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ツァラトゥストラはもはや語らない  作者: 伝説のPー
第二章【自由の象徴】──第四部【西の雷名】
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71. 狂気の沙汰

 喧噪はどこの街でも変わらない。

 怒号と歓声の違いはあれど、どの露店の店主も一人でも多くの顧客を得ようと声を張っている。

 店頭に並んでいる商品は獣の肉が多く、店によって加工の違いが如実に表れていて眺めるだけで楽しい。

 西と東で風土や文化の差異が生じる理由はよくわかる。

 アデラ、ワデラの山脈に、ゴ・ジェーン渓谷と東西に分断される地形であるためだ。

 仮にも帝国が統一している現状は、如何に皇帝の権力が強いものか知らしめてくれる。

 宗教一つとっても派閥で分かれ、自給自足の可能な西側に比べて農耕は東側では農業都市マーデンのみ。

 フォルド領の影響か表立っての奴隷売買は禁忌とされている。

 ……おかげで薄ら暗い裏稼業へと流れるのだが。

 とまあ、東西の変容は理解できるけれど。

 西側領土で風土に違いが現れる要因については推測の域を出ない。


 その一つが五領土制に起因するものだ。


 そもそも西側領土は魔族の血の濃い土着の民族やエルシニア人によって開拓されていた。

 そこに、統一天盟歴三百七十四年に勃発したフフェス人指導者モレーによる“モレーの反乱”敗残兵が結託して発展した経緯を持つ。

 同時に、東での権力闘争に敗れた者の左遷先でもあり、流刑されたとはいえ政治に詳しい貴族たちを広大な土地を持て余していたエルシニア人との混血であるタイラー=フィリアが纏め上げた。

 先住民に、“モレーの反乱”に参加したフフェス人、そして、貴族たち。

 更なる争いはどの勢力にとっても不都合でしかない。

 故に、政治に造詣の深いフィリア、ノヴゴロド、コンコート、ランゴバルド、トリエステの五家が均等に領土を分割して統治を開始した。

 四分割統治(テトラルキア)を始めたディオクレティアヌス帝や東西で帝国を分けたハドリアヌス帝と同じ轍を踏むかと思われるが、権力構造の頂点が遠い地の皇帝であるため五家にとっては大した影響力を発揮できない。

 かくして、平和に領土が分割された。

 互いに交易を行い一層の発展を続ける西側領土。

 けれど、統治者が異なれば価値観や常識にも僅かながら差も生じよう。


 それが、市場の差異に反映されていると。


 どうだい? 【運命識士(リード・スペクター)】。及第点はあるんじゃないか?

 え、半分? 何が間違っていたのかな?


