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Section 5-Eleven

何だかんだ衝撃的な結末が待ち受ける、解決編です。

ローゼみたいに色んなことを想定して綿密に計画を練っても、そしてその通りに実行したとしても、予想もしないことは起こるのです。


 一隻の貨物船が、蒸気を上げながら港へと向かっている。その船はどういうわけか、煙突だけでなく船首からも煙を上げていた。もっともこの暗闇では、どちらの煙もはっきりとは視認できないが。


 灯台の明かりが煌々と光り、夜の闇の中に浮かんだ港に、貨物船は徐々に近づいてくる。岸の手前でゆっくりと旋回して、右舷を岸へ寄せていく。備え付けのランプが右舷の側にあるため、この向きで接岸するしかないのだ。

 岸に十分に寄せると、(いかり)を沈め、二つあるランプのうち船首に近い方を、ゆっくり下ろして岸にかける。陸地と船を結ぶ通路ができた。


 その瞬間を狙いすましたように、五十人ほどの怪しい連中が、猟銃や手製の槍を手に持って、港の建物の陰から次々と現れた。列をなして駆け足で船に向かい、岸にかけられたランプを渡って、続々と船の中に突入していく。それはまるで、敵地に突撃をかけようとする民兵のようだった。

 ランプを渡ったその先は、当然だが、コンテナや車両で埋め尽くされた船倉だった。電球の弱い照明が何個かある程度の、夜だと薄暗くなる広い空間に、連中は猟銃や槍を構えながら押し寄せてくる。


「すごい荷物の量じゃないか……この中からブツを探すなんて骨が折れるぞ」

「仕方ねぇだろ、あいつらも横取りされるのを警戒して、変な所に隠したりするからな。まあいい。どうせここにあるコンテナはほとんどハズレだ。隠すとしたら他の部屋だろう。さっさと別の出入り口探して、船内くまなく調べるぞ」

「けど、まだ乗組員が残っているだろ。途中で出くわしたら……」

「その猟銃は飾りか? こっちはブツを手に入れればそれでいいんだ、見られたら撃ち殺しゃあいいんだよ。どうせ向こうは、たいした武器も持ってないだろうしな」


 船内に積まれた大麻を狙っている彼らは、そんな会話を繰り広げている。確かにその読みは正しい。船倉に置かれているコンテナに大麻は入っていないし、乗組員は武器と呼べるものなど持っていない。五十人近くいれば、広い船内でも人海戦術で探しだせるし、人数でも武力でも差がついているのだから、乗組員の存在など邪魔にもならない。そう考えているに違いない。


 ……だが、彼らは肝心なことに気づいていない。

 もし自分たちの計画がうまく進んでいるなら、乗組員たちは荷物の搬出じゃなく、陸地に避難するためにここへ来たはずだ。だったら、ひとつしか下ろされていないランプを使って、乗組員たちがすぐに降りてこないとおかしいのだ。

 大量のコンテナの隙間を縫って進んでいく彼らも、徐々にその奇妙な状況に、気がつき始めていた。


「なんか、おかしくないか? 乗組員の姿が全然見えないぞ。船から出るには、さっき下ろしたランプを渡るしかないのに」

「言われてみると……じゃあ奴ら、いったいどこに?」

「あっ! お(かしら)、ランプが!」


 最後尾にいた男が、顔を引きつらせてこの隊のリーダーの名を呼んだ。さっき自分たちが渡った、ランプのある方向を指差している。

 なんと、きしむ音を立てながら、下ろされたはずのランプが上昇を始めていた。


「お、おい! どうなってやがんだ、これは! なんでランプが上がってるんだ!」

「お頭、もしかすると、これは……」


 ようやく気づいたか。ならばわたしも、隠れる必要はないだろう。


「そうよ。これはあんたらを誘い込み、袋のネズミにする罠よ」

「なっ!」


 突然、船倉の中に響き渡った女の声に、彼らは揃って顔を上に向けた。

 天井近くに設えられた渡り廊下、その欄干に腰かけて、わたしは奴らを見下ろしていた。船首のランプが上げられたということは、いま入ってきた連中で全員なのだろう。ざっと五十人ほどか……わたし一人でも制圧できる人数だが、ここは当初の予定通りに進めよう。


