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転性剣士商売  作者: 明之 想
第二章
37/61

第三十七話  結界街道


 エルマさんからの思いもよらぬ弟子志願。

 あれだけの腕を持っているのだから、弟子入りなんて必要ないと思うのだが。


 それにしてもエルマさん・・・。

 淡々としているのに命令口調。

 有無を言わさぬ圧力がこもっているよ。

 命令することに慣れているような。


 お嬢様なのかな?

 ランスアールさんの護衛なんかしてたけど。


 そう思って見てみると・・・。


 凛とした大きな碧い瞳。

 まっすぐに伸びた鼻梁。

 意志の強さと共に高貴さも感じさせる。


 肩のあたりで切りそろえられた藍色に近い黒髪も、仕合後なのに潤いを失っていない。

 剣を扱うためか、その小柄な身体を包むのは飾り気のない軽装なのだけど。


 お嬢様・・・かもしれない。



「返事は?」


「弟子ですか・・・。この道場で稽古されるのでしたら、たまには見させてもらいますけど」


「たまにじゃ困るわ。毎日でないと」


「そう言われても・・・」


「問題があるの?」


 まあ、ありますけど。

 うーん・・・。


「ちょっと待って。先に僕を弟子にしてよ」


 ターヒルも耐え切れず、詰め寄ってくる。

 そうだった。

 今日はその話をしに来たんだ。



 しかし、まいったなぁ。

 2人からの弟子志願。


 ・・・。


 思いがけない展開だ。


 とりあえず、落ち着いて。

 冷静に対処しないと、あとで面倒なことになりそうだ。

 きちんと話せば分かってくれる・・・はず。



「2人とも待ってください」


「・・・」

「・・・」


「まずは、エルマさん。あなたの腕は相当なものですよ。僕が教える必要なんて」


「何言ってるの!」


 遮られてしまった・・・。


「そんなお世辞なんて要らない。だいたい、力量差ぐらい判るわ」


「いや、力量差なんて・・・」


「馬鹿にしてるの!」


 また睨まれた。


「そういうわけじゃ・・・」


「じゃあ、どういうわけ?」


「・・・」


 ・・・対処できない。

 なんて言ったらいいんだ。

 困ったなぁ。


「多少は指導もできると思うのですが・・・」


「だから?」


「それ程教えることも無いかと」


「では、教えることが無くなるまで教えなさい」


 うわぁ~。

 もう、何を言ったらいいのか。


 しかし・・・この人。

 こんなキャラだったのか?


