極北道中豚食いねえ
魔王領最北の街、カトルに向かった。
「さあみんな、ベッドに乗って。いくよ〜!」
魔王ローブを脱ぎ捨てて旅支度をした魔王エマちゃんがよく見ると可愛かったので、俺もテンションが上がっていた。ドラ◯エ8のゼ◯カみたいな格好をしていた。
ルカ「いや、いいです。」
エマ「いや、魔法陣があるから。」
「そんなこと言うなよ。旅は道連れ世は情けだろ?距離と方角を教えてくれれば一瞬だよ。」
ルカ・エマ「じゃあそういうことで。」
俺の言葉を無視して二人は魔法陣に入って、行ってしまった。俺は一人、ベッドに身体を結びつけ、指定されたところまでバニシングで飛んだ。
カトルの街で宿を取ったが、魔王領だけあって部屋というよりも牢獄だった。魔王様用の最上級の部屋ですらコンクリ打ちっぱなしのような殺風景の部屋であった。魔王様用の玉座と、無駄に豪勢な俺のベッドだけ目立っている。3人でベッドに座り今後の方針を話し合った。魔王エマちゃんもパーティに加わった訳だが、生活リズムも食性も何もかも違う。ルカがマジックボックスからパンを取り出した。俺とルカはパンをかじりながら、エマちゃんも入れて3人で話し合った。基本パーティ活動の時は移動及び捜索は夕方6時〜夜12時の6時間とし、それ以外は各自自由時間、休憩とした。
「エマちゃんはさ、食事どうするの?」
「案ずるでない。マジックボックスでいつでも取り出せる。」
そういいながら、虚空に出現させた小さなブラックホールのようなものに手を突っ込み人間の脚を引っ張り出した。全身揃っていて、まだ生きていた。しかも見覚えがある顔だ。吉岡だ。
「おい、これ化外じゃないかよ。」
「そうだよ。転生者やエルフなどは食べられたもんじゃないが、化外の者は牧場で養殖してみたら、なかなか美味であることがわかった。雌雄反転の魔法を使ったり、複製魔法をかけたり試行錯誤して牧場で飼育している。おい、豚、暴れるな。」
エマちゃんは吉岡と思われる豚の両足首を掴んで持ち上げ、顔面をコンクリ打ちっぱなしの壁に叩きつけた。吉岡はブヒ〜と言いながら大人しくなった。エマちゃんは首をねじ切り、窓から放り捨て、胴体を生のままガツガツ食べ始めた。
「おい、ルカ、エマちゃん人間を食い始めたぞ!」
「魔族が人間を食べるのは当たり前でしょ。それに化外だし。」
ルカはやたらドライだった。これがこの世界の常識か。自分の食事も終えて何事も無かったかのようにベッドの端で本を出して読んでいる。
「これはお前の世界では『刺身』っていうんだろ?」
エマちゃんは口を血まみれにしながらニタニタ笑った。俺は気味が悪かったが、あの吉岡が養殖されて地獄の苦しみを受けていると思うと、同時に小気味良さの感情が生まれた。復讐して本当に良かった。そう思うと別の興味も湧いてきた。
「これは『吉岡種』という豚だ。他に豚は持ってるか。」
「はいよ。」
そう言ってエマちゃんはあと2体の豚を床に並べた。やはり見覚えのある顔である。
「これは『古田種』、こっちは『今井種』だ。この3種のうちどれが一番美味い?」
「うーん、やっぱり『今井種』かな。」
「やはりそうか。レベルが一番高いからな。」
「レベル?」
俺は後ろを振り返った。ルカはベッドの端に座って読書を続けている。ルカに気づかれないようにエマちゃんの肩を抱き、耳元で小声で話した。
「実はこれらの豚は俺が俺の世界から輸出したものなんだよ。訳あって女神に禁止されてしまったのだが、今回のミッションが終わったらもっと質のいいものを斡旋するよ。」
エマちゃんの目が輝いた。
「本当か?もっと美味い豚はいるか?」
「おそらく高レベル個体はもっと美味いぞ。魔族の食料事情も改善すると思うぞ。」
「ほんと?やったー!」
「ちょっと大声出すな。ルカを通じて女神にバレたらヤバいからな。」
コソコソ話をしながらルカの方を見たが、こっちには何の興味もないように本に目を落としている。
「向こうの世界で俺がバニシングを使うとして、どうやって女神の目をかいくぐるか、二人で考えよう。おそらく時空の裂け目にヒントがあると思う。女神ですら見つけられないんだからな。」
「ヒヒヒ、お主も悪よのう。」
エマちゃんはまたどこかで仕入れた向こうの世界のセリフを吐いた。