「小舟で爆弾を船首に投げ込み、爆発させて、近くにあるこの港に避難しようとやって来たところを、襲撃する計画だったんでしょ? ランプをひとつだけ下ろせば、そこに全員が一斉にやって来ると踏んでいたわ。一か所に集めて閉じ込めるには好都合ね」

「まさか、俺たちの計画を見破ったのか!」

「ここの乗組員だけだったら、爆発で冷静さを失わせれば、計画通りに事が運んだかもしれないけど、生憎だったわね。わたしはそう簡単にだませないよ。わたしは嘘が嫌いでね、金属板に書かれた文字だろうと、人の言葉は頭から信用しないことにしているの」

「き、キサマ、乗組員じゃないのか。何者だ!」


 三文小説のようなありきたりな問いかけに、わたしは思わずふっと口元を緩めた。


「わたしは探偵だよ。依頼を受け、自分の足で調べ、真実を見つけ出す。それがわたしの仕事であり、使命だよ」


 ちょっとカッコつけすぎたかな……探偵がそういうものだと、自分で思っているのは確かだけど。

 泥棒連中は愕然とした顔をわたしに向けている。もしかしたら彼らに、探偵という職業はなじみがないかもしれないが、この状況で自分たちにとって、非常に厄介な存在であることは理解できただろう。


「た、探偵、だと……?」

「わたしは偶然、この船に乗せてもらっていただけなんだけど、ここの船長から改めて依頼を受けてね……乗組員全員の安全を確保することと、船を爆破して荷物を奪おうとする不届き者を捕まえること、この二つを頼まれたよ」


 これは嘘じゃなかった。この連中を一網打尽にする策を話した後、実行に移す前に、探偵として正式に依頼を受けている。それなりに自身の危険を伴うので、しっかりと報酬を得られる保証がほしかったのだ。ちなみに、爆弾の捜索は依頼に含めないことにした。緊急事態だったし、実際に爆弾はなかったから不問としたのだ。


「というわけで、あんたらはここで足止めするよ。もう間もなく、地元の治安部隊が到着して、この船に一斉に入ってくる。あんたらはこれ幸いとばかりに、下ろされたランプを使って入ってきたものだから、脱出する手段なんて持っていない。治安部隊には、梯子を使って船内に突入するよう頼んであるからね」

「く、くそっ! おい、撃て! あの女を撃ち殺せ!」


 リーダーらしき男の号令で、猟銃を持っている人たちが、一斉に銃口を上に向けて、次々と発砲してきた。だが、ただでさえ薄暗くて狙いにくいうえに、天井近くの渡り廊下にいるために、弾の勢いは落ちてほとんどが廊下の裏側や天井に当たるだけで、すでに欄干から降りて廊下の陰に隠れたわたしに、当たる弾は一発もなかった。

 欄干の隙間から連中を見下ろして、銃声に負けないよう大声でわたしは告げる。


「ところであんたら、気づいてない? 乗組員はとっくに、この船から降りているのよ」

「なんだと? そんな馬鹿な。さっき下ろされたランプからは、誰も出てこなかったじゃないか!」

「当然よ。みんな、船尾にあるもう一つのランプを使って降りたんだもの」

「なっ、いつの間に!」

「船首のランプを上げると同時に、船尾のランプを降ろしたから、音が重なって気づけなかったんでしょ。ここから船尾のランプまではかなり距離があるし、みんな船首のランプが上げられる所に気を取られていたし」


 もちろんこれもすべて計算のうちだ。この船がローロー船、つまり船首と船尾に二つのランプを備え付けている貨物船であることを利用して、悪党どもを誘い込むと同時に、乗組員たちを避難させることにしたのだ。

 ランプの昇降を操作していたのはシャルロットだ。事前に使い方を船長に教わって、操舵室から外の様子を確認しつつ、連中が全員船に入ったところで、片方のランプを上げ、もう片方を下ろしたのだ。覚えるべき操作が少ないとはいえ、それなら船長に任せてもよさそうではあったが、後のことを考えると、彼女にやらせた方がいいと判断した。