 仕合の時は、はじめて剣を交わすとは思えないような親近感がわいたのになぁ。

 今は、ちょっと怖いです・・・。




 結局、エルマさんにもターヒルにも道場での指導だけで勘弁してもらいました。

 出来ないものは出来ないんだから仕方ない。

 まずはそこから始めましょうと。

 ただし俺が道場に来る回数を増やすという条件つきです。


 2人とも不承不承という感じで了解してくれたけど。

 本当は納得してないんだろうな。


 はぁ~。


 指導する上に、条件までつけられて・・・。

 きっぱり断れない自分が情けないよ。

 先が思いやられる。


 ・・・。


 とはいっても、本当にそんなに指導できるのか。 

 状況がそれを許してくれないと無理だよな。

 刺客の件が終わったわけじゃないんだから。








 翌日も道場に行き、2人の指導をと思っていたんだけど、いきなり予定変更。


 只今戦闘中です。




 大きな翼を持つ2羽の鳥もどきが頭上を旋回している。

 嘴を開いて俺たちを威嚇しながら。


 鳥というには長すぎる足。

 手もある。

 体長は1メートルくらいか。

 凶暴そうだ。



「何という魔物か分かります?」


 前衛にエルマさん、後衛には俺という配置。


「黒翼鳥の一種だと思うけど・・・見たこと無いわ」


 知らないのか。

 ならば、対処戦闘だ。


 1羽の黒翼鳥がエルマさんに近づく。

 待っていたかのように跳躍して一撃を放つが、身をひるがえして避ける翼鳥。


 エルマさんの一撃を避けるとは、見た目通りの敏捷性だ。

 でも、耐久力は無さそうに見える。

 おそらく、水弾なら一発で倒せるだろう。

 魔力温存のため確実に仕留めたい。



「エルマさん、次はもっと引きつけて下さい。仕留めきれなかった場合は僕が魔法を使いますので」


「・・・分かった」


 2羽の黒翼鳥の翼に力がこもる。

 まずい、今度は2匹同時か。


 攻撃にはいる直前、一方の黒翼鳥に向かって水弾。


 外れてもいい。

 同時攻撃を避けねば。


「ギャー!」


 と思ったんだけど、水弾が翼を貫通した。

 その黒翼鳥は地上に落下。


 もう一方は。


「くっ!」


 すでにエルマさんに攻撃中。

 引きつけるどころか、攻撃されてるよ。

 いや、攻撃させてる?


 黒翼鳥の鋭い嘴と爪を避け、剣を一閃。


 致命傷ではないが、それなりの傷を負わせた。

 うん、任せていいな。


 俺が地上に落ちた黒翼鳥に近寄りとどめを刺すのと、エルマさんが手負いの黒翼鳥を仕留めたのはほぼ同時だった。



「怪我はないですか?」


「大丈夫。そっちは?」


「大丈夫です・・・やっぱり、僕が前衛をしましょうか?」


 エルマさんとは初めてチームを組むのだから、連係が上手くいかないのは仕方がない。

 それでも、俺が前衛にいる方が無難だと思うんだけど。


「魔法を使える者は後衛にいるべきよ。私は攻撃魔法使えないから」


「まあ、そうですが・・・」


 エルマさんの腕を疑っているわけじゃないけど。

 やっぱり、心配だよなぁ。


 それに、後衛といっても魔法はあまり使いたくないし。

 2人とも前衛でいいのでは・・・。



 はぁ~。

 それにしても、まいった。

 こんな目に遭うなんて・・・。

 やっぱり、依頼を受けるべきじゃなかったかな。


 昨夜断れば良かった・・・。





------





 事のはじまりは昨夜。

 宿に帰ってみるとライナスさんから伝言が。

 緊急の依頼があるので、すぐ来て欲しいとのこと。


 さっそく店に駆けつけると、ライナスさんの傍らにはランスアールさんとエルマさんがいて、なんだか不穏な空気。

 緊急の呼び出しだから、平穏なわけは無いのだけど。


 どうやら、ランスアールさんがライナスさんを通して俺を呼び出したらしい。


 それで、今回の依頼の内容は。



「レント、イズルク間の結界街道周辺の調査を手伝ってもらえないかな?」


「はあ」


 イズルクとは、レントの南に位置するチェシュメル王国の北部に存在する都市だ。

 俺がケヘルさんの家を出ると決めた時に、転居の候補地にあがった都市でもある。

 そういえば、ミュリエルさんとライナスさんもイズルクからレントに来る途中、叡竜に襲われたんだよな。



「ハヤくんは最近の結界街道についておかしいと思わない?」


「魔物が出る・・・ということですか?」


「その通り。さすがだね」


「・・・」


「街道沿いに魔物が出ることは以前からあったんだけど、最近その数が多くてねぇ」


「そうなんですか」


「特に、この前助けてもらった辺り。あの周辺でよく出るみたいなんだよ」


 叡竜にグラノス。

 俺も二度遭遇しているな。


「このままじゃ、安心して街道を使えないからさ。新年になる前に原因を突き止めようってことだね」


 それで緊急なのか。

 でも、そんな話なら明日でもいい気がするけど。


「明日の早朝から調査に出発したいんだけど、大丈夫かな?」


「ランスアールさんと僕の2人でですか?」


「うん? エルマも行くよ」


 そう言って、背後にいるエルマさんに笑顔を向ける。

 けど、エルマさんは無視・・・。


「そうですか・・・」


 3人で行くのか。

 この3人で・・・。


 数時間前、エルマさんとは弟子の件で話したところなんですけど。

 気まずいよなぁ。


 うーん・・・。



「ハヤトさん、私からもお願いします。受けていただけませんか?」


「えっ?」


 ライナスさんが?

