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ツァラトゥストラはもはや語らない  作者: 伝説のPー
第二章【自由の象徴】──第二部【北の花園】
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33. 花紅柳緑を愛するうら若き乙女

 ──統治者は民草に礼を欠いてはなりません。民は命であり、草は豊かさの象徴。マルタ、あなたなら、きっと立派な領主になれますよ


 母様……? わたしは……本当に…………?


「……、! ゆめ、かぁ…………」


 バクバクと心臓が早鐘を打っている。

 冷や汗は止まらず、毛布には横になっていた形のままくっきりと痕が残っている。

 耳鳴りに、吐き気が止まらない。


 またか、と。

 溜息すら吞み込んで、鉛のように重苦しい身体をやっとの思いで起こす。

 悪夢ではない。

 吉夢でも、ない。

 度々、わたしは母様の夢を見る。

 いつからかは定かではなく、聖母のように優しく、規律と秩序を愛して、そして誰よりも厳しかったレイラ母様を、わたしはきっと恋しがっているんだろうと。

 母様から父様や兄様たちの補佐役を引き継いで三年になる。

 艱難辛苦なんて可愛くみえる多忙の中で、二十年に渡ってリヴァチェスター領を陰ながら支えてきた母様の偉大さに気が付いた。

 父様の顔に泥を塗らないように人道から逸れた政策を修正する。

 領内の資産家や東側領土の皇帝の顔色を伺いながら、四方八方の利害を折衝する。

 得られるのは民の幸福と、より大きくてリスクの高い新しい政策。

 大変な仕事だと思う。

 精神をすり減らしてまで成果を挙げても褒め称えられる訳でもなく、一つでも歯車を掛け違えると途端に全責任はわたしの両肩へと押しかかる。

 わたしの首一つで賄える失敗ならばまだしも、領民の生活や命に直結すると考えるだけで寒気が止まらない。

 決断一つ、言葉一つ、仕草一つとっても油断ならない。


「マルタ様、朝食の準備ができました」


「……ん、ありがとう。すぐ行くわ」


 扉一枚隔てた廊下からメイドの声が聞こえる。

 毎朝父様に詰られて、バルムス兄様から下品な視線を投げかけられても職務を全うする。

 この屋敷に使えるメイドたちには感謝してもしきれない。

 わたしたちは彼女たちに支えられて成り立っている。

 身の回りの世話から、家事に、雑事。

 ただでさえ、首の回らない業務が累積している中で身辺などに構っていられない。


「さて、着替えましょう」


 勝手知ったる執務室兼自室のフローリングをのたのたと歩き、クローゼットまで何とかたどり着く。

 薄い赤のネグリジェを脱ぎ捨て、韓紅色のパンツに脚を通して白色のニットを亀のように緩慢に着る。

 極めつけは幾重にも連結した髪飾りを、冠のようにミディアムの髪に留める。

 全身鏡にはマルタ=ノヴゴロドが写っている。

 よし、大丈夫。

 今日もわたしはわたしだ。


 ふと視界の隅に机の上に散らばった書類が止まる。

 そこにはラヴェンナ商会との契約が踊っていて、几帳面で丁寧な文字からはアナスタシアの性格がよく分かる。

 昨日の談合は非常に実入りのある対談だったと思う。

 蒸気機関の改良案も、工業利益の算出も、利潤の展開だって、真新しく斬新な手法ばかりで思わず唸ってしまった。

 停滞しつつあるリヴァチェスター領の工業に光明が指したようにも感じた。

 だから、わたしは代表本人と直接会ってみたいと思えたのだ。


「かっこよかったな…………まるで母様みたい」


 凛とした眼差しに、艶美と清雅を体現したかのような佇まい、よく通る滑らかで儚げな声色。

 そして、何よりあの自身に満ち溢れギラギラとした気迫。


 アナスタシア=メアリという女性に、わたしは惚れ込んでしまった。

 ただ利益を追求するだけではない。

 彼女と道程を共にしたいと、そう思わされる抗いがたい魅惑。

 成程、あの理想主義で有名なフォルド領領主の後ろ盾を得られた理由にも合点がいく。

 人を誑し込む魅惑的な力が、彼女にはあったのだ。


「きっと、いい方向へ転がるはず……転がさなきゃいけない」


 一体何をとち狂ったら彼女の要求を突っぱねられるのか…………正直、父様の考えにはついていけない。

 けれど、領主はフェイラー父様だ。

 領主の決定は絶対で、だからこそ母様も半端な立場で介入せざるを得なかった。

 なら、わたしは。

 領主ではなくともわたしは。


 誰よりも優秀でなくてはならないんだ。





 ❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐






 かちゃりかちゃりと無機質で淋しい音だけが反響する。

