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Section 5-Nine

今回ですべての手掛かりが出揃います。ということは、ローゼのあの決め台詞も飛び出します。

毎度のことながら、凝ったトリックは登場しません。犯人当ての要素もありません。されども犯人の目的には推理の余地がありますので、ローゼがあの台詞を言ったら、皆さんもどうぞ推理をしてみてください。


 船長に借りた鍵を使って、機関室につながるドアを開けた。その瞬間、ドア越しにうっすら聞こえていた、金属同士がぶつかったり擦れたりする音や、空気が一気に抜けるような音が、一斉に襲いかかってきた。


「これは、かなりけたたましいですね……」


 シャルロットが両手で耳をふさぎながら言った。まあ、船を動かす動力源がここだから、うるさいのは止むを得るまい。

 ところで、機関室は奥行きも相当だが、深さも他の部屋とは比較にならない。ドアのすぐ目の前には、下へ続く階段があるが、壁際の渡り廊下に差しかかるたびに向きを変えて、どんどん深くまで続いている。大型の貨物船ともなると、エンジンの大きさは四階建てとか五階建ての建物にも匹敵するという。当然、機関室もそれだけ高さが必要になる。

 真ん中の高さの辺りまで階段を降りてきたところで、わたしはシャルロットに告げた。


「じゃあ、わたしは上を探すから、シャルロットは下半分をお願い」

「分かりました。でも、どうやって探せばいいのか……」

「機関室の装置は定期的に点検を行なっている。まあ、間隔や程度がどれほどかは分からないが、犯人がそれを計算に入れているなら、一見して不審物だと分かるようには置いていないはずだ」

「ということは、死角になりそうな所を重点的に探せばいいのですね!」

「くれぐれも慎重に頼む。どんな仕掛けになっているか分からないから、それらしいものを見つけたら不用意に触らず、すぐわたしに知らせてくれ。何らかの扉や箱を開けるときも、ゆっくり慎重に。少しでも違和感を覚えたら、開けずにわたしに知らせるんだ」

「分かりました!」


 シャルロットはしっかりと頷いた。まったく、すっかり探偵助手が板に付いたな。

 わたし達は二手に分かれ、捜索を開始した。シャルロットは下に続く階段を下りていき、わたしは渡り廊下を進んでいく。


 まずは渡り廊下の裏側を確認する。渡り廊下は四層あるが、通常の点検では廊下の裏側なんて見ないし、壁に接して備えられているから、ここに爆弾を仕掛ければ船体に穴を開けられる。だが、廊下の裏側は、その下の廊下から簡単に確認できる。

 上半分の渡り廊下をひと通り見て回ったが、爆弾らしきものはなかった。


 次は最上層の広いスペースを探す。機関室の装置を直接操作する機械や、資料や工具をしまう棚などが、ずらりと並んでいる。船体の壁からは少し離れるが、死角や、普段から内部を確かめないものが多くある。何かをこっそり隠すには好都合だ。

 機械の隙間や裏側を、懐中電灯で照らしながら覗き込む。棚に置かれている工具箱などは、慎重に棚から下ろし、棚の裏側まで確認する。さらには、事務用の机の引き出しの中や、その裏側までしっかりと調べた。

 だが、結局それらしいものは見つからなかった。


「うーん、ないな……」


 それからも思いつくところはひと通り探したが、爆弾は見つからなかった。


「おーい、シャルロット。そっちはどう?」


 欄干から身を乗り出して、下にいるシャルロットに声をかけた。エンジンの音がうるさく響いているが、幸い、少しは聞こえる所にいたようで、シャルロットはすぐ気づいた。


「ダメですぅ。爆弾っぽいものは見当たりません」

「そうか……読みを誤ったかな」

「でもローゼさん、ちょっと気になるものを見つけましたよ」

「気になるもの?」

「こちらに来てくださぁい」


 シャルロットが呼びかけているので、わたしは急いで階段を下りていく。シャルロットがいるのは最下層だ。

 シャルロットと合流すると、彼女が手招きしながらある場所を指差していた。どでかい二つの機械の隙間に、何かあるようだ。


「これです。こんな所に段ボールの箱がいくつも詰め込まれていました」

「段ボール箱……全部で四つか。しかもすべてに『ミネルヴァ商会』のロゴがある」


 ミネルヴァ商会。ユーロピアにある貿易と運送の会社で、確かわたし達が二日前までいたあの港町にも、小さいが支社のひとつがあったはず。ということはこの箱も、あの国からアルビタニアへ輸送されるものなのか。