 どうして?


「結界街道が安心して使えないとなると、我々商人にとっては問題です。特に、商用でイズルクに行く者にとっては致命的です。ですから、お願いできないでしょうか?」


「今回はレント情報部だけでなく、複数のギルドからの要望でもあるんだよ。だからね、ハヤくん。報酬もいいよぉ」


 ・・・。


 いつもお世話になっているライナスさんに頼まれたら仕方ない。

 多少無理してでも行くってもんでしょ。

 ということで、引き受けました。


 報酬には目がくらんでないからね。

 確かに、この1ケ月の無収入を帳消しして余りある金額だったけど・・・。



 ところで、この依頼。

 原因が判れば終了。

 判明するまでは調査続行ということなので、拘束期間は定かではない。


 となると、エルマさんは一緒に行動するからいいとして。

 ターヒルには連絡しておかないとな。




 それで、翌日。


 待ち合わせの場所には俺とエルマさんだけ。

 緊急の仕事が入ったので、ランスアールさんは来れないらしい。

 その仕事が片付き次第合流するとのこと・・・。


 この調査も緊急じゃなかったのかよ、という突っ込みを心にしまい。

 エルマさんと2人で調査に行くことに。




 俺が魔物に遭遇した地点に到着。

 周囲を簡単に調査するも特に異常なし。


 というか、何を調べたらいいんだ?

 結界が壊れているとかじゃないの?

 専門家呼んできて、この辺りの結界の効果を調べた方がいいのではと思ったりもしたんだけど。


 エルマさん曰く、既に調査済み、異常なしだったそうです。


 そりゃ、そうだ。

 先に調べるよな・・・。



 ということで、エルマさんと調査続行。


 その間、二度魔物に遭遇。

 難なく撃破しました。



 時間は経過するも全く手掛かりなし。

 ホント、何を調べればいいんだか?

 手掛かりの手掛かりが欲しいよ。



 もう夕方か・・・。


 そろそろ戻らないと城門の閉門時間に間に合わない。

 時間に遅れても特別税を払えば開門してくれるんだけど、そんな無駄なことはしたくないかな。


 あと数刻で帰ろうかと思っていたところ。


 街道から100メートルくらい離れた地点に異常が。

 周りの地面とは何だか様子が違う。

 色が違うというか何というか・・・。

 よく見ないと分からないけど、とにかく周りとは違っている。

 その異常は数メートル四方。


 とりあえず、地面を掘り進めると。

 明らかに人工物と思われる小さい石の板が現れた。


 石板? 石版? 石盤?


 文字のようなモノも刻まれているな。


「何か分かりますか?」


「分からないわ」


 自動翻訳中の俺もなぜだか読めない?

 こんなことは初めてだ。

 文字じゃないのかな?


 こっそり鑑定も使ってみたけれど。

 鑑定不能だった・・・。


「あやしいですね」


「そうね」


 何をしたらいいのか?

 試したいことも・・・無くは無い。


「ちょっと試してもいいですか?」


「・・・ええ」


 こういう時って呪文とか魔法とかなんだよなぁ。

 マンガやゲームの世界の話なんだけどさ。


 まあ、試してみましょう。

 石盤に向けて火魔法、水魔法を。


 ・・・。


 何も起こらない。

 さすがに、ベタすぎたかな。


 でも、一応もうひとつ。

 石盤に手をあて魔力を直接注いでみる。


 うん?

 何か手応えあるような。


 魔力量を増やしてみる。


「!?」


 突然、石盤上の文字らしきモノが光を放ち!


 次の瞬間。


「えっ??」


 空中に投げ出されていた。






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