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転性剣士商売  作者: 明之 想
第一章
32/61

第三十二話  勘違い





「やめてぇ!」


 ミュリエルさんがここに?


 どうして?


 駆け寄ろうとするミュリエルさん。



「駄目だ。来るな!」


 俺の言葉を無視し。

 駆け寄り。

 奴を睨み付ける。

 俺と奴の間に入り、俺を庇ってくれている。


 震えているのに。


 ・・・。


 もう、やるしかないな。

 無理でもなんでも、やるしかない!



「誰だ、お前は? まあいい、さっさとエイドスを見せろ」


 そうか、エイドスを見せれば。

 もしかしたら。

 ここは素直に・・・。

 というか、最初から見せるつもりなんだよ!


 手の甲に表出させたエイドスを見せる。



「男・・・なのか?」


 頭をかきむしりだしたぞ。


「なんだ、そりゃ?」


 言うやいなや。

 いきなり、俺の胸に手を。


「やめて!」


 ミュリエルさんが止めてくれるけど。


「大丈夫です」


 多分、大丈夫だ。


「当然、胸も無い・・・か」


 落ち込みまくってるぞ。


 どうする?

 ミュリエルさんを連れて逃げるか?


 この状態では難しいな。

 もう少しだけ様子見だ。

 大丈夫だと思う。



「はぁ~、最初から男にしか見えなかったんだよなぁ・・・」


「・・・」


「悪かったな」


 はい?


「勘違いだ。いや、人違いだ」


 やはり、狙いは具有者。

 人違いなどではなく、まさに俺だ。


「俺は無駄な殺しはしねぇ」


 これは。


「無駄な人助けもしねぇんだがな」


「・・・」


「まあ、でも、さすがに今回はな・・・」


 ミュリエルさんをすり抜け。


「何を?」


 止めようとするミュリエルさんを無視し。

 俺に手をかざす。


 攻撃じゃない。

 治癒魔法か?


「えっ、えっ??」


 戸惑うミュリエルさん。


 しかし、まあ、これで間違いない。

 助かったか。



「さっきの一撃で、その程度の傷だ。これくらいで大丈夫だろう」


 俺の傷。

 全快とはいかないまでも、ほぼ治っている。


「だから、恨むなよ」


「・・・」


 傷を負わされて、治療されて。

 チャラということか・・・。


 うーん。

 根には持つからな。



「こんな事したんですから、理由を教えて下さい。名前も」


「どちらも言う必要ないね。名前なんて教えたら、あとが怖い怖い」


 笑って言うセリフかよ。

 ホントに。


「とにかく、もうお前を狙うことも無い。安心していいぞ」


「そうですか・・・。それはありがたいですね」


 具有者とバレたらまずいな。

 気を付けないと。


「まあ、今回は勘違いだ。悪く思うなよ」


 そういって、男は去って行った。


「・・・」



 両性具有者が狙い。


 なぜだ?

 良く分からない。

 分からないが、狙っていたのは俺個人ではなく、両性具有者。

 そこは間違いないだろう。


 しかし、エイドスの効果はてきめんだな。

 この世界では誰もが知っていて、誰もが持っている完全無欠の証明書。

 そういうモノだとは聞いていたけど、ここまでとはねぇ。


 エイドスの性別欄に書き込みが可能だなんて思ってもいないみたいだ。

 あれだけの魔法を使える術士でもそうなんだから、これはもう本当に世界的常識と考えていいのかも。

 

 男と書き込みできるようになったこと。

 この効果は思っていた以上に大きいな。



 まあ、でも、エイドスのおかげもあったけど。

 今回は、ホント助かった。

 あいつが冷酷な暗殺者だったら、どうなっていたことか。

 狙った人物ではなくても、見逃さなかっただろうな。


 あと数発撃たれていたら、ヤバかったから。

 捨て身の攻撃も、本当のところ通じたかどうか・・・。

 そもそも、あの足場からの攻撃だ。

 ミュリエルさんを庇いながらの戦闘にもなるし。


 去ってくれて、助かったよ・・・。





「ハ、ハヤト様。大丈夫ですか?」


 ミュリエルさん。

 震えている。

 怖い思いをさせてしまったな。


「ありがとう。もう平気です。ミュリエルさんこそ、大丈夫ですか?」


「私は何もされてませんから・・・」


「よかった」


 無事でよかった。

 ミュリエルさんに何かあったら、俺は・・・。


 そんな真っ青な顔で。

 怯えていたのに、俺を庇ってくれた。


 ・・・。


 ありがたいな。

 本当にありがたい。



「ミュリエルさん、ありがとうございます」


「は、はい」


「本当にありがとう」


「いえ、あの・・・」


「もう大丈夫ですよ」


 安心してくれたかな。

 うん、震えも収まってきた。

 少し落ち着いてきたんだろう。



「ところで、どうしてここへ?」


「えっ・・・たまたま通りかかって・・・」


「偶然ですか?」


「いえ・・・。実は・・・」


「はい?」


「実は、ハヤト様がここで鍛錬されているのを知っていたもので」


 えっ?

 知ってたの?


