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転性剣士商売  作者: 明之 想
第二章
36/61

第三十六話  弟子




「それで、何かありましたか?」


 もう1人の刺客が早速やって来たのか。


「何もない」


 はい?


「何も無さ過ぎて暇だから来てやった」


「何も無いなら別に来なくていいですよ」


 邪魔なだけだ。


「まあ、そう言うなよ。俺とお前の仲だろ」


「・・・」


「さあ、闘おうぜ」


「はあ? なぜです?」


「ちょっとした運動。模擬戦だな」


「模擬戦・・・ですか?」


「情報収集ばかりじゃ、身体がなまっていけねぇ。付き合ってくれ」



 そう言うや、俺の返答も聞かず。


 数発の石弾。

 石壁!


 全開じゃないか。


 これ模擬戦だよな?







 ホント予定通りにいかないなぁ。

 最近は仕事をしていなかったから、今日からはしっかり稼ごうと思っていたのに・・・。

 ジークのおかげで仕事に来るのが遅れてしまい、受ける依頼も簡単なものに。

 夕方には終わってしまったよ。


 はあ~。


 仕方ない。

 道場にでも行きますか。

 昨日も行ったんだけどね。



 道場には、ギルベルトさんと門弟が1人だけ。

 今日はいつにもまして少ない。

 この道場、ホントに大丈夫か。



「今日は稽古かい?」


「そうですね。仕事も早く終わったので」


「では、ターヒル。稽古をつけてもらいなさい」


「はい」



 ターヒルは亜人と人のハーフらしい。

 短い尻尾と犬のような耳を持っている。

 12歳ながら、なかなかの動きをする少年だ。



「よろしくお願いします」


「よろしく」



 木剣を数合交わしただけで解る。

 俺がいない間も、真面目に稽古してたんだろうな。

 成長しているよ。

 大したもんだ。



「少し見ない間に、また腕を上げたね」


「本当に?」


 嬉しそうな顔には幼さが残っている。

 こういうところは年相応だ。


「もちろん、将来が楽しみだ」


「へへ・・・嬉しいな」


 しっかりとした指導を受ければ、かなりのところまで到達できるのでは。



「ところで、先生。話があるんだけど」


「何かな?」


「今ここではちょっと・・・。あとでもいい?」



 それならということで。

 稽古後、2人で夕食に。


 道場の近くにある飯屋。

 安い定食ばかりだけど、味は侮れない。

 今日も期待通り、美味でした。



「それで、話というのは?」


「あのぅ・・・」


「うん?」


「・・・弟子にして下さい!」


 えっ?


「弟子? いつも道場で教えてるよね」


 ギルベルトさんの門弟だけど、俺にとっても弟子みたいなものでは。


「そうじゃなくて・・・先生は毎朝1人で稽古してるんだよね?」


「稽古? まあ、そうなるかな」


「そこで、俺も教えて欲しい」


 朝一緒に稽古をしたい。

 そういう事か。


「早く腕を上げて、先生みたいな冒険者見習いになりたいんだ!」


 なるほど・・・。



 このターヒル少年。

 門弟の中でも特に親しく俺に接してくる。

 懐いていると言ってもいいくらいだ。


 ある一件以来、近しい関係になったんだけど。

 今回は簡単には頷けない。



 朝の稽古を一緒にするとなると、問題は多い。


 中でも厄介なのは刺客。

 ジークによると、新たな刺客がレントにやって来るのは確実らしいからな。

 レント到着はまだ先のことだけど、到着後は協力して事にあたるよう依頼主から連絡があったと、模擬戦のあとで教えてくれた。


 あいつ、何もないと言いながら、情報を持って来てくれたんだよな。

 見かけによらず律儀なのかもしれない。



 しかしなぁ、このままレントに居てもいいのかな?