 船長と乗組員は船尾のランプの前に待機し、ランプが下りたらすぐに脱出。シャルロットは操舵室でランプの操作。そしてわたしは……。


「ここに残ってあんたらを足止めする。そういう役割分担をしたってわけ」


 欄干から身を乗り出して、再び悪党どもを見下ろす。すでに撃ち尽くしてしまったのか、もう銃弾が飛んでくることはなかった。


「言っておくけど、わたしより先にもうひとつのランプから降りようとしても無駄だよ。この船倉から通じる道は、コンテナ車であらかじめ塞いでおいたから。もちろん他の出入り口も同様……わたしが脱出するために、甲板に出るドアをひとつだけ開けておいたけどね」

「フン、だったらこの場でキサマを殺して、俺たちもそこから出てやるよ! お前ら、早くあの女のところへ行け! 銃がダメなら槍でも棒でもなんでも使え! 女一人くらい余裕でいけるだろ」

「ふうん……大麻は探さなくていいの?」

「なっ!」

「あんたらの推測どおり、大麻は別の部屋に隠されているよ。それだけの人数がいれば、見つけることはできるかもね。でもその間に治安部隊が乗り込んでくる。あんたらは、大麻を見つけることはできても、手に入れることはできない」

「どこまでも俺らをコケにしやがって……おい、さっさと行け!」


 このリーダー、さっきから命令するばかりだな。わたしの言葉に神経を逆撫でされて、とにかくわたしを殺さないと気がすまないようだ。


「どうやら足止めも限界みたいだね。船長たちももう降りただろうし、わたしはこの辺で失礼するよ。残り少ない平穏な時間を、せいぜい楽しみなさい」

「おい! 待て、キサマ!」


 悪党どもが何人か、わたしのいる渡り廊下を目指して、すでに散開しているようだ。船倉まわりの廊下は複雑だし、下見もしていないこいつらが、そう簡単にたどり着けるとは思えない。しかも愚かなことに、いくつかあるはずの甲板に通じるドアの、どれを開けているのかを確認していない。もちろんわたしが教えるはずもないが、唯一の脱出口がどこなのかも知らずに、わたしを出し抜こうとは笑える話だ。


 わたしは渡り廊下を、端に向かって駆け出した。助走をつけると、最初の跳躍で欄干の上に飛び乗り、そこを踏み台にして前方に大きく飛び跳ねた。その先には、船倉から甲板に直接出られる避難用のハッチと、上り下りするために壁に備え付けた梯子がある。飛びかかったわたしは、上から二段目の横木に掴まった。

 横木を掴んだまま、わたしは体をひねらせ、梯子に背を向けながら後ろ手に掴む体勢をとった。そして、腹筋を利用して両足を跳ね上げ、その勢いでハッチを蹴破った。ハッチは通常上に開く構造だから、ひと蹴りで簡単に開いた。そしてそのまま、逆上がりの格好で甲板へ飛び出た。

 駆け出してからここまで、大体十秒足らず。やっぱり現役の頃と比べて鈍っている。それでも下界の悪党どもは唖然としていたが。


「は、早っ……」

「すげぇ身のこなし……」

「何をしている! さっさと追え!」


 悪党どもは慌てて後に続こうとしたみたいだが、もう遅い。わたしの演説に気を取られてないで、手間を惜しんで銃で狙おうとしないで、さっさとこっちに来ればよかったのだ。

 そうすれば、わたしがハッチから脱出してすぐ、重い荷物でハッチを塞がれて、脱出口を完全に失うという事態にはならなかったものを。


 ハッチを塞ぐと、わたしはすぐさま船尾に向かって走り出した。シャルロットのいる操舵室は、貨物船の場合、たいていは船尾に近いところにある。最後の脱出にかける手間を減らすためには、船尾側のランプを脱出用に使う方がいい。だから悪党連中を、船首側のランプから誘い入れたのだ。


 わたしが甲板に出て来たのを見て取ったシャルロットは、すぐさま船尾のランプを上げるスイッチを入れた。船倉からランプへの通路はコンテナ車で塞いだものの、人が通れる隙間もないように塞ぐのは、時間的に無理だった。だからこれは、悪党どもをしばらくランプに行かせないための、時間稼ぎにすぎない。わたしとシャルロットが最後に脱出するにあたり、船尾のランプも上げておく必要があったのだ。

