第五十八話 旅立ち 2
読者様への感謝を込めて、本日も投稿いたします。
「はい、気をつけます」
私の注意に答えるミュリエル。
いい返事ね。
「ミュリエルは戦わなくていいんだけどね」
「はい・・・。あのぅ、すみません。役立たずで」
「いいんだよ」
それに比べてハヤトときたら・・・・・。
なに、その笑顔。
ホント、何なの。
「・・・・・」
はぁ~。
甘い。
甘すぎるわ。
「戦い方も学んだ方がいいわよ。せめて、自分の身を守れるくらいにはね」
「エルマさん、それは難しくないですか」
「甘やかしちゃ駄目よ。これから、ハヤトの奴隷として生きて行くんでしょ。温室で育てるわけにはいかないって、ハヤトも分かってるんじゃないの」
「まあ、そうですが」
「ハヤト様、エルマさんの言われる通りだと思います。それに、私も戦いたいです。落ち着いたら、戦い方を指導していただけますか」
「・・・・・」
「ほら、本人もそう言ってるんだから」
「分かりましたよ」
本当に分かっているのかしら。
ハヤトについて行くには生半可なことじゃ駄目なんだから。
そこのところ分かってもらわないと。
そんな話をしながら、迷宮の中をしばらく歩いて・・・。
そろそろ、ミュリエルの迷宮見学も一段落ついたかしら。
なんて思っていたら。
「では、今後の方針について会議を開きたいと思います」
「えっ、ここで」
「はい」
迷宮の中で会議。
確かに、誰にも聞かれないでしょうけど。
うん、だとしたら適所なのかな。
「さて、僕がレントを出て来た経緯はもう話したんだけど、今後どこに向かうべきかについて話し合いたいと思います」
でも、隠している事あるわよね。
まあ、今は聞かないけど。
「どこに向かうべきかですが、僕たちがしばらく暮らすことになると思いますので、その辺を考慮して下さいね」
「あのぅ、向かうと言われてもレント周辺ですか、それとも隣国あたりまで?」
「あぁ、その説明もしてなかったね。実はこの迷宮、転移の仕掛けもあるんだよ」
ハヤトの説明が続く。
さて、ミュリエルはどんな反応をするのかしら。
この迷宮が遠く離れた場所まで一瞬で移動できる転移性能を備えているという衝撃の内容に。
「そんな事があるなんて・・・」
ほら、やっぱりね。
茫然としているミュリエルに親近感が湧いてくる。
「私も最初は信じられなかったのよ」
「そうですよね」
ホント、最初の転移後、あの村の場所を知った時には驚いたわ。
「でもね、これで解ったでしょ」
「えっ?」
「だから、それ程時間をかけなくてもこの大陸のどこにでも行けるのよ」
「・・・」
「目的地を決めるのに制限なんてないのよ」
「この大陸のどこでもいいから、僕たちに適した場所を探そうか」
「はい」
「さてと。では、話を続けるけど。その前に一つ」
「何よ」
変に間をあけて、何か大事なこと?
「え~、その場所では、当面は剣と魔法の訓練をしつつ冒険者ギルドの仕事で生計を立てようと思っているんだけど、それについては問題ないかな?」
そんなこと。
「問題ないわ」
「はい。あの・・・私も訓練したいです」
ハヤトが微妙な顔で頷いている。
「それでは目的地を決めよう。僕たち3人にとって暮らしやすい町に心当たりはあるかな?」
「差別のない場所がいいわね」
私たちは、人とエルフの混成グループ。
種族差別なんかあると面倒だ。
「・・・すみません」
「別にミュリエルが謝る必要はないわ。人を蔑視している国もあるんだしね」
実際のところ、差別というものは本当に根深いものみたい。
人に対する差別、亜人に対する差別が根強く残っている国や地域もあるから。
「それで、差別の無い場所というと?」
「そうねぇ。比較的差別が無い国はマインツ、チェシュメルあたりになるかしら。あとは、レントと同じ都市国家のアルダブリゲね」
ハヤトは剣も魔法も凄いけど、こういった知識はあまり持っていない。
物を知らないのかというと、そうでもなく、普通は知らないであろうことも沢山知っている。
本当に不思議な人。
「ローレンシアとかフォルナークは駄目ですかね?」
フォルナーク?
興味あるの。
ローレンシアにも?