「…………だんまりか。己で見つけろとでも?」


「何だ。何かあったのか」


 先導するように前を歩いていたホロウが訝しげに振り返り、ただでさえ不機嫌極まりない表情を更に歪める。

 漆黒の装束の上に紺色の外套を羽織った彼女は、その眼光とオーラだけで『死神』を自然と想起させる。

 まるで彼女の周辺だけ無音の空間が広がっているようだ。

 呼び止めたつもりはないのだが……もしや言葉にでていたか。


「済まない。独り言だ」


「考えごとですか?」


 しゃんっ! と子気味いい鈴の音と共に振り返ったアヤメ。

 巫女服に錫杖、ぴくぴくと小刻みにはねるオオカミ耳と平素の彼女が疑問顔で問い質す。

 どうやら魔法で他者の認識を変えているらしい。


「文化について推測していたんだ」


「文化ですか?」


「ああ。どうした西側領土で文化や価値観に差が出るのか」


「たしかに…………思い返してみると不思議です」


「ふん。そんなもの領主の統治によってかわるだろう」


「それだと不十分らしい。ソースは【運命識士(リード・スペクター)】」


「ちッ……いけ好かない【権能】め」


 おっと。触らぬ神に祟りなし。

 今のホロウは昨日の会合でアヤメに役目を取られたことでむくれている最中。

 下手に刺激すると手痛い八つ当たりを食らうだろう。

 身分上表立って行動できないヨークと彼女の護衛であるネリーアルス、大使館で日々の業務をこなすエンリと、買い出しに行く者が限られている。

 そのため、ボクたちが出向くしかなかったのだが。

 それがホロウの機嫌を加速度的に損ねてしまった。

 吾は雑務で十分といいたいのか、と言わんばかりに。


 こういう時のホロウはそっとしておくに限る。

 鎮静剤(テリア)衝撃緩衝材(アナスタシア)の不在は痛い。

 ボクでは逆効果だし、今回はアヤメが原因でもある。

 彼女ことだ。己で折り合いをつけられるだろうしね。

 ずんずんと市場を進む彼女は目星を付けているのか、迷いなく街道から外れた路地に入る。

 ボクたちは小さくも頼りがいのある背中をただ追随する。


「そういえば、アヤメの故郷の話は聞いたことがなかったな」


「此方のですか?」


「ああ。良ければ聞かせてくれないかい?」


 何を素知らぬふりを続けているのか。面の厚さだけは誰にも負けないようだね。

 エディンでアヤメの過去や素性について隅々まで閲覧くせして。

 さも無知を装って掘り返そうとしている。

 ほら、ボクのことを熟知しているホロウなんて「こいつ正気か?」と言わんばかりに鋭い眼光をくれている。

 …………いや、ただの値切り交渉だった。がんばれ、露店のお姉さん。男女平等を地で行くホロウに泣き落としは通用しないよ?