 そしてシャルロットは操舵室を後にして、一番上の階のバルコニーに出た。その場所はちょうど、わたしの走るルートのほぼ真上にある。シャルロットは怖気立つような表情を見せながらも、手すりを慎重に乗り越え、バルコニーの端にかかとで立った。


 わたしは全速力で甲板を駆け抜けながら、その様子を見て取った。ランプはすでに上昇を始めている。一秒でももたつけば脱出は失敗する。大事なのは、わたしが号令を出すタイミングと、シャルロットとの連携だ。


 もう少し。もう少し。

 バルコニーの真下まで、徐々に距離を詰めていく。

 よし、ここだ!


「飛べ!」


 わたしの叫び声に、シャルロットはためらいなく応えた。


「…………!」


 声にならない声を上げながら、シャルロットはバルコニーから、ふわりと舞うように飛び降りた。白いスカートが風圧になびく。なんとか体を丸めようとするのは、わたしへの配慮に違いない。

 シャルロットが甲板に落ちる寸前で、わたしは両手を伸ばし、彼女の体を受け止めた。落下の勢いもあって一瞬ふらついたが、すぐに持ち直し、わたしはシャルロットを両腕に抱えたまま、そのまま足を止めずに甲板の端まで向かった。

 そして助走をつけながら跳躍し、欄干の上に飛び乗って、そのまま甲板の外に向かって大きく飛び出した!


 視界の下の方には、上昇を続けているランプの端があった。ゆっくりとはいえ、動き続けているランプを、空中を舞いながら標的とするのはかなり至難の業だ。シャルロットをぐっと引き寄せるように抱きしめながら、自由の利かない空中で、もがくように両足をバタつかせながら、ランプの端に狙いを定める。

 ……まずい、このままだと少しずれてしまう!


「くっ!」


 落下の加速は止められない。体勢を整える余裕なんてもうないのだ。わたしは限界まで足をピンと伸ばし、ランプの端を捉えようとした。せめて、つま先だけでも届いてくれ!


「ふぐうっ!」


 奥歯を噛みしめながら、右足でランプの端を踏みつけた。

 ……危ない、ギリギリの所だった。


 だがまだ終わっていない。わたしはランプを蹴り、もう一度跳躍した。次の目標は、コンクリートで覆われた港の岸だ。

 高さがありすぎる。肩や背中で着地すれば、骨折してもおかしくない。必ず足から着地して、勢いを削ぐために受け身を取らなければならない。ひとりならそれほど難しくないが、今はシャルロットを抱えている。一歩間違えれば、彼女に大怪我をさせる恐れもある。

 空中を舞いながら、わたしはシャルロットを、頭と両足ごと抱え込んだ。腕はわたしにしがみついている。受け身を取るときにかすり傷を負うかもしれないが、そのくらいは覚悟の上で、シャルロットもこの作戦に乗ったのだ。


 堅い地面が接近してくる。落下しながらも、わたしは両足の膝を曲げた。落ちた時の衝撃を和らげるためだ。

 そして、わたし達は地面に衝突した。


 ダンッ!

 両足を勢いよく突いて着地し、わたしの体はシャルロットを抱えたまま、ゴロゴロと地面を転がった。急所となる頭部は決して地面につけることなく、背中と腕で自分の身と、そしてシャルロットを守った。

 三回ほど転がって、わたし達はようやく止まることができた。


 ここまでの一部始終を、先に船を降りて見ていた船長たちが、わたし達のもとへ駆け寄ってきた。


「おーい、大丈夫か、探偵さん!」


 大丈夫かと言われると……割と全身が痛い。受け身を取って致命傷は免れても、かすり傷は避けられないし、肘や手首や腰をしたたかに打っている。とはいえ、一歩間違えればこの程度の怪我では済まなかっただろうし、その意味ではまあ大丈夫だろう。

 というかわたしの怪我などどうでもいい。腕の中の彼女はどうだろうか。


「いってぇ……シャルロット、怪我はないか?」

「はい、大丈夫です……ローゼさんがちゃんと、守ってくれましたから」


 そう言ってシャルロットはわたしの腕に抱かれながら、ふにゃりと微笑んだ。ホッとしているというより、喜んでいるように見えるのだが……とにかく、この子が無事でよかった。今度はちゃんと守れたのだ。

