかって一家だんらんで裸祭りの観戦でもしようよ。」




