第三十六話 弟子
「それで、何かありましたか?」
もう1人の刺客が早速やって来たのか。
「何もない」
はい?
「何も無さ過ぎて暇だから来てやった」
「何も無いなら別に来なくていいですよ」
邪魔なだけだ。
「まあ、そう言うなよ。俺とお前の仲だろ」
「・・・」
「さあ、闘おうぜ」
「はあ? なぜです?」
「ちょっとした運動。模擬戦だな」
「模擬戦・・・ですか?」
「情報収集ばかりじゃ、身体がなまっていけねぇ。付き合ってくれ」
そう言うや、俺の返答も聞かず。
数発の石弾。
石壁!
全開じゃないか。
これ模擬戦だよな?
ホント予定通りにいかないなぁ。
最近は仕事をしていなかったから、今日からはしっかり稼ごうと思っていたのに・・・。
ジークのおかげで仕事に来るのが遅れてしまい、受ける依頼も簡単なものに。
夕方には終わってしまったよ。
はあ~。
仕方ない。
道場にでも行きますか。
昨日も行ったんだけどね。
道場には、ギルベルトさんと門弟が1人だけ。
今日はいつにもまして少ない。
この道場、ホントに大丈夫か。
「今日は稽古かい?」
「そうですね。仕事も早く終わったので」
「では、ターヒル。稽古をつけてもらいなさい」
「はい」
ターヒルは亜人と人のハーフらしい。
短い尻尾と犬のような耳を持っている。
12歳ながら、なかなかの動きをする少年だ。
「よろしくお願いします」
「よろしく」
木剣を数合交わしただけで解る。
俺がいない間も、真面目に稽古してたんだろうな。
成長しているよ。
大したもんだ。
「少し見ない間に、また腕を上げたね」
「本当に?」
嬉しそうな顔には幼さが残っている。
こういうところは年相応だ。
「もちろん、将来が楽しみだ」
「へへ・・・嬉しいな」
しっかりとした指導を受ければ、かなりのところまで到達できるのでは。
「ところで、先生。話があるんだけど」
「何かな?」
「今ここではちょっと・・・。あとでもいい?」
それならということで。
稽古後、2人で夕食に。
道場の近くにある飯屋。
安い定食ばかりだけど、味は侮れない。
今日も期待通り、美味でした。
「それで、話というのは?」
「あのぅ・・・」
「うん?」
「・・・弟子にして下さい!」
えっ?
「弟子? いつも道場で教えてるよね」
ギルベルトさんの門弟だけど、俺にとっても弟子みたいなものでは。
「そうじゃなくて・・・先生は毎朝1人で稽古してるんだよね?」
「稽古? まあ、そうなるかな」
「そこで、俺も教えて欲しい」
朝一緒に稽古をしたい。
そういう事か。
「早く腕を上げて、先生みたいな冒険者見習いになりたいんだ!」
なるほど・・・。
このターヒル少年。
門弟の中でも特に親しく俺に接してくる。
懐いていると言ってもいいくらいだ。
ある一件以来、近しい関係になったんだけど。
今回は簡単には頷けない。
朝の稽古を一緒にするとなると、問題は多い。
中でも厄介なのは刺客。
ジークによると、新たな刺客がレントにやって来るのは確実らしいからな。
レント到着はまだ先のことだけど、到着後は協力して事にあたるよう依頼主から連絡があったと、模擬戦のあとで教えてくれた。
あいつ、何もないと言いながら、情報を持って来てくれたんだよな。
見かけによらず律儀なのかもしれない。
しかしなぁ、このままレントに居てもいいのかな?
他の町で暮らすべきなのでは。
いまさらだけど・・・。
まあ、こういう状況では、弟子を取る余裕なんてないね。
襲撃される可能性も少なくはない。
ジークが上手くやってくれると思いたいけど・・・。
朝の鍛錬中に襲われたりしたら最悪だ。
一緒にいる者にまで危険が及んでしまう。
ここは断るしかない。
「そういう弟子は取るつもりが無いんだ」
「どうして?」
「どうしてと言われても・・・。色々と事情があるんだよ」
「事情って?」
両性具有だから襲われる可能性があります。
なんて言えないよなぁ。
「傍で一緒に稽古するだけでいいから。邪魔にならないようにするから」
「・・・」
「御礼も何とかするよ。あまりできないけど・・・」
そういう問題では・・・。
うーん、困った。
「明日の道場で返事聞かせてよ。明日はギルベルト先生もいないし」
ギルベルトさんは、明日は所用で留守らしい。
道場を使いたければ自由に使っていいということで、鍵を預かっている。
こういうことは、たまにあるんだけど。
明日が偶然その日。
明日まで考えても返事は変わらないんだけどなぁ。
「じゃあ、また明日」
帰ってしまったよ。
・・・。
仕方ない。
明日きっぱりと断ろう。
当分はしっかり働こうと思っていたんだけど、なかなか上手くいかない。
今日も早めに切り上げて、道場に。
誰もいないので、勝手に鍛錬を始めさせてもらう。
軽くストレッチをして・・・。
剣術の前に、最近は毎日やっている感知結界の展開、拡張の練習を。
普段から自分の周りに展開はしているんだけどね。
何かに気を取られると、つい雑になってしまう。
それに、結界範囲ももっと拡げたい。
「ふぅぅ・・・」
かなりの範囲まで展開できたかな。
さて、もう少しと。
精度を低くして、さらに範囲を拡げる。
・・・。
ターヒルがやって来る気配はまだ無い。
他の門弟の気配もない。
ギルベルトさんもいないし、ターヒル以外は誰も道場に来ないのかな。
うん?