 わたし達の無事を確かめた船長は、長い梯子を手に待機していた治安部隊に、大声で呼びかけた。


「突入してください!」


 その掛け声を皮切りに、治安部隊は貨物船の甲板に梯子をかけ、列をなして登り始めた。全員が銃や催涙弾を持っていて、一戦交える気なのがよく分かる。とりあえずこれで、船内にいる悪党どもは残らず捕まるだろう。


 それにしても、我ながら無茶な作戦だった。悪党どもを片方のランプから船倉に誘い込んで閉じ込め、乗組員を避難させるために下げたもう片方のランプを上げながら、そのランプを飛び石代わりにして、跳躍だけで船から脱出する……とてもじゃないが、わたしでなければこんな芸当は不可能だろう。少しでもタイミングや角度を間違えれば、海に落ちるか、ランプを転がり落ちて一緒に閉じこめられる、実にきわどい方法だ。

 こんな無茶を成功させるには、人選も重要だった。最後に船尾のランプを上げ、わたしと一緒に脱出する役割は、船長たちには任せられなかった。ランプの端に着地するという離れ業は、わたし以外に出来る人はいないので、一緒に脱出する人は必然的に、わたしが抱えてやるしかなかったのだ。筋骨隆々な船長は言うに及ばず、他の乗組員も、操舵室のある階から飛び降りてわたしが抱きかかえるには、体重がありすぎるのだ。船内にいる人の中で、一番体重の軽いシャルロットこそ、この役割にふさわしかった。まあ、他の乗組員をわたしが抱きかかえることに、シャルロットが難色を示したというのもあるが。


 とにかく、薄氷を踏むような作戦ではあったが、なんとかうまくいった。あとは、治安部隊が悪党どもを捕まえて、安全を取り戻した船で再び出航する……そこまでが、わたしの立てた策だった。


 しかし、完全に作戦通りになることなど、まずないのが現実だ。

 治安部隊の乗り込んだ船の様子を、乗組員たちと一緒に遠巻きに見ていると、突然、甲板から爆音とともに、灰色の煙が勢いよく噴き出した。


「…………え?」


 わたしもシャルロットも、船長たちも呆然とした。その後も船のあちこちで爆発が起き、数少ない窓ガラスも割られ、やがて船内からヒャッハーという奇声も聞こえてきた。

 ちょっと待て。何が起きた? これはさすがに想定外だぞ。


「もしかして、治安部隊の奴ら……ラリってる?」

「……この地域で、治安部隊の押収した麻薬が、部隊の内部に横流しされているという噂を、聞いたことがある。元から暴徒と化していた連中だからな、ことに及ぶ前の景気づけに、一服した可能性は否定できない」


 船長は引き気味に答えた。

 うぅむ……毒を以て毒を制す、などと考えていたわけじゃないが、結果的にいま船の中は、そういう状況になっているみたいだ。ただでさえヤクザ同然の連中が、クスリで理性を失えば、こうなるのは必然と言えよう。そこまで考えが及ばないあたり、わたしもまだまだ世の中を甘く見ているみたいだ。

 とりあえずまあ、今まさに悪党連中と戦っている部隊に敬意を表して、わたしから言えることはひとつだ。


「…………クズどもめ」

「ローゼさん」


 シャルロットは(たしな)める口調で短く突っ込んだ。

 地獄に堕ちるのは避けられた。だがあの船の中は、まさしく地獄と化しているだろう。ランプという板子一枚で抜け出したわたし達は、本当に運がよかった。


第二章以来久々に、緊張感のあるアクションシーンを書きました。ミステリって謎を解く過程も面白いけど、同じくらい解決までの過程も重要になりますね。ローゼはまたしても助手をお姫様抱っこして宙を舞い、助手を無駄にドキドキさせています。吊り橋効果です。……まあ、今回はローゼ視点なので、その辺りの描写は希薄ですが。

というわけで、とんでもない形での解決編となりましたが、次週でいよいよ第五章は完結です。第四章とは逆に、最初と最後だけシャルロット視点にしています。ラスト、シャルロットはどんな景色を見ることになるのか、ご期待を乞います。

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