 ……だが、それにしてはおかしい。


「これが輸送される荷物なら、なんで機関室に置かれているんだろうな」

「ひょっとして、荷物に見せかけて爆弾が入っているとか?」

「どうだろう。死角にあるわけでもないし、段ボールに入れているせいでかえって目立つ。これだと点検作業員はすぐに気づくだろうな」

「確かに、隠し方が雑すぎますね……」


 むしろこれは、隠しているつもりがないと考えた方がいい。外部の犯人が、内部の人間に気づかれないように爆弾を仕掛けるなら、こんな所に置いたりはしない。逆に言えば、ここに箱を置いた人物は、内部の人間に気づかれてもいいと思っている。あるいは、内部の人間も、ここに箱があることは承知しているのか。

 だとすると、箱の中にあるのは爆弾でも荷物でもない、別の何かだ。爆弾事件と関係があるかは分からない。そのことを確かめるためには、箱の中身を見る必要がある。

 わたしは段ボール箱をひとつ引っぱり出し、蓋を塞いでいたテープを剥がして開けた。箱の中にあったのは……。


「これ、木彫りの人形、でしょうか……」


 シャルロットが呟いた。そう、段ボール箱の中は、緩衝材代わりの枯れ草に混ざって、ひと抱えはありそうな木彫りの人形が詰められていた。人形そのものに見覚えはない。だが、その特徴には聞き覚えがあった。

 わたしは人形の一体を手に取ると、人形を色んな角度から見てつぶさに調べた。そして、底の部分が蓋になっていることに気づいた。爪を引っかけて蓋をはずすと、人形の中は空洞になっていて、中は枯れ葉の入ったビニール袋がぎっしり詰まっていた。


「ローゼさん、これって……」

「大麻だな。あの国で作られたものと見ていいだろう」

「ではやっぱり、ドゥアルテさんが少し前まで扱っていたっていう、例の木彫り人形と同じものですか?」


 シャルロットももちろん覚えていた。この船に乗る前に関わった事件、その発端である木彫りの人形のことを。


 貿易商のドゥアルテという人物は、地元で作られた大麻などの薬物を、木彫りの人形に隠してユーロピア圏に輸出していた。ところが、ユーロピアの玄関口であるアルビタニアで、薬物の持ち込みが厳しく取り締まられるようになり、ドゥアルテはやむなく人形の輸出を止めた。

 同じ頃、ライバル会社である『グレゴリオ貿易』が、アルビタニアでのこうした動きを利用して、あえて同じ人形をアルビタニアに持ち込むことにより、ドゥアルテが薬物を持ち込んできた事実を明るみにさせ、ユーロピアでの信用を落とそうとした。その企みに気づいたドゥアルテは、召し使いを利用して、その人形が仕舞われていたコンテナに火を放った。

 わたし達はその放火事件を調べ、この真相に辿り着けたことで、『グレゴリオ貿易』からの報酬としてこの船に乗っている。


 実はその時から、ずっと引っかかっていることがあった。結局、放火の首謀者がドゥアルテであることを暴いたことで、事件は一応の解決を見たので、その違和感は放置したままにしていたが……。

 もしこの違和感が、今回の爆弾事件にも繋がっているとしたら?


