「パ」ニシング
竹下はワームホールを抜け、板橋区のとある一画にある空き地の穴から顔を出した。穴の先はプレハブ小屋の中に繋がっており、組織の人間が待機していた。
「竹下さん、お疲れ様です!さっそく本部に向かってください。」
竹下は民家に止まっていたランクルに乗せられ、霞が関に向かった。
会議室には金子、俺、五木が待機していた。報告を受けた俺らは、皆意外な顔をした。全員の思いを代弁するかのように、金子が口を開いた。
「竹下さん。お疲れ様でした。相当早かったですね。死体回収からまだ1時間位しか経ってないですよ。」
「そうすか?一応やることはやってるんですけどね。」
「じゃあ些細報告願いましょうか。」
竹下は、魔族と人間の戦争が始まっていること、女神に勇者にされたこと、バニシングが使えたこと、無事魔王に会えたこと、魔王とのビジネスのことなどを細大漏らさず報告した。
「懸案の通り、老人比率が多いことに不満をお持ちでした。しかし、そこまで大きなものではありませんでした。向こうの判断基準によると上物10%、通常物40%、不良品50%とのことでしたが、不良品は不良品で使い道があるそうです。」
「ほう、使い道ですか。」
「他の家畜の飼料の他、魔改造して戦争の道具にしたり等使い道があるそうです。胃ろうの寝たきり老人なども結構送りましたが、異世界転生すると立って歩ける様になるそうでした。もっとも、自我は崩壊しているのですが。」
「それは素晴らしい!この世界で税金が垂流されて生かされている老人でも、他の世界では役に立てる。これほどの社会貢献があるでしょうか!」
金子は手を叩いて笑っていた。そのアクションへの相槌はそこそこに、竹下は報告を続けた。
「上物については『原初の5人』が最高ランクだそうです。」
「原初の5人とは杉下たちのことでしょうか。」
「そうです。杉下さんには直接会いました。自我は崩壊していましたし、女体化やクローン化で既に5代目みたいでした。」
「最初の5人はレベルも高く、やはり質が良かったんですね。我々も最初の物を超える商品も提供しなければなりませんね。五木さんなどを提供したら向こうもさぞお喜びでしょう。」
さやかはその言葉を聞いて戦慄していた。気の強いさやかがここまで怯えているのを俺は初めて見た。
「冗談ですよ。安心してください。それか、井上さんでもいいですね。もはや竹下さんはバニシングを習得された。井上さんの上位互換です。井上さんは用済みでは?」
金子はいつもこういうブラックジョークを飛ばす。こんなことは想定内だ。
「いま竹下君をサーチングしましたが、バニシングは習得してないですよ。」
竹下は意外な顔をしていた。不満が顔に出ていたので、言葉を添えた。
「組織が作ったその、能力測定機で測定してみるといい。」
竹下はすかさずタブレットを取り、必死に叩き始めた。ステータス画面には「破邪の一撃」の下に「バニシング」と記載されていた。
「井上さん、ちゃんと習得しているじゃないですか。」
「文字をよく見てみろ。」
竹下は改めてタブレットを凝視した。そして違和感に気づいた。
「『パ』ニシング・・」
「そうだ。試しにこのAirTagにバニシングをかけてみろ。」
竹下はすかさずバニシングをかけた。AirTagは消えた。
「ほら、消えましたよ!やっぱり俺は使えたんだ!」
「これを見てみろ。」
俺はスマホの地図アプリを見せた。AirTagは八王子にあった。
「嘘だ!俺はちゃんとバニシングを使えるんだ!」
竹下は初めて屈辱を味わったかのように取り乱した。
「お前のバニシングはこっちの世界ではただの転送魔法になっちゃったんだよ。それはそれで便利ではあるが・・。試しに俺にバニシングをかけてみろよ。面倒だから日比谷公園にでもしてくれ。」
「わかりましたよ。バニシング!」
数分後、俺はガチャっと会議室のドアを明けた。
「ほら言った通りだっただろ。俺のバニシングはまだ必要だって。」
格好をつけて登場したつもりだった。しかし、よりにもよって日比谷公園の噴水の中に落とされたので、パンツの中までずぶ濡れで、水草をぶらさげて、カッコつけも何も無かった。




