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第48話 困惑

 エイブの村から去る。シオンら一行はほぼすべての村民に惜しまれつつ村を後にしたのだがこの手の物事に慣れていないシオンはある種の気恥ずかしさや煩わしさのようなモノを感じている。


 単純に慣れていないのだ、称賛の声を浴びることや感激の表情で握手を求められる事に。背中に「またおいでください」と声を掛けられるも愛想笑いのように、表情を隠すかのように、丁寧な元日本人らしい90度のお辞儀を返す事で半ばごまかすかのようにエイブを去っていった。


 シオンは心中でこう思っている「自分自身の力ではない」と。


 使い方は理解出来るのだが常に突発的に表れる謎の力。この力は少なくとも日本の病院のベッドの上に居た頃には無かった力だった。


 シオンの意識下で起きたことは、ある日目が覚めると何故か歩けるようになっていて、いつものダルさや体中の鈍い痛みが全くなく、更には知りもしない世界に放り出されたと言う事だ。……これがシオンの視点からのスタートになる。そこから運よくニーアに拾われ、ベローズと出会い、イリスが付いてきて、ネタマルゴを何故か倒せた。


 無論シオンの心底にはエイブの村、村民を出来る限りを助けたいとの思いはあった。しかし、今まで何も出来なかった自分が急に何かを出来るようになった、ロクに歩けもしない自分が、だ。


 シオンの中にある感覚は何か、と問われればこう答えられるだろう「困惑」と。


 「悩んでるのかな?シオン」


 「悩む、と言うよりは……僕の力って何なのかな?って思ってます。嬉しくないワケじゃないんですが、褒められたり……そういうのは違うんじゃないかな?って」


 スクリスへの帰路の途中、川沿いをノロノロと歩きながら空を見上げ、過去を振り返りながら、そんな仕草をニーアに尋ねられた。天気は快晴で日差しは煌めき、草を束ねた青臭いにおいが辺りに充満している。


 「凄い力を僕は出せるようになりました、けど……これは本当の僕の力じゃ無い、と思ってます」


 「なるほど、シオンは真面目だね。でもエイブの村人にとってシオンの本当の力とか偽物の力とか借り物がどうとかは関係がないよ。結果として助かった、助けてもらった、っていうのが全てなんじゃないかな?」


 ニーアは空高く飛んでいる鳥に視線を合わせてシオンにそう言う。シオンもまたその視線を追い、中空をクルクルと旋回している鳥を見つめた。


 「草履ってあるじゃない?草木は私たちの力で生えているワケじゃないよね?その手伝いをしているだけ。そして草履は実を取った後の茎を加工して作る、知ってるよね」


 「知ってます」

 

 「シオンの持っている力なんてその草履と同じだよ、それが何なのかが問題じゃなくて、どう使うかが問題なんじゃないかな。シオンが納得するかどうかは別として、その力で助かった人がいるならそれで良いじゃないか」


 「ニーアの言う事が正しいのだわ、わらわの持っている大ナタも魔物の巣から奪い取った物なのよ。来歴は問題じゃないのだわ、大きな顔をするものでは無いけれどもう少し胸を張っても良いのかしら」


 恥ずかしいので口には出さないが、シオンはこの2人に多くの物事から助けられ、感謝している。素直にその言葉はシオンの中に沁みわたり、また少し心の中にある氷壁が溶け出した。


 しかし、次にベローズの口から出た言葉はシオンにとって少々難しい言葉だった。


 「シオンが本当の意味で納得したいならば、その力を完全に使いこなす事なのよ。偶発的なモノに頼るのは今後ともによろしくないのだわ」


 「そう、ですね。何となく感覚は掴んでいる気がするので頑張ってみます」


 シオンの中に眠る力、その一端なりとも使いこなし完全に自分のモノにするための訓練が始まる。シオンは言葉の通り何となく理解をしてきているのだ、コマを回すコツのように、自転車に乗るコツを掴んだ時のように。




 風が吹き抜けた、サワサワと草木が揺れる。川沿いから水面を覗くと偶然魚が跳ねた、先頭を歩く群青色の少女の腰からは魔物除けの煙が辺りに立ち込め、その清涼な匂いが流れてゆく。どこまでも青い空には1羽の鳥、湿気の少ない夏の日差しを浴びて少年はどことなく、何故か懐かしさを感じた。遠くに蒼く茂った森がある、あのどこかには恐ろし気な魔物がいるのだろう。あちら側から見るならばこちらもまた恐ろしい生き物なはず、しかし今は静謐のみが辺りを包んでいた。




 ……一行はやがてスクリスへとたどり着いた。時刻は夕暮れ、炊煙がそこら中から吹き上げていて香ばしい匂いが充満している。シオンは行ったことは無いのだが知っているならば縁日を思い起こしただろう。


 「あー、帰り着いたね。暑かったから汗でベタベタだね、宿屋についたらシオンに拭いてもらおうかな」


 「自分で拭くと言う選択肢は無いんでしょうか?」


 「シオンをネットリと拭くのはわらわの楽しみの1つなのだわ。それはそうとしてそろそろこのスクリスともお別れする計画を立てなければならないのかしら」


 シオンとニーアは互いに「え?」と言う顔をする。イリスはいつもの無表情だがベローズに視線を合わせた。


 「詳細は宿に付いてから話すけど今、ザックリと説明しようかしら。イリスが金属その他を欲しがっているのだからソレを回収しに行こうと思っているのだわ、多少大回りになるけれども」


 「あー、ネタマルゴの鱗の元ネタってアレだね」

 

 「そう。イリスはこの近くに鉄が豊富な鉱脈があると言ってたのだわ、そうよね?」


 イリスはコクリと頷く。


 「そしてここらでは採掘をするのに許可が必要になるのだわ。でも許可を得るには時間もお金もかかるのは当然、なのでそこは無視してしまおうと思っているのかしら」


 「あー、イリスさんが転送したら手元に何も残らないですもんね」


 ベローズはニヤリと笑う。ニーアは何事か感心したようにウンウンと頷きイリスは無表情。シオンは後ろめたいのか周りをキョロキョロと伺うが近くには誰もいなかった。


 「この後は宿屋で会議とするのだわ、今はイーギルの白焼きを買い込むのが先なのよ」


 ベローズの言葉と共に一行は大きく頷き、大量の串焼きを買い込んで宿屋へと移動した。


 無論その後シオンは宿屋で体中を拭かれてキレイさっぱり……する事になる。そう、シオンはほんの少し、ほんの少しだけ大人の階段をちょっぴりだけ昇ったのだった。

 

昇ったのはほんのちょっとです、なので決してエロスな話ではありませんw

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