「シャルロット、ここを出よう。爆弾の捜索はいったん後回しだ」

「どうしたのですか?」

「最初の爆発があった現場に行く。もしかしたらわたし達は、犯人の思惑どおりに動かされているのかもしれない」


 まだ事態がのみ込めていないシャルロットの手を引いて、わたしは階段を駆け上がっていく。爆弾の捜索に時間を割きすぎて、現場を調べる時間的余裕はあまりない。なるべく急いで現場に戻らなければ。

 いま頭に浮かんだ仮説が、本当に正しいかは分からない。だがそれも、爆発現場をもう一度調べればはっきりする。そして仮説が正しいとしたら、わたし達は今、爆弾とは違う別の危険水域に向かっていることになる。早く確かめなければ、その危険を回避して、取り除くための時間すら手に入らない。

 だからとにかく急ごう。犯人の思惑は、わたしがこの手で断ち切る。


  * * *


 そういうわけで、わたしとシャルロットは、最初の爆発があった船首に戻ってきた。当然だが火は完全に消えていて、黒焦げになって穴の開いた床や、爆発の衝撃でゆがんだ欄干が見えるだけだ。

 船内の灯りは船首まであまり届かず、少し暗く感じる。背後を除いた三方向を海に囲まれているせいでもあるだろう。さっきより荒れてきた波の音が響き、吹きつける潮風が髪を掻き乱してくる。

 爆発があって、最初にここへ駆けつけた時から違和感があったが……。


「なあ、シャルロット。ここには何が置かれていたと思う?」

「何って……少なくとも、積み荷の類いは置かないと思います」

「だよな。ここには専用の船倉があるし、水しぶきや潮風を一番浴びやすい船首に、大事な荷物を置くとは考えにくい。積み荷に限らず、何も置かれていなかったと考えるべきだ」

「それがどうかしましたか?」

「だとすると、爆弾はいつ、どこに仕掛けられていたんだろう」


 爆発と炎上がかなり衝撃的だったせいで、頭の隅に追いやられていたが、改めて現場を見るとそんな疑問が湧いてくる。

 この船首には何も置かれていなかった。隠せるものも仕舞えるものもないし、何か置かれているだけで不審に思われる場所だ。今は夜だから薄暗くて見逃すかもしれないが、日中だったら確実に見つかるだろう。爆発が起きたのは日没から一時間ほど経ってからだった。その間に船首に行って、暗がりに紛れて爆弾を設置した……いや、そんな面倒をやるくらいなら、もっと死角になる所に仕掛ければいいはずだ。


「確かに、言われてみると妙ですね……あっ、床下に仕掛けられていたのでは?」

「元から床下に格納庫とかはなかったみたいだし、そうすると床板を剥がして爆弾を仕掛けて、綺麗に元通りに戻したことになるよね。日没を見計らって船首に置くより面倒くさそうじゃない。それに……」


 わたしはしゃがんで、焼け焦げて穴の開いた床板の、端っこを指差した。床板は焦げただけでなく、爆発の衝撃のためか反るように曲がっていた。……下向きに。


「爆発の衝撃波はふつう、中心部から放射状に広がる。もし爆弾が床より下に仕掛けられていたなら、床板は上向きに反っているはずだ」

「でも床板は下向きに曲がっている……少なくとも爆弾は、床より上にあったってことですね」

「ついでに言えば、舳先の欄干も、内側じゃなく外側に向かって曲がっている。舳先の裏側に仕掛ければ、船の中からは死角になるが、その場合、欄干は内側に向かってひしゃげていなければいけない」

「えっと、ちょっと待ってくださいね。いま整理しますので……」


 シャルロットは左右のこめかみに指をあててぐりぐりしながら、しかめ面で考え出した。考え事をする時にこんな動きをする人が、本当にいるんだなぁ。


「床の上に置かれていたら、目立ってすぐに見つかります。床下とか舳先の裏側は、現場の状況から見てありえません。つまり……えっ? では、本当に爆弾はどこに?」

「ひとつ、考えうる可能性があるとしたら……」


 わたしは人差し指を立てて、混乱しているシャルロットに言った。ちなみに指を立てたことに、特に意味はない。


「爆弾は、爆発の寸前に、ここ船首の床に置かれたんだ。仕掛けてすぐに爆発したから、仕掛ける所も、そしてここに爆弾があるところも、誰に目撃される恐れはない……まあ、船首が見える所から、舳先に向かって爆弾を放れば、床とかどこかにぶつかった衝撃で爆発するだろうね」

