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  作者: K
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黒い影

巧は、忘れた頃に時々帰ってきた。

携帯番号を知らないことを告げると

「ああ、そうだったな。」

と、特に拒否する感じも無く、メールアドレスまでよこした。

悪かったという感じでもなく、どうでもいいという印象だった。

バイトを始めた爽が、深夜帰ってくると、女がいることもあった。

ほとんどは、部屋にこもって、爽と顔をあわすこともなく翌日には巧ともどもいなくなるか、爽が大学にいくまで、部屋にこもっているかだが、一度だけ、着替えらしい荷物をかかえた巧と、帰宅した爽が鉢合せしたことがあった。

巧は、笑いながら、そばにいた長身の女に自分の弟を紹介し、ついでに爽に

「美咲だ。」

と、彼女を紹介した。

知的な美人で、爽を見るとにっこり笑った。クールビューティだった。

巧より年は上のようだが、見事に絵になるカップルだった。

服の若干はみでたかばんを見て

「世話になっている先輩?」

と聞くと、

「まあな。」

と、巧が笑う。

どうやら、この先輩こと美咲の元に転がり込んでいるらしい。

そして、かなり優秀らしいこのきれいな先輩のお蔭で、巧は、国家試験も通り、大学も無事に卒業し、薬剤師として、この春、就職した。


爽も大学2年になった。

実家からの連絡はないし、巧と同様、実家に帰ることもしなかった。

孤独を感じ、ホームシックも感じたが、それも、いずれ、慣れた。

実家からの仕送りは、毎月、きっちり入っていて、爽が金に困ることはなかったが、バイトはむしろ増やした。

家に一人でいるよりいいと感じていた。

一人でこの少し広い家にずっといるのは、寂しかった。

ところが、春が過ぎ、じっとしていても汗がにじみでてくるような蒸し暑い夏がやってくる頃、何故か、巧はマンションに帰ってきた。

数日で、また美咲の元へ行くとばかり思っていた爽だったが、今回は、一向に出ていく気配がない。

そして、いつものへらへらした明るさもなく、どこか疲れているように覇気がなかった。

巧の就職した薬局は、比較的大きな総合病院の門前にある処方箋薬局だ。

患者も多いので、薬剤師もスタッフも、人数が揃っている。

24時間体制もとっているので、独身の巧は、月に何回かは夜勤も入る。

朝、爽が大学に行く準備をしてると、夜勤だったらしい巧が帰ってきた。

だるそうに、シャワーを浴びて、食事もとらず部屋にこもろうとする巧に、爽は声をかけてみる。

「兄貴?」

面倒臭そうに振り向く巧に、爽は、

「体調悪いの?」

と聞いてみる。

「夜勤明けだからな。かったるいけど?」

何だ?と言う顔をする巧に、爽は、何も言わずに首を振る。

そんな爽を、胡散臭そうに見ながら、巧は自室にこもっていく。

その巧の背に、爽は、歓迎できないものを見てしまったのだ。

そいつは、巧と一緒にマンションに入ってきて、巧と一緒に部屋にこもった。

巧の傍に、光源とは関係ない位置で、影が存在してる。

何だろう?

巧の元気のなさも気になる。

爽は、後ろ髪を引かれる思いで、大学に向かった。


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