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23 地雷という名の攻略キャラ

 ショッキングピンクの髪をオールバックにした美丈夫が無言でこちらを見ていた。



「………………」



 じ、地雷……ジライヤ・カイ……。

 カナラマナラ王国出身の天才魔術士。許可なく話し掛けると殺される可能性がある、神出鬼没の攻略キャラとは名ばかりの地雷キャラ。


 ヒロインのジェシカ・ローレンスでも出会い頭に殺される可能性は7割と高い。


 ヒロインの場合「喋れ」とか「可愛くない」等の言葉をかけられたり、頭を撫でられる等の身体的接触があると、ジライヤからの殺害率が下がる。こいつだけは好感度ではない、殺害率を下げるマイナスからのスタートなのだ。率を下げ続けても何故か殺される可能性は常時5割と攻略難易度は高い……おまけに出没するタイミング次第ではヒロインが狙っていたメイン攻略キャラすら殺す全国のプレイヤーお墨付きの地雷。


 美形でも……もうね、顔が犯罪者なの。

 いま1人()ってきましたみたいな人相してる。どんなだよ。


 で、でも……攻略方法は知っている。

 地雷……いやジライヤは二重人格なのだ。

 殺すぞ人格とマジキチ変態人格。

 マジキチ変態人格だけは攻略できる。変態の人格は両腕の無い女が好きなのだ。だから両腕を切り落とすだけで攻略できる。なんだそれ。思い出しただけで気絶したくなってきた。このまま意識を失ったら生徒として不合格の免罪符をくれますかね?



「オレと目を合わせて叫ばなかっただけ褒めてやる」



 あー! そっちか!

 叫べばよかった!


 この感情の全く感じられない機械みたいな音声……うぅ。耳が黒板引っ掻いた時と同じ不快感がある。


 どうしよう……お父様が物凄く機嫌悪そう。青筋の血管が太くて、なんて男らしいの。

 クーパーが前に出てジライヤの対応をする。



「小一時間ほど2人きりにしてくれ。今後のことはそのあと決める」



 お父様が嫌々……クーパーにせっつかれてほんと嫌々って感じで了承した。いや、お父様から断ってくれてもいいのよ!?



「…………」



 どうしよ……。

 2人きりにされた。

 てかいきなり現れてどこから入ってきたんだか。



「…………」



 うぅ。なんか喋れよ。

 こっちからはお前に話し掛けれないんだよ。

 いきなり消される可能性があるからね。



「…………」



 なんやねん、もぅ。喋れや。



「…………」



 あー……もうこいつ本当、アレやわ。

 合コンとかでも喋らない奴だ。見た目がいいから女から話し掛けさせる勘違い野郎だ絶対。いや知らんけど。圧が凄すぎてスムーズに防御機能が働かない。



「…………」



 とりあえずこちらから話さなかったら殺される可能性はない。いちおう侯爵令嬢だしね。とりあえずカーテシーでもしとくか。



「誰がそんなことをしろと言った」



 あかん。

 まだ殺気は感じない。

 てかもう無理……吐きそうだ……なんか圧が増えた……目の前をどきついピンク色の圧が……えっ??



 このピンク色のベールって……もしかして魔力の流れ?



「気付いたか?」



 あ、はい。

 返事のかわりに頭を下げる。



「これ程の魔力をぶつけられても倒れないのなら、お前の魔力値は高いようだな」



 そうなの?

 食堂にどきついピンク色のベールが溢れ、ジライヤの顔が霞む。いや、ベールというより霧がかっている。思わず目をしかめてしまう。



「魔力感知は済んだ。次は魔力操作だ」



 そう言ってジライヤはまた黙った。

 いや魔力感知はかろうじてできたのだ。ジライヤ先生と呼ぶべきだろう。お陰で初めて見たよ、自分以外の魔力の流れ。

 私はお父様の魔力に触れたら、それがお父様のものであると解るけど、お父様の魔力の流れは目で感知できない。てかジライヤ先生が出したみたいな濃い魔力ではないと目に見えないのなら、私の魔力感知って相当な欠陥があるよな。そういやお父様の魔力は何色だろう? 銀色かな? それとも黒?


 ふふ。イメージとしては、いぶし銀の渋い、それでいて鋭さがある魔力……あ〜実際どんな色か見てみたい!


「雑念でもあるのか?」


 集中しろと睨まれた。

 ……ちょっと、ほんと頑張ろう。

 ジライヤ先生が天才魔術士であることは公式だし、このキーキー不快な声もそれほど気にならなくなってきたし。


 うぅ。いつの間にか目の前がピンク色の濃霧だ。目がしぱしぱする。

 てか魔力操作ってなによ?

 もう窓あけて換気したい。


「よし。まだ覚束ないが、それなりに操作できているようだ」


 は?