「……、ロムルスさんはエルシニア人についてどう思いますか?」


「それは漠然とした質問だね」


 殊の外、真剣な話を切り出すようだ。

 煩雑とした路地でする話題でもない気もするが、却ってアヤメにとっては構える必要もなく楽かもしれないな。


「エルシニア人は魔族の末裔と、魔族に協力した人たちの総称なんです…………といっても、ロムルスさんに概略は必要ないですね」


 たははと乾いた笑顔で誤魔化すアヤメ。


「此方もエルシニア人で、魔族の末裔なんです。此方の村では末裔は此方だけでしたけど、みんないい人でした」


 末裔か否か。

 その隔絶は大きすぎる。

 差別され、虐げられるエルシニア人とフフェス人。

 奴隷としての生しか保証されない彼ら彼女らは西側領土では比較的健全な生活を送れている。

 商業の中心地として流通を牛耳っているフォルド領の勅令となればそう簡単に反故にもできない。

 けれど、東側では制約が外れる。

 より苛烈に卑下される身分にあって、魔族の血を引くとなれば弾圧は村や街全体を上げた総力的な規模に上る。

 長年に渡る差別の果てに、魔族の末裔は数を減らしてきた。

 アヤメには酷な話だろうが…………【運命識士(リード・スペクター)】の知り得る末裔は──


「ロムルスさんは故郷の思い出はありますか?」


「……、ボク? ないとは言い切れないけれど。ボクにとっては捨てた記憶さ」


「此方は思い出したくないです」


「無力を振り返ってしまうから?」


「………………ほんとに此方から聞く意味あります?」


「キミの言葉だから意味があるのさ」


 じと──と半眼で責めるアヤメには申し訳ないと思う。

 けれど、その感覚には覚えがある。

 ボクにも救えない人がいて、目を逸らし続けてきた過去がある。

 直視したくないから蓋をしておきたいと願ってしまう気持ちも、このままではいけないと焦る心も。


 共有はできる。

 理解もできる。

 されど共感は、できない。


 ボクが知悉しているのはボクだけの悔悟で、アヤメの後悔をボクは知らないから。


「此方の村は燃やされました。ずっと子どもの頃の記憶なので曖昧ですけど……数日前に商人の人が訪ねてきて。みんな隠していたはずなのに。ばれちゃって」


「無理に思い出せとは言わないよ」


「いえ。全部話します。そうした方がいいって、思うので」


 子どもの頃ね。魔族は長命種だ。

 寿命の長さは魂の質と格に比例するけれど、それでも平均的に百年から三百年を生きる。

 アヤメの村が滅ぼされたのは今から三十年前。当時の彼女は八歳。

 外見は十七程度にしか見えないアヤメだが、現段階でも魔族基準だと少女の区分なのだろう。


「思い出したくもないし、覚えてもいないんですけど。エルシニア人だってだけで、何も変わりませんよ」


「そうだろうね。人種が異なろうと、異種族だろうと。言語を介し、知能を保有する生命体ならば自然と似通ってくるものだ」


 エルシニア人とフフェス人に対する根強い差別。

 魔族と龍族の対立が引き起こした幾度の戦火で支配者へと上り詰めた人間種の、頂点に君臨し続けるための理由。

 根底にあるのは恐怖や無理解、未知。

 知性体が群れる構造上、組織や集団を構築する。

 ならば、非寛容から軋轢が生じるのは必然。

 世界規模だろうと、家族単位だろうと。


「…………もしかして、ロムルスさんも」


「知った風な口を叩いているだけさ。確かに多少は疎まれていたようだけれど。だからって、人死にに発展は……一概には言えないね」


「それは興味深い。貴様が半生を語ろうとはな」


「……っ!? ほ、ホロウさん……!?」


「どうした? 貴様らが吞気に話しているのを横目に雑事を全て終わらせた吾は戻ってこない方がよかったか?」


 空気が弛緩したように感じる。

 沢山の荷物を抱えたまま凄むホロウの様子は、敢えてボクたちの間に入って会話を中断させたようにも思えるな。

 もしくは、単に嫌味を言いたい気分だったのかもしれない。

 全身から漂う不快な雰囲気は如何に彼女が苛立っているのかがわかる。


「済まない、話し込んでしまったようだね。貸してくれ」


「ふん。貴様が全て持て」


 話はここまでと、目でアヤメに伝える。

 正確に伝達できたのかは不明だけど、小さくこくりと頷いてくれた。


 ホロウの差し出す荷物を一つずつ手に取ると、ずしりと重い。

 細腕でよくここまで持てるなと感心すらしてしまう。


「それは手が足りないね。物理的に」


「不謹慎ですよ、ロムルスさん……」


 渋面を作ったままアヤメも手を貸してくれる。

 大使館で待つ三人に加えて、騎士たちのための食糧も含まれているのだ。

 物量が多くなるのも仕方ないか。