意外だわ。
でも。
「ローレンシアは亜人差別があるわね」
「そうですか・・・」
「フォルナークは国として機能してないわよ。ローレンシアに統治されているから、ローレンシアと同じだと思っていいんじゃないかしら」
「差別があるということですね」
「そうね」
フォルナークはローレンシアとは違う文化を持つ国だったから、差別なんかも殆どなかったのだけれど、今はローレンシアの支配下にあるのよね。
「ローレンシアとフォルナークに興味あるの?」
「ええ、いずれは行きたいと思っています」
これは・・・好都合かも。
ランスが知ったら喜びそうね。
「そう。まあ、差別があると言っても、この3人で普通に暮らす分にはそれ程問題じゃないと思うわよ」
「私のことは気になさらないで下さい。差別があっても平気ですから」
「そうは言ってもね。まあ、とりあえずは却下だね」
まあ、そうよね。
でも、いずれ行きたいということは、一緒に行くことになるのかしら。
今は違う場所を決めなきゃいけないけど。
「だったら、マインツ、チェシュメル、アルダブリゲのどれかになるわね」
「そうですか・・・どこがいいですかね?」
「剣と魔法の訓練をしたいのよね?」
「ええ」
「剣ということならマインツ、魔法ならアルダブリゲかな。チェシュメルはどちらも程々だわね」
「有名な道場や学校なんかもあるんですか?」
「まあ、そうね」
「なるほど・・・。ミュリエルはどう思う?」
「私はハヤト様の決められた土地に行くだけです」
「まあ、そう言わず」
「ハヤト様の決めた町がいいです」
「・・・」
ふーん。
これって完全に奴隷体質ね。
「まあ、いいんじゃないの。で、ハヤトはどうなのよ?」
「エルマさんの話を聞くと、マインツかチェシュメルですかね」
「アルダブリゲは無いの?」
「そうですね」
「理由は?」
「うーん、まあ、あれです。レントの次は都市国家以外がいいかなと」
「へえ~」
あやしい。
明らかに他に理由あるでしょ。
あっ、そうか。あれが理由か。
「そ、それと、迷宮の出入口から、なるべく近い町がいいかな」
「それはそうね。何かと便利だし。となると、どこがいいか・・・」
マインツ、チェシュメルの国内で、ある程度の規模があって、迷宮出入口から近い。
そんな町は・・・。
「うん、チェシュメルのスヴェルクなんて良いんじゃないかしら」
チェシュメル王国。
ゼルディア大陸の南西に位置するこの国は、エルフとドワーフを中心とする亜人によって構成されている巨大な王国だ。もちろん、人間も相当数が暮らしているけど、国の中枢に関わることは滅多にないらしい。現在はエルフの国王が在位中で、亜人の公爵たちと共にこの広大な王国を統治している。
そんなチェシュメルとレントとの関係は深いものがある。
ランスがそう言ってたわね。
チェシュメルの北西地域はレントと近い距離にあるので交易が盛んに行われているというのもあるけど。他にも理由があるらしい。
「スヴェルクですか」
「ミュリエルは知ってるんだ」
「はい。スヴェルクに行ったことはありませんが、私はレントに来る前はチェシュメルにいましたから」
ミュリエルはチェシュメル出身なの。
まあ、エルフだしね。
「チェシュメルのどこにいたの?」
スヴェルクに行ったことがないとすれば・・・。
「イズルクです」
そうなるか。
イズルクはチェシュメル北西の町。レントからも遠くはない。
レントにもイズルク出身の人は多いからね。
「だったら、スヴェルクとは随分離れているわね」
「あの、スヴェルクはどの辺りにあるんですか?」
申し訳なさそうに聞いてくるハヤト。
やっぱり、地理に疎い。
「チェシュメルの東部。スヴェルク公爵領の公都よ」
「なるほど」
「ハヤトの言った条件通りよ。転移先から近いわ」
「トア村の近くということですか?」
「そういうこと。近いと言っても一日か二日はかかるけどね」
最初に転移した後に辿り着いたトア村。そこからスヴェルクまではそれ程離れていない。
当然、迷宮の出入口からスヴェルクまでも大した距離ではない。
「しかし、あんな国境付近に公都があるんですか」
「近いと言っても、公都と国境との間には山地があるからね。それに、以前は公都も違う場所にあったらしいわよ」
「へえ。エルマさん、色々と詳しいですね」
「常識よ」
なんてね。
トア村から帰った後に色々と調べたのよ。
「迷宮の出入口からは山越えの道になるんですね」
「山越えだけど、ハヤトと私がいれば問題ないはずよ」
「そうですか」
「迷宮の出入口から近いという点では、スヴェルク以外に思いつかないわね。小さい村ならあるでしょうけど」
トア村とかね。
「スヴェルクに決めましょうか」
「えっ、もう決定?」
「長々と考えても仕方ないですしね」
いや、会議って言ってたでしょ。
そんな簡単に決めて・・・。
「それに、一度行ってみないと、その町のことなんて実際は分かりませんから」
「そうだけど」
「気に入らなかったら、また違う場所にすればいいだけですよ」
その通りだわ。
転移でいつでも長距離移動できるしね。
「分かったわ」
「ミュリエルもいいかな」
「もちろんです」
その後、魔法陣部屋に登場した牛頭はミュリエルの方を訝しそうに見ていたけれど、私たちと一緒にいるせいか、攻撃してくることもなく通してくれた。
自分を倒した相手を見逃すだけでなく、同伴者もフリーなのね。
楽でいいわ。
ミュリエルは、やっぱりここでも驚いていたわね。
というか、怖がっていたわ。
あらかじめ牛頭のことは知らせていたのに・・・・・まあ普通の子は怖がるわよね。
それにしても、ハヤトの話し方が気になる。
私に対するのとミュリエルに対するのとでは違いすぎるのよ。
確かに立場は違うけど・・・でも・・・。
なんだか、納得いかないわ。
何度も宣伝してすみません。
ですが、今回も・・・・・。
新作「30年待たされた異世界転移」はファンタジー小説ではありますが、伏線をたっぷり詰め込み、その効果を充分に計算することで、ミステリーの香りを感じさせる作品となっております。
読み進めば進むほど、驚きを実感し楽しんでいただけるはずです。
もちろん、純粋にファンタジー小説として楽しんでいただけるようにも書いております。
本格的に伏線の回収が始まるのは4章以降になりますが、現時点で6章終了までのストックがありますので、安心して読んでいただけます。