 濃霧のなか、ジライヤ先生が手の中でなにかしている。5分程その様子を伺っていると、いきなり冊子? が投げつけられた。あっぶねー。咄嗟に受け止めたけど、この美しい顔に当たるところだった。



「それを侯爵に渡せ。今日はこれで終わりだ」



 よかった。霧も晴れてきた。

 了承するようにジライヤ先生に頭を下げた。

 とりあえず冊子を手にそそくさと食堂を出ようとしたら「おい」と呼び止められた。



 はい?

 なんですか?



「お前は何故、喋らない?」


「…………」



 ……………………え?



「…………わたくしは、今回のように貴方から言われた教えを学ぶだけで結構です。わたくしから貴方に話し掛けることはありませんので、お気になさらず」


「ふざけるな。貴族令嬢なら挨拶くらいできるようになれ。全くこれだから…………チッ」



 ……ハアアアアアア!!???



「仕方ない。ついてこい」



 むんずと首根っこを持たれて冊子を落とした。

 そのまま窓に向かっていく。

 いや、これ、ちょ、体が強張る。

 掴まれたのは首じゃないけど、ワンピの襟だけど、首関連で物理的に持ち上げられるのは今にも何かが漏れそうになる。



 そして連れていかれたのは……屋根。

 本邸のてっぺんだ。屋上テラスもあるのに、なんで足場の悪い屋根に……。うぅ。足がつかないよ。物理的な浮遊感に冷や汗がでる。


 てかジライヤ先生、浮いてます。


 移動しながらこれは重力を操作したなんたらかんたらとぶつぶつ言ってました。知らんがな。人間は二足歩行だ。地面を歩く生き物なのだ。いくら異世界とはいえ空を飛びたい気持ちはない。


 うぅ。風が強くて、たまにワンピのスカートが顔まで捲れあがる。太腿もパンツも丸見え。でもそんなことはどうでもいい。


 いまだ掴まれたままの首根っこ。

 そしてこれ以上にないくらいの不機嫌な視線が突き刺さる。



「お前は可愛く無い」


「…………」



 もう連れてきた猫のように縮こまる。

 お願いだから落とさないで!



「なにか喋れ」



 お前がそれを言うのか。

 お前がそれを言うのか!



「……やねよーりたぁーかぁーい、」


「黙れ」


「…………」



 もうだめ。

 深海で貝になりたい。

 俯いて目を閉じたら涙が出てきた。

 異世界転生して、危機も乗り越えて、お父様と領地で遊び倒せると思ったらすぐこれ? 公式のジライヤ先生は出没エリアが決まってないとはいえ──



「雑念を消せ。姿勢を正しくして目を開けろ」



 でも怖いから従っちゃうんだよね。

 直立姿勢で目を開けると、絶望した。

 だってジライヤ先生がすぐ目の前にいる。

 首根っこどうしたの? なんで掴んでてくれないの?


 それに関しては考えることを放棄してジライヤ先生を見つめた。



「なんだ……出来るじゃないか」



 やめてお願い頭を撫でないで。

 頼むから上から重力を与えないで。

 今にも何がか漏れそうだし──落っこちそう、そう思った瞬間ガクンと体が落下し、ジライヤ先生に胸ぐらを掴まれた。



「っ、はぁはぁ……!」


「まぁ、初めてだしな。数秒保てたなら大丈夫だろう」



 これ、なんの授業?


 胸ぐらを掴まれたまま空中を引き摺られるようにして屋上テラスの上に連れてかれた。


 真下には地面がある。

 うぅ。早くおろしてよぅ。

 お腹痛くなってきた。お腹が痛いんだって! もうスカートが捲れあがって腹が冷えるってば!



「……おかしいな? 睨まれるようなことはしていないぞ?」



 ブチンと何かがキレた。


 もう……だめだ……物凄く嫌だけど攻略しよ……。


 胸ぐらを掴まれたまま、ワンピの中でガサゴソと身を捩らす。



「……何をしてる?」



 風が強い。長袖から両腕を抜いてワンピの中に入れた。少しワンピがきつくなるが両手を背中にまわす。


 ひらひらと、中身のない長袖が風に煽られ、それを見たジライヤ先生が息をのんだ。色々おわた。でもやるしかない。見せ掛けだけど、カイ様お願い出てきて。



「…………綺麗だね」



 声が、変わった。

 まさか本当にカイ様が、出てきた?

 それに無機質な機械音じゃない、優しい声になった。



「あぁ……無駄なものがないね、それこそが女性の一番美しい姿だよ」



 腰と膝裏に手を添えれれ、抱き上げられた。

 よかった。まだこの方が安定する。

 早くお父様の膝に帰りたい。



「あ、ありがとうございます。お手数かけて申し訳ないのですけれど、あそこのテラスにおろして頂けないかしら?」


「いいよ」



 すぐに地面におろされ、ホッとしたのもつかの間、カイ様? に抱き締められ、背中に手を添えられた際、カイ様がゾッとするような目を向けてきた。あ、やべ。バレた。



「……なに、これ?」



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