 これが一般的な家庭ならば喜色に満ちて談笑と共に一日の始まりを祝福していたことだろう。

 しかし、ことノヴゴロド家に至ってはそうではない。

 幾度となく家族の団欒を切望したか数え切れないけれど、もう諦めた。

 フェイラー父様を唾棄して、バルムス兄様を軽蔑してしまったわたしは、最早二人を血の繋がった親類だとは思えないから。

 コルセロ兄様はそんな二人の顔色を窺うだけで何の行動も起こそうとはしない。


「ふむ、今朝も美味だった」


 まるで一端の貴族のように口元を拭い、厳粛な面持ちで瞠目する。

 また始まった。

 辟易するわたしを他所に、フェイラー父様は低い声音でバルムス兄様と言葉を交わしている。


 わたしたち四人の他には誰一人としていない室内で、何を取り繕う必要があるのだろうか。

 虚勢を張ることに意義はない。

 ただ滑稽なだけ。

 現実と如何に乖離していようと、本人の自由なのだから。

 西側領土に根差している以上、かの皇帝が貴族位を与えるはずもない。

 けれど、フェイラー父様はリヴァチェスター領領主となった時点で、拝命賜ったと頑として譲らない。

 張りぼての仮面を被るだけならばいい。

 フェイラー父様が無様なだけだ。

 問題はその貴族ごっこに財政が圧迫されている点にある。

 資産家や富豪ばかりを招待して夜な夜な行われる社交パーティーに割いている予算は無視できず、血税が湯水の如く浪費される様には沸々と怒りが湧く。

 挙句の果てに、フェイラー父様が財源を確保するわけでもなく、無暗に税金ばかりを徴収する。

 そのくせ、贔屓の資産家連中には免税を強行するのだから、救えない。


 億劫だ。

 これからラヴェンナ商会との契約をそれとなく伝える作業が残っている。

 ある程度の予測は立てているものの、さて、フェイラー父様相手にどこまで既定路線でいけるか。


「フェイラー父様、お時間を頂いてもよろしいでしょうか」


 しんと、空気が凪いだ。

 それもそのはず、わたしが口を開く時、それ即ち女が政策に介入すると同義なのだ。

 フェイラー父様にとっては詰まらない横槍を入れられている感覚だろう。

 経験上、父様に意見を具申しても聞く耳を持たないか、一考するポーズを取るかの二択。

 隠し通してもよかったが、露見した時のリスクを考えると小耳に挟む程度の小話で留めておくべきだ。

 一度、始動させてしまえば、こっちのものだ。


「父様はラヴェンナ商会を覚えていらっしゃいますか?」


「ラヴェンナ…………メアリ家の淑女の件かな」


「え、ええ。アナスタシア=メアリ様の商談です」


「工業を推進する旨の提案書か。画期的が故に記憶に残っているよ」


 何かがおかしい。

 フェイラー父様が覚えていたのは話が早いけれど、あの父様が若干迂遠な提案書を記憶しているはずがない。

 それに、帝国の懐刀たるメアリ家の名を政治に疎い父様が口にするなんて。


「それで、マルタ。きみは何を言いたいのかな」


 思考は後だ。

 とりあえず、今は父様に話を通す方が先決。


「わたしも目を通しましたが、無碍にするには些か惜しいかと思います」


「何をもって、惜しいと」


「革新的な技術、循環させるルート、交易の果てに得られるコネクションです」


「マルタ、きみの意見には頷けよう」


「では……!」


「だが、既にリヴァチェスター領は林業へ舵を切った。今更、工業へと手を回すわけにもいかん」


 それは、勝手に舵を切ったの間違いだろう。

 確かにアデラ・ジェーン山脈から地続きで連なる樹林帯は林業を推し進めるには十分な理由となる。

 けれど、連綿と放置されている理由もまた、存在するのだ。


 第一に、あの樹林帯には様々な生態系の獣が生息している。

 まだ確認段階には至っていないが冒険者ギルドからは数種類の魔獣すら危惧されている。

 数多の生物の棲み処を根こそぎ簒奪すれば、彼らは人里に降りるしかなくなる。

 寒冷地でただでさえ乏しい農作物の収穫にも支障をきたす。

 第二に、人攫いや奴隷商人の通行だ。

 リヴァチェスター領には──シスター・オルメカ曰く──唾棄すべき裏稼業の人間が少ない。

 無論、皆無ではない。

 そんな国があれば併合してほしいものだが。

 とはいえ、他の領土と比較しても規模は小さい。

 あの樹林帯があるからだ。

 アデラ・ジェーン山脈から西側領土へと向かう道すがらに大所帯で悪路を踏破しようなんて物好きはいない。

 証拠として、最も東側領土と地理的に近接しているロンディーン領では意地汚い連中が蔓延っているときく。

 そして、最後に。

 あの地は天神教“カルカジェア派”の聖地に指定されている。

 何でも、『女神』が最期に力尽きたとされる土地らしい。

 シスター・オルメカが胡乱な表情で説明してくれた。

