元ダンジョンマスターは、伝説の吸血鬼の【主様】にして【従者】です
----ダンジョンマスター。
それはダンジョンと呼ばれる、魔王様が生み出した試練の場所であり、その最奥にあるダンジョンコアを守り、そして運営する者こそ、ダンジョンマスターである。
ダンジョンに挑もうとする人間、またの名を冒険者を倒して、資源を回収する。
冒険者は困難を乗り越え、成長すると、回収できる資源の量も増えるため、ダンジョンマスターの役割としては、相手がギリギリ乗り越える罠や魔物を用意して乗り越えさせ、最終的に資源を回収するのが役目だ。
その回収した資源を、魔王様がどのように利用しているのか。
その事については、一介のダンジョンマスターである俺なんかでは教えてもらうどころか、考える事すら無意味と言っても良い事態である。
なにせ----
「はいっ、という訳で今日からこのダンジョンは、エリートであるこの俺様【オカダ・ロタ】様の物になるから! 大学も出ていない無能三流野郎のお前は、今日から無職でぇす! 残念でしたぁ! う~、ぷすぷすっ!!」
----本日、俺はいきなりダンジョンマスターを解雇された訳で。
俺の名前は、【スサオ】。
とあるダンジョン、『ジマリハの洞窟』というダンジョンのダンジョンマスターに任命されてた者。
青い肌をしている、人間の敵対種である魔族だ。
ここ100年くらい、このダンジョンのダンジョンマスターとしてしっかりやらせてもらってたんだけれども、いきなり解雇通告を受けた訳だ。
通告をしてきたのは、こちらを見るなりバカにしたような顔で見てきた魔族の少年である。
青い肌、黒い尻尾、そして大きな2本の黒角。
俺と同じ魔族の特徴を持っていたが、何故だか同族とは思えない雰囲気を漂わせる少年であった。
その魔族の少年は、魔王様発行の『ダンジョンマスター任命証』なる正式な任命証を持って、自分こそがここの新しいダンジョンマスターであると言ってきたのだ。
「良いか、このロタ様はお前らの魔王に異世界から召喚された、つまりはヘッドハンディングを受けた、つまりはエリート様な訳なんだよ! つまりは、やっぱ俺様の偉大さは前いた世界には天才すぎて分からず、こっちの世界じゃないと理解されないって言うか? つまりは、名門の一流大学を出た俺様の偉大さってのは、分かるヤツがいるこの世界でないと、ダメだったって訳で?」
……えっと、コイツ何を言ってるんだろう?
「……えっと、つまりは、魔王様が異世界から召喚した転生者、って事?」
「最初からそう言ってんじゃないかよ! これだから、無能野郎ってのは、つまりはバカって訳だな!」
いや、分かった俺の方が凄くない?
なんか無意味に『つまりは』って言う言葉を使っていて、聞いていて頭がおかしくなったかと思ったんだけど。
「(転生者、ねぇ)」
転生者ってのは、この世界とは別の世界から、新たな力を与えられて召喚された者達の事だ。
人間達の言う所の勇者なる連中は、神様から『チート』なるめちゃくそ激強な能力を持っており、相手するだけ無駄ってくらいにヤバヤバな連中である。
我らが魔王様は、そんな転生者を召喚して、自らの陣営に引き入れたって訳か。
敵に回せば強敵だが、味方にすれば心強い……みたいな考えなのだろう。
「俺様は、元居た世界では、一流大学を主席卒業した、つまりはエリートって訳だ! この世界に大学という概念がない以上は、つまりは俺様以外の全ては大学すら出ていない無能連中! つまりは、俺様以外は無能であるからこそ、無能なお前はすぐさま出て行けって言う訳だ! つまりは、お分かり~?」
「魔王様に、俺の居場所はないって言われた、そう言う事だろう?」
「そう! つまりは、そう言う事だ! ってか、無能なくせに察しが良すぎんだよ! 殺されてえのか、ああん!?」
……いや、どういう理屈だよ。
「俺様は天才、つまりは俺様以外の連中は全てバカ! なのに、俺様とほぼ同じくらいに、答えに辿り着ける奴がいるだなんて、あり得ないだろうが!? つまりは、そんな事も分からないからバカなんだよ、バーカっ!!」
やべぇ、頭が痛くなってきた。
これが分からないのがバカなら、もう俺バカでいいじゃんって思うくらい、意味不明なんだけど。
「お前の事は、魔王のヤローから聞いてるぜ? "ダンジョンに突入させた冒険者のほとんどを無傷で返して、しかも成長させる。そうして他のダンジョンにしりぬぐい的に倒してもらう能無し野郎"って、つまりはお前の事だろう?」
「えー……」
嘘、魔王様ってばそんな事を思ってたの?
確かに俺は、ダンジョンに来た冒険者のほとんどを、ダンジョンの試練によって成長させて、ダンジョンから脱出させている。
死んだ冒険者の数もほとんど居ないし、無傷で返した冒険者も少なくはない。
無論、ダンジョンコアは壊させないように隠してあるのだが、それでも俺のように冒険者を殺さず、むしろ育てるみたいな運営をしているダンジョンマスターは居ないだろう。
でもそれは、このダンジョン近くにある人間の街が、超がつくほどのド田舎だからだ。
居る人達もほとんど魔物と戦ったことがない素人同然の者達ばかりで、殺して得られる資源もカスしかない。
だからこそ、このダンジョンである程度成長させて、次のダンジョンで丸々太らせて刈り取るという、そういう運営方法でやらせてもらうって、100年ほど前に魔王様とは話してあったんだが……。
まさか、100年近くも経ってるから、記憶を忘れてしまわれてる?
「えー……つまりは、お前は魔王を倒すかもしれない冒険者を育てる、裏切り野郎って訳なんだよ。ここまで理解できたか?」
「いや、俺は----」
「そして、お前のダンジョンは俺様が貰い----」
----お前にはこれから、死んでもらう。
すーっと、いきなり俺の足元に藍色の、見た事もない魔方陣が現れる。
「その魔法陣は、このロタ様のチート能力、その名も【帰還不能の即死罠】!
魔方陣を踏ませた相手を、強制的に死地へと飛ばす最凶能力! 深海、宇宙、岩の中! どこに飛ばされるかはこの俺様ですら分からん! 分かっているのは、つまりこの魔法陣を踏んだが最後、死亡確定って事だ!」
「つまりは、バイバーイ!」と、ロタのなんとも他人事な言葉を最後に。
俺は魔方陣にて、死地とやらに飛ばされるのであった。
(※)魔族
人間の敵対種にして、魔王を頂点とする種族。寿命は基本的に存在していない
基本的な特徴としては「青い肌」「尻尾」「角」の3つであり、出身地などによって角が短かったり、足がない代わりに蛇の尻尾で移動するなど多種多様
魔王を頂点としており、魔王は城の中から顔を合わさずに、魔族に指令を与えることが出来る
(※)資源
ダンジョンにて、ダンジョンマスターが回収する物質。人間が死ぬ際に出て来る謎物質
人間が苦悩すればするほど、また強い人間であればあるほど、出てくる量と質が良いため、ダンジョンマスターはバランスを考えて、この資源が多く出るように、またダンジョンに来やすくするのがお仕事である
なお、使い道に関しては、魔王以外誰も知らない




