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転性剣士商売  作者: 明之 想
第一章
31/61

第三十一話  油断





 豪華な宿での一泊も終わり。

 翌日からは、また日常が始まる。



 朝から通常通り鍛錬をしたあと、依頼は簡単に遂行できるものを選択。

 夕方になる頃には完了。



 さて、今日は色々と顔を出したいところがある。


 まずは、道場に。

 帰還の挨拶という事でもないが、久しぶりだしね。



 いつも通りの活気ある道場。

 相変わらず門弟は少ないけどね・・・。


「おっ、久しぶりですねぇ」


 ギルベルトさん、元気そうだ。

 腰痛も平気みたいだな。


「ご無沙汰してます。ちょっと遠方に出てましたので」


「仕事ですか?」


「ええ、まあ」


「それは、また活躍されてきたのでしょうねぇ」


「いえ、そんなことは・・・。それより、腰の方はどうですか?」


「おかげさまで、今のところ問題ないです」


「それは良かったです」


「それで、今日は稽古していきます?」


「いえ、今日は用事があるので」



 なんてことの無い会話。

 でも。

 やっぱり道場はいいね。

 落ち着くし。

 日常に戻ってきた感がある。


 久しぶりに道場で剣の稽古もしたかったのだけど。

 今日はまだ行きたい場所が残っている。




 バルドさん行きつけの店へ。

 仕事の後は、ほとんどこの店に来ているから、会える確率は高い。

 まだ、早い時間だからいないかな・・・。


 いました、いました。

 1人みたいだね。


「ご無沙汰してます」


「うん?」


 もう飲んでるのか。

 早いなぁ。


「おう、坊主か。久しぶりだなぁ」


「お久しぶりです」


「どうしてたんだ?」


「ちょっと遠方に出てまして・・・」



 たわい無い会話をここでもしました。

 それでも、バルドさんに付き合わされて、結構な時間を過ごしたんだけどね。

 でかい仕事があるから、今度一緒にしようなどという話もね。





 そんな感じで数日が経過。


 レント帰還後、しばらくは生活に違和感があったのだけど、ここ最近はやっと日常に復帰してきたという感じがする。


 初めての長期出張、日常を離れての視察行。

 監視に戦場検分、その後は捕まって護送されて、戦闘、脱出と・・・。

 色々あったからなぁ。

 調子が狂うのも仕方ないのかもしれない。


 まあ、そんなこと言ってたら駄目なんだけどね。

 きちんと毎日を過ごさないと。



 そういえば、あれからマスクの辻斬りには遭っていない。

 道場にも結構顔を出しているけど、その帰りに襲われることも無い。

 次こそは捕まえてやろうと思ってたんだけど、上手くいかないなぁ。






 日常に復帰し、鍛錬と仕事の日々を過ごしていた、そんなある日の朝。


 いつものように、体力、筋力づくりのトレーニングを限界までこなして、治癒魔法で体力をある程度回復。

 その後、各種魔法のトレーニングを魔力が切れるまで続ける。


 再び体力、筋力トレーニング。

 終えた時には、まだ魔力は2割ほどしか自動回復していない。

 なので、魔力回復を待って休憩。



 まさに、休憩を始めたその時。


 突然、背後から声をかけられた。


 俺が油断していたのか?

 そいつが気配を消していたのか?



「おまえがハヤトか?」


 いきなり、お前呼ばわり。


「そうですが?」


 ちょっと失礼な奴だなと思ったけれど。

 立ち上がり返答。



 瞬間。


 岩弾が飛んできた。



「っ!?」


 なんだ、こいつ!?

 咄嗟に左に避ける。

 土魔法か?



「いきなりなんですか?」



 と、そこに岩弾の嵐が。

 問答は無用ということか。


 数は多いが、それ程威力は無さそう。

 とはいえ、当たり所が悪いとマズい。


 武器を入れた次元袋は離れた場所に置いてある。

 距離はあるけど、取りに戻るか?

 その余裕は・・・。

 無いな。


 とにかく避け続けて、俺も素早く詠唱、水弾一発準備完了。


 2倍速?


 いや、この速度なら使わなくても対応できるか。

 魔力も少ししか残っていない。

 今の俺の残存魔力では、威力次第だが攻撃魔法を3発撃てるかどうかだろう。

 後のことを考えても、なるべく魔力は節約したいところ。


 隙を見て、必中で狙ってやろう。

 とはいえ、相手は人間。

 殺したくはない。


 急所は外さないとな。

 脚だね。脚に当てて動きを止めるか。

 と思っている間も、岩弾は止まらない。


 さすがに、素手で全てを避けることはできない。

 今の俺は体力も落ちている。


 マズいな。



 凄い詠唱の速さだ。

 いや、あらかじめ用意していたのか。

 にしても、凄い!

