緊縛の貴公子
どうせ買うなら良いベッドがいいと思ったが、化外の村には寝具屋がなかった。昔に比べだいぶ発展しているが、専門店の出店は無いようだ。伊豆諸島みたいだな、と思った。そもそもこちらの通貨も持ち合わせていない。
「あのさ、長老、オアシス都市行かない?」
「なぜじゃ。ここからの方が魔王城は近いじゃろ。」
「あと、その老人口調やめてもらえないですか。」
「要求の多いやつじゃな。強欲の女神の加護でも貰ったか。」
「長老、またわけわかんない女神の名前を出すのやめてよ。そんなにたくさん女神っているもんなのかよ。」
「女神は後にも先にもあのお方一人じゃ。他にはおらんよ。担当が多くて大変よのう。お主も、『長老』というのはやめてほしいんじゃが。」
「確かにそうだ。ルカとか委員長とか呼べばいいか。」
「委員長はよせ。マサユキを思い出して吐き気がする。ルカもそうじゃが、それは演技にほころびが出ないよう本名を使ったからな。仕方ない。」
「俺は偽名の鈴木で通したけど、元の世界でマサユキに遭遇した際も『鈴木』って呼ばれたよ。今思えばあいつはカンが鈍くていろいろと助かったな。」
「そうじゃな。話がだいぶ脱線しとるな。ノクタンへ行く理由を問うておる。」
「ほら、ルカ、口調!ババアのままだぞ!オアシス都市・ノクタンに行く理由はまあ、あの街の発展具合を確認したいというか。」
長老改めルカはまた俺の思考を読む目線をぶつけてきた。
「ベッドじゃな。いや、ベッドだな。やましいことを考えてまったく。君って人は。」
長老改めルカの口調がマサユキ討伐の時に演技した委員長のものになった。いい。これはいいな。おっとまた心を読まれちゃ困る。会話を繋ごう。
「それは隠しようがないね。とにかく旅は快適にって言うじゃない。」
「ベッドは乗り物じゃないけどね!それよりそもそもノクタンまでも結構距離あるよ。」
「ルカは何でも収納できるマジックボックス的なやつ持ってただろ。その中にロープとか板とか無いのかよ。」
「あるよ。」
「じゃあその板に俺を縛り付けてくれ。」
「分かった。」
ルカは何か詠唱を唱えるとロープが踊りだした。ロープは宙に浮き、俺をその取り出した引き戸のような板に縛り付けた。
「準備は万端だよ!すぐ板にバニシングかけて!西南西25キロsin1°」
ルカがやる気になってよかった。じゃあお言葉に甘えて。
「西南西25キロsin1°!バニシング!」
術をかけてからハッとした。俺が消える間際、ルカが笑顔で手を振っているのが見えた。
オアシス都市・ノクタンの城門前に俺は転送された。板と共にバタンと倒れ、俺は仰向けになった。ロープで雁字搦めに縛り付けられているため、身動きが取れない。
「おーい!門兵!助けてくれ!」
ノクタンの街には門兵がいたはずだ。しかし、いるはずの門兵は返事をしなかった。俺の横を街に入る人間がクスクス笑いながら通り過ぎる。
「誰でもいいから助けてくれよぉ!」
俺は通行人にクスクス笑われながら、またニヤニヤした笑顔を向けられながら晒し者になった。懲りずに叫び続けたが、ここは砂漠地帯だ。灼熱の太陽と地熱によってじりじりと焦がれ、喉も枯れ果てた。
そんな拷問を受けている最中、顔の横に転移魔法陣が現れた。魔法陣から出てきたのはルカだ。腹を抱えて笑いながら俺を見下ろした。
「おい、ルカ!なんとかしろ!」
「ごめんごめん。今解くから。」
ルカは魔法をかけ、緊縛を解除した。自由になった俺はルカに怒りの矛先を向けた。
「おい!転移魔法を持ってるなら先に言ってくれよ!」
「ごめん、ごめん。邪悪な考えを察知したからいたずらしちゃった。」
テヘペロ顔された。俺も溜飲を下げざるを得なかった。
「しかしどいつもこいつも俺を見せ物のように俺を見ていた。俺は一応マサユキを倒した勇者ってことになってるんじゃないのか?」