 もし、伐採作業へと本格的に移行してしまえば、カルカジェア派の猛反発に遭う。

 ウェスタ・エール帝国では異端とされるカルカジェア派だが、西側領土ではまだまだ厚い信仰を保っている。

 過度に宗教的な問題は政治と相性が悪い。

 分が悪いのは火を見るよりも明らかだ。


 それでも、フェイラー父様は林業を強行するだろうな。


「父様、領内の工場主の請願はご存知ですか」


「工場主? 知らんな。煤と油にまみれ地を這いつくばる連中など捨て置けばいい」


 それは、あんまりじゃないか。


 彼らだって好きで重労働に身を投じている訳ではない。

 偏に、リヴァチェスターの復興と更なる発展を望んでのことだ。

 労働者は小さくも果てしない作業に従事して、工場主は経営と拡大に苦心している。

 わたしたちと、何も違わない。

 なのに、父様はずっと彼らを目の敵にしている。

 母様がいた頃は鳴りを潜めていたけれど、今となっては弾圧に等しい政策ばかりを押し付けて。


「なんだ、マルタ。父様の決定に異論でもあるのか?」


「いえ、ありません。ただ、温情を与えてもよろしいのではないかと」


「不要だ。出過ぎた真似をするなよ、女風情が」


「よくいった、バルムス。次期領主として期待しているぞ」


 だめだ、堪えろ。

 今ここで喚き散らしても意味はない。

 フェイラー父様とバルムス兄様を蹴落とすのは簡単だ。

 伊達に三年も二人の理不尽に耐えていない。

 汚職の証拠だって山ほど集めてある。

 けど、政戦に発展させてはいけない。

 好機と見た貴族や東側領土の介入を許してしまう。

 長期化すればするほどに、皇帝の目に留まる。

 千余年に渡って守ってきたノヴゴロドの遺志を水泡に帰させてしまう。


 ラヴェンナ商会との商談こそ、わたしの最後の希望だ。

 軌道に乗せさえすればわたし主導で政治を動かせる。

 ある程度の決定権と資産家さえ擁立させてしまえば、二人を閑職に追いやることも容易。

 それまでは、無闇矢鱈に行動することは避けなければ。


 最早、ラヴェンナ商会との連携を父様に承諾はしてもらえないだろう。

 何年かかかろうとも、いい。

 三年間も辛酸を舐め続けてきたんだ。

 あと数年前程度、耐えてやる。


 わたしは、マルタ=ノヴゴロドだ。

 母様や……アナスタシア様のように、毅然と凛然と。

 領民とリヴァチェスター領のために、わたしは力ある限り藻掻くんだ。






 ❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐







 リヴァチェスター領南東部。

 喧騒に満ちた市場を直進すると、途端に静謐だけが耳朶を打つ。

 けれど、耳を澄ますと聞こえてくる。

 蒸気と鉄を打つ規則正しい音が。

 活気はないが、熱気ならある。

 ここは工業区。

 世界に誇るリヴァチェスターの核だ。


 わたしは工業区が好きだ。

 頑固で偏屈だけど、工業に従事する人々には確かな信念がある。

 それは厳しい寒さや苦境に負けないリヴァチェスターの魂と呼べるもの。

 如何に為政者が悪政を施こうと、正義と平等を貫く確固たる信条だ。


「おお! マルタ様! ようこそおいでなさった!」


「お久しぶりです、ニコラウスさん」


 快活で壮快な声色でわたしを迎えてくれたのは工業区に十四ある工場を纏める、リヴァチェスター工業会の会長。

 ニコラウス=ニューコメン。

 統括者として現場には出ない彼だけど、つんと香る油と蒸気の匂いはニコラウスさんが何者かを明確に示している。

 作業着ではなく黒いパンツに白のポロシャツと、フォーマルな格好だ。

 そのままわたしは他愛ない話をしながら、普段彼と密談をする小さな部屋へと入る。


 リヴァチェスターの方針として、工業は勧められていない。

 故に、ノヴゴロドの関係者たるわたしと会話をしている時点で、嫌疑をかけられてしまう。

 それでも、ニコラウスさんはわたしと顔を合わせる。


「それで、マルタ様。どうでしたか?」


 まるで子どもだ。

 期待に満ちた瞳に、幾ばくかの興奮した声色。

 やはり、彼も技術者なのだろう。

 新しい技術の流入に激情を抑えられていない。


「無事にラヴェンナ商会とは契約を締結できました」


「よしッ! あんな革新的な技術をみすみす逃すんなんて耐えられなかったんですよッ!」


「……ですが、フェイラー父様は」


「…………やはりですか。半ば予想していましたがね」


 如実に冷めてしまったニコラウスさんの様子は、却って悲痛だ。

 アナスタシア様の提案書、特に蒸気機関の改良案に太鼓判を押したのは他でもない彼。

 あの斬新なアイデアを発案者に会わせてほしいと何度も懇願する程には、魅了されたらしい。