 避けきれない。



「くっ!」


 俺の身体に浅い傷が増えていく。


 今まで見た中で最高の術士だ。



 詠唱が尽きたか?

 岩弾の数が減っている。


 よし、ここだ!

 

 隙を見て一発。それなりの威力と速度で。



 「おおっと! 危ねぇ!」


 かすった?

 いや、かすってもいない。


 避けたよ!

 あれを避けるのか・・・。


 かなりの身のこなし!

 これは、無駄撃ちはできないな。



「大した威力だなぁ、おい」


 問答無用じゃないのか。

 喋るんかい。



「襲われる覚えは無いのですが」


「こちらにはあるんだよ」


 そう言うや、高速詠唱。


 今は岩弾は止んでいる。


 距離は10数メートル。

 よし、接近戦だ。


 と思ったら。

 またもや岩弾の嵐。

 発動が半端なく速い。



 仕方ない。

 押し寄せる岩弾を避けながら、多少の傷など意に介さず。


 急接近。

 2倍速を使いたいけど、やっぱり魔力が心配。

 ここは温存。


 フェイントを入れて接近、即座に掌底を胸に叩き込む。


 えっ!?


 これも避けられた!?

 間一髪上半身を捻って避けた!


 とはいえ、右脇をかすったので、体勢を崩している。

 よし、もう一撃。



「!?」


 なんと、体勢を崩しながら跳躍。

 10メートルも横に跳んだ。

 

 10メートル・・・。


 異常な筋力?

 いや、魔法か?

 

 ありえない跳躍の後、素早く体勢を立て直し対峙。



「痛ってえなぁ」


 かすっただけでも、効いたのか。

 なら、防御力は大したことない。



「・・・すごい動きですね」


 思わず感嘆の言葉が出てしまう。


「お前こそ、さすが両性偶有。体術能力者か!」


「!?」


 両性偶有!?


 なぜそれを知っている?

 誰だ?

 何だ?


 ・・・。



「両性偶有? 何を言ってるんですか?」


「ふん、とぼけなくていい」


 とぼける一手だろう。


「勘違いです」


「・・・」


 数瞬の対峙・・・。



「まあ、あとで確認してやる。悪いが急いでるんだわ」


 急いでいるなら、すぐにエイドス見せてやるよ。

 男って記してあるエイドスをな。


 と、言う暇もなく。

 岩弾の連射。


 くそっ!

 いつまで続ける気だ。

 あいつ、魔力は持つのか?



 とはいっても、俺にはまだ余裕があった。

 魔力が残り少ないとはいえ、虎徹を手にしていないとはいえ。

 それでも余裕があると思っていた。


 だから2倍速を使わなかった。



 避けながら水弾を準備したその時。


 えっ?


 四方が土壁に覆われた!?

 高さ数メートル、横幅1メートル程度の壁が四方に突如出現。


 正直ビビった!

 始めて見る魔法。

 すごい。


 なんて、感心している場合じゃない。


 左の壁に右手で掌底を放つ。

 半壊。

 もう一発、左手で。


 よし!

 全壊。


 その瞬間、残り三方の壁も同時に崩れ去る。


 「??」


 呆然としたのも一瞬。

 今度は思いもかけず、ぬかるみに足をとられ。

 ・・・。

 ぬかるみじゃない。

 足場がいつの間にか泥の沼に変化していた。



「くっ!」



 脱出にとまどった俺の眼前に、今までで最高威力の岩弾が。

 避ける余裕はない。


 マズい。


 たまらず、準備していた水弾を放つ。

 俺の水弾は岩弾を粉砕し前方へ。

 相手に命中するわけもないが。


 そこへ再び同威力の岩弾!!


 やばい、これは避けられない。

 咄嗟に腰を捻り直撃を避け、気を前方に射出。


 ドゴン!


 嫌な音がした。


 そう思った時には、俺は仰向けに倒れていた。

 身を捻って急所を外し、不完全ながらも気で勢いを減じたはず。



「つぅ・・・」


 まだ、ましか。

 それなりの傷だが、致命傷ではない・・・と思う。

 治癒魔法をかければ問題ないのでは。


 そんな余裕があれば・・・だが。


 そう。

 俺を睥睨するように男が立っていた。

 沼地に倒れた俺を見下ろして。



「手間かけさせやがって」


「・・・」


「しっかし、あれを食らってその程度かぁ!?」



 また魔法攻撃か?

 ここで、さっきの岩弾を数発くらったら、さすがに・・・。



 やってやろうか。


 残りの魔力を使い尽くしてやる。

 2倍速で急接近、打撃。

 それで足りなきゃ、最後の魔力で最大威力の水弾。


 いや・・・。

 この足場からの急接近は難しいな。


 どうしたらいい・・・。




 突然。


「やめて下さい!!」


 叫び声が。


 えっ?


 ミュリエルさん!?







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