第五十九話 無法者 1
いきなり予想外の事が起こってしまった。
レントを去ると決め、早朝からこっそり出発したつもりが・・・。
なぜか、エルマさんが城門横にいたんだ。
それどころか、俺たちについて来たんだから。
エルマさん。
そんな、あっさりレントを出てもいいんですか?
なんて思ったんだけど・・・。
考えてみれば、エルマさんは迷宮の転移を知っている。
それを利用すれば、そう時間をかけずともレントに戻ることは可能なんだよな。
なら、いいか。
しかし、どうして俺たちがこんな時間に出発するって分かったんだろう。
なぜ知っていたんだ、レントを去ることを・・・。
ランスアールさんに聞いたのか。
いや、そもそも詳しい事は話していないし。
レントを出るとも言ってない・・・。
それでも、ランスアールさんは何か色々と納得した様子で、今までのお礼と言って高価そうな魔道具なんかを俺にプレゼントしてくれた。
お見通しなのか。
怖いな・・・。
とにかく、エルマさんが加わって3人の道行となったわけだ。
目指すは、公都スヴェルク。
迷宮から出て、そのまま山越えでスヴェルクを目指すというのも考えたんだけど、それだと山中一泊は確実なので、一度トア村に寄ることにした。準備も整えたいしね。
いきなりの出発だったので、俺はともかく、エルマさんとミュリエルの準備は万全でないからさ。
ということで、今日はトア村で一泊。
必要な物も、ここで揃えよう。
「あそこがトア村だよ」
ミュリエルにとっては、初めて来る村だ。
その顔には好奇心が隠し切れていない。
まっ、地下迷宮の中ほどではないか。
ホント、迷宮の中では珍しくはしゃいでいたから。
・・・ちょっと可愛かったな。
「懐かしいわね」
「そうですね、久々という程でもないんですけどね」
この村、やっぱり亜人が多い。
チェシュメルの村だから当然なのだろうけど、思わず目がいってしまう。
エルフも結構いるし、ミュリエルにとっては居心地良いかもしれないな。
うん?
エルマさんが俺を凝視している。
「エルマさん?」
・・・睨んでる?
何かしたか?
「ハヤト様、話し方です」
あっ、そうか。
つい忘れてしまうんだよ。
「ごめん、エルマさ・・・エルマ」
「それでいいのよ」
ふぅ~。
やっぱり慣れてないから難しい。
いきなり喋り方を変えろと言われてもなぁ。
ミュリエルの時もそうだったけど・・・。
徐々に慣れていくしかないか。
「じゃあ、2人とも行こうか」
チェシュメルとアルザザの国境付近。
そこに地下迷宮の出入口の一つが存在する。
トア村はその出入口から徒歩で約一時間の距離だ。
のどかで穏やかだけど活気にあふれている、そんな感じの村だったのだけど。
・・・うん?
村の様子がちょっとおかしい。
前に来た時とは、村人の様子も違っているような・・・。
「ちょっと変ですよね」
「・・・」
ジト目された・・・。
はい、そうでした。
「ちょっと変だな」
「そうね」
めんどくさい・・・。
しかし、この村、なんと言ったらいいのか。
変な緊張感が漂っている。
と、そこに見知った顔が。
「あっ、兄ちゃん」
「久しぶりだね、ディノ」
「うん、うん」
今にも飛びついてきそうな勢いだ。
元気そうで良かった。
「相変わらず、元気いっぱいね」
エルマさんも久々の再会に嬉しそうだ。
ミュリエルは・・・一人蚊帳の外。
事情を聞きたそうな顔で俺を窺っている。
ちょっと待って。
あとで、話すから。
「うん、僕は元気だよ・・・でも・・・」
「何かあったの?」
「悪い人がいっぱいで・・・」
要領を得ない。
が、この村の空気を悪くしている者がいるということだろう。
「そうかぁ。あとで、店の方に行くから、またその時に話を聞くよ。お姉ちゃんとお祖父ちゃん、お祖母ちゃんにもよろしくな」
「えぇ~、一緒に行こうよ」
「まあ、あとで行くから」
「えぇ~」
さすが、子供。
なかなか手ごわい。
おっ、エルマさんが何か言いそうだ。
でも、その前に。
「こら、ディノ!」
お姉ちゃんが迎えに来たみたいだぞ。
「ウィナ、久しぶり」
「あっ! ・・・お久しぶりです。その節はお世話になって」
俺たちには気付いていなかったみたいだ。