 だからこそ、表立って工業を推進できない現状に不満が溜まってしまう。


「本当に、何と謝罪したらいいのか…………わたしの至らないばかりに……」


「……! いえいえ、マルタ様。マルタ様は何も悪くありません。貴女のおかげで我々は居場所があるのです」


「ありがとうございます、ニコラウスさん」


「しかし、そうなると難儀ですね。惜しいですが、今回は──」


「いいえ、やりましょう」


「……っ! 正気ですか…………!」


 ああ、驚くのも当然だ。

 領主の許諾のない、それどころか領主の決定に反旗を翻して新しい技術を開発する。

 処罰で済めば御の字。

 下手をすると死罪にすらなる。


 如何にニコラウスさんが挑戦的で、豪快な人であろうと足踏みしてしまう決断だ。

 しかし、ここで露見を恐れて動かなくては早晩、リヴァチェスターの工業は潰えてしまう。

 それだけは、受け入れてはならない。

 この時代まで技術を積み重ねてきた歴史に、唾を吐く行為だ。


「全ての責任はわたしが取ります。ニコラウスさん、これは光明です。目を逸らせない程に巨大な成果を叩き出せば、フェイラー父様……いいえ、領主だって認めるしかありません」


「…………マルタ様、貴女は」


「分かっています。わたしだって、リヴァチェスターの女です。やり通してみせましょう」


「……………………わかりました、こちらこそ協力させてください。マルタ様」


 彼には苦労をかける。

 ニコラウスさんの助力がなければとっくのとうに工場は倒産していた。

 癖のある工場主たちを説得して存続させてきた手腕には、学ぶべき点が多々ある。


「それで、マルタ様。かの発案者の方との面会は……」


「はい、可能な限り早急にセッティングします。アナスタシア様の都合次第ですが、二週間以内には、と」


「おお、それは有り難い。いやね、私だけではなく、他の連中も心待ちにしてしるのですよ」


 がははははと粗暴に笑うニコラウスさん。

 きっと、他の工場主が付き従う理由には、彼のひたむきな性格が影響しているのだろう。

 彼は蒸気機関に興味が尽きない。

 無尽蔵の活力は周囲へ一層の好印象を与えるものだ。


「皆の様子はどうですか? 上達しているといいのですが」


「ええ、羨ましい程に成長していますね。やはり若いからか、吸収が早い」


「そうですか……一安心です」


 工業会と孤児院の長期連携体制。

 どうやら、うまくいっているようだ。

 如何にノヴゴロド家の長女であろうと、わたしのできることは限られている。

 エディンに点在する四つの孤児院に資金提供はできるが、孤児たちが世界へ飛び出た際のサポートはどうしてもできなかった。

 だから、子どもたちに工業区である程度の働きができるように、週に数度研修という形で技術を教えてもらっている。

 その代わりに、慢性的に不足している人手を提供する。

 子どもたちは技術を獲得し、工場は無償の働き手を得られる。

 無論、幾許かの謝礼金は渡しているが。

 それでも、あの子たちがくいっぱぐれることのない“未来”の方が大切だ。


「はははは、マルタ様は何でもお一人で抱え込んでしまうきらいがありますよ」


「ええ、母にも警鐘を鳴らされていました」


 懐かしいな。

 ニコラウスさんとは母様が生きていた頃からの付き合いだ。

 あの時は工業会会長補佐だったけれど、丁度、母様の死去と同時に会長に就任した。

 わたしの三年はニコラウスさんとの二人三脚で進めてきたといっても過言ではない。

 工業会の推薦がなくては、わたしはファルガー領かマルド・プール領へ嫁がされていたことだろう。

 今回の件といい、子どもたちの件といい、ニコラウスさんには感謝してもしきれない。


 ──統治者たるもの、恩には大恩をもって報いなさい


 母様の口癖だった。

 領主は民草の信頼あっての領主。

 決して一人では成り立たない。


 ねえ、母様。

 わたしは、しっかりとできているでしょうか。


「では、ニコラウスさん。次はアナスタシア様と技術者の方と共にお邪魔しますね」


「ええ、お待ちしておりますよ。ああ、それとマルタ様」


「……?」


「我々は、いいえ、我々だけではなく、リヴァチェスターの皆は貴女様に大なり小なり感謝しています。どうか、無理はなさらないでください。私たちは、味方です」


 何と返答したかは覚えていない。

 けれど、つんと目頭が熱くなって、思わず目を逸らした気がする。


 母様、わたし頑張ります。

 わたしに期待してくれる人たちがいる限り、わたしは、頑張ります。


 だから、きっと見ていてください。

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