誰か近づいて来る。
この気配には覚えがあるような。
ターヒル・・・じゃない。
他の門弟かな。
玄関を開けて・・・。
道場の中には入って来ない。
お客さんか?
珍しい。
「はい、どちらさま・・・で」
玄関にいたのはエルマさん。
どうして?
「本当にするのですか?」
「もちろん」
いきなり道場にやって来たエルマさん。
なんと俺を訪ねて来たそうだ。
いなかった場合には、また来るつもりだったと。
この道場のことはランスアールさんに聞いたんだろう。
だったら、宿に来ればいいものをと思ってたんだけど。
剣の仕合がしたいと言われ・・・。
剣の道場なんだから、断る理由は無いよなぁ。
それとも、断っていい?
道場では他流派との試合は禁止されているとか。
こういう場合、どうしたらいいんだ?
知らされてないよ。
ということで、試合をするはめに。
仕合直前にやって来たターヒルが審判をすることになりました。
別に剣術の仕合が嫌いなわけじゃないけど。
というか、大好きだけどね。
エルマさん、まだ怒ってるのかな?
俺に対する当たりが強いと言うか、なんと言うか。
こんな状況での仕合・・・。
やりにくいなぁ。
はぁ・・・。
仕方ない、やりますか。
ということで、お互い木剣を構え。
仕合開始。
と思ったら。
「絶対に手加減はしないで。手を抜いたら許さないから」
「えっ?」
俺の剣術が見たいということ?
ランスアールさんが何か言ったのかな。
「一撃で倒せるのなら、倒してくれて構わないわ。だから、手を抜かないで全力でお願い」
うーん・・・。
そこまで言われたら、あまり手も抜けないか。
数合打ち合いたかったんだけど。
本当に一撃でいいのかなぁ。
・・・。
力だけは加減して、一撃で終わらせるように努力してみますか。
「分かりました」
今度こそ試合開始!
エルマさんと正対する。
この前の魔物との戦闘を見ているので、その腕前は察しがつく。
かなりの技量だ。
正眼の構え。
そこからの変化。
ゆっくりと上段に移る動きが美しい。
美しいだけじゃない。
凄い気合い、凄い剣気だ!
そちらこそ、一撃必殺ですか。
では、迎え撃ちましょう。
悪い癖だ。
楽しくなってきた。
挑発するように、剣先を下に向ける。
次の瞬間。
「えい!!」
気合いと共に振り下ろされた一撃。
力、速さ共に申し分ない。
が、速さは俺には及ばない。
木剣が俺に達する前に、エルマさんの脇をすり抜け。
横薙ぎに一撃!
「うっ!」
やばい、強すぎたか?
確かに手応えもあった。
すぐに駆け寄って、治癒魔法を。
「・・・要らないわ」
苦しそうに一言。
平気なのか?
「大丈夫ですか?」
「平気よ・・・自分でするから」
そういえば、治癒魔法も使えるんだった。
エルマさんが自力で治療したあと。
一息つこうにも、つけない雰囲気に・・・。
えーと、どうしたらいいのかな?
ターヒルの方を見ると、首を振って拒絶。
・・・。
皆さん無言です。
居心地悪いなぁ~。
「えっと、素晴らしい腕前でした」
マズい。
思わず口から出てしまったけど。
今言う言葉じゃないよな。
嫌味みたいだ。
「・・・」
無言。
まいった・・・。
でもなぁ、本当に大した技量なんだよな。
隙の無い正眼の構え。
上段に移る時の動き。
剣の速さ、威力。
すごいと思うんだけど。
しかし、この世界でこんなに上段の構えを見るとは思わなかった。
流行ってるのかな?
「はぁ・・・」
うん?
エルマさん、長い嘆息。
「完敗・・・」
「いえ、あの・・・」
予想外の反応。
言葉に詰まってしまう。
「完敗だわ。でも、これでようやく・・・」
完敗と言いながら、なぜか微笑んでいる。
そんな顔、はじめて見たよ。
「ようやく決まったわ」
「何がですか?」
「・・・私に剣を教えなさい」
「えっ?」
なんて言った?
「だから、私を弟子にしなさい!」