「とっととかえ…………まて」


「わっ……! ホロウさん……?」


 全ての荷物をアヤメに押し付けたホロウは路地の曲がり角を睨みつけた。

 両手にはギラリと光るダガーを握り締めて。

 ホロウの切り替えを前に不穏な空気を察知したのか、アヤメもまた魔力を練り始めた。

 ボクもまた【運命識士(リード・スペクター)】を展開し、同時に【護国神卿(ロード・プロテクター)】を空中に固定する。

 “未来視”と“絶対防御”の応戦態勢。

 あのホロウが警戒しているのだ。

 杞憂に越したことはないし、そも市街地で戦闘をしようなんて気狂いもいないだろう。

 いや、いたな。どこぞの『武将』は街中であろうとお構いなしに牙をむいてきた。

 とはいえ、彼は例外だ。裏路地におけるトラブル発生率は東側と比べて西側領土ではとても低い。


「…………来るな」


 すらりと抜き去ったダガーを構えたホロウは自然な動作で影へと同化する。


 彼女の予測通り、どたどたと忙しない足音と共に叫び声が聞こえる。

 曲がり角から現れたのは三人。

 大荷物を抱える男が二人と、彼らを追いかける少女が一人。

運命識士(リード・スペクター)】を閲覧するまでもない。状況は明白だ。


 けれど問題は──


「くそッ……厄介なのに見つかった!」「おい、さっさと【権能】を使え! 撒くぞ!」


「待ちなさいッ! 不埒者!」


 白のフリルで装飾された真っ赤なドレス。

 ゆらゆらと揺れるツーサイドアップの金髪。


「あの……ロムルスさん…………あれって……?」


「疑問は後回しだ。アヤメ、ホロウのサポートをお願いしてもいいかな」


「は、はい…………!」


 うねりと共に螺旋を描いていた魔力が徐々に形を成していく。

 アヤメにはホロウが如何なる動きを選択するのか、ある程度の絵図が浮かんでいるのだろう。


「【反転する寵愛(ラース・スキュラ)】」


 遅滞魔法か。

 地面を液状化し機動力を奪う魔法だが、付随して底なし沼のように引き込むことによって窒息死させる類の魔法でもある。

 主に魔族では後者の効力を使用されていた。


「……ッ!? な、なんだ!?」


「よくやったアヤメ。おかげで刈りやすい」


「な。n──!?」


 まるで流れ作業のように二人の命が失われた。

 ここに至って性善説を説く気はない。

運命識士(リード・スペクター)】曰く彼らは紛れもなく悪党だ。情け容赦をかける必要性はない。


 ボクらの対処すべき問題は、名も知らぬ悪漢二人組ではない。


「す、すごい……! なんて華麗なの…………!」


 人死に感動するのは如何なものかとも思うが。


「これはこれは()()()()()()()()。何をなさっていたのかな?」


運命識士(リード・スペクター)】は眼前の少女を紛うことなきナーサリーだと断定した。

 幾度問いかけようと、結果は変わらない。


「……? 貴方、あたしを知っているの?」


「ああ。どうやら……長くなりそうだね。場所を変えようか」


 端正な顔を疑問で埋め、きょとんと首をかしげる姿は昨日の様子からは想像もつかない程に人間味にあふれている。

 だからこそ、ボクは大いに不可思議を覚える。


 なぜ、キミはこうも印象が違うのかと。






 ❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐







「ご、ごゆっくりどうぞ…………」


 戦々恐々とした様相で店員の女性がさがっていく。

 もはや行きつけといっても過言ではないパスタレストランで、ボクたちは対面していた。

 二度の来訪で面倒事しか持ち込まないボクらに店員の皆は警戒度合いを引き上げ、臨戦態勢に入っている。

 特に初来店からシスター・オルメカの件、そして今回と皆勤賞の赤毛のキミとかね。

 気持ちはわからなくもないが、だからって引き攣った表情のままなのはいただけないね。

 今回は何も起こらない……とは断言できない。だから先に謝っておくとしよう。

 軽く会釈したのだが、逆効果のようで。「ひっ……!」と悲鳴を噛み殺して戻っていった。

 解せぬ。


「うん、美味ね。香りもいいし、気にいったわ」


 音を立てることなくティーカップを置いたナーサリー。

 表情の機微に富み、笑顔を浮かべると太陽のような朗らかさを感じられる。

 まるで無機質な人形のような少女の面影は、欠片もない。


「それはよかった。キミのお墨付きとなると知名度も申し分ない」


「…………胡散臭いわね、あんた。ロムルスって言ったかしら?」


 先は敬意をもって接してくれていたというのに。

 今となっては既に懐疑的な視線を向けられてしまった。