「そっ……そんないい加減な方法で?」

「実際に仕掛けた方法までは、想像するしかないよ。自分が爆発に巻き込まれないためには、爆弾を放り投げるのが確実だからね。ただ、どこかにぶつかった衝撃で爆発する程度の強度しかないなら、持ち込むだけでも危険なはずだ。乗組員がそんなものを持ち込んだら、誰かが不審に思ってもよさそうなものだが」

「でも、ローゼさんがさっき言っていた、遠隔式の起爆装置があれば、衝撃に弱い作りにする必要もないと思いますよ」

「そうなんだよね……でもその場合、余裕をもって爆発させられるわけだから、なおさら死角のない場所に仕掛ける理由がないんだ。結局、どうして仕掛ける場所に船首を選んだのか、という疑問に行き着いてしまうんだよ」


 なんだろう……考えれば考えるほど、この事件はちぐはぐだ。

 そもそも、仕掛けてすぐに爆発させるのは、それだけで危険性が高い……あるいは、信管や雷管をはずした状態で持ち込んで、放り投げる寸前に差しておいたのか。いや、どちらにしても危険であることに変わりはない。犯人はどうして、仕掛けてすぐに爆発させる必要があったんだろう。

 それとも前提が間違っていて、誰に目撃されても構わないと思っていたのか。実際、爆発の直前まで船首に何もなかったという証言は、現時点で出ていない。運よく全員が見落としていただけで、本当は爆発よりずっと前にあったのかもしれない……。

 いや、わざわざ金属製の板に犯行声明を書いて残すなど、準備に手間をかけている割に、爆弾の仕掛け方がずさんすぎる。どうしても船首に仕掛けたい事情があれば話は変わるが、機関室など死角の多いところと比べたら、犯人に利点が少ないのではないか。

 それに、そう……なぜ犯行声明が、爆発した場所にあったのだろう。当然それは、爆弾と一緒に仕掛けられたからだろうが、あそこに残ったのはほとんど偶然といっていい。爆発の衝撃で吹き飛んで、海に落ちたら意味がない。それよりは、爆発の及ばない場所に書くなり手紙を残すなりした方が、犯行声明を確実に見せられただろうに。


 もしかして、そうせざるを得なかった? 機関室や船倉ではなく、船首という死角のない場所を選んだのも、仕掛けてすぐに爆発するようにしたのも、犯行声明を金属の板に書いて爆弾と一緒に置いたのも……全て、やむを得ないことだったとしたら?

 そこまで考えが及んだとき、わたしの脳裏に、シャルロットの言葉がよぎった。


「……漁船が、ちらっと見えた?」

「ローゼさん?」

「なあ、シャルロット……爆発が起きる前、右舷から小さな漁船がちらっと見えたと言っていたな。なんで、はっきりと見えなかったんだ?」

「それは、夜の海で真っ暗だったから、だと思いますけど」


 シャルロットは当然のように答えた。あの時は今よりも海が凪いでいて、船が揺れる海面に紛れることもないから、はっきり見えなかったとしたら、それはほぼ暗闇の中にいたからとしか考えられない。でも、それは……。


「ああ、なるほど。これですべてが繋がった」

「え?」

「シャルロット、船長のいる所に戻ろう。これから起こることの対策を相談する」

「ということは、もしかして……」

「ああ」


 爆発現場に背を向けて、シャルロットもついて来ると信じて、少し足早に歩を進める。振り返ることなく、わたしは彼女に告げた。


「……神秘の箱は、開かれた」


すっかりシャルロットは探偵助手のポジションが板についてきましたね。これから彼女の活躍が、どんどん増えていきそうです(作者の技量次第ではありますが……)


次週はいよいよ謎解きです。

ローゼが第4章から抱いていた違和感、皆さんはお気づきでしょうか。もう一度第4章を読み返してみてください。今回の話を読んだ後だと、少し違って見えてくるかもしれません。

さあ、次回から探偵ローゼの本領発揮です!

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