it'a true wolrd.
魔族は生活習慣や食性が人間と全く違うと聞いていたが、戦争ですらただの流行り廃り、ミーハー趣味だったと知り、竹下は啞然とした。かつてドイツの軍人クラウゼヴィッツは戦争は政治の手段であるといった。国際社会におけるパワーゲームの一手として戦争があるのだ。それを、ハロウィンだから仮装して渋谷に集まって軽トラをひっくり返すみたいなノリで言われても理解できる訳が無かった。
いや、まさにそのハロウィンのノリなんだ。若者達は祭りで、はっちゃけて、ハメを外して暴れまわる。対して警察や行政は真剣な面持ちでバリケードを組み、路上飲酒を禁止し、渋谷に来るな、と呼びかける。この世界ではそういったことが国単位で行われているのである。命を賭けて。
竹下は思わず笑い声が出てしまった。なんてバカらしく、愛らしく、素晴らしい世界なんだろうか。これに比べると元の世界はなんてクソみたいなもんだ。向こうの世界から井上はガンガン豚を送り、魔族がガンガン精力をつけ、ノリでガンガン戦争を仕掛けている。自分はスパイではあるが勇者として受けて立つプレイヤーとして参加できていることを誇りに思った。この世界こそ正しい世界だと呟くんですわ。it'a true wolrd.狂ってる?それ、誉め言葉ね。
魔王は続けて話す。
「信仰のためとか、魔神様のためとか、そういうのはないから。まあ、向こうの女神も一回やらかしてこの世界をグチャグチャにしたからお互い様じゃないの?こっちの空前のジビエブームに付き合ってくれてもいいじゃない。」
「女神のやらかし」とはマサユキ召喚のことだと井上から聞いている。どいつもこいつも、あちらもこちらもみんなアホだ。同じアホなら踊らなきゃ損だ。
「ん、どうした?」
竹下のニヤけた表情をみて、魔王が尋ねてきた。
「いや、とても素晴らしいことだと思いました。文化文明の発露こそ、我々が生きる理由ですよね。ジビエ一大ブーム、大変結構な話じゃあないですか。」
魔王は何を当たり前のことを言っているのだ、という顔をしていた。
「とにかく、今日魔王様から頂戴した要望や苦情を、本社と井上に伝えますので、ワームホールをお借りします。」
「ああ、そうしてくれ。転移魔法陣を敷いておいたからすぐに入れるぞ。最近はワームホールから届いたら直ぐに牧場へ送れるように自動化している。」
「さすがですね。向こうから戻ってまいりましたら、改めて女神側として参戦させていただきます。ジビエ争奪大戦争のゲートキーパーとして、私は手強いですよ!乗るしかないですよね。このビッグウェーブに!」
「おお、ゲーム性がある方が白熱するよね。その時は頼むよ。」
続けて、魔王はずっと連れ歩いていた小魔王に話しかけた。
「この勇者のお兄ちゃん、強いんだって。でも、絶対勝ってジビエをゲットしようね〜!」
小魔王は終始無表情で無言だった。
「その子は魔王様のお子様ですか?」
竹下はあまり余計な話はしたく無かったが、ずっと子供の存在を無視しているのも失礼だと思い、尋ねた。
「そうじゃ。わらわと井上の子じゃ。」
想像もしていなかった言葉が出て、竹下は閉口した。
「そ、そうなんですか。」
引きつった顔で無理やり相槌を打った。井上さん、あなたエルフの長老ともヤって、魔王ともヤるなんてどういう神経してるんだよ。アバドンが井上に様付けしていた違和感がようやくつながったが、頭の整理がつかない。魔王が口を開いた。
「なんじゃ。お主も好き者かえ?アバドンの妹とでもヤるか?身長7mだけど。」
「魔王様、愚妹は婚約しています。勘弁願いますか。」
「ははは、冗談だ。だったら、リリスとはどうか?」
ここは断りたい。
「えっと、その・・」
竹下が断りの言葉を考えている間に、背後から足音がした。
「ご用命いただきました、リリス、只今参りました。」
断ろうと思案していたが、後ろを振り返りリリスと言われる魔族の女の容姿を見て言葉を失った。世界を放浪して様々な女を抱いて来たが、これほどまで心を打つ容姿の者は今まで会ったことがなかった。あの女神すらも凌駕する。
何も言えずにいると魔王からリリスに下命が下った。
「井上が使者、竹下をもてなすように。粗相があってはならない。魔王の名において命ずる。」