「ああ。自己紹介は二度目だけれどね。昨晩も会っただろう?」


「昨日……? ごめんなさい、あたし時々記憶が消えちゃうの。もし本当に今日が初めましてでなかったら失礼この上ないわね」


 心底申し訳ないと言わんばかりに眉根を下げて俯くナーサリーから演技の色は見えない。

 噓八百ならばボクの得意分野だ。

 故に、彼女の言葉は正しい。


 ならば、多少は付け込む隙もあるだろう。


「それはいつ頃からか、わかるかい?」


「……? そうね…………六年か、五年前かしらね」


「長くて何日分の記憶が消えるのかな?」


「五日くらいじゃないかしら。もしかして、診察のつもり?」


「言い当て妙だね。キミさえよければ診断を下してもいいかな?」


「……不届きは承知しないわよ。これでもあたし強いんだから」


「ああ、わかってる。診るのはボクではなく彼女だ」


「……こ、此方ですか?」


「頼んでもいいかな、アヤメ」


「い、いいですけど…………それでは、失礼します」


 そっとナーサリーの額へと手をかざすアヤメ。

 すると、矢庭に二人の間で魔力が光を帯びる。

 魔力が回路を形成し、魔法という役割を与えられる。

健在せし記憶と記録(トート・アクティ)】。記憶や記録に関するあらゆる事象を閲覧できる魔法。

 応用すれば他者の記憶を読み取ることが可能となる。


 仄かな光に包まれたアヤメとナーサリー。

 まるで精霊との対話だ。幻想的で美しい。

 だから、ね? 何事かと武装する必要はないんだよ、赤毛の店員さん。

 キミは……アプルか。わかった、アプル。後で事情は説明するからとりあえず退がっておきたまえ。


 ここからは、()()()()()


「……、終わりました」


「何かわかったの?」


「……少し時間を頂けますか? 整理したことがあります」


 歯切れの悪いアヤメの様子に、ナーサリーは不安を覚えたように眉を八の字に歪める。


「もしかして、原因がわかったりするのっ……?」


「はい。なので、安心してください。此方がきっと治してみせます」


「ほんと……っ!?」


 よかったと。ありがとうと。アヤメの手を握って繰り返しお礼を口にするナーサリーの姿は、やはり快活としている。

 これが彼女の本心であり、あるべき姿なのだろう。


「あの、ナーサリーさん。一つだけお願いをしてもいいですか?」


「何かしら?」


「これから此方たちのお屋敷まで来てほしいんです」


 アヤメの選択は過ちではない。

 最良の決断とすら言えるだろう。

 けれど、ボクには彼女の願いが成就しないことを知っている。

 ボクたちに抗う術がないことも、また既知である。


「もちろ──」「──いけません、お嬢様。領主様がお待ちですよ」


「……! セレーネ、どうしてここがわかったの?」


「お嬢様は目立ちますからね。さあ、行きますよ」


「ちょっと……! まだ話は終わってない!」


「ナーサリーさん!」


 憲兵に引きずられるように、セレーネと呼ばれた茶髪のメイドと共に有無を言わさず連れ帰らされたナーサリー。

 引き留める暇すら与えられず、咄嗟に伸ばしたアヤメの腕は虚空を彷徨っていた。

 否応なく突き付けられた現実を前に、却って拍子抜けの感がある。

 アヤメにしてみれば唐突に診察させられて、()()()()()()()()を突き付けられて茫然自失となるのは当然だ。


「おい、ロムルス。貴様、どこまで知っている」


「全てさ」


 やはりというべきか、ホロウには看破されていた。

 ボクならば、【運命識士(リード・スペクター)】ならばナーサリーを留めておけたのではないかと。


「貴様は指をくわえて見ていただけか?」


「ここで足搔いても結果は変わらない。それがわかっていたからキミは止めなかったのだろう?」


「ふん。見透かしたように言うな。腹立たしい」


 ようやく糸口が掴めたのだと言えば……キミは納得してくれるかい?


 わざわざコルバリウスにナーサリーの存在を言及する意味はない。

 彼女の状態をアヤメに調べさせる必要も、セレーネという侍女をホロウに仄めかす工程も無意味だ。

 全てがボクの立てた筋道の上にある。

 二人には悪いことをした思っている。何なら、アプルにも散々迷惑をかけていると申し訳なさが大きい。

 けれど、必要事項なのだ。

 今回の一件について、天地がひっくり返ってもボクでは解決に導けない。

 白髪三千丈の類ではない。ただ、力不足なのだ。


 真実が明らかになった時、アヤメはボクを責めるだろう。


 けれど、それでいい。


 その()()が、彼女に届きさえすれば。

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