第二十四話 視察
話が決まると、そこからは早かったね。
もちろん、戦争は待ってくれません。
急いで現地へ向かわねばということで。
その夜には、ランスアールさんを紹介されました。
なんと驚いたことに、視察には2人で行くとのこと。
この世界の情報収集ってそんなものなの?
大丈夫なのかな?
と不安だったのですが。
ランスアールさんは大丈夫だと断言してました・・・。
翌朝。
出発前、ライナスさんとミュリエルさんに挨拶をしたところ。
「幸運を祈っております」
そう言って、悲しそうな顔で見送るミュリエルさん。
後ろ髪引かれるよね。
・・・。
さて、挨拶も済ませたことですし。
さっそく出発。
転移石での移動です。
わくわくするね。
転移石。
それはもう高価な物らしいです。
モノによって、一度に転移できる人数が変わってくるらしいのだけど、1人用でさえも相当高額。今回は2人用なので、さらに高いんです。
なんと・・・5万セルク!!
500万円ですぜ!!
外車買えるよ。
しかも、この石は贅沢なことに使い捨て。
一回使うと、砕けてしまうらしい。
まさに、片道500万円。
往復1000万円・・・。
たった一回の視察で・・・。
これだけ高額となると、視察に分析官と護衛の2人だけというのも、少しは納得だね。
年間にどれくらいの費用をかけているんだろうか?
交通費だけでも、恐ろしい金額になりそう・・・。
などと、貧乏性な俺は転移前のドキドキより、その金額に興奮。
「行きましょうか」
情報部の一室から、ランスアールさんと共に一飛び!
転移のイメージから跳躍をイメージしてたんだけど、なんか変な感じ。
空気中に吸い込まれるような感覚。
周りの色が消え・・・。
いや、違うな。
周りの色が混ざり、何色ともつかぬ色彩で溢れ、そう思った次の瞬間には外に放り出されるような感覚。
気付いた時には・・・到着していました。
間違いなく転移しているよ!
凄いぞ、これは!
そりゃあね、転移を疑ってたわけじゃないけどね。
やっぱり興奮するよね。
魔法に続いて転移!
感動だわ。
でも、ちょっと気持ち悪いかも。
感動はしてるけど、酔ったかな。
転移した場所はと。
見たことも無い部屋だね。
そこにランスアールさんと2人。
うん、もう1人いるな?
「上席分析官殿、お待ちしておりました」
「うん、君も朝早くからご苦労様」
待っていたのは、レント情報部の方。
各地で諜報活動に当たっている方だね。
ランスアールさんの部下って感じかな。
手には砕けた転移石。ランスアールさんの持っていた石も砕けている。
やっぱり使い捨てなんですね。
勿体ない。
転移石は二つで一組らしいです。
あらかじめ二つの転移石に術式を施すことで、どれだけ離れていても片方の石からもう一方の石まで瞬間移動できると。
いやぁ、ホント見事な瞬間移動でした。
「もう任務に戻っていいよ。後は2人でやるからさ」
「分かりました」
そういって、出て行きました。
えっ、手伝ってもらわないの?
「ハヤくん、顔色悪いけど、大丈夫?」
「ええ、まあ・・・。少し酔ったみたいです」
転移する時、酔うのはよくあることらしい。
特に初心者にはね。
「じゃあ、少し休んでから出発だね」
俺たちは、エスピナ砦から少し離れた小屋にいるらしい。
休むくらいの余裕はあるそうだ。
衝突時期は分からないけれど、恐らく今すぐには始まらないだろうと。
こんな大金かけて移動して、それでいいの?
突っ込みたくなったけど、まあ、責任者さんがそう言うならいいか。
休ませてもらいましょ。
「ところで、さっきの方に手伝ってもらわなくても良いのですか?」
「分析するのは僕だからね。彼は必要ないよ」
人手はあった方が良いと思うんだけど。
そうではないと。
そうなのかなぁ・・・。
「分析に1人、護衛に1人。これで十分」
「そうですか・・・」
「そんなことより、ハヤくんは剣術遣いなんだよね。それで魔法も使えるんだっけ?」
「はあ、そうですね」
おいおい、ライナスさん実は結構話してるんじゃないの。
「ライナスさんに聞きましたか?」
「聞いてないけどね。勘だよ、いや超能力かな」
勘、超能力・・・。
「魔法の方は、あまり期待しないで下さい」
「またまた、ご謙遜を」
・・・なんか調子が狂う。
ホントに会っておいた方がいい人物なんですよね?
ねぇ、ライナスさん。
「いや、本当のことですから」
「そういう事にしとこうか。しかし、ハヤくん堅いねぇ」
俺が堅い?
