さらわれる姫様を強くしてみた ~器用貧乏な騎士の姫様強化計画っ!~
こういう系等の作品、一回作って見たいなぁ~って思って。
【フーハハハハッ! 国王よっ、魔王様のために、姫は貰っていくぞ!】
「お、おのれっ! 魔族め! 我が愛しき姫を返せっ!」
ってなやりとりが、隣国ウミチーカで起こったらしい。
「と言う訳で、騎士サイタよ! お主を本日より、姫様護衛の任につかせるっ! お前の力で、我らが愛しきルビーナ姫様を護るのだっ!」
「うわー、まじかー」
僕、騎士サイタはあからさまに嫌な顔を、騎士団長へ見せる。
ここは我らがアイシテール王国の、騎士団長室。
豪華な装飾がこれでもかと用意された団長室で、それに似合わないムッキムキの暑苦しい筋肉だるまがふんぞり返っていた。
その筋肉だるま----騎士団長であるサイドチェストは、僕の態度が不満だったらしい。
「騎士団長命令だぞ? 騎士なら、団長の命には絶対、だろうがっ!」
鼻から熱い鼻息をむふーっとばかりに飛び出す、熱血筋肉だるま----失礼、騎士団長とやらを"上司"として再認識した後、僕は極めて静かに言う。
「自分には重----」
「口答えするなっ!」
バシッ、と、頬を強く殴られて、僕は吹っ飛ばされる。
「うぐわーっ」
情けなく吹っ飛ばされ、僕は壁に激突する。
途中で《受け身》のスキルを使っているから、痛くはない。
痛くはないが、その最中に時価数百万とかの絵画やら、めちゃくちゃキラキラしてる銅像とかにぶつかったので、そっちの方はめちゃくちゃ痛い。
「(《受け身》スキルは、あくまで地面とかに叩きつけられたときにダメージを減らすスキルだもんなー。途中でぶつかった奴には効果がないからなー)」
というか、この筋肉だるま、ヤバくね?
僕の給料数十年分のお宝がゴロゴロしている部屋で、力任せにぶん殴るって、人としてヤバくね?
僕だったら、壊れる物達の値段を計算して、絶対に後悔するからやらないのに。
躊躇なく、人をぶん殴れるって、頭おかしいんじゃねぇの?
「騎士サイタよ! 起き上がって来いっ! 《受け身》でダメージを減らしているのは分かってるぞ!」
「…………」
返事をすることなく、僕はゆっくりと起き上がる。
その様子を見て、筋肉だるまは満足そうに頷いていた。
いや、「やっぱりお前はやればできる子!」みたいな目で見ないでよ。
「だる……騎士団長。やはり姫様護衛は、僕には荷が重いと思うのですよ」
「今、『だる』って言わなかったか?」
「言ってません」
仕方ないでしょ、うっかり"『筋肉だるま』=『騎士団長』"という刷り込みを忘れてたんだから。
ていうか、仮にも騎士団長なら、ちゃんと騎士らしい鎧とか付けて、剣とか持ってくれよ、僕みたいに……。
なんで上半身タンクトップで、自慢の筋肉見せつけるように盛り上がらせてんだよ、バカなの?
脳みそまで筋肉で出来てんじゃねぇの、この人?
「……ふむ、確かに姫様護衛は、騎士の中でも名誉な任務。荷が重いというサイタの気持ちも分かる」
「でしょ~?」
ついでに言えば、姫様が行くところならどこまでも付いて行かなくてはならず、休みもほとんど取ることが出来ない。
なおかつ、先程の隣国のお話を統合すれば、まず間違いなく----
「しかしっ! 隣国ウミチーカで、向こうの王族たるリペドット姫様が、魔王軍に誘拐された以上、この国で起きる可能性は非常に高いというのは、サイタも分かり切ってることであろうっ!」
「えぇ、まぁ……」
分かりますとも、だって、それが一番受けたくない理由だから。
魔王……それはここよりも遥か北の大地に住まう、魔物達の長。
数十年単位で復活を繰り返すかの王様は、どうやら『高貴な女の子をさらって、イチャコラするんじゃーい!』みたいな妄執というか、信念を持っているらしく、時折、それぞれの国のお姫様を誘拐するのだ。
そして、誘拐された姫様をお救いするのが、各国が用意した、選ばれし勇者と呼ばれる存在で----って、この辺は良いか。
とにかく、隣国ウミーチカの姫様が誘拐された以上、この平和で有名なアイシテール王国の姫、ルビーナ姫様が誘拐される可能性も十分にある。
そうである以上、魔王が完全に討伐されるまでは、姫様護衛の任に就いた騎士達の休みは限りなくゼロに近いだろう。
「(魔王め……姫様をさらってイチャコラするしか能がないのに、無駄に強いって何なの? ほんと、厄介な王様だ)」
恐らく、ウミーチカ国でも、魔王討伐のための勇者が選ばれているだろうけど、その勇者さんが魔王を即座に討伐してくれる可能性はかなり低いだろう。
歴代の経験から言って、魔王が討伐されるのは良くて5年、最悪10年以上は覚悟しなくてはならないからだ。
これは勿論、さらわれた複数の国々から、それぞれ勇者を派遣してのことだから、まだまだ時間はかかるだろう。
「(嫌だよ、僕は。最低でも5年以上、ろくに休みが取れそうにもない姫様護衛の任務なんて。なんの罰ゲームだよ、まったく)」
だから僕は、この騎士だるま長に断っているのだ。
"姫様護衛の任務は荷が重い。今の、ろくに仕事もないけど、給料が良い、城下町の見回りの任務のままが良い"って。
「……残念ながら、僕ではお力になれず」
だから、別の人をお願いしたい。
出来るならば、散々威張り散らすだけの、うちの班の班長辺りをお勧めしたい……。
----しかしながら、その想いは筋肉だるまには届かず。
「では、了承を得られたって事で、騎士サイタよ! 騎士として、姫様をしっかり護衛するんだぞ!」
「えっ……」
僕、いつ了承しましたっけ?
とまぁ、良く分からないうちに了承していたらしい僕は、ルビーナ姫様の護衛と言う任務に就くハメになったのである。
いや、ほんと、マジで辞めたい。