「今日来てみると、いつもと様子が違って。急に土壁ができたかと思うと・・・」


 その時点で来たのか。


「そうなんですか」


「はい・・・あのぅ・・・すみません。今までも何度か時間を作って、ハヤト様の鍛錬を見学していました」


「気づきませんでしたよ」


 はぁ~。

 そんな事にも気づかないとは。

 何のための鍛錬だか。


「離れた場所から見てましたもので・・・鍛錬の邪魔になってはいけないと・・・」


「そうでしたか」


「本当は差し入れなども持って来たかったのですが、ハヤト様が人に知られず鍛錬をなさりたいのかと思いまして・・・」


「まあ、そうですね」


 要らぬ気を遣わせていたみたいだね。

 秘密の鍛錬。

 ミュリエルさんなら、もう見られてもいいかな。



「毎日の鍛錬。本当に尊敬しておりました」


「いや、結局このざまです。見事にやられてしまいました」


「そんなことは無いです。ハヤト様は剣も使われてませんでしたし、それに鍛錬でお疲れだったのだと思います」


「それでもです。未熟なものですよ」


「そんなことは・・・」


 実際、未熟だと思う。

 判断も悪い。

 今日の戦い。剣が無くとも、もっと違う闘い方があっただろう。

 無理をしてでも、剣を取りに行くという手も。


「それなのに最近は鍛錬を怠けてましたからね。たるんでいたんでしょう」


 鍛錬はしていたけど、以前よりは身が入っていなかった。

 はぁ~、なんか自虐的になってきたな。



「そんなことはないです!」


 えっ、なんかすごい剣幕。


「そんなこと言わないで下さい。ハヤト様が努力してきたのはよく知っております。故郷から遠く離れた慣れない土地で、お一人で、冒険者として依頼をこなしながら早朝からも毎日鍛錬」


「・・・」


「どんな時も欠かさず鍛錬。その年齢でですよ。それが並大抵で無いことくらい誰だって分かります。その姿を見て、たゆまぬ鍛錬を続けて今のお力を手に入れられたのだと納得する思いでした」


 たしかに、鍛錬、稽古は続けてきた。

 前世でも、この世界でも・・・。


「そんな努力をされ、仕事もされて。それなのに、辛い顔一つせず、いつも笑顔で私なんかにも優しく接していただいて」


「・・・」


「先日の視察だって、きっと辛いことも多かったでしょうに。それなのに帰って来てからも特に休まず、仕事も鍛錬も手を抜くこと無く毎日毎日・・・」


「・・・」


「そんなハヤト様が怠けているわけがありません! 誰が知らなくても私が知っています」


 堰を切ったように出てくるミュリエルさんの言葉。


 ・・・。


 泣けてくるな・・・。


 涙なんか流さないけど・・・。



 そうかぁ。

 俺も少しは頑張ってたのかなぁ。


 異世界に来て、身体がこんなになって。

 でも、生きていかなきゃいけないから。


 力は要るし、お金も要る。

 友人、知人はできたけど。

 本当に頼れる相手はいないし。

 腹を割って話せる相手もいない。


 ・・・。


 肩肘張ってたのかな。

 気負って暮らしてたのかなぁ。



 でも、ミュリエルさんにそう言ってもらえると、救われた気がする。

 自覚していなかったけど・・・、なんだか楽になった。

 結果じゃなくて、努力を褒められるって、嬉しいものだな。




「ありがとうございます。ミュリエルさん」


「いえ、あの・・・偉そうなこと言って、申し訳ありませんでした」


「とんでもない。ありがたいです。でも、ミュリエルさんの方こそ、慣れない場所で仕事もして、大変だったのだと思います」



 そう、きっとそうだろう。

 奴隷になって、慣れない土地で仕事をして。

 俺にも気を遣ってくれて。

 きっと大変だったんだろうな。


 今まで深く考えてなかったよ。

 所詮は異世界と、他人事だったかな。


 駄目だなぁ・・・。

 駄目な男だ。

 25歳どころか。ホント、これじゃ子供だ。



「私なんか、そんな・・・」


 今まで気付かずに、ごめんなさい。

 今度からは、もっと考えるようにしますね。





 ところで、少し言っておかなきゃ。


「まあ、でも、今回は無事で本当に良かったです」


 とはいえ、いつもこう上手くいくとは限らない。


「それでも、これからはあんな無茶しないで下さいね」


 えっ?

 俺の顔を凝視。

 何かな?


「何度でもします」


「はい?」


「ハヤト様の危機に何もしないわけはありません」


「・・・」


「何度だって!」


 震えていたのに。

 俺なんかのために。


「私なんかで役に立てるなら、何でも何度でも」


 そこまで・・・。


「でも、今回は何の役にも立てず・・・」


「・・・」


「いえ、今回だけではないです・・・。本当は足手まといなだけかも・・・」



 そんなことは無い。

 そんなことは関係も無い。


 さっきの言葉。

 今伝えてくれた気持ち。


 ・・・。


 我慢できなかった。

 激闘の後だったので、冷静でなかっただけかもしれない。


 でも・・・。

 本当の気持ちだ。

 ありがたい、大切にしたい。




 抱きしめてしまった。




 かるく、軽く。


 つよく・・・。



「・・・ありがとう」






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