「いや、もうその話はいいから。それで、元気にしてるかい? ロック鳥にはもう襲われていないかな」
「はい、今のところ大丈夫です」
「それは、良かった」
「ハヤトさんたちのおかげです」
そう言って、きちんと頭を下げてくる。
本当に礼儀正しい娘だな。
今の俺とは年齢も変わらないのに。
「ところで、俺たちは今から宿に行くんだけど、あとで店の方に顔を出してもいいかな」
「はい、ぜひ来てください・・・それと」
「うん?」
「・・・聞いてもらいたいこともあるので」
まあ、そうなんだろうな。
「分かった。では、また後で・・・あっ、ちょっといいかな」
「はい」
「・・・今は皆にエオンと呼ばれているんだよ。だから、ウィナも俺のことエオンと呼んでくれないかな」
道行く村人には聞こえないように、声を落として話しかける。
「えっ? はい・・・エオンさんですか?」
そりゃ、不思議だと思うよな。
言ってるこっちも、不自然だと思っているから。
でも、ここは強引に。
「そう、お願いするよ」
ハヤトの名前で行動していると、俺を追う組織らしきものに、また目を付けられるかもしれない。
考え過ぎかもしれないが、これからは慎重にいきたい。
というわけで、面倒は避けるため、ハヤトの名前は当分自粛。
エオンと名乗ることにした。
それにしても、エオンってどうなんだとは思う・・・。
急遽考えた名前なので仕方ないとはいえ、自分で名乗ってみると恥ずかしいものがあるな。カミイズミとかボクデンとかシュウサクとかムサシよりは恥ずかしくないと思ったんだけど・・・。
まあ、この世界では知れた名前ではないし、ハヤトみたいに珍しい名でもなさそうだ。
なら、良しとしよう。
うん、そう考えよう。
「はい、分かりました」
「お祖父さん、お祖母さんにもよろしく伝えてもらえるかな」
「はい。では、私は店の方で待ってますね」
そこで、姉弟とは別れ、宿に向かうことに。
「じゃあ、宿に行こうか」
さて、村の様子は気になるが、この村に泊まることに変わりはない。
ならば、先に宿を確保。
今回は昨年訪れた際にお世話になった宿とは別の宿に泊まるつもりだ。
エオン名義で宿泊するからね。
宿に向かう途中、ウィナ、ディノ姉弟との関係について、ミュリエルに簡単に説明する。
納得してくれたみたいだ。
「3人様ですね」
宿のご主人はこの村では少数派の人間みたいだ。
・・・。
うーん、やっぱり、人間って表現は変な感じがする。
人間族、人族、ヒューマン、なんて表現の方がいいかな。
エルマとミュリエルに聞いたところ、どの呼び方でも通じるそうだ。
なら、気にしなくていいか・・・。
「一部屋でいいですか」
「いえ、二部屋でお願いします」
もちろん、男女別部屋だ。
「はい、承知いたしました」
てきぱきと準備してくれる。
「ところで、お客様、大丈夫でしたか」
「はい?」
何が?
「実は、厄介な連中が村に滞在しているんですよ」
ご主人の言うことには、この村には今現在3人の無法者が滞在中らしい。
冒険者と名乗るこの3人は、その辺のごろつきも真っ青の態度で好き放題しており、そこら中で暴力を振るっては村人に怪我を負わせているとのこと。まだ死人は出ていないが、大怪我を負った村人は相当な数になるそうだ。
彼らが村に来たのは昨年末のこと。
山賊に襲われていた村人を救ってくれたお礼にと村で歓待しようとしたのが始まりらしい。
最初はまだ大人しかったのだけど、すぐに本性を現し、今は傍若無人のこの有様。
今となっては、山賊から救ったのも芝居で、あいつらも山賊の一味なんじゃないかと村人たちは思っているそうだ。
ちなみに、村人が山賊に襲われたのはトア村とスヴェルクとの間の山中。俺たちが、明日向かう予定の山中らしい。
「そういうわけなので、あまり宿から出ない方がよろしいですよ」
確かに、今はトラブルに巻き込まれている場合じゃない。
「私たちなら平気よ」
「へっ?」
「そんな奴ら、やっつけてやるわよ」
おいおい・・・。
ご主人が困惑しているじゃないか。
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