 他の町で暮らすべきなのでは。


 いまさらだけど・・・。



 まあ、こういう状況では、弟子を取る余裕なんてないね。


 襲撃される可能性も少なくはない。

 ジークが上手くやってくれると思いたいけど・・・。

 朝の鍛錬中に襲われたりしたら最悪だ。

 一緒にいる者にまで危険が及んでしまう。



 ここは断るしかない。


「そういう弟子は取るつもりが無いんだ」


「どうして?」


「どうしてと言われても・・・。色々と事情があるんだよ」


「事情って?」


 両性具有だから襲われる可能性があります。

 なんて言えないよなぁ。


「傍で一緒に稽古するだけでいいから。邪魔にならないようにするから」


「・・・」


「御礼も何とかするよ。あまりできないけど・・・」


 そういう問題では・・・。

 うーん、困った。



「明日の道場で返事聞かせてよ。明日はギルベルト先生もいないし」



 ギルベルトさんは、明日は所用で留守らしい。

 道場を使いたければ自由に使っていいということで、鍵を預かっている。

 こういうことは、たまにあるんだけど。

 明日が偶然その日。


 明日まで考えても返事は変わらないんだけどなぁ。



「じゃあ、また明日」


 帰ってしまったよ。


 ・・・。


 仕方ない。

 明日きっぱりと断ろう。







 当分はしっかり働こうと思っていたんだけど、なかなか上手くいかない。

 今日も早めに切り上げて、道場に。


 誰もいないので、勝手に鍛錬を始めさせてもらう。

 軽くストレッチをして・・・。


 剣術の前に、最近は毎日やっている感知結界の展開、拡張の練習を。


 普段から自分の周りに展開はしているんだけどね。

 何かに気を取られると、つい雑になってしまう。

 それに、結界範囲ももっと拡げたい。



「ふぅぅ・・・」


 かなりの範囲まで展開できたかな。

 さて、もう少しと。

 精度を低くして、さらに範囲を拡げる。


 ・・・。


 ターヒルがやって来る気配はまだ無い。

 他の門弟の気配もない。


 ギルベルトさんもいないし、ターヒル以外は誰も道場に来ないのかな。



 うん?

 誰か近づいて来る。

 この気配には覚えがあるような。


 ターヒル・・・じゃない。

 他の門弟かな。



 玄関を開けて・・・。

 道場の中には入って来ない。


 お客さんか?

 珍しい。


「はい、どちらさま・・・で」



 玄関にいたのはエルマさん。


 どうして?








「本当にするのですか?」


「もちろん」


 いきなり道場にやって来たエルマさん。

 なんと俺を訪ねて来たそうだ。

 いなかった場合には、また来るつもりだったと。


 この道場のことはランスアールさんに聞いたんだろう。

 だったら、宿に来ればいいものをと思ってたんだけど。


 剣の仕合がしたいと言われ・・・。


 剣の道場なんだから、断る理由は無いよなぁ。

 それとも、断っていい?

 道場では他流派との試合は禁止されているとか。


 こういう場合、どうしたらいいんだ?

 知らされてないよ。



 ということで、試合をするはめに。


 仕合直前にやって来たターヒルが審判をすることになりました。


 別に剣術の仕合が嫌いなわけじゃないけど。

 というか、大好きだけどね。



 エルマさん、まだ怒ってるのかな?

 俺に対する当たりが強いと言うか、なんと言うか。

 こんな状況での仕合・・・。

 やりにくいなぁ。


 はぁ・・・。

 仕方ない、やりますか。



 ということで、お互い木剣を構え。

 仕合開始。

 と思ったら。


「絶対に手加減はしないで。手を抜いたら許さないから」


「えっ?」


 俺の剣術が見たいということ?

 ランスアールさんが何か言ったのかな。


「一撃で倒せるのなら、倒してくれて構わないわ。だから、手を抜かないで全力でお願い」


 うーん・・・。

 そこまで言われたら、あまり手も抜けないか。

 数合打ち合いたかったんだけど。


 本当に一撃でいいのかなぁ。


 ・・・。


 力だけは加減して、一撃で終わらせるように努力してみますか。


「分かりました」



 今度こそ試合開始!


 エルマさんと正対する。


 この前の魔物との戦闘を見ているので、その腕前は察しがつく。

 かなりの技量だ。



 正眼の構え。

 そこからの変化。

 ゆっくりと上段に移る動きが美しい。


 美しいだけじゃない。

 凄い気合い、凄い剣気だ!


 そちらこそ、一撃必殺ですか。

 では、迎え撃ちましょう。


 悪い癖だ。

 楽しくなってきた。


 挑発するように、剣先を下に向ける。


 次の瞬間。


「えい!!」


 気合いと共に振り下ろされた一撃。

 力、速さ共に申し分ない。


 が、速さは俺には及ばない。


 木剣が俺に達する前に、エルマさんの脇をすり抜け。


 横薙ぎに一撃!



「うっ!」


 やばい、強すぎたか?

 確かに手応えもあった。

 すぐに駆け寄って、治癒魔法を。



「・・・要らないわ」


 苦しそうに一言。

 平気なのか?


「大丈夫ですか?」


「平気よ・・・自分でするから」


 そういえば、治癒魔法も使えるんだった。





 エルマさんが自力で治療したあと。

 一息つこうにも、つけない雰囲気に・・・。


 えーと、どうしたらいいのかな?

 ターヒルの方を見ると、首を振って拒絶。


 ・・・。


 皆さん無言です。

 居心地悪いなぁ~。



「えっと、素晴らしい腕前でした」


 マズい。

 思わず口から出てしまったけど。

 今言う言葉じゃないよな。

 嫌味みたいだ。


「・・・」


 無言。

 まいった・・・。


 でもなぁ、本当に大した技量なんだよな。

 隙の無い正眼の構え。

 上段に移る時の動き。

 剣の速さ、威力。

 すごいと思うんだけど。


 しかし、この世界でこんなに上段の構えを見るとは思わなかった。

 流行ってるのかな?



「はぁ・・・」


 うん?

 エルマさん、長い嘆息。

 

「完敗・・・」


「いえ、あの・・・」


 予想外の反応。

 言葉に詰まってしまう。


「完敗だわ。でも、これでようやく・・・」


 完敗と言いながら、なぜか微笑んでいる。

 そんな顔、はじめて見たよ。


「ようやく決まったわ」


「何がですか?」


「・・・私に剣を教えなさい」


「えっ?」


 なんて言った?



「だから、私を弟子にしなさい!」











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