「この国の風習では罪人は晒し者だからね。罪人に見えたんじゃないの?人相良くないし。」
「ちょっとちょっと、もう少し勇者井上を知らしめといてくださいよ!田中と待遇違いすぎるよ!」
ノクタンの街は目を見張るほど発展していた。女神の加護に加え魔王領とも交易をやり始めたおかげか、もともと豊かだった街がさらに豊かになっていた。中央広場に向かって東西南北に大通りが走り、商店がずらりと並んでいる。海も無いのに貿易都市として発展しているようだが、それは砂漠を走る巨大高速船が開発され物流が大幅に強化されたとのことだ。
俺はルカに屋台でケバブ的な軽食を買ってもらい、中央広場に食べながら向かった。中央広場には巨大な銅像が3体立っていた。よくよく見ると、2体は田中とルカのようだ。
「『三英雄の像』だよ。数年前まで中村がこの街を統治していたけど、その時に建立したと聞いている。」
「するとこのもう一人は中村か。それにしては似てないな。」
「あんただよ。最初は4英雄にしたいという民衆の要望だったが中村が固辞したらしい。」
「俺かよ!だいぶ美化されすぎじゃないか?」
「それは仕方ない。彗星の如く現れ、悪魔の賢者と魔王を撃退し、また彗星の如く去っていった幻の勇者・井上、ということになっている。」
「」
なんもいえねぇ。もう少しこっちの世界でも特別扱いしてもらっても良いんじゃないのと思っていたが、逆にここまで最上級の特別扱いされていたら、「僕が勇者・井上です。。」なんて出ていくことはできない。出ていったところで、「こんなおっさんが勇者なわけない」って相手にされないだろう。そんなことよりベッドだ、ベッド。
「おい、ルカ。そんなことより寝具屋だ!」
「まだベッドにこだわってるのか。私が転移魔法を使えるのに?魔王城の座標も知っているのに?」
ぐ、論破されそうだ。考えろ、考えろ。
「転移魔法は行ったことのある場所しか行けないって聞いたことあるぞ。ルカは魔王城に行ったことあるのか。」
ルカは黙り込んだ。これはビンゴだ。
「やっぱりそうなんだな。じゃ俺のバニシングに頼るしかないじゃん。」
「・・そうだね。」
「ちょうどあそこに家具屋があるな。」
家具屋に入り開口一番、俺は店主のおっさんに元気よく話しかけた。
「おっさん、新婚夫婦用のダブルベッドはないか?」
「ちょ、新婚じゃないわよ!」
すかさずルカが反論する。ルカの姿をひと目見、店主は恵比寿顔になった。
「これは英雄ルカ様じゃないですか。当店にお越しいただきありがとうございます。長い年月をかけてお眼鏡にかなう伴侶をお見つけなされたんですね。」
「だから伴侶じゃないって!」
店主はルカの言葉を無視し、ホクホク顔で店の奥に案内した。こいつ、なかなか商魂逞しい。
「こちらが当店自慢のダブルベッドです。」
「よし、即決だ!これをくれ。いくらだ?」
「ちょっとあんたお金持ってないでしょ!」
店主はニコニコ顔で答えた。
「いや、お代は結構です。英雄様のご新婚家庭に納品されたとあれば良い宣伝になります。今後もご贔屓に。」
ルカはため息を一つつき、口を開けた。
「仕方ない。じゃあ今からベッドに乗ろう。その前に。」
ルカが小声で何か呟いた。すると先程みたロープが今度は高速で動き出し、一瞬で俺を亀甲縛りにした。
「ちょっ、えっ、あ?」
「あんたもこれを望んでたんだろ?じゃあ私もベッドに乗るから、早速魔王城へレッツゴー!」
縄が食い込む〜!ご丁寧にも要所要所を玉結びにして身体の圧迫感を向上させている。こいつロリ顔のくせにSだったんか!あ、また新しい性癖が開花しそうだぞぉ〜!
「ほら、早く唱えろよ!豚野郎!」
「は、はい。英雄様。バニシングぅぅ〜!」