そんなこと言われたことないよ。
むしろ、柔らかいだろ。
あんたが柔らか過ぎなんだよ。
駄目だ、ホントに調子が狂う。
言葉遣いまで変になるぞ。
いやいや、仕事なんだから、しっかりしないと。
「お待たせして申し訳ありませんでした。気分も良くなってきましたので、そろそろ向かいましょうか」
もう、早く行っとこう。
この人に任せてたら不安になる。
「もう少し休もうよ」
本気か?
この人本当に大丈夫か?
「いえ、僕は大丈夫です。それより任務を遂行しましょう」
「ハヤくん、堅いよねぇ」
「・・・」
だいたい、なんだ。
ハヤってなんだ!?
そんなあだ名で呼ばれたことないぞ。
省略するほど長くないだろ。
「あの、できればハヤトと呼んでいただけませんか?」
「あっ、そうだった。ゴメンね、ハヤくん」
このやり取り何回目だ。
絶対わざとだよね。
「どうにも、親しみを覚えるというか、ハヤくんのこと他人とは思えないんだよねぇ」
「・・・はあ」
もういいや・・・。
渋るランスアール氏を引っ張って、やって来たのが、砦から数キロ離れた小高い丘。
エスピナ砦のローレンシア軍からは南西、砦の南方に陣取るアルザザ軍からは北西に位置し、両軍を見渡せる絶好の立地。
丘に着いてから数時間。
特に何も起こらない。
ただ監視を続けるだけ・・・。
「お腹空いてきたね。お昼にしようか?」
「では、交代で食事にしましょう。お先に食べて下さい。僕は監視を続けますから」
「いいよ、一緒に食べよう」
「しかし、監視を怠るわけには」
「大丈夫だって。多分、今日は何も起こらないから」
本当か?
根拠あるのか?
まあ、そう言うなら、食べますけどね。
俺もお腹空いてるし。
「分かりました」
とはいえ、監視しながら食べますよ。
仕事中ですから。
多額の報酬貰えるんですからね。
そう、今回の報酬。
なんと、2万セルクなんですよ!
200万円・・・。
既に前金貰っています。
1万セルクを・・・。
「真面目だねぇ」
無視、無視。
そんな感じで、その日は朝から夜まで監視を続けるも何も起こらず。
分析官殿の言っている通りに。
翌朝までは、小屋に戻って休憩だそうだ。
夜中の監視は不要らしい。
夜襲の可能性を聞いたところ、今夜は無いと断言していたよ。
本当にいいのかよ?
と思ったんだけど。
その通り、何も起こりませんでした・・・。
翌日も朝から監視を続けるけれど、何の動きも無し。
分析官殿は緊張感が無いですね。
たまに両軍の方を望遠鏡のような物で凝視しているけど、基本だらけている。
夕方には、今日も何も起こらないから小屋に戻ろうかという始末。
俺ももういいかって感じになるけど、駄目だ。
仕事なんだから。
「せめて、夜までは監視を続けましょう」
「若いのに、真面目だねぇ。真面目過ぎて老けちゃうよ」
もう、何とでも言って下さい。
若いと言ったら、このランスアール氏。見た目は20歳そこそこなのに、実年齢は30歳なんだそうで・・・。
ストレス無さそうだしね、若く見えるのも分かる気がする。
痩身中背、青みがかった黒髪。そしてまあ整った顔立ち。
イケてる方です。
でもね、色々と台無しなんですよね。
「老けてもいいですよ」
無視ばかりもしていられない。
相手しますよ。大人だから。
「あれっ、ご機嫌ななめかな?」
この2日間、ずっとそうですけど。
・・・。
駄目だなぁ。
仕事なんだから、平静に、冷静にと思っているんだけど・・・。
変な上司なんて、どこの会社にもいるんだからね。
「申し訳ないねぇ。嫌な気分にさせて」
「いえ・・・」
「僕もね、ホントはこんなじゃないんだよ。理由があるんだ」
「理由ですか」
「そう、数年前に陰湿な呪いをかけられてね。顔の筋肉を思うように動かせなくなってしまったんだ」
呪いなんてあるのか?
魔法がある世界だから、不思議じゃないか。
「そんな顔で真面目な態度をとると、馬鹿にしているのかって言われるんだよ」
そんな呪いがあるなら。
まあ、そうなるかも・・・。
俺の今までの態度。
悪いことしたかな。
「そういう理由があったんですね。早く言って下されば良かったのに」
「なかなか言えないでしょ」
そうかもね。
辛いことなんだろうね。
俺が悪かった。
ゴメン。
「そんな僕と一緒にいるんだから、ハヤくんも気楽にして下さいね」
うーん、まあ、納得はしましたよ。
仕事だから、真面目にしますけどね。
「分かりました。少し気楽にさせていただきます」
「だから、堅いって」
